第162号
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長江沿岸の生態系修復―「長年の財産」の保護・発展のため「余白」を残せ

2020年3月31日 金鳳

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江蘇省常熟市、長江沿岸の砂州である「鉄黄沙」の生態系を修復。
写真は、生態系修復中の「鉄黄沙」を空から俯瞰したもの(写真提供:常熟市共産党委員会)

 長江の下流に位置する江蘇省では、2019年末までに面積5,100ムー(1ムー=約6.667アール)に及ぶ長江沿岸緑地帯が建設され、約2,380ヘクタールの砂地・湿地が増設された。そして、長江沿岸の重要生態機能区が国の生態系保護レッドラインに組み入れられ、231ヵ所の生態系レッドライン保護区域が制定された。こうして、ますます多くの「生産岸線」(農業・工業等の産業生産に使用される河岸)が「生態岸線」(生態系の保護を行う河岸)に変わっていった。

 江蘇省常熟市には、古来より「七渓流水皆通海,十里青山半入城」という美名がある。常熟市内に位置する長江沿岸には、長江の土砂が堆積してできた砂州があり、「鉄黄沙」と呼ばれている。

 かつての鉄黄沙は荒涼として物寂しく、「江南の砂漠」と呼ばれていた。しかし、この数年間で生態系が修復され、オアシスへと転身を遂げている。

 初春の鉄黄沙では人影はまばらだったが、ここは鳥類の天国であり、魚類の楽園となった。

 おおまかな統計によれば、鉄黄沙には現在、国家一級保護動物であるヒメヨシゴイ等の161種類の鳥類と60種類以上の魚介類および100種類以上の湿地植物が生息している。

 これは長江沿岸における生態系修復の単なる縮図である。

 長江の下流に位置する江蘇省では、2019年末までに面積5,100ムーに及ぶ長江沿岸緑地帯が建設され、約2,380ヘクタールの砂地・湿地が増設された。そして、長江沿岸の重要生態機能区が国の生態系保護レッドラインに組み入れられ、231ヵ所の生態系レッドライン保護区域が制定された。こうして、ますます多くの「生産岸線」が「生態岸線」に変わった。同省各地では生態系という「長年の財産」を守り、発展のための「余白」を残そうとしている。

かつての「江南の砂漠」はオアシスに転身

 鉄黄沙の東側には長江が、南西側には太湖に通じる望虞河が流れている。この地はかつて、水流の変化に伴って現れたり隠れたりする砂州であった。「望虞河から比較的近かったために、鉄黄沙の西側に堆積する土砂は徐々に増え、太湖と長江の放水路に影響を及ぼすようになった。数年前に長江の河道を修復した際に、水底の汚泥を取り除いて噴砂し、鉄黄沙の上に撒いて埋め立てた」。常熟市共産党委員会宣伝部の関係者はこう説明した。地理的に有利な位置にあったため、この地にはかつて深水港を建造できる天然の土地の利があると考えられていた。つまり、長江の江蘇省内を流れる部分で深水港を建造できる条件をもつ4ヵ所のうちのひとつとされたのである。

 このため、常熟市は「第12次5ヵ年計画」期間(2011年~2015年)に16億元を相次いで投資し、鉄黄沙と福山水道南岸の浅瀬の総合整備を行い、「鉄黄沙」を近代的な物流基地とする計画を立てた。

 しかし、長江経済ベルトに対して「共抓大保護、不搞大開発」(共に環境保護に取り組み、大規模な開発を行わない)というガイドラインが提示されたために、「鉄黄沙」の命運は再び転機を迎えた。

 2017年7月、常熟市では「常熟市の長江流域の生態環境保護を強化する事業プラン」が定められ、グリーン発展(地球にやさしい発展)のさらなる強化を指針として、長江流域の生態環境保護事業に対しさらに力を入れ、「生態岸線」を徐々に回復・増加させ、砂地・湿地資源の保護を強化することとなった。

