病虫害を誘発する遺伝子を編集―生産性の高い「グリーン」棉花を開発
2020年1月6日 呉言、蒋朝常(科技日報特派員)、劉志偉(科技日報記者)
普通の人にとっては難解な遺伝子も、科学者にとっては、具体的なもので、目に見え、操作することができる標的だ。
華中農業大学作物遺伝改良国家重点実験室棉花チームはこのほど、棉花ゲノム編集システムの研究で一連のブレイクスルーを実現した。同チームは開発した精度の高いオンターゲットを実現した新システムを通して、棉花の病虫害を誘発する遺伝子の「スパイ」を取り除くことで、高品質の棉花の生産を後押ししている。
棉花ゲノム編集4システムが全世界に進出
同チームの金双侠教授は、「棉花のゲノム編集の分野で、当チームは世界の先進水準に達している。現在、当チームが開発した棉花ゲノム編集4システムは、全世界で広く応用されている」と語る。
2013年という早い時期に、同チームは、イネ、シロイヌナズナの編集システムCRISPRを棉花に応用する試みを行ったものの、成功しなかった。そして、その後も試行錯誤し、棉花の生物学的特徴に基づいて、調整エレメントを棉花自体のエレメントに変え、1つ目の棉花ゲノム編集システムは2017年に作り出されたもので、その編集効率は85%だった。
その後も、研究開発を続け、2つ目、3つ目、4つ目の棉花ゲノム編集システムの開発に相次いで成功した。オフターゲット効果の検証では、同チームが開発したゲノム編集システムの精度が高く、オフターゲット率が極めて低いことが証明されている。「正確なターゲットがゲノム編集の成功のカギを握っている」と金教授。
世界的に著名な植物科学誌「Trends in Plant Science」は今年、金教授率いるチームに研究成果をまとめるよう依頼し、オンラインでそれを掲載した。同チームは最近、棉花の効率の高いゲノム編集技術CPF1と一塩基置き換えシステムを初めて開発し、棉花ゲノム編集ツールをさらに充実させた。
農作物には病虫害を誘発する遺伝子が存在
ゲノム編集技術は、生物体内の特定の遺伝子を標的として、好ましくない特徴の発生を阻害したり、プラスの方向へ変化するよう編集したりする。
金教授は、「クローン技術に匹敵するか、それ以上の技術と言える。ゲノム編集技術は、遺伝子グループのレベルで、DNAの配列を変更する。これまでの物理的、化学的変異誘発と比べると、より精度が高く、スピーディーで、『狙いを絞って編集する』ことができる。人類医療、遺伝的疾患の治療、動植物の農業形質の改良及び生命科学の多くの基礎研究などの点で大きな意義がある」と説明する。
金教授によると、イネや棉花、小麦などの作物で病虫害が発生するのは、ウイルスなどの外からの攻撃に、作物の遺伝子が内側から「協力」してしまうからだ。作物の遺伝子には、病虫害を誘発する遺伝子が存在する。普段は沈黙しているが、ウイルスの攻撃を受けると、これらの「スパイ」は活発になり、病害が発生してしまう。今は、外から薬をまいたり、生物的抵抗で対応している。
ゲノム編集技術を応用することができれば、病虫害を誘発する遺伝子の中の「スパイ」を正確に見つけ出し、それを取り除いて、病害が発生しないようにすることができる。
豊富な遺伝材料を使ってより「グリーン」の棉花を栽培
リンゴを切っておいておくと、変色し、見かけも味も悪くなる。リンゴがテクノロジーをコントロールすることはできないが、テクノロジーはリンゴを改良することができる。
現在、海外の農業企業が変色しないリンゴの品種の開発に成功しており、米国で既に市販されている。そのリンゴはゲノム編集技術で、変色を招く遺伝子を取り除いており、切って空気に触れても酸化して変色することはない。
これは、ゲノム編集技術の作物育種における小さな応用に過ぎず、実際にはその技術が応用できる分野が数え切れないほどある。金教授によると、変色しないリンゴのほか、もっとスピーディーで効果的に育てることのできる新品種を育成し、作物の生産量を大幅に向上させることができるほか、農作物の干害や病虫害に対する抵抗力を高めたり、栄養価を高めたりすることもできる。
金教授率いるチームはゲノム編集技術を使って、棉花の除草剤抗性材料を開発し、除草剤に対する抗性を実現。小規模実験にも成功している。また、ハイスループットゲノム編集技術を利用して数多くの綿花遺伝子に飽和変異法を実施し、豊富な遺伝材料を生み出し、病虫に強く、生産性が高く、高品質で「グリーン」の棉花の栽培を実現している。
金教授は、「ゲノム編集技術のルーツは海外にあるのだが、中国国内の多くの科学研究者が、イネやトウモロコシ、小麦、アブラナなどの重要な作物のゲノム編集システムを独自開発し、農作物のゲノム編集における最先端を目指して取り組んでいる」と語る。
※本稿は、科技日報「敲除病虫害基因 譲棉花高産又"緑色"」(2019年12月18日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。