第166号
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企業がニーズを公開しソリューションを募集―天津「科学研究クラウドソーシング」

2020年7月22日 陳 曦(科技日報記者)

 天津市では「科学研究クラウドソーシング」を実施し、半年で、企業350社から技術的ニーズ534件が集まりそれを公開・募集したところ、企業の投資意向額は3億2,000万元(約50.2億円)に達した。それに対し中国内外の受注応募企業71社がソリューションを210件を提出し、技術マッチングなどの提携契約金額は約8,330万元(約13億円)に達した。

 天津科技大学科技成果転化中心の職員・王維君さんは、「本当に順調だった。2019年9月に応募企業が技術的ニーズを打ち出してから、大学と寧夏回族自治区の企業が『高品質クコ酢発酵キーテクノロジー研究開発』の契約にサインするまでわずか3ヶ月しかかからなかった。また、寧夏回族自治区で商談した際に、他の企業と技術開発契約5‐6件にサインした。最も高額の契約は1,300万元(約2億円)に達し、研究成果の実用化を100%実現した。これほど効率よく進んだのは、科学研究クラウドソーシングのおかげだ」とうれしそうに話す。

 王さんが言及している「科学研究クラウドソーシング」は、天津市科技局が2019年7月から実施している需要・供給マッチングの新スタイルで、「企業が出題し、応募者が問題を解く」という公開コンペ方式の形により力を集め、企業の技術革新の需要を満たしたり、産業共通の技術的難題を解決したりして、一つでも多くの研究成果が実際の生産力に実用化されるよう推進する取り組みだ。

 天津市科技局成果処の梁伝輝副処長は、「天津は既に『1プラットフォーム+1メカニズム+N個のチーム』という科学研究クラウドソーシング業務体系を構築しており、従来型の奔走して需要・供給のマッチングを模索するスタイルから、オンタイムの常態化業務スタイルへと変化しており、技術的ニーズの方向性が定まっていなかったり、マッチングルートがスムーズでなかったり、資源が共有されていなかったりなどの研究成果の実用化をめぐる一連の難題解決につながる」と説明する。

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企業から委託されたプロジェクト関連の研究を行う天津科技大学バイオエンジニアリング学院の教員。(取材先提供)

方向性を定めて企業の技術的ニーズを発掘

 王さんは、今回提携に成功したことについて振り返り、「研究成果の実用化があれほどスムーズに運んだのは、まず、企業の技術的ニーズが非常に明確だからだと思う」と充実感を漂わせ、「選別をしたり、技術的ニーズの真実性を鑑定したりするというのは、私たちにとってとても心苦しいことだ。毎年、さまざまなルートを通して、300‐400件の企業の技術的ニーズをめぐる相談を受けるが、本当に有効なのはそのうちの100分の1にすぎない。それらのほとんどに、ニーズが明確でなかったり、はっきりしていなかったり、さらに、担当者が技術責任者ではなかったりなどの問題が存在している。当組織で技術鑑定や選別に従事する専属の職員は2‐3人しかおらず、数百件のニーズの中から有効なニーズを見つけるためには、時間もエネルギーも必要で、効率が非常に低い」とする。

 梁副処長は、「企業のニーズが明確でない場合の原因はいろいろある。多くの場合、企業自身も自分のニーズを理解していない。例えば、生産ラインや組立ラインの技法を改善したり最適化したりしたいものの、何を改善すればよいのかよく分かっていない企業もあれば、製品を高度化させたいものの、そのためにはどんな技術が必要かよく分かっていない企業もある。それは、技術の鑑定や選別をする大学、研究機関にとって、悩みの種だ」と指摘する。

 そのため、天津市科技局は、同市の技術移転機関が企業のニーズを発掘するよう十分に動員し、テクノロジーマネージャーがテクノロジー企業の技術的ニーズを発掘する一方で、業務チームが積極的に企業に足を運び、大型グループ企業や上場企業にサービスを提供し、企業の一連の技術的ニーズを踏み込んで発掘できるように取り組んでいる。その他、天津市は専門家グループを結集して、真実性、完全性、実行可能性などの角度から技術的ニーズを一つずつ分析し、選別を行い、これまでに公開した有効なニーズは累計534件に達している。

 梁副処長は、「企業の技術的ニーズを正確に発掘するためには、技術移転機関やテクノロジーマネージャーの助けが絶対に必要であるため、専門チームを立ち上げるのは非常に重要。現在、天津で登録済みの技術移転機関は153機関(うち技術移転モデル機関は24機関)あり、テクノロジーマネージャーは717人いる。テクノロジーマネージャーが全プロセスにわたり参加する研究成果実用化サービスのスタイルが次第に形成されている」と説明する。

オンライン・オフラインで実用化を高効率で促進

 王さんは「今回、こんなに速く企業のニーズを発見できたのは、インターネットやアプリ、公式微信(WeChat)アカウントなどの科学研究クラウドソーシング業務プラットフォームのおかげだ。微信のグループチャットもとても重要で、そこに企業のニーズに関する情報を送信すると、食品加工や機械、化学工業などマッチしている大学の専門と、スピーディーにマッチングすることができる」と説明する。

 梁副処長によると、「発掘、審査、選別を行った後の技術的ニーズについては、分類してまとめ、オンライン上で公開するほか、ターゲットを絞ってプッシュ通知を送り、展覧・交易センターサービスプラットフォーム、微信の公式アカウントの記事、技術移転機関交流プラットフォーム、技術移転協力ネットワークなどを通して、ソリューションを公募する。そして、オフラインで、技術的ニーズ発表会を4回開催し、技術移転機関がニーズを携えて積極的に大学とマッチングするよう図っている。半年以上の間に、オンライン・オフラインでソリューション210件が集まった」という。