 2018年5月、常熟市第15次人民代表大会常務委員会第12回会議において「鉄黄沙の生態系開発計画の位置決定への同意に関する決議」が採択され、生態系の管理・保護をさらに強化し、鉄黄沙の生態系保護を科学的に推進し、鉄黄沙を長江沿岸の「三化」(清潔化、美化、緑化)整備行動に組み入れ、将来的には長江沿岸の1万ムーに及ぶ緑の回廊に組み入れるための準備を行うこととなった。

「鉄黄沙整備プロジェクトの実施により、長江・澄通流域の流出口付近の河流の安定と長江深水航路の安全が確保され、望虞河から太湖に水を引く利水と、太湖の洪水対策・田畑の冠水排出の安全が保障されるようになった」と先の関係者は話す。

 こうして現在、鉄黄沙はまさにエコロジカルな島になろうとしている。堤防の内側ではシダレラクウショウやラクウショウ、オオモクゲンジ、トウネズミモチによる美しい緑地帯が形成され、葦や水草、ポプラ等の植物が生長しつつある。緑地帯は3,000ムーに達し、自然に生長した植物によるビオトープは7,000ムー以上に及び、砂州内には長江の魚類が繁殖して回帰するための通り道があり、人工的に隔離された渡り鳥の保護区もある。

太湖の「吉祥三宝」の回帰が始まる

「長江の生態環境の修復を最優先に位置づけ、『共抓大保護、不搞大開発』(共に環境保護に取り組み、大規模な開発を行わない)」。2016年1月5日、習近平総書記は重慶で開催された「長江経済ベルト発展座談会」の重要講演において、長江経済ベルトの発展についてその方向性を明らかにし、指針を制定した。

 長江経済ベルトの発展は、粗放的な発展モデルから高品質なグリーン発展に転換し、開発主導型から転じ、保護を主体としてその背後において発展をはかるものへと方向性を変えた。そこで、長江沿岸の資源は、その重要な一環となった。

 中国科学院南京地理・湖沼研究所の段学軍・研究員の研究チームは、1990年代から長期にわたり長江沿岸の研究に取り組んでいる。同研究チームの2017年から2018年の調査によれば、長江沿岸には3,940キロメートルに及ぶ自然保護区、水産遺伝資源保護区、重要飲用水水源地、「蓄滞洪区」(洪水発生時に、溢れた水を貯留しておくための低地及び湖沼等)、天然の砂地、砂地の河岸等の生態系脆弱区域(Ecological Sensitive Area)がある。それは長江沿岸全体の50%に及び、主に湖北省、安徽省、江蘇省等に分布する。

「現在、河岸の生態系脆弱区域に対する管理も急務となっている。たとえば、推移帯、特に河岸の湿地帯の生態系が重視されておらず、法定保護区の河岸開発活動に対する制約も不足している。また、水域・陸域の保護における調和が不足しており、水域保護区では水域しか保護されず、陸域保護区では陸域しか保護されていない。長江全体の生態系の連続性に関する総体的デザインが欠落している」と段学軍氏は語り、これらの推移帯では時に複数の機能を担うこともあるとする。たとえば、ある河岸は、水生生物保護区でも砂地・湿地でもあるため、このような多重の機能を持つ河岸の砂地・湿地の保護に特に注意を払うべきである。

 今では、長江沿岸の整備と生態系の修復が推進されたために、江蘇省に位置する長江の環境には喜ばしい変化が生まれている。2019年末の時点で、江蘇省では5,100ムーに及ぶ沿岸緑地帯が建設され、約2,380ヘクタールの河岸湿地が新たに整備された。スナメリは50頭以上に増え、太湖流域では長年見ることのできなかった「吉祥三宝」、すなわちマミズクラゲ、シラサギ、地衣類が戻り始めた。

