第165号
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研究成果の実用化を加速する広西チワン族自治区

2020年6月12日 劉昊(科技日報記者)、黎霞(科技日報特派員)

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広西博世科環保科技股份有限公司は、独自の研究開発成果の実用化、応用を行い、その成果が広西チワン族自治区で広く応用されているだけでなく、雄安新区などの地域における環境保護プロジェクトでも応用され、さらに一部の技術製品は欧米諸国に輸出されている。(画像提供:広西チワン族自治区科技庁)

マッチング、プラットフォームの構築、新たな政策を打ち出す

 広西チワン族自治区南寧市では今、道路が整備され、街の景観は美しくなり、青空が広がり、高層マンションの間には緑の木が茂っている。そして、地下共同溝を整備し、中国全土における地下共同溝整備試行エリア・モデル都市として、同市は、「蜘蛛の巣」のように張り巡らされた電線や「ツギハギだらけ」の道路に別れを告げ、すっきりとした景観が広がるようになっている。

 南寧市の地下共同溝建設において、西牛皮防水科技有限公司が独自に研究開発した「共同溝変形ジョイント底板防水構造」技術が、水漏れという難題解決において大きな役割を果たした。

 同社の最高技術責任者(CTO)で、常務副社長の朱方伍氏は取材に対して、「現在、同成果は、南寧市の共同溝9ヶ所の建設に実用化、応用され、売上高は4,500万元(約6.8億円)以上に達している。同市の共同溝防水プロジェクトの3分の2をカバーしており、成都や天津、三亜、西安など、中国全土の共同溝防水プロジェクト数十件でも応用されるようになっている」と語った。

 広西チワン族自治区は、実験室のイノベーションを商品化、資本化、産業化し、それを加速させている。2018年,広西チワン族自治区は、(後述の)「三百二千」科学技術イノベーションプロジェクトを実施し、イノベーションが産業の高い品質の発展を牽引する大きな原動力になるよう推進している。2019年12月の時点で、累計で重大研究成果628件が実用化され、テクノロジーと産業の深い融合の効果が日に日に顕在化するようになっている。

6回のマッチングミーティングで契約総額1億元超に

  プロジェクトマッチングミーティングを6回開催し、25件の重点提携プロジェクトの契約書に調印。契約総額は1億元を超えた。

  高性能新材料研究成果のプロモーション・マッチングミーティング、次世代情報技術・人工知能研究成果のプロモーション・マッチングミーティング、生態環境保護、生命科学・包括的保健産業研究成果マッチングミーティングなど、研究成果と産業のマッチング、連携のポテンシャルを一歩踏み込んで掘り起こし、技術取引と活用・実用化をサポートするべく、2019年5月、広西チワン族自治区は、2週間に1回のペースで研究成果の発表やプロモーション・マッチングミーティングを企画し、合わせて6回開催した。

 広西大学で開催された「広西チワン族自治区研究成果の移転・実用化プロモーション・マッチングミーティング」では、同大学の沈培康教授率いるチームを含む6の科学研究チームが、成果のプロモーションを行った。同大学の陳保善教授が率いるチームなど10の科学研究チームが、関連の企業と「1対1」の商談を行い、産学研連携のイノベーションスタイルについて話し合った。

 広西大学の馬少健・副学長は、「今回のイベントで、さらに多くの企業が当大学の科学研究チームと科学研究成果を知り、注目するようになった。そして、産学研連携、成果の技術移転・実用化の共同促進について一歩踏み込んだ話し合いを行った」と振り返る。

 広西チワン族自治区の科学研究機関と大学の研究成果の実用化数は急増しており、その質も向上を続けている背後には、同自治区の研究成果の実用化、産業化の加速、産業の高い品質の発展の下支えに対する実際のニーズと、切実な願いがある。

 低開発地域である広西チワン族自治区は、テクノロジー研究開発能力に欠け、研究成果の実用化の水準も低い。統計によると、2017年、同自治区の1万人当たりの輸出技術取引額は中国の全国平均の7.3%、26位にとどまった。

 科学研究成果の実用化水準が低いのに加えて、成果のほとんどが論文止まりで、実際の生産力に実用化されずに実験室に留まったままの状態になっている。2018年11月、広西チワン族自治区党委員会および政府は、イノベーションが産業の高品質の発展を下支えするよう推進するための会議を開催し、科学技術イノベーションが産業の高い品質の発展を支えるための取り組みを一歩踏み込んで展開し、「三百二千」科学技術イノベーションプロジェクトの計画実施に力を入れた。その目標は、重大技術100件以上確立、国家級イノベーションプラットフォーム100以上構築、ハイレベルイノベーション人材チーム100以上を誘致・育成、新規ハイテク企業1,000社以上設立、重大研究成果1,000件以上実用化するということだ。

 イノベーション成果の実際の生産力への実用化がスムーズではないという問題を解決するために、広西チワン族自治区は、「症状に合わせた処方」を加速させている。

契約は8,000件に迫り、技術取引額は200億元以上に

 ハイテク企業である梧州三和新材料科技有限公司は、ハイテク電子製品に使う電導、伝熱、電磁シールド、電極材などの新材料を専門に生産している。数年前、発泡状ニッケル関連製品が同社の主力製品だったものの、市場の競争が激化し、製品の性能に対する要求が高まるにつれて、市場シェアが縮小し、2013年には過去最低の水準にまで落ちてしまった。同社の関係責任者は、「当社は既有の成果を実用化し、発泡状ニッケル上でのグラフェン成長を産業化し、それが従来の技術に効果的に取って代わるようにし、製品が再び市場で認められるようになり、日本やドイツなどの国に輸出するようにもなった。2017年1月から2019年10月、製品の売上高は8,042万元(約12.2億円)、輸出による外貨収益が1,400万元(約2.1億円)に達した」と説明する。

