第161号
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成都からイスラエルへ―科学技術研究成果が「架け橋」を渡る

2020年2月7日 陶玉祥、盛利(科技日報記者)

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視覚中国より

 イスラエル・テルアビブのハバーゼルストリート30にあるビルの7階。インキュベーターのパワーハウスは、熱気にあふれていた。四川とイスラエルの第一線の科学技術研究成果がここに集まり、活発に交流している。中国とイスラエル両国のテクノロジーイノベーションの仲介役は、イスラエルのテクノロジー企業の研究成果や技術のニーズを収集・理解しながら、特定の分野に強みを持つ四川省の企業を厳選してマッチングし、両地域の情報交換、プロジェクトのマッチング、技術・成果の実用化の架け橋となっている。

 中国内陸部の四川省は、どのようにしてイノベーション国家として有名なイスラエルとマッチングを行い、研究成果の交流、テクノロジーイノベーションにおける相互補完と協力を実現しているのだろうか。

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イスラエル・テルアビブで説明を行う四川省の技術者(成都市科技局提供)

テクノロジーイノベーションリソースバンクに企業8,000+8,000社が登録

 2019年11月に、四川省で開催された「イスラエルテクノロジー教育協力交流会」で、「四川・イスラエル中小企業テクノロジーイノベーションサービスプラットフォーム」のオフライン拠点が発足した。これは、中国とイスラエルが立ち上げた、初の大学、科学研究機関、イノベーション企業に対して情報発信と、プロジェクトの「孵化」のサービスを提供するプラットフォームだ。

 四川・イスラエル中小企業テクノロジーイノベーションサービスプラットフォームの責任者は、「これまで、イスラエルと四川省の連携は、成熟したテクノロジー製品の貿易取引が多かった。双方の情報交換ルートが不足していたため、四川省の多くのテクノロジー企業は、イスラエルに進出してテクノロジーイノベーションの分野でより踏み込んだ提携をしようという意欲、能力が弱く、技術開発や成果の実用化の面で、効果的な提携を実施するのは難しかった。しかし、2017年に中国とイスラエルがイノベーションにおける全面的なパートナーシップを築いて以降、双方のテクノロジー企業や機関の基礎研究、キーテクノロジーの研究開発などの分野の提携に対する需要がますます高まり、テクノロジーイノベーションの分野の有効な情報交換ルートを構築して、四川省とイスラエルの共同研究開発、人材交流を促進することが特に必要となった」という。

 同プラットフォームのオンラインポートを見ると、イスラエルのプロジェクトバンク、四川省のプロジェクトバンク、知的財産権プール、政策バンク、ニーズの発表などのコンテンツがあり、最新の企業情報やニーズなどもリアルタイムで見ることができる。オンラインプラットフォームの責任者によると、「イスラエル、四川省双方がそれぞれ約8,000社のテクノロジー企業を登録しており、既に人工知能、医療保健、農業栽培など、20以上のテクノロジー分野を含む知的財産権200数件が発表されている」。

 プラットフォームの運営機関である成都・イスラエルインキュベーターのプロジェクトマネージャー・李泊氏は、「オンラインデータサービスは、高効率、無遅延を重視している」とし、プラットフォーム運営のプロセスについて、「当プラットフォームは、イスラエル、四川省のテクノロジーイノベーションプロジェクトを全面的に集約しており、論理のスマート分析・マッチングを通して、一方の企業が投融資、会社、提携パートナー、特許などに関する具体的なニーズを掲載すると、システムがファーストステップとしてのマッチング度の最も高い対象を選出し、提携の機会を発掘する」と説明する。

 同プラットフォームの最近の業務について、成都・イスラエルインキュベーターのプロジェクト担当者は、「イスラエルは、オアオレンジの栽培を真っ先に始めただけでなく、優良な品種を育成している。最近、四川省の農業企業の委託を受けた同プラットフォームは現在、イスラエルのある農業センターとマッチングの交渉を行っており、オアオレンジの栽培技術や品種を四川省に導入する計画だ」と話した。

中国内外のプラットフォーム「1+1」 オフラインサービスで正確なマッチング

 オンラインの情報交換・取得ルートができ、提携の交渉を進めたり、フィードバックしたりできるオフラインのルートも必要で、研究成果を確実に実用化できる仕組みが必要だ。

 李氏は、「プラットフォームのオフラインサービスは主に、イスラエルと四川省にあるサービス機関およびそのスタッフが行っている。それらスタッフは、両地域の企業の内部を熟知して情報を入手し、ニーズに応じて、イノベーションリソースの正確なマッチングを実現している。イスラエルのオフラインサービス機関は、テルアビブのパワーハウスに設置されており、四川(イスラエル)イノベーションセンターのオフィスエリアおよび展示センターとなっている。一方の四川省のオフラインサービスは、成都・イスラエルインキュベーターが行っている。同機関はイスラエルのインキュベータースタイルを参考にして、投資とインキュベーションを一体化した国家級のソーシャル・イノベーション・プラットフォームで、中国とイスラエルの企業60社以上を誕生させてきた」と説明する。

