第162号
トップ  > 科学技術トピック>  第162号 >  青海省「科学研究の飛び地」構築―研究成果を現地で実用化

青海省「科学研究の飛び地」構築―研究成果を現地で実用化

2020年3月19日 張蘊(科技日報記者)

 青海省のハイテク企業の工業総生産高は552.7億元(約8,620億円)に達し、同省の国民総生産(GDP)の18.6%を占めるようになっている。プラットフォーム配置を最適化し、研究成果の技術移転・実用化の促進に取り組み、青海省の科学技術進歩寄与率は54%に達すると見込まれている。省全域の1万人当たりの発明特許保有数は2.34件で、地域の総合科学技術イノベーション水準は、中国全土のランキングで上昇している......。2月24日に開催された2020年青海省科学技術活動会議で、2019年に科学技術分野が好調だったことを示す喜ばしいデータが発表された。

 発展のためにはハイレベルのイノベーターがどうしても必要だ。青海省のような中国西部の内陸部に位置する低開発の省にとって、経済のモデル転換、高度化、発展の実現のカギは、科学技術イノベーション、そしてその成果を効果的に実用化できるかにかかっている。

内部にメスを入れイノベーションと実用化のエコシステムを最適化

 イノベーション型の省を建設するためには、イノベーションやその研究成果の実用化の足かせとなっている全ての科学技術に関するシステム・メカニズムを改革しなければならない。

 手続きを簡素化し、科学研究者がプロジェクトを実施したり、精算に必要な記入事項が多く複雑な表を減らしたりすることで、科学研究プロジェクト管理フローの4分の1近くを省略し、プロジェクトの届出数と審査合格率が前年比で50%以上上昇した。省レベルの科学技術研究成果の登録、審査は、オンラインですることができ、科学技術関連従事者は、多くの時間を奪っていた細々とした煩わしい手続きから解放された。青海省科技庁の党組書記を務める莫重明庁長は、「2019年、青海省は科学技術イノベーションガバナンスを推進し、改革のメスを内部に入れ、行政機能の改革を加速させ、サービス能力を継続的に強化し、イノベーション・起業のエコシステムや研究成果の実用化の環境を継続的に最適化してきた」と指摘した。

「青海省"十四五"(第14次5カ年計画)科学技術イノベーション計画」を立案し、16の特定研究テーマを設け、現時点で12テーマについて初期段階の研究報告が作成されている。また、「青海省のプロジェクト評価・審査、人材評価、機関評価改革を深化させるための実施案」、「青海省のイノベーション関連改革をサポートする措置第2弾に関する業務案」など、一連のイノベーション政策を実施して、科学技術イノベーション環境を継続的に改善している。

 科学技術イノベーションには資金的サポートが必ず必要で、青海は「青海省の科学技術分野の省と市(州)、県財政事権、支出責任区分改革実施案」を策定し、財政からの科学技術分野へ資金投入を確保するメカニズムを段階的に構築している。また、同省初となる銀行の「科学技術支店」を立ち上げ、国科融資担保有限公司の事業も始まっており、イノベーション・バウチャーの試行事業では段階的な成果が上がっている。

 科学技術イノベーションの成果を十分に活用するには、最終的に応用・実用化する必要がある。科学技術研究成果の技術移転・実用化を促進するべく、青海省は西寧科学技術大市場を建設し、研究成果を実用化するイベントを開催しているほか、省レベル科学技術研究成果の登録、審査をオンラインで行えるようにしている。

 青海省科技庁は、科学技術イノベーションと研究成果の実用化の活気を保つためには、基礎研究のトップレベルデザインを強化すべきだと考え、「基礎科学研究の全面的な強化に関する実施意見」を制定・発表し、「青海省人民政府 国家自然科学基金地域イノベーション発展連合基金への加入に関する協議書」の調印を推進した。同協議書は、5年で2億元(約31.2億円)を助成し、青海省の塩湖化学工業や高原生態学分野の基礎研究業務をサポートすると同時に、冷湖拠点モニタリングと時間領域天文の先導科学研究重大特定プロジェクトを始動し、青海にビッグサイエンス装置を導入することを計画している。

テクノロジーの下支えで効果倍増

 広大な青海省は物産が豊富で、太陽光発電による新エネルギーや塩湖資源、中医薬・チベット医薬・バイオ医薬などのグリーン資源の潜在力が高く、近年は、キーとなるコア技術のブレイクスルーに力を入れ、テクノロジーが産業の質の高い発展を下支えするよう取り組んでいる。

写真

国家モデルプロジェクトとして設置されている太陽光パネル(画像提供:青海省科技庁)

 一連の取り組みの成果も数多く出ている。例えば、新エネルギーの分野では5年かけて青海省太陽光発電エンジニアリング技術研究センターを完成させ、マルチエネルギー電力システムが協調・調整とコントロール技術を相互補完し、青海省の再生可能エネルギー発電量の受容能力を向上させ、塩湖化学工業の分野では、塩化リチウムの年間生産量5,000トン、金属リチウムの年間生産量1,000トンの産業化モデルラインを構築し、青海省の空白を埋め、金属リチウムの生産能力は中国全土で1位となった。新材料の分野では、金属マグネシウム10万トンの生産ラインでのパイロット生産でコア技術のブレイクスルーを実現し、高抗張力・高伸び率・無担体の4マイクロメートル極薄リチウムイオン電池用電子銅箔を開発した。デジタル産業の分野では、塩湖カリ肥料工業のフレキシブル・マニュファクチャリング・システムをめぐり、塩湖資源循環開発利用「インターネット+」協同製造サービスサポートプラットフォームを積極的に構築している。