 イノベーション主体間における技術の需要と供給のコミュニケーションメカニズムを構築し、大学研究機関が技術成果の応用を促進するパイロット生産円熟化拠点を建設するよう奨励するほか、企業が研究成果を購入し、実用化、応用するように奨励し、財政科学技術計画から一定の助成金を支給するなど、広西チワン族自治区は近年、研究成果の実用化を推進する行動を次々と起こし、技術要素と人材、資本など要素の流通・融合の加速を促進し、研究成果が活用され利益を生むようになっている。

 広西チワン族自治区科技庁成果実用化・地域イノベーション処の責任者は、「当庁は、各市の科技局と共に、研究成果の実用化の面で優秀な成果を上げている企業が、当自治区のテクノロジー計画研究成果実用化後プロジェクトの助成申請を行うよう指導している。2019年、19件のプロジェクトをサポートし、研究成果実用化後助成金419万元(約6,400万円)を給付した」と説明する。

 柳州鋼鉄集団有限公司は、「冷間圧延家電用鋼開発・産業化」プロジェクトにより新製品8品目を開発し、年間生産量が30万トン以上、売上高が約15億元(約228億円)に達し、広西チワン族自治区、広東省、江蘇省、浙江省、さらに東南アジア、欧米諸国にも販売されるようになっている。桂林福達股份有限公司は、「年間生産量100万セットのクラッチスマート製造コア技術」を産業化し、自動車のコア部品であるクラッチのスマート生産ライン5本を設置し、ベンツやボルボなど世界の自動車メーカー30社以上のグローバル調達体制に入り、年間売上高は3億6,500万元(約55.5億円)以上に達している。

 研究成果を実用化する大々的な行動により、科学技術イノベーションの成果を実用化させるルートの整備が加速されており、広西チワン族自治区が着実に進化し続ける成果実用化サービス体系も、研究成果を次々と実験室から生産ラインへと推し進めている。

 広西チワン族自治区のオンライン技術取引プラットフォームにログインしてみると、技術売買、研究開発協力、技術移転、技術取引、特許売買、特許融資などのサービスがあり、専門家と企業がリアルタイムで意思の疎通を交わし、マッチングできる機能も備わっていた。

 現時点で、同プラットフォームには各種テクノロジー資源が集まっており、研究成果4万6,287件、専門家3,659人、中国科学院、北京化工大学、浙江大学、曁南大学、厦門大学および広西大学、広西科技大学、広西科学院など、818の大学、科学研究機関がプラットフォームを利用している。2019年、広西チワン族自治区の技術輸出、関連の取引契約数は合わせて前年同期比26.4%増の7,905件、技術取引額は前年同期比60.1%増の206億9,200万元(約3,145億円)に達した。

実用化による収益の97.5%は成果創出者に 大学21校が細則制定

 体制・メカニズムが活性化すればこそ、科学技術者が活発に活動し、研究成果が実用化できるのだ。

 政府が設立した研究開発機関、大学は、成果実用化収益の70%以上という割合で、研究成果の実用化などに重要な貢献をした人員に奨励と報酬を給付しなければならない。政府が設立した研究開発機関、大学が取得した研究成果実用化の収益は全て機関のものにして、国庫に納める必要はない。2018年10月、改訂版「広西チワン族自治区研究成果実用化促進条例」(以下「条例」)が正式に実施された。

「条例」をじっくり分析した広西チワン族自治区の多くの科学技術者は、「科学技術者は制約から解放され、科学技術者も機関も、研究成果実用化を通してさらに大きな発展のチャンスを得ることができた」と歓迎する声を上げている。

 広西チワン族自治区の大学21校が既に、研究成果実用化実施細則を打ち出し、大学62校が共同で同自治区大学研究成果実用化連盟を立ち上げている。広西大学は、成果を創出した人は、その実用化利益の97.5%を得ることができると明確に規定している。

 同自治区の科技庁成果実用化・地域イノベーション処の責任者は、「2019年、当自治区は、関連制度をさらに整備し、『条例』を実施するために、より明確に、より権威的で、より実行可能な制度保障を提供してきた。また、当自治区は、『広西チワン族自治区工学技術研究センター管理規則』を制定し、『広西チワン族自治区の企業の研究開発経費への資金投入拡大奨励実施規則』を通達し、重大な科学技術イノベーション成果に奨励ポイントを与えると明確に言及している。また、『広西チワン族自治区重点実験室管理規則』を制定し、各重点実験室に対して、少なくとも企業1社と包括的な提携を展開し、研究成果の実用化を促進するよう求めている」と紹介する。

 改革により研究成果の実用化が加速している。

 広西大学は、広西博世科環保科技股份有限公司と、産学研連携を展開し、研究成果が、雄安新区などの環境保護プロジェクトで応用され、一部の技術製品は欧米諸国に輸出されている。広西科学院は、広西利昇石業有限公司などと提携し、「極大サイズの人工大理石マイクロウェーブ急速硬化に関する技術成果の実用化・モデル」プロジェクトを実施し、年間生産量100万平方メートルの人工石マイクロウェーブ硬化生産ライン1本を建設し、年間売上高は3,000万元(約4.6億円)以上増えた。

 広西チワン族自治区科技庁の関係責任者は、「今後も、成果の実用化をめぐる大胆な行動を起こし、その奨励メカニズムを整備し、サービス体系を構築・整備し、新技術、新成果の実用化、応用を加速させ、テクノロジー・経済の深い融合を促進する」と語る。


※本稿は、科技日報「弁展会、建平台、出新政 広西科技成果加速"転"起来」(2020年3月4日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。