 江蘇省江陰市では、いわばその母なる存在である長江に河岸を返還する事業を実施しており、青いさざ波の立つ湿地が再現している。2016年以降、同市では港湾機能の積極的な調整を行い、省政府の承認した23.4キロメートルにわたる河岸の港湾線を17.48キロメートルに縮小した。こうして、市中心に接する8キロメートルにわたる長江沿岸にある中国最大の民営造船企業である揚子江船厰と半世紀にわたり営業してきた黄田港渡口、韭菜港渡口の2つのフェリー乗り場を移転させ、河岸公園の建設を加速させた。

長江沿岸の修復は、自然を主体とし、人工を補助とする

 長江沿岸の生態系修復に持続的な環境保護効果を持たせるには、どうすればよいのだろうか。段学軍氏によれば、長江沿岸の修復には、自然を主体とし、人工を補助とする理念の確立が必要である。「過度の人工的な干渉と工事の実施は、往々にして生態系の修復とは逆の結果となる。生態系の修復は『面子(メンツ)のためのプロジェクト』ではないことに注意を払わなければならない。緑化事業や広場・公園の建設、イメージ事業の実施だけでなく、より重要なのは生態系の修復によって河岸の生態機能を回復させることであり、特に重要な水生動物の河岸生息地を含む水陸移行帯の生態機能の回復も含まれる。これは、この地域の生態機能が独特で、貴重なものだからだ」と段学軍氏は語る。

 このほか、長江沿岸には多数の港湾や工業、都市が分布しており、中国、ひいては世界でも典型的な都市・工業密集地帯が形成されていることから、生態系への影響や環境破壊の形態も多様で、その分類は複雑である。長江沿岸における生態系の修復において、開発と環境保護の間でバランスを取ることや、水域と陸域の連動をはかることは非常に重要である。

 中国科学院南京地理・湖沼研究所の補助研究員である鄒輝認氏によれば、長江沿岸における生態系の修復には、いくつかの技術上の難点を克服する必要がある。たとえば、長江は中国の東部から西部を横断するため、河岸線の地形や地質環境の空間的な違いが大きい。このため、長江沿岸に広く用いられる調査技術・生態系修復技術の標準的な規範の確立が非常に重要となる。また、長江は水位の変動が大きく、その落差は往々にして数メートルを上回り、三峡ダム区域では数十メートルを超えることすらある。さらには、長江は水流が急で、風も波も強く、長江下流域では海水の逆流もある。このため、湿地植物の生長に関する技術上のボトルネックの解消が待たれている。

 2019年6月、江蘇省人民政府弁公庁は「江蘇省・長江保護修復攻略戦行動計画実施プラン」を公布し、科学研究およびその成果の実用化を強化し、長江の生態環境保護・修復技術の研究開発を加速させ、希少・絶滅危惧野生動植物種の保護と重要な生態環境の修復技術におけるブレイクスルーを強化することとした。

 喜ばしいことは、科学技術という手段によって、長江の「健康状態」に対して持続的な全面調査や検査が実施され、その「病巣」が的確に把握され、根源がトレースされており、江蘇省の環境リスク対策において優れた武器のような役割を果たしていることだ。

 江蘇省生態環境庁の関係者によれば、長江にそそぐ汚染物質排出口の全面調査の際に、彼らは衛星リモートセンシングやドローンによる測定といった先進技術を十分に活用しており、河岸の8つの市にある汚染物質の排出が疑われる排出口に対して全面的な調査を実施している。現在、そのドローンによる調査データの収集・解釈・品質検査業務が完了しており、河岸の汚染分布状況がおおまかに掌握されている。そして、長江沿岸の環境リスクの全面調査・対策において、長江沿岸8キロメートルに対する環境リスク源の全面調査が完了し、ハザードマップが作成され、科学的な対策業務に対する強力な支援となっている。

※本稿は、科技日報「長江岸線生態修復 守住"家底",為発展"留白"」(2020年2月28日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。