 イスラエルのパワーハウスで働く成都・イスラエルインキュベーターのTami Kfir副社長は、「オフラインの対面サービスは、的を絞り、ユーザビリティを重視しており、四川省とイスラエルのテクノロジー連携の『潤滑剤』に相当している。具体的な実践において、双方の企業は、オンラインでまず初歩的に対象を選出する。その後、イスラエルと成都のサービス機関およびそのスタッフが協力、判断して2回目の選出を行い、的を絞ったマッチングを行う。その後、意思の疎通を図る仕組みを協力して立ち上げ、連携のルートを構築し、成果の実用化を実現するための具体的な提案を出す」と説明する。

 李氏は、「イスラエルには、世界最先端の農業テクノロジーがあり、オンライン・オフラインのプラットフォームを通して、多くの四川省の企業がイスラエルのハイテク農業企業とマッチングを行っており、技術協力や製品の研究開発などを展開している。例えば、成都貝克森科技発展有限公司は、イスラエルのネタフィムの点滴灌漑技術を導入したのを皮切りに、貝克森マイクロ潅漑システム、濾過システム、灌漑IoT(モノのインターネット)など、灌漑のソフトウェア・ハードウェア商品を相次いで開発し、中国国内の農業分野に包括的な近代的設備や先進水準の節水灌漑技術を提供している」と説明する。

 Tami Kfir副社長は、「双方の連携が進むにつれて、四川省の多くのテクノロジー型企業からプラットフォームを通して連絡してくるようになった。そして、マッチングできる企業を見つけて、企業の短所を補い、イスラエルの先進技術や人材を四川省に呼び込み、相応の成果の技術移転・実用化を促進したいという意向を見せている。プラットフォーム開設後、成都の天府新区がパワーハウスにイスラエル人材研究開発拠点を設置するようサポートしただけでなく、フィードバックを分析して、イスラエルのCMOSイメージセンサー開発企業・Newsight Imageの投資を呼び込んだ」と話す。

双方のテクノロジーをめぐる連携を深化させる架け橋的イベントが続々開催

 交流ルートをさらに徹底して効果的に整備するべく、成都・イスラエルインキュベーターの企画の下、テクノロジーイノベーションサービスプラットフォームが双方の企業、大学、科学研究機関を仲介し、プロジェクトの説明会、交流会などを実施し直接互いに訪問し合って、産学研機関が顔を合わせることができるようになっている。

 2019年、四川・イスラエルの協力・交流プロモーションイベントが、テルアビブで2回開催された。1回目は5月で、四川省とイスラエルは、ハイテクや近代農業などの分野の18件で提携合意に達した。また、双方の産学研機関の300人以上が現場で交流・マッチングを行った。2回目は11月で、四川投資集団、四川エネルギー投資集団、東方電気集団が、エネルギー実用化や貯蔵などの技術について、イスラエル側の企業とマッチング・交渉を行った。

 2019年6月、イスラエルも四川省で大型テクノロジー貿易イベントを開催し、3Dプリント技術や工業化制御および自動化技術・製品をもたらし、四川省の地元企業70数社が、プロジェクトロードショーやマッチングを行った。参加したイスラエルの3Dプリント技術企業・Stratasysは、四川大学ピッツバーグ学院に「付加製造共同イノベーション実験室」を設立し、さらに他の複数の企業と提携関係を築いた。プロジェクト説明会のほか、双方のテクノロジー成果の実用化の方式も増えてきている。9月には、今度は成都国際イノベーション・起業コンテストがテルアビブで開催され、電子情報、設備製造、医療・健康、新型材料など四川省の重点分野の9つのプロジェクトが決勝に進み、終了後には、成都企業との1対1での交渉が行われた。

 在成都イスラエル総領事館のRan Peleg総領事は、「2019年5月に四川省--イスラエルテクノロジー貿易交流のシリーズイベントが始まって以来、双方のイノベーション分野の連携は次第に密接になり、ウィンウィンの新たな段階へと突入している。四川・イスラエルテクノロジー・貿易マッチングイベントが展開され、双方の企業間の技術交流や研究成果の移転・実用化に適したプラットフォームを提供し、今後両地域の企業がさらに一歩踏み込んで、幅広く連携するための基礎も築かれた」と強調した。

 李氏は、「2019年9月、成都とテルアビブを結ぶ直行便が週に2便就航して以来、ビジネスの交渉やテクノロジー協力のために行き来する旅客がますます増えており、双方のテクノロジー交流がどんどん活発になっている。今年、四川・イスラエルのテクノロジー連携がさらに深化するにつれて、当プラットフォームは四川省『5+1』主導産業をめぐり、オンライン・オフラインで関連の分野のさらに多くの交流・マッチングを展開する」と話す。


※本稿は、科技日報「架一座"天橋"譲成都科技成果去以色列落地」(2020年1月13日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。