第162号
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昆山市「祖沖之計画」を実施―企業・研究機関協力で「イノベーションの孤島」から脱出

2020年3月9日 張曄(科技日報記者)

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昆山市の某チップ会社が開発した小型CCDカメラ(写真提供:昆山市科技局)

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昆山市の某企業の研究開発室(写真提供:昆山市科技局)

*祖沖之:中国南北朝時代の南朝の天文学者・数学者

 昨年3月14日、江蘇省昆山市は「昆山市・祖沖之自律制御産業技術研究計画」をスタートさせ、企業の真の需要と研究機関の効果的な供給を「明らか」にさせ、企業の研究開発ニーズのマッチングという「最初の1マイル」と成果の実用化という「最後の1マイル」に対して支援を行うことにした―

 コアテクノロジーは科学技術の縁だけに頼っても手に入れることはできず、経済力だけに頼っても買い入れることはできない。では、人材で制約される技術上の難題は、どのように解決すればよいのだろうか。

 昨年3月14日、江蘇省昆山市は「昆山市・祖沖之自律制御産業技術研究計画」をスタートさせ、企業の真の需要と研究機関の効果的な供給を「明らか」にさせ、企業の研究開発ニーズのマッチングという「最初の1マイル」と成果の実用化という「最後の1マイル」に対して支援を行うことにした。

 最近、昆山市は次のような見栄えのする「成績表」を発表した。それは、2019年に市全体で祖沖之・技術研究プロジェクト257件を実施しており、科学技術イノベーションと技術研究の「相乗効果と同時進行」という態勢がすでに表れているということである。また、光エレクトロニクス、半導体、RNAi創薬およびバイオメディカル、スマート製造産業で生産高2,350億元(約3.7兆円)を実現し、成長率16.2%であったこと、そしてハイテク企業は283社の純増で全1,491社に達し、全国の同種都市をリードする位置にあることだ。

「無人の分野」に飛び込み、「100強県」のトップが積極的にモデルチェンジ

「2019年は、わが社のモデルチェンジにおける重要な年であった。会社の業績と利益で2018年からの倍増を実現した」。このほど昆山市千灯鎮にある福立旺精密機電(中国)股分有限公司(以下、「福立旺」)の許恵鈞・董事長は記者の取材にこう答えた。「イノベーション」こそが、福立旺がわずか数年のうちに急速に成長できた重要な要素だ。

 当初、福立旺は主に電子部品を生産していたが、モデルチェンジによって徐々に新エネルギーの太陽光発電産業に進出し、これを足がかりにダイヤモンドワイヤ母線等の製品分野に触れるようになった。2018年末、福立旺は「昆山―上海科学技術イノベーションバウチャー総合サービスプラットフォーム」を通じ、「科学技術イノベーションバウチャー」を利用して技術上の難題を解決した。

 一方、「イノベーションバウチャー」のもう片方に繋がるのは瀋陽理工大学の周琦・副教授が率いる研究チームである。彼らは上海114産学研サービスプラットフォームを通じ、福立旺が発信していた「ダイヤモンド粉末と切断用ワイヤの結合力を高めたい」という技術ニーズを知った。こうして、周琦・研究チームのおかげでダイヤモンド粉末と切断用ワイヤの結合力は顕著に高まり、研究チームは福立旺のために太陽光発電用のシリコンウェハーを切り出す道具を開発したことになった。

 (県級市の)昆山市は、15年間連続で全国100強県のトップの座にいる。しかし、昆山市が直面するのは質の高い発展という新たな時代の命題であり、県域経済と科学技術イノベーション能力の新たな飛躍をいかに実現するかという問題である。

 統計データを見れば、近年、昆山市では科学技術イノベーションに支えられた産業モデルの転換が目覚ましく進んでいることが分かる。2018年、昆山市は米経済誌フォーブス(中国版)が発表した「イノベーション力で最強の30都市」において全国県級都市のトップになり、科学技術部の発表する「全国イノベーション型県(市)建設リスト(第1グループ)」に入選した。市全体の一定規模以上の工業企業の工業総生産額に占めるハイテク産業、新興産業の割合はそれぞれ約半分にまで迫っている。

 しかし、新たな時代に向けた質の高い発展という任務の要請に対して、昆山市の経済には産業規模は大きいものの強くはなく、重要なコアテクノロジーが不足しているという問題がある。また、一定規模以上の工業企業の工業総生産額に占めるハイテク産業、新興産業の割合や、工業全員労働生産率、工業付加価値率、企業の主要営業収入に占める研究開発投資の割合等の主な科学技術イノベーション指標は依然として低く、特に将来の発展をリードし、ハイテクリソースを集約し、トップ人材を引き付ける「国字号」(国が株式を保有)の専門研究開発プラットフォームと企業が不足している。

「われわれは資源マッチングや技術マッチング、科学研究協力、環境の創出等の障害を解決し、長江デルタ地区の科学技術イノベーション協力体制に溶け込み、『無人の分野』に飛び込んで『問われることのない答え』を作り出すべきである」。昆山市共産党委員会の副書記も兼任する周旭東・市長はこう話し、「昆山市が発展にむけて直面する情勢やチャンスを深く理解し、イノベーションを足がかりに内発的な発展のエネルギーを強化し、自律的に制御可能で高品質な発展の道を摸索しなければならない」ことを示した。

