第162号
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東莞に先端イノベーション要素が集結―ビッグサイエンス装置が磁力効果を発揮

2020年3月5日 龍躍梅(科技日報記者)

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松山湖材料実験室の完成予想図(画像提供:取材対象者)

年末年始にかけて、広東省の東莞松山湖サイエンスシティでは、トップレベルの院士を筆頭とする科学者たちによって、イノベーションのアップデートが加速された。各種大手プラットフォーム、大手機関、大手企業などの先端テクノロジーイノベーションのリソースが急速に松山湖サイエンスシティに集まり、現地のイノベーションムードが一層高まり、ハイレベルのイノベーションもますます豊富になっている。

 中国初の偏極中性子分野の国際会議の開催、銭学森実験室と共同での宇宙材料科学・応用研究センターの建設、粤港澳(広東省・香港地区・マカオ地区)中性子散乱科学技術連合実験室の広東省の粤港澳連合実験室第一弾への選出等・・・。

 年末年始にかけて、東莞松山湖サイエンスシティでは、トップレベルの院士を筆頭とする科学者たちによってイノベーションのアップデートが加速された。各種大手プラットフォーム、大手機関、大手企業などの先端テクノロジーイノベーションの要素が急速に松山湖サイエンスシティに集まり、現地のイノベーションムードが一層高まり、ハイレベルのイノベーションますます豊富になっている。

 東莞市政府は現在、積極的に中国科学院と連携して松山湖サイエンスシティを構築している。双方は、「院地合作(中央研究機関と地方政府機関の協力)、所企対接(研究所と企業のマッチング)」というモデルを採用し、中国科学院は優位性を誇るイノベーション資源の統合に力を入れ、東莞市人民政府は、土地、資金、政策の面における網羅的なサポート、保障を提供し、松山湖サイエンスシティを足がかりとして、粤港澳大湾区(広州、仏山、肇慶、深圳、東莞、恵州、珠海、中山、江門の9市と香港、マカオ両特別行政区によって構成される都市圏)総合的国家科学センター先行始動エリアを共同で構築し、院・地協力と発展の新局面を作り上げる。

 東莞市の関係者は、「当市の粤港澳大湾区建設推進は幸先の良いスタートを切っている。総合的国家科学センターの建設、製造業の質の高い発展、インフラのコネクティビティ、民生分野のマッチング・協力、シンボル的プロジェクト建設への参加等において段階的成果を上げている。今後は、総合的国家科学センター建設への参加をイノベーションの最重点とし、松山湖サイエンスシティの建設を全面的に加速させる」と説明する。

産業の需要に合わせてイノベーションチェーンを整備

 総合的国家科学センターは、ピラミッド型の国家イノベーション体系の最上位に位置し、科学研究分野の「王冠の宝石」と呼ばれている。中国が世界のテクノロジー競争や協力に参加するための中心的な力で、高度人材や重大科学研究プロジェクトに対して強いサイフォン現象が見られ、所在地域・都市のイノベーション発展という面で非凡な意義を有している。

 18年の建設・発展を経て、松山湖は現在、先端イノベーション要素である一流プラットフォーム、一流企業、一流機関、一流大学、一流人材の「5つの一流」が急速に集まり始め、良好な発展の動向を見せている。そして、総合的国家科学センターの建設において、非常に重要な役割を果たしている。

 松山湖サイエンスシティは現在、深圳光明サイエンスシティと協力して、総合的国家科学センター先行始動エリアを共同で発展させる流れがほぼ形成されている。松山湖サイエンスシティの前身は、2018年初めに東莞市党委員会、市政府が中国核破砕中性子源(CSNS)などの国家ビッグサイエンス装置計画を活用して建設した松山湖中性子サイエンスシティだ。サイエンスシティが設立されてすぐに、張江、懷柔、合肥総合的国家科学センターを目指し、大湾区の戦略的国家科学センターの中心的存在・モデル地域になるよう取り組んでいる。名称変更後の松山湖サイエンスシティは、松山湖ハイテクパーク、地域空間一体化発展、地域戦略的資源の統合などの原則を重点的に活用して、計画面積を90.52平方キロに調整。松山湖、大朗、大嶺山、黄江一園三鎮など、戦略的価値のある関連の地域をカバーしている。

 産業の需要に合わせて、「基礎研究--応用研究--成果の実用化・産業化」という整ったイノベーションチェーンを構築するというアプローチに基づき、松山湖サイエンスシティは今後、「一軸、一区、両心、三組団」の配置を形成する計画だ。

イノベーションの遺伝子を変える中国唯一の「スーパーマイクロスコープ」

 10数年前、中国科学院が計画・建設する中国核破砕中性子源の専門家が初めて巍峨山のふもとで、水平村の隣にある東莞の山林を訪れた時、村民らはその後起きる大きな変化について予想だにしていなかった。

「ライチ園(ライチは東莞の特産品)」は現在、「中性子源」に変わった。世界で4台目、中国初の「スーパーマイクロスコープ」の使用が始まり、多くの分野のキーテクノロジーがハイレベルで精密で先端的な問題をめぐるブレイクスルーを実現できるよう重要なプラットフォームを提供している。そして、ノーベル賞受賞者・楊振寧氏を含む世界トップレベルの科学者が続々とやってくることにより、東莞のイノベーションの「遺伝子」は大きく変わった。

