第162号
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清らかな池から産出される真珠―浙江省諸曁市、デジタル技術を活用したエコ養殖

2020年3月16日 洪恒飛、江耘(科技日報記者)

「池に入ってイシガイを収穫する時、悪臭を我慢する必要がなくなった」
「真珠10粒の直径は平均約13ミリで、真円度は70%以上と、高品質だ」
「袋に詰めて、車に積み込んだら、完了だ!」

 春節前の年の瀬に、浙江省諸曁市の清湖農業真珠養殖基地には、山東省から、イシガイの仕入れのために山東省からバイヤーの集団が来ていた。

 水域汚染がないため、作業員は防臭対策を講じる必要はない。数日の採取作業で、自動化パイプネットワーク式の養殖技術で育てられた淡水イシガイ5万個が山東省済寧市に運ばれ、観光地でそれを買った観光客が中から真珠を取り出すことに使われる。

 中国最大の淡水真珠養殖基地である紹興諸曁市における淡水真珠の生産量は世界の総生産量の73%を占め、2018年の売上高は102.5億元(約1,610億円)に達した。

 しかし、現地の養殖業者はかつて、有機肥料を直接川に投げ入れる粗放的な養殖方法を行っていたため、産出される真珠の質は悪く、水域環境も汚染されていた。

 諸曁市科技局弁公室の馬高峰室長は、「2017年、諸曁市は史上最も厳しい淡水真珠養殖『禁止令』を出した。そのため、多くの養殖業者が、デジタル技術のイシガイ養殖への一歩踏み込んだ応用を強化し、新しいエコ養殖の道を探すようになった。現在、スマート養殖、生態環境保護型の養殖スタイルが日に日に整備され、現地の真珠産業がどんどん活気づき、水域環境も改善されている」と説明する。

必要を見定めたエサの投与で水域汚染を根本的に解決

 水域の富栄養化の程度が異なるため、異なるエリアにおける池水の色も全く異なり、窒息死した魚が水面に大量に浮かぶ藻類に絡んでいる......この水域の4年前の水質資料図が清湖農業真珠養殖基地に設置されている。

 一般的な湖と同じほどの水質になった現在の養殖基地とかつてのそれとは雲泥の差だ。

 従来の養殖方法では、家禽の糞を水中に入れ、こうした有機物の力を借りて藻類を発生させ、それをイシガイに食べさせる。正確に言えば、藻類が繁殖する過程で、水域が汚染されてしまう。

 浙江清湖農業科技有限公司の郭偉鋒会長によると、ハルビン工業大学の技術チームと提携して、イシガイの成長に有益な菌、藻、プランクトンを研究開発、増殖拡大させ、藻の増殖を屋内で行うようにした。

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デジタル化新型養殖スタイルで養殖したイシガイから取り出した美しい真珠を見せる清湖農業の郭偉鋒会長。 撮影・洪恒飛

「中国科学院自動化研究所が開発した人工知能IoT管理技術を活用して、室内でイシガイのエサを調合し、自動化パイプネットワークを通して、事前に増殖させた藻類を淡水イシガイの体内に1個ずつ注入している。そしてその成長期や季節、気温などの要素に基づいて、『ターゲットを絞ったエサやり』を実現している。そうすることで、根本的に汚染を解決することができた」と郭会長。

 また、イシガイそのものの浄水能力も活用するために、IoTシステムの水質やイシガイの食べるエサの量のモニタリングデータ、アルゴリズム最適化報告に基づいて、イシガイに与えるエサを半分にし、空腹状態にすることで、イシガイは水域の中で自然に繁殖した藻類を食べ、真珠の養殖と水の浄化という双方の利益を実現している。

 諸曁市科技局の関係責任者は、「栄養のバランスを考えて作ったエサを自動で与え、水域におけるアンモニア態窒素の指標のモニタリングなど技術的応用を組み合わせており、非常に考え抜かれたデジタル化真珠養殖技術と言える」と胸を張る。

 2019年2月、諸曁市は「デジタル経済5年倍増計画」を発表し、真珠の挿核、研究開発設計などのデジタル化モデル転換を全面的に推進し始め、水域のミネラル、微生物などの指標の動態モニタリングについて重点的にブレイクスルーを行い、デジタル水対策の全面的展開を実現し、2021年をめどに、エコ養殖率の割合を100%に達成させるとしている。

 馬室長によると、「2016年、この関連技術の応用が山下湖真珠養殖基地で始まり、約6.6ヘクタールで養殖する10万個のイシガイに、それまでは有機肥料を年間200トン与えていたのを、20トンの特製栄養液に変えた。それにより、基地の水質は1ヶ月以内に、(国家環境保護総局と国家質量監督検験検疫総局が2002年に定めた《地表水環境質量標準》の上で)汚染が最も深刻な「劣Ⅴ類」から、飲用にも適する「Ⅲ類」にまで改善した。同技術は2018年に、浙江省水産技術推進システム15件の『グリーン発展グッドモデル』の一つに入選し、省全域で推進し、普及させている」。

スマート化により清らかな水が輝く真珠を育む

 説明によると、淡水養殖と比べると、海水真珠のほうが、有機物や微量元素、ミネラルをバランスよく摂取していることが多い。生産量は少ないものの、良品率が高いため、単価が高くなる。そして、それが世界のジュエリー産業界で主導的地位を保ち続けてきた。

 郭会長によると、貝類の品種のほか、養殖の方法がより関係している。従来の有機肥料を投じる方法では、真珠が窒素・リンの基準を超過した劣悪な環境で生活することになり、当然の結果として光沢が欠如してしまうという。