2回の「科学技術懸賞」企業のニーズを明らかに

 2019年3月、昆山市は「昆山市・祖沖之自律制御産業技術研究計画」をスタートさせ、3月14日に初めて、1,059件の技術ニーズと企業115社が16.8億元(約265億円)を出資して募集する技術ソリューションを世界に向けて発表した。そして、その後の2019年7月11日には、再び1,000件の技術ニーズを発表した。この2回の「科学技術懸賞」によって、自主イノベーションに向けた企業の意欲が大いにかき立てられることになった。

 昆山市科技局の担当者が記者に語ったところによれば、現在、昆山市では上海世界科学技術イノベーションセンターとの緊密に足並みをそろえ、国家一流の産業科学技術イノベーションセンターの建設を急いでいる。ここで質の高い発展を実現する上で2つの鍵となるのは間違いなく、人材と科学技術イノベーションである。

 しかし、技術研究においては、需給双方の技術路線や産業プランの細部における意思疎通の不足や、情報共有の不足等の問題によって、技術マッチングにおける正確性の不足が導かれたり、協力や研究開発の攻略において不可避な技術リスクや市場リスクのために、技術協力が長続きしなかったり、不安定になったりする問題がある。そこで、昆山市では企業の公開入札を行い、高等教育機関の専門家による応募・解答の方式によって、世界の高等教育機関や科学研究機関、業界団体等に向けて1,000件の技術ニーズを発信し、ソリューションを募集することにした。こうして、最終的には人材と科学技術イノベーションを緊密に結びつけ、企業の発展のために「科学技術の翼」を与えた。

 江蘇森源電気股分有限公司(以下、森源電気)は、企業規模は大きくないが、業界では「中国高圧電気の専門家」と呼ばれており、その秘訣は共同イノベーションにある。過日、彼らは遮断器の故障は連続生産を行う企業に深刻な影響をもたらすことを発見した。森源電気は、クラウド・プラットフォームの自己診断技術をベースとしたスマート遮断器の開発に着手してはいるが、その進展は遅かった。

 このとき、市と鎮の2つの級の科学技術部門が積極的に同社を訪問し、森源電気のために南京林業大学自動化学院の研究チームを探し当てて仲を取り持ち、スマート化、デジタル化、耐干渉性、信頼性の4つの面から技術協力を行った結果、スマート遮断器のオンライン監視、警報、自己診断・自己修復が実現した上に、江蘇省科学技術進歩2等賞を獲得できた。現在、スマート遮断器は小ロットの試生産が行われているところで、市場の見通しは明るいという。

 企業の真のニーズを「明らかに」するために、2019年に昆山市は「企業1千社・大学1千校による産業科学技術イノベーション万里行」の関係の活動を176回行い、産学研協力プロジェクト1,047件を実施した。また、企業の自主入札募集、実地訪問、業界フォーラム、第三者機関による研究調査の整理等の形式によって企業ニーズの常態的・動態的な一斉調査体制を構築することにより、企業の真のニーズと研究機関の効果的な供給の間の真の意味での「シームレスなマッチング」を実現しようとしている。

「同盟軍」を組織し、新たな成果の実現・開花を支援

 2019年7月11日、鄒世昌院士は華天科技(昆山)電子有限公司(以下、華天科技)を訪問し、半導体産業の分析を行った。

 華天科技は以前に、中国科学院マイクロエレクトロニクス研究所と共同で、シリコンベースの材料を代替に使用した成形材料を使用してパネルレベルのファンアウトパッケージング(FOPLP; Fan-Out Panel Level Packaging)を行い、ウエハーの再構築、高密度再配線等の技術を通じ、高密度マルチチップ・システムの集積を実現した。

 イノベーションリソースは最も重要な資源であり、知力によるサポートこそ最大の支援である。「祖沖之自律制御産業技術研究計画」を足がかりにすれば、より多くの企業が高等教育機関と手を携えて「イノベーションの孤島」から抜け出し、強者連合を実現できる。

 昆山市科技局の担当者の説明によれば、「祖沖之自律制御産業技術研究計画」は光エレクトロニクス、半導体、RNAi創薬およびバイオメディカル、スマート製造産業の4つのハイテク産業に焦点を合わせており、世界に向けて毎年、ニーズのリストや供給募集リストを集中的に発信し、高等教育機関の技術移転や国際的な先進技術の導入、軍民融合技術の双方向での実用化、大企業によるビッグサイエンスプロジェクトの協力・分業等のルートを通じ、高等教育機関と昆山市の企業の間で互いに長所を補い、協力・ウィンウィンをめざし、共同イノベーションによる「同盟軍」を打ち立てようとしている。

 2019年8月28日、蘇州奥徳機械有限公司と華東理工大学機械・動力工程学院は7ヶ月あまりの現地視察や、実行可能性調査、プラン設計および論証を経て、「流体および熱伝導モード・シミュレーションソフトウェア」プロジェクトの研究開発を行うことを最終的に調印し、人材誘致においても協力する意向をまとめた。

 2019年から、昆山市はのべ1,200社あまりの企業と清華大学、復旦大学、上海交通大学、武漢大学、華中科技大学、南京信息工程大学、吉林大学、西安交通大学等の大学を組織して、産学研の精緻なマッチング活動を176回開催し、企業の技術ニーズ2,077件を発信し、大学・企業連合による研究プロジェクト257件を推進した。このうち、重点研究プロジェクトは115件、実質化推進重要技術プロジェクトは51件である。


※本稿は、科技日報「昆山実施"祖沖之計画" 企業院所組団攻関,跳出"創新孤島"」(2020年2月12日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。