「数年後、松山湖の湖畔で、世界トップレベルの科学者に遭遇するというのは決して意外なことではなくなるだろう」。数年前、中国科学院の院士で、中国核破砕中性子源のプロジェクト総指揮者を務める陳和生氏がそう話した時、見学に訪れた人々は、東莞の山奥にある中国核破砕中性子源がどれほどのエネルギーを秘めているのか、まだ理解していなかった。しかし、わずか数年で、中国核破砕中性子源の姿が少しずつ明らかになるにつれて、外部の人材が磁石に引き寄せられるように、ここに集まるようになった。

 中国核破砕中性子源は、「十一五」(第11次5カ年計画、2006-10年)期間に重点的に建設された12のビッグサイエンス装置の筆頭であり、現時点における中国の単体のプロジェクトとしては、投じられた資金が最も多いビッグサイエンスプロジェクトだ。この「国の代表的な製品」が完成したことにより、中国は世界で4番目のパルス型核破砕中性子源を有する国となった。

 中国核破砕中性子源は、2018年9月に世界のユーザーに開放されて以降、中性子散乱の研究に従事する科学者らの間で「人気者」になった。この装置は現在、三期目の開放運営を行っており、一般課題の申請が164件あり、57件が採択され、供給が需要に追い付かない状況になっている。

 12月初めの時点で、中国核破砕中性子源で遂行した課題は127件あり、実験を行うユーザーは英国のケンブリッジ大学、香港大学、清華大学、北京大学、中国科学院の各主要研究所など、大きな影響力を持つ大学や科学研究機関から来ており、豊富な研究成果が生まれている。

 2019年9月25日、中国核破砕中性子源の稼働から一周年を迎えた際に、南方放射光研究テストプラットフォームプロジェクトが着工した。中国核破砕中性子源パークに近くに位置し、2021年に完成する計画だ。同プロジェクトは、南方放射光プロジェクトや関連技術をめぐり、前向きで体系的な研究を展開。カギとなるコア設備の開発を行い、独自のイノベーション能力と国産化率を向上させる。

 南方放射光と核破砕中性子源は、国家ビッグサイエンス装置の「大親友」と例えられ、科学的重要性、影響力も過小評価はできない。中国科学院高エネルギー所の副所長で、東莞支部長の陳延偉氏は「核破砕中性子源とシンクロトロン放射光源で構成されるビッグサイエンスプラットフォームクラスタは、1+1が2以上になるという研究能力を発揮し、粤港澳大湾区国際テクノロジーイノベーションセンターの建設におけるプラットフォームとしての強力な下支えとなる」との見方を示す。

一連の新型研究機関が続々と誕生

 2019年12月7日、東莞マテリアルズ・ゲノム高等理工研究院と中国核破砕中性子源が共同で開催した中性子工学材料回折計ユーザー会議が東莞で開催された。会議の開催は、東莞市政府、東莞マテリアルズ・ゲノム高等理工研究院、中国科学院高エネルギー所が共同で開発した中性子エンジニアリング材料回折計の建設が正式に始まったことを意味している。

 近年、中国核破砕中性子源などのビッグサイエンス装置や多くの新型研究開発機関、大学の研究機関、松山湖サイエンスシティなどを頼りに、一流の研究プラットフォームや産業プラットフォーム、インキュベーター・プラットフォームなどが続々と建設されている。

 東莞市政府は、張書彦氏をトップとする材料基因高等理工研究院を大々的に支援。その投資総額は5.5億元(1元は約86.4億円)に達し、材料・装備の製造技術の発展の足かせとなっているボトルネックの打破に力を注いでいる。応力に関する工学技術の研究開発と応用を中核とし、材料の微視的構造、力学的性能などのコアメカニズム、材料の生産過程、運用条件などの問題に対して、スケールスペース理論シミュレーションやさまざまな方法の実験、測量を組み合わせて一歩踏み込んだ研究を行い、核破砕中性子源の応力工学における応用分野を拡大し、中国の同分野における研究の空白を埋めている。

 香港科技大学の李沢湘教授は、「ここの若者が生み出す新しいテクノロジー製品は、世代交代のスピードがシリコンバレーや欧州の5~10倍である一方で、そのコストはそれらの20~25%程度しかない。これこそ、粤港澳大湾区の巨大な優位性だ」との見方を示す。

 李教授が筆頭となり創立された松山湖国際ロボット産業拠点では、わずか4年の間に、30を超える起業チーム、80社以上のテクノロジー型企業が生まれた。

 統計によると、松山湖の登録統計に入っているインキュベーターだけでも40を数える。うち、国家級に認定されたインキュベーターが14カ所で、市級以上の重点実験室が61カ所、市級以上の工学技術研究センターが92カ所、新型研究開発機関が33カ所ある。

 松山湖サイエンスシティ建設の絶え間ない推進、特に中国核破砕中性子源、南方放射光などのビッグサイエンス装置の発展につれて、一連の新型研究機関(プラットフォーム、実験室、技術センター、研究院などを含む)が自然と派生し、先端テクノロジーイノベーションの要素が加速して松山湖サイエンスシティに集結するようになっている。


※本稿は、科技日報「東莞集聚高端創新要素 大科学装置加速釈放磁極效応」(2020年2月6日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。