 以前、諸曁市の淡水真珠は、生産量は多かったものの、海水真珠と比べて品質が悪かった。産業の付加価値が低いという体裁の悪い状況を打破するべく、諸曁市は近年、真珠産業の「大々的なモデル転換、高度化」を全面的に推進し、イノベーション型リーディングカンパニーを育成して、デジタル化、スマート化養殖という新スタイルを模索し、生態系を改善すると同時に、真珠製品の付加価値をも向上させている。

 郭会長は取材に対して、「点滴灌漑養殖を通して、成長環境を改善するほか、イシガイが十分に栄養を摂取できるようにして、その品質を向上させるというのが、この技術を開発した原点だ。当社は現在、室内の藻類栄養供給の技術能力を活用して、従来の養殖スタイル下で、1ムー(約6.7アール)当たりの養殖密度を平均1,000個から3,000個にまで向上させた。また、真珠の真円度、光沢も明らかに向上した」と強調した。

 同様の方法を採用しているのは浙江清湖農業科技有限公司だけではない。浙江省佰瑞拉農業科技有限公司を取材すると、工場化養殖を採用し、段階的に500トンまで増殖した藻類の栄養液を、必要に応じて人工池に注入する方法を通して、栄養液の効果を最大限発揮させることができるよう取り組んでいる。

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浙江佰瑞拉農業科技有限公司の面積2,200平方メートル、水深1.4メートルの養殖池では20万個のイシガイの養殖が可能だ。

 佰瑞拉弁公室の劉曙光室長は、「企業が独自に研究開発した自動養殖コントロールシステムは、淡水真珠養殖水域のエコ調整・コントロールを通して、データ分析や水質モニタリング、エサの投与などを自動で行うことができる。工業化された養殖スタイルでは、イシガイの養殖密度は従来の50倍以上に達する。また、決められた養殖密度に応じて養殖のために使う水の量を定め、当社が製作した廃水処理装置を通して、水資源のリサイクルを可能にし、廃水ゼロを実現している」と説明する。

「2種類の養殖スタイルは方法が異なっても同じ結果になる。藻類を増殖させてそれをエサとして与え、必要な作業員の数を大幅に減らし、養殖周期を短縮できるほか、真珠の品質を向上させ、働く人をロボットで置き換えることが実現できるだけでなく、施設の拡大にもなっている」と馬室長。同市はエコ養殖技術を全面的にサポートし、市全域の養殖場から排出される水の水質を4類以上に保つと同時に、水対策の経験を少しずつ他の地域にもシェアするようになっている。

総合施設をよりどころに産業の飛躍的発展をサポート

 馬室長は取材に対して、「清湖農業の人工スマートバイオターゲティング技術の研究にしても、佰瑞拉農業ビッグデータコントロールシステム工場化養殖試験の成功にしても、現地の真珠産業イノベーションサービス総合施設がそれをサポートしている。当市は、総合資源が豊富で、サービスが集約しているという総合施設のメリットを生かし、関連の100社以上の企業がデジタル化・高度化を実施できるようサポートした」と成果を強調した。

 諸曁市は、真珠産業チェーンが十分に伸びていない、イノベーション設計能力が弱い、販売スタイルが単一的などといった問題を抱えているが、どのようにすれば飛躍的な発展を遂げることができるのだろう?現地政府や市場、企業は産業のモデル転換・高度化を促進する新たなスタイル、新しい原動力を切実に必要としている。

 2018年初め、諸曁市真珠産業イノベーションサービス総合施設の建設の準備が始まった。これまでに、建設のために資金3,000万元(約4.7億円)以上が投じられ、建設面積は8,000平方メートル以上に達し、中には真珠研究、クリエイティブ設計、検査・測定、イノベーション・起業などを中心とした7つの大型センターが設置され、主に、養殖技術のブレイクスルー、真珠産業の拡大、真珠の関連商品開発などの面にテクノロジーイノベーションサービスを提供している。

 2019年以降、同総合施設は、真珠産業の短所、泣き所にスポットを当て、現地の真珠企業がハルビン工業大学、中国地質大学などと共同で院士研究開発連携拠点1ヶ所、研究機関12ヶ所を開設するよう推進し、産業を長年悩ませてきた真珠貴金属アクセサリーや真珠パウダー3Dプリント技術の難題を克服し、真珠パウダー美白酵素カプセル、真珠複合材料などの関連製品を開発してきた。

 アクセサリーデザイン、検査の需要に焦点を合わせ、同総合施設は、中国内外の新鋭デザイナーチーム15チームを招き、中国国家宝石・ジュエリーテストセンター(NGTC)諸曁市実験室を立ち上げ、X線回折装置などの専門機器、設備を購入した。ワンストップサービス型の総合ポートを構築するべく、現時点で、検査関連のスタッフが30人以上在籍し、これまでに数万点の商品を検査してきた。

 現在、中国でトレンドとなっているライブ配信による販売を活用するべく、諸曁市真珠産業イノベーションサービス総合施設は、ショッピングサイト・淘宝と、アクセサリー業界ライブ配信拠点を設置することで合意し、現時点で、ライブ配信業者120社以上がそこに進出している。2019年、EC大手・京東の創設記念日である6月18日に合わせて行われる販売促進キャンペーンでは、売上高が最高で5,000万元(約7.9億円)を突破し、1ヶ月あたりの売上高は2億元(約31.4億円)を超えた。

 馬室長は、「淡水イシガイ1個から、1つのアクセサリーまで、総合施設は、第一産業の養殖、第二産業の加工、第三産業の販売までのさまざまな分野を一つに融合している。科技局も今後、総合施設が産業イノベーションサービスの内容と機能を拡大できるようサポートし、現地の真珠産業の質的な飛躍の実現を加速させていく」と語る。


※本稿は、科技日報「一池清水出珍珠」(2020年2月13日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。