第165号
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チベット高原の大気加熱で長江流域が大雨に

2020年6月26日 劉暁倩(科技日報記者)、陸成寛

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チベット高原(取材先提供)

 長江流域で大雨が降るのは、チベット高原の大気が加熱されたことが原因である可能性があるということを知っている人は少ないかもしれない。中国科学院青蔵高原(チベット高原)研究所などの機関の研究員らはこのほど、中国国内外の科学者が近年、チベット高原の大気陸面相互作用の過程、雲と降水の特徴、およびその下流の天気に対する影響などについて行った研究を整理したうえで総括、展望し、チベット高原の大気陸面相互作用がアジアや北半球の天気、気候に与える影響、メカニズムを系統的に示した。研究では、チベット高原の気温が上がると、中国中東部地域、特に長江流域で大雨が降る可能性があることが分かった。関連の研究は学術誌「National Science Review」に掲載されている。

 地球の気候システムは、大気圏、海洋圏、雪氷圏、陸地圏、生物圏からなっている。陸地圏の表面(地表)と下層大気から成る複合システムは「地球大気系」と呼ばれ、このシステムのエネルギーバランスや動向の変化が地球の天気や気候の変化に影響を与える。

 中国科学院チベット高原研究所の研究員・馬耀明氏は、「チベット高原の地表と大気の境界面では常に物質とエネルギーの交換が起きている。例えば、地表のエネルギー転送と水分の交換、二酸化炭素の吸収と排出などで、その総称が『大気陸面相互作用』だ。例えば、アジアの気候システムを自動車に例えると、チベット高原はエンジンだ」と説明する。

「チベット高原の熱源作用が強まると、大気循環が変化し中国の華北では降水量が増え、華南では少なくなる。反対に、チベット高原の熱源作用が弱まると、華南の降水量が増え、華北では少なくなる」というのが、このエンジンの働きの原理だ。長い時間の尺度で見ると、チベット高原というエンジンの働きは、アジア、ひいては北半球の気候の変化に影響を与えている。

 科学研究者は、衛星リモートセンシングや数値シミュレーションなどを通して、チベット高原上の降水雲が中国中東部地域の天気や気候に影響を与える重要な要素であることを発見した。チベット高原上では、強いエネルギーの放出、大気の加熱に伴って雨が降り、そのようにして、大気循環の状態が変化する。また、チベット高原の加熱作用により起きたクラウドクラスターは、東へ移動して、長江流域に達し、大雨をもたらす。その他にも中国東部の降水に影響を与える要素は多く、チベット高原の加熱作用のほか、今後は、大気海洋間相互作用やエアロゾルなどの総合的な影響などの研究が進められることになるだろう。

 中国と関連の国際組織はこれまでに、チベット高原で大気をめぐる科学的テストを何度も系統的に行い、通常の「ポイント」上の気象観測のほか、衛星を利用してチベット高原上の地球大気系エネルギーと水分交換の過程をモニタリングし、衛星リモートセンシング推算案を編み出し、地表と大気間でどれほどのエネルギーと水分の交換が起きているかを定量的算出できるようになった。今後、科学研究者はHDマルチパス地域・地球系統模型を構築し、チベット高原の大気陸面相互作用がアジア、ひいては北半球に与えている影響を研究する計画だ。


※本稿は、科技日報「青蔵高原一発力 長江流域或迎来降雨」(2020年3月24日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。