第160号
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3日でオーダーメイド 3Dプリントによる「膝関節」製造

2020年1月29日 雍黎(科技日報記者)

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視覚中国より

 衣料品店で服を買うと、既製服しか買えないが、仕立屋に行くと、自分にピッタリの服をオーダーメイドしてもらえる。オーダーメイド医療も同様だ。

 中国国家薬品監督管理局と国家衛生健康委員会が1月1日、共同で発表した「オーダーメイド式医療機器監督管理規定(試行)」(「定制式医療器械監督管理規定(試行)」)の実施が正式に始まった。中国では3Dプリントの医療機器がまもなく発展期を迎える。「3Dプリンター活用関節置換術・早期リハビリテーションフォーラム/重慶付加製造協会2019医学3Dプリント年次総会」がこのほど、重慶で開催された。国家重点研究開発プロジェクトによる研究成果により、中国では3Dプリント技術で作られた多孔質タンタル製プロテーゼなどが既に臨床応用されており、この技術は世界のトップを走っている。

オーダーメイド医療で個別化医療のニーズに対応

 中国工程院院士の戴尅戎氏は、「衣料品店で服を買うと、既製服しか買えないが、仕立屋に行くと、自分にピッタリの服をオーダーメイドしてもらえる。オーダーメイド医療も同様だ。現在の医学は、『既製型』医療から、『個別化』医療へと徐々に変わりつつある。個別化医療は、従来の治療では効果がなかった患者に有効な治療手段を提供できる可能性がある。個々の患者に的を絞るため、『高精度医療』とも呼ばれる。オーダーメイド医療のスタイルは、的を絞った医療を具現化しており、患者の実際の状況に応じた治療ができるだけでなく、その人に応じた薬や器械を使うことができ、一層効果的な治療ができ、副作用もより少ない」と説明する。

 オーダーメイド式医療機器は、特殊な病状に悩む特定の患者の需要を満たすために、医療機器メーカーが医療機関の臨床における特殊な要求に基づいて、設計・生産する個別化医療機器だ。例えば、一部の病変部位は切除後、その表面は特殊な形状、大きさになるため、規格に基づいて生産された医療機器を使うことができない。

 医療機器に、3Dプリントの技術を活用することができる。コンピューターによる設計支援、加工支援を活用すれば、医療機械をオーダーメイドでスピーディーに作ることができ、コストが高くなることもない。

人体に適した金属を使ってプロテーゼをプリント

 陸軍軍医大学第一附属病院関節外科の科長を務める楊柳教授によると、中国の変形性関節症の罹患率は約2.2‐3.5%で、統計によると、40‐49歳と50‐59歳のグループの罹患率が約27‐62%となっている。全人工膝関節置換術は、末期の膝関節疾患の最も効果的な治療法の一つだ。しかし、従来の骨セメント、他家骨、自家骨などの移植にはどれも各種問題が存在しており、プロテーゼの安定性、耐用期間に影響を及ぼす。コンピューターによる設計支援に、3Dプリント医療の個別化移植組織の処理を加えると、プロテーゼを使って、欠損した骨を十分に補充・再建することができ、患者の回復も速く、副作用を減らすこともできる。

 タンタルは、医学界公認の生体適合性が最も高い硬組織だ。多孔質で、力学的性能が人骨に近い。そして、純タンタルは現時点において医療で使われている金属材料の中で、最も抗菌性が高く、体の中に埋め込むのに最も適した金属材料だ。しかし、タンタルは融点が2,996度と高く、どのように3Dプリント医療で活用するかが、これまで業界の課題となってきた。

 2016年、陸軍軍医大学附属一院外傷・関節外科が筆頭となり2016年度国家重点研究開発計画特定プロジェクト「オーダーメイドの多孔質タンタル製プロテーゼの粉末床電子線付加製造キーテクノロジー・臨床応用」(以下「特定プロジェクト」)を担当する。オーダーメイドの多孔質タンタルの設計、タンタルの粉末の調合、3Dプリント医療設備、技術など、独自の知的財産権を有する一連のキーテクノロジーの確立に成功した。そして、2017年、世界で初めて、オーダーメイドで、多孔質タンタル製プロテーゼを3Dプリントで製造し、全人工膝関節再置換術に成功した。これまでに、3Dプリントで製造した多孔質タンタル製プロテーゼの臨床試験・研究27件に成功している。また、同チームが研究開発を行い、世界初の医療用電子線タンタル3Dプリンターの開発に成功し、タンタル粉末の付加製造を実現している。

患者の欠損部位にピッタリのプロテーゼをオーダーメイド

 3Dプリント医療にはモデリングが必要で、患者に適したプロテーゼをどのように設計するかがカギとなる。そのため、重慶市科学技術研究院光学機械研究所(以下「重科院光機所」)は重慶大学生物工程学院、上海鋒算計算機技術有限公司と共同で、特定プロジェクト中の「オーダーメイドの多孔質タンタル製プロテーゼのクイックモデリング・分析技術」課題研究を担当し、オーダーメイドの多孔質タンタル製プロテーゼの3Dプリントに科学的根拠やデータ面でのサポートを提供した。

 重科院光機所の呉先哲所長によると、同チームは技術の研究開発により、医学映像技術に基づくオーダーメイドの多孔質タンタル製プロテーゼのスピーディーな設計法をし、膝関節置換用のプロテーゼの標準・デジタル化模型バンクを構築。模型データは合わせて103種類あり、オーダーメイドのプロテーゼの設計や埋込のプラン設計の過程で活用することができる。現在、術前に患者が3D・CTスキャンを受け、骨格の正常な部分と、欠損部位のデータを取っておけば、3D再建システムを利用して、72時間以内に多孔質タンタルのプロテーゼを設計し、それを3Dプリントすることができる。「患者の治療をスピーディーに行なうことができるだけでなく、オーダーメイドで欠損した部位にピッタリのプロテーゼを作ることができるようになった」と呉所長。

 重慶市科技局の関係責任者によると、同市は3Dプリント医療技術の発展を重視しており、「重慶市テクノロジーイノベーション『第13次5カ年計画(2016~20年)』」で、3Dプリント医療の技術のブレイクスルーに重点を置き、3Dプリントを活用した医療技術の発展に取り組むと明確に言及している。そして、近年、多孔質タンタルや手術ロボットなどの国家三類医療機器を含む、イノベーション型薬物・新型医療機器の研究開発・産業化100件以上をサポートしてきた。

 楊教授は、「1月1日に『オーダーメイド型医療機器監督管理規定(試行)』の実施が正式に始まった。これにより、オーダーメイド型医療機器のイノベーション、研究開発が奨励され、業界の規範化や健全な発展が促進され、臨床における数少ない特殊なニーズに対応することができるようになるだろう」との見方を示す。


※本稿は、科技日報「只需3天3D打印就能"私人定制"膝関節」(2020年1月6日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。