第161号
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浙江省湖州:「両山理念」を実践し、持続可能な発展を促進

2020年2月14日 洪恒飛、馬超奇、江耘(科技日報記者)

イノベーションが質の高い発展を下支え

 電池1本あたりの製造コストを1.68元(約27円)下げ、エネルギーを40%以上節約できる。それなのに生産ラインにはスタッフがわずか数人しかいない。浙江省湖州市長興新エネルギービレッジにある天能集団には、同社が独自に設計したさまざまな自動化組立生産ラインがあり、同社が自動化やエコ化などの技術を融合させていることは、一目瞭然だった。

 天能集団研究院の郭志剛院長は、「地元の鉛蓄電池産業が全盛期だった頃、一番多い時で企業の数が175社に達し、汚染が大きな問題となった」と振り返り、「それで当社は独自の研究開発を強化することを決意し、グリーンなスマート製造に力を注ぎ、伝統的な動力電池のメーカーから、世界の新エネルギー企業トップ500に入る企業への飛躍に成功した」と語る。

 研究開発に注力し続けることにより市場で重要なポジションを占め、持続可能な発展の道を歩み続ける湖州市の企業は、天能集団だけではない。長江デルタの内陸寄りに位置する湖州市は自然環境や地理的条件、交通アクセスの良さなどの条件が整っており、近年は「両山理念」(習近平国家主席が提唱する発展理念。「澄んだ水と緑の山は金山、銀山である」)をテクノロジー・イノベーションによって質の高い状態で実践に移すことに力を入れている。イノベーションは発展を牽引し、質の高い発展の「黄金期」を迎えようとしている。

 中国で千年の歴史を誇る湖筆(湖州産の毛筆)文化、改革開放(1978年)後に生まれた産学研連携の「徳清モデル」、そして「ファッションがパリというなら、子供服は織里鎮」とまで言われるようになった織里鎮、さらには徳清県でゼロからの発展を遂げた地理情報産業など、湖州の土壌に植えられたイノベーションの「種」は、今では新しい時代の特徴に合ったさまざまな「実」を結び、成果を生み出している。

専門分野に特化し、強い企業の育成で力強く成長

 浙江久立特材科技股份有限公司のチーフエンジニアを務める蘇誠氏は、年明け早々にもかかわらず、休む暇なく働いていた。同社では毎年、平均20種類の新商品研究開発が計画されており、ひっきりなしに入る注文に伴い、商品の供給量は設計生産量の限界に近付いているという。

 蘇氏は取材に対して、「世界での競争に勝つべく、2006年に全面的な国産化切り替えが打ち出されて以降、当社は特殊材料パイプというニッチ市場に焦点を合わせている。そして、当社が中国国内で初めて製造した製品は17製品に上る。政府当局から毎年、3,000万元以上の経費支援を受けており、ここ数年、研究開発に毎年平均約1億元(約16億円)を投入できている」と説明した。

 湖州市科技局の王志芳局長は、同局の取り組みについて、「イノベーションの主体となる実力ある企業を育てなければ、持続可能な発展など実現しようもない。そのため、当局は、さまざまなレベルにおける段階的な育成システムを構築している。2019年、湖州市は新たな政策を打ち出し、新たに認定された国家指定ハイテク企業に30万元(約480万円)の奨励金を給付した。そして同年、ハイテク企業が新たに150社以上増え、新たに省指定テクノロジー型中小企業659社が育成された」と説明した。

 設立からわずか半年の湖州南太湖新区のバイオ医薬産業パークには、すでに関連企業230社が入居している。それら企業はニッチ分野に特に集中的に取り組んでおり、生産する製品は国内の空白を埋めた。最近、美奇医療がリリースした持続血糖測定器はたちまちヒット商品となり、同類商品の市場がこれまで国外ブランドの独占状態だった局面を大きく変えた。

 王局長は、「質の高い発展には、ハイレベルのプラットフォームの下支えが絶対に必要だ。湖州は、南太湖新区を「両山理念」の実践モデルエリアにすることに力を注いでいる。湖州のイノベーション・プラットフォーム構築は、専門化が際立っており、全ての区・県に省級ハイテクパークがあると同時に、産業イノベーション・サービス複合施設9ヶ所が創設された。2019年には、91の専門化・垂直化されたハッカースペースが新設された。またハッカースペースに支給した特定項目補助金は1,000万元に達した」と強調する。

 2019年1‐11月期、湖州ハイテク産業の付加価値は10.2%増と、浙江省で1位だったほか、ハイテク産業投資は前年同期比46.3%増となり、これも省内で他を大きく引き離して1位となった。

さらなる高みを目指し、長江デルタに立脚して総合力を強化

 現代の産学研連携の「徳清モデル」の誕生地である湖州は、2010年以降、「政産学研連携カンファレンス」を毎年1回開催しており、政産学研連携の大きな成果を生み出し、湖州の質の高い発展に強力な原動力を注入している。

 2019年、長江デルタ一体化が「国家戦略」に引き上げられたことを背景に、湖州市「第10回政産学研カンファレンス」では、「長江デルタの要素」が特に際立っていた。湖州市科技局は、上海交通大学や安徽大学など7大学と「技術移転センター共同建設に関する協議書」に調印し、長江デルタのテクノロジー・イノベーション・リソースの相互連携を加速させている。

 王局長は取材に対して、「昨年12月に発表された『長江デルタ地域一体化発展計画綱要』は、生態環境の共同保護・改善の強化を提起している。湖州は「両山理念」を一歩踏み込んで実践し、環境に優しくグリーンであることが地方経済の発展のベースとなっている。伝統産業は湖州の産業構造においてかなりの割合を占めており、湖州は現在、グリーンな工場・作業場の普及推進に力を入れている」と説明した。

 郭院長は、「当院は、天能『クローズドループ』経済モデルを積極的に構築し、浙江省、江蘇省、河南省、安徽省の四大循環経済産業パークを建設し、鉛蓄電池やリチウムイオン電池のグリーン生産と資源の循環を実現している。製品の比エネルギー向上、無害設計、グリーン製造、製品寿命追跡、リサイクルなどを総合的に考え、天能集団は製品ライフサイクルを全て管理するグリーン・スマート製造技術をすでに開発した」と語る。

 2019年12月末、科技部(省)と中国科学技術情報研究所が発表した「国家イノベーション型都市イノベーション能力モニタリング報告2019」、「国家イノベーション型都市イノベーション能力評価報告2019」のカテゴリー別評価において、湖州は、19のグリーン発展サポート型都市の中でトップにランクされた。

 現在、湖州は、長江デルタ一体化発展国家戦略というチャンスを掴み、中国内外の大学や科学研究機関の誘致を加速させて、共同で産業技術研究院や技術移転センターなどのテクノロジー・イノベーション施設を設立することを計画し、ウィークポイントをカバーし、地域のイノベーションのためにさらに大きなエネルギーを取り込もうとしている。


※本稿は、科技日報「湖州:践行"両山"理念 注入可持続発展基因」(2020年1月15日付4面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。