 バイオ医薬の分野では、「青藏高原(チベット高原)バイオテクノロジー集約イノベーションセンター」を設立し、生薬・冬虫夏草の遺伝資源データバンクオンライン共有プラットフォームの構築を推進し、冬虫夏草、サジー、クコなど特色ある資源の付加価値を高める加工をサポートし、「珍龍醒脳」カプセルの二次開発、後発医薬品・フェノフィブル酸、藏茵陳の新薬の研究開発・臨床前研究が順調に展開されるようサポートしている。また、特色ある農牧業の分野では、三江源スマートエコ畜産業プラットフォームを構築し、基準化スマートエコ畜産業データバンクを形成し、化学肥料、農薬の量を減らしながらも効果は向上させるための特定項目が目標を実現できるよう、テクノロジーの面からバックアップしている。

 コア技術の開発を強化し、技術成果の迅速な実用化を可能にすると同時に、青海省は基礎研究を強化し、地域の独自のイノベーション能力を継続的に向上させている。青海が優位性を誇る学科・分野、特色ある産業の発展をめぐり、基礎研究プロジェクトの企画・実施を強化し、2019年には、基礎研究計画・プロジェクト201件が立ち上げられ、助成金は合わせて6,500万元(約10.1億円)に達した。また、科学技術基礎条件プラットフォームプロジェクト8件を立ち上げ、助成金は合わせて2,000万元(約31.2億円)に達した。

 莫庁長は、「そのような成績を収めることができたのは、青海が構築したグリーン技術イノベーション体系や重大科学技術特定プロジェクトが次々に実施されていることのほか、数多くの科学技術研究成果が実用化・応用されていることと密接な関係がある。また、重点分野や特色ある産業の面では、テクノロジーが効果を倍増させている」と強調する。

一連の措置により科学技術研究成果を省民にもたらす

 青海省には、3本の大河の源流(三江源)があり、崑崙山脈がそびえている。生態的優位性が青海省の最大の強みで、青海省はグリーン発展の道を歩まなければならない。しかし、青海省の生態系をどのように科学的な研究、管理、保護を効果的に行うかが、必ず解決策が必要な課題となっている。

 取材では、青海省はその解決策を出すためにも、テクノロジーの力やイノベーションの成果を活用していることが分かった。

 2019年、青海省は「三つの最大」という省の実情に立脚し、「青海生態環境価値評価・大エコ産業発展総合研究」を展開した。中央予算資金支援3,460万元(約5.4億円)を申請し、三江源、祁連山脈などの重点生態機能エリアを対象に、一連の生態保護、総合ガバナンステクノロジープロジェクトを企画・実施した。また、祁連山黒河源区生態系--生産機能の最適化や持続的利用が可能なコア技術を提起し、祁連山脈の生態系と生産が「ウィンウィン」の関係となるスタイルを構築する。また、中国科学院三江源国家公園研究院の発展計画が完成し、「星--空--地」一体化モニタリングシステムがおおよそ構築されている。

「水--土--空気」一体化環境管理体系や汚水処理などの技術の研究開発、成果の実用化を持続的に強化し、三江源エリアとしては初の生活ゴミ低温熱分解処理場が青海省果洛州甘徳県江千郷で完成し稼働が始まり、青海省海南蔵族自治州では国の持続可能な発展のためのアジェンダに基づくイノベーションモデルエリア構築を全力で促進している。それら一連の措置において、新たな成果、新たな技術の現地での実用化・応用が青海省の生態保護の分野の大きな特徴となっている。

 青海省はテクノロジーを活用した貧困者支援を通して、科学技術イノベーションの成果をより多くの人が受けることができるようにしている。2019年、青海は科学技術による貧困者支援産業化プロジェクト19件を実施し、助成金は3,980万元(約6.2億円)に達した。青海省科技庁の関係責任者によると、同年、同庁は科学技術者1,000人以上を、同年度に貧困脱出を計画する17県、170行政村全てに派遣し、1,800万元(約2.8億円)を拠出して、県域イノベーションの試行事業をサポートした。

 青海では現在、一連の効果的な措置が全面的に推進されており、実際の行動で、青い空、きれいな水、美しい景色を守り、科学技術研究成果を活用して人々の幸福の基礎を固めている。

 発展指標の飛躍的な向上を目指すだけでなく、イノベーション能力の面でも高い目標を定めて取り組まなければならない。莫庁長は、「2020年、青海省は技術革新の面で、『科学研究の拠点』を構築し、実施中の『青海生態環境価値評価・大エコ産業発展総合研究』など、重大テクノロジー特定プロジェクト12件を推進し、重大なブレイクスルーを目指す一連のプロジェクトを実施し、青海省の質の高い発展の足かせとなっている技術的難題の解決に取り組み、科学技術研究成果の実用化促進の面では、「青海省科学技術研究成果実用化促進条例」の制定推進を加速させ、政策・措置を強化し、実用化の環境を最適化し、技術移転体系を改善し、地域の技術移転協力を強化する」と、自信に満ちた表情で語った。


※本稿は、科技日報「青海打造"科研飛地",譲成果就地転化」(2020年2月26日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。