第159号
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BPVシステム、2種の微生物で発電能力を強化

2019年12月13日 過国忠(科技日報記者)陸敏芝(科技日報特派員)

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視覚中国

 人類社会は現在、石炭、石油、天然ガスなどのエネルギー枯渇の危機に直面している。そのため中国政府はここ20数年にわたり、エネルギー資源の保護と開発・利用を非常に重視してきた。科学者も尽きることなき再生可能エネルギーの開発を加速し、非再生可能エネルギーの深刻な不足を補い、経済・社会の発展の需要を着実に満たそうとしてきた。

 生物光起電性(BPV)は微生物(藍藻など)を光電変換材料とし、カーボンニュートラル、良好な環境適合性、潜在的な低コストなどの特徴を持つ。最近のメディア報道によると、中国科学院微生物研究所の李寅氏が率いる研究チームは、BPVの光電変換効率を高めるため新たな方法を編み出し、一定方向電子シャワーを持つ合成微生物グループを設計・開発し、藍藻の直接発電の活性が微弱であるという問題を解消した。これは環境によりやさしい次世代太陽光発電技術になる見込みだ。

 同研究は世界中の関係者から大きく注目された。では、従来の太陽光発電には主にどのような原理があり、どのようなマイナスの影響を生むのだろうか。光電変換効率のほか、太陽光発電の効果と環境保護性能を評価する指標にはどのようなものがあるのだろうか。BPVの発電の原理とは何で、同技術には他にどのような問題が残されているのだろうか。また、新技術にはどのような革新的な点があるのだろうか。

従来の太陽光発電、時間・地域の制限を受ける

 業界関係者によると、人類は歴史上の長い期間再生可能エネルギーに依存してきた。薪や農作物の茎などはバイオマスエネルギーであり、これらのエネルギーの大半は太陽光エネルギーの実用化であり、再生可能なエネルギー資源だ。

 江南大学理学院光電情報科学・工学科の席曦副研究員は取材に対し、「従来の太陽光発電は主に、半導体の発電効果を利用していた。具体的に言うと、半導体の表面に光が当たることで、条件を満たす太陽光エネルギーが吸収され、半導体内で負電気を持つ電子と正電気を持つ穴を生み出す。この2つを合わせて担体と呼ぶ。これらの担体を導き出すことができれば、光エネルギーを変換し電力を生むことができる」と述べた。

 席氏によると、太陽光発電は現在、再生可能エネルギーの中で高い優位性を持つ。風力エネルギーと異なり、太陽光発電装置は各世帯に設置可能だ。一定の空間があれば、誰もが大小さまざまな太陽光発電装置を設置できる。風力発電では一般の家屋には設置できない。

 「しかし一方で、太陽光発電システムにも、時間と地域の制限がある。時間の制限とは、日中しか発電できず夜間に利用できないということだ。北方であれば、雪や砂塵に覆われれば、日中でも発電制限を受ける。同時に日中の光の強さも不確実で、雲が漂い木陰に遮られれば発電量に影響が生じる。そのため太陽光発電システム全体を送電網と接続させれば、送電網への衝撃が大きい。システムの制御と送電網との調整を上手に行う必要がある」

 だが、席氏によると、現在広く使用されているシリコン太陽電池は、生産過程で酸、アルカリ、金属廃水、ガスなどを生む。製品そのものは環境に優しいが、生産中に廃棄物を厳しく処理・管理する必要がある。その回収、分離、再利用にも、環境面の多くの課題が存在する。

より高い変換効率を持つBPV

 専門家たちは一般的に、BPVは従来の太陽光発電よりも高い変換効率を持ち、環境とエネルギーの持続可能な発展により適していると考えている。

 バイオマスエネルギーとは、主に、植物が、葉緑体の光合成により太陽エネルギーを化学エネルギーに変換し、バイオマス内部に貯めるエネルギーのことを指す。これは石炭、石油、天然ガスに次ぎ、世界で4番目に消費量の大きなエネルギーであり、エネルギーシステム全体の中で重要な地位を占めている。

 BPVは光合成を行う微生物(藍藻など)を光電変換材料とし、カーボンニュートラル、良好な環境適合性、潜在的な低コストなどの特徴を持つ。しかしBPVには現在、システムの出力が非常に弱く、太陽光発電を3桁以上下回るという非常に大きな問題が存在する。これは主に、藍藻などの光合成を行う微生物が高い光合成効率を持つが、発電の活性が低いことが原因だ。藍藻を直接改良し発電の活性を高める研究には進展がなく、実用化が困難だ。

 筆者の調べによると、李氏の研究チームが合成に成功した微生物グループは、光エネルギーをD-乳酸に貯蔵できる機能性藍藻、D-乳酸を効率的に利用し発電できるシュワネラ菌によって構成される。このグループでは、D-乳酸は2種の微生物間のエネルギーの担い手となる。

 李氏によると、藍藻は光エネルギーを吸収して二酸化炭素を固定し、エネルギーの担い手となるD-乳酸を合成し、シュワネラ菌がD-乳酸を参加させ発電する。これにより光子からD-乳酸、さらに電力に至る一定方向の電子シャワーが形成され、光エネルギーから化学エネルギー、さらに電力に至るエネルギー変換プロセスを形成する。

2種の微生物の生理的不適合を解消

 筆者の調べによると、李氏のチームは遺伝、環境・装置レベルの設計・改良、最適化により、2種の微生物間の生理的不適合の問題を効果的に解消した。これによって作られた2種の微生物によるBPVシステムは効率的かつ安定的な電力供給を実現した。その最大出力は現在の1種類の微生物によるBPVシステムの10倍以上である。

 資料によると、李氏の研究チームは、連続流培養方法を採用し、この2種類の微生物によるBPVシステムの40日以上にわたる安定的な電力の供給を実現した。またその平均出力密度は高い水準に達し、発電時間及び単一装置電力供給が現在のBPVシステムの最高水準に達した。

 特に言及すべきは、これが世界初の一定方向電子シャワーを備える合成微生物グループでつくるBPVシステムであり、中国初のBPVプロトタイプ装置でもあることだ。研究によると、合成微生物グループはBPVの光電変換効率を大幅に向上させ、人々のBPVの効率と寿命に対する固有の認識を打破し、BPV光電変換効率のさらなる向上の重要な基礎を固めた。

 専門家によると、BPVは太陽光利用の生物学的ルートを切り開いたが、これは新たな学際分野だ。BPVは現在、中国では依然として研究開発段階であり、実用化まではまだ長い道を歩む必要がある。


※本稿は、科技日報「両種微生物并肩作戦 譲生物光伏系統発電能力創新高」(2019年12月4日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。