 科学研究クラウドソーシングという、オンライン・オフラインで企業ニーズを集め、公開する方法により、多くの企業における技術を探すのが難しい、効率が悪いなどの問題が解決されている。天津瑞普生物技術股份有限公司の高華義・智創谷事業運営ディレクターは、「当社のプロジェクト提携費用は毎年2,000‐3,000万元で、ニーズが10数件のプロジェクトにわたっている。もし、自分たちでマッチングできる大学や科学研究院・所の専門家を見つけることになれば、たくさんの人手や資源が必要で、効率も非常に悪い。生物・動物用医薬品業界に携わっている当社にとって、以前は科学研究の面で提携する大学と言えば、農業系の大学ばかりだった。しかし、科学研究クラウドソーシングプラットフォームでニーズを公開してからは、天津大学や南開大学、さらには清華大学や北京大学がそれを見て、ヒト用のワクチン技術を動物用ワクチンの研究開発に応用し、大学と企業のマッチングの効率を極めて大きく向上させるとともに、当社は次世代製品開発のための良好な技術ストックもできた。この方法は、低コストで効率も良い」と語る。

 梁副処長は、「重点プロジェクトについては、応募企業がニーズ企業を訪問するよう企画して、需要・供給双方が踏み込んでマッチング、交流できるよう促進している。そして、技術移転サービス機関が需要と供給のマッチングを展開するよう奨励・促進し、技術移転機関が需要と供給のマッチングのために質の高いサービスを十分に提供できるようにしている。創智天誠(天津)技術転移咨詢有限公司だけを見ても、天津海爾洗滌電器有限公司のスマート設備に的を絞ってニーズを発掘し、天津大学や天津理工大学、天津城建大学、河北工業大学など4大学の6チームが企業に実際に足を運んで10数回のマッチングを行った。また、天津市科技局が需要・供給のマッチングの進展を常に注視し、必要であれば、政策や技術契約に関する相談に応じるなどのサポートサービスをリアルタイムで提供している。これまでに、技術マッチング、企業訪問などの活動を累計40回企画し、最終的にプロジェクト48件の契約調印が実現した」と成果を強調する。

 そして、「現在、科学研究クラウドソーシングというスタイルは、科学研究クラウドソーシング業務プラットフォームという一つのプラットフォームを通して、オンラインとオフラインを組み合わせた『1セットのメカニズム』を構築し、高効率での研究成果の実用化を実現している。オンラインでは、科学研究クラウドソーシング業務プラットフォームを通して、規範化された技術的ニーズの発掘、提出、審査、公開、提案、応募、選択とサービス提供というフローが形成されている。一方、オフラインでは、ニーズの発掘、技術のマッチング、契約の実行、收益の配分などのサービスマニュアルが制定され、需要・供給双方や技術移転機関間の協同サービス・收益共有メカニズムが構築されるよう導き、市場化され、持続可能な方法で共に、テクノロジー企業の技術革新をめぐるニーズに応えていく」という。

「懸賞」付き募集で最良の選択を

 王さんによると、「科学研究クラウドソーシング体系を通して、応募や提案の過程で、同業者の最新の研究成果をたくさん知ることもでき、視野がさらに広がった。普段は、他の大学の科学研究チームと交流することは少ない。しかし、今回、異なる専門や大学とプロジェクトチームをいくつも立ち上げ、研究チーム間の交流も深まった。例えば、寧夏回族自治区と合意した『高品質クコ酢発酵キーテクノロジー研究開発』提携プロジェクトも、ブランドデザインや設備、鮮度維持などの研究を、複数の大学のチームが共同で行っているものだ」という。

 梁副処長によると、「『懸賞』という形でソリューションを公募したい場合や、マッチングは実現したものの熾烈な競争が起きてしまい、最適のソリューションを自分たちでは選択できないケースについては、イノベーションコンテストを開催して会場においてコンペが行われる機会を作っている。中国イノベーションコンテスト(天津)では、『ユキヒョウ識別コンテスト』という1つのアルゴリズムをめぐるコンペだけでも、334人が参戦し、412の提案が出された。最終的に、天津大学、南開大学、浙江大学などの大学31校の提案が実際に選ばれ、コンテストで競い合った」という。

 科学研究クラウドソーシングという、ニーズを公開し、提案者を競わせるコンペ方式のメカニズムは、ニーズを提出している企業にとっては、優良なソリューション群の中から最も良いソリューションを選ぶことができるという大きなメリットがある。例えば、高氏は、「『犬の皮膚病の緩効性製剤』というニーズを公開すると、中国全土の有名大学4校の専門家から連絡が寄せられた。そして、それぞれを比較・検討した結果、南開大学を選んだ。もし、自分たちで大学の専門家と連絡を取るとすれば、専門家の製品を使って実験をし、1‐2ヶ月かけてようやく動物実験の初期段階のデータを入手できる。一方、このプラットフォームでは、専門家4人が用意したそれぞれの実験データや提案を並べて比較することができた。企業にとっては、最短の時間で最適の提案を選ぶことができる」と語る。

 天津市の「科学研究クラウドソーシング」の業務はスタートから半年余りで、多くの成果を上げ、企業350社から技術的ニーズ534件が集まりそれらを公開し、企業の投資意向額3億2,000万元(約50.2億円)を動かした。そして、中国内外の応募企業71社がソリューション210件を提出した。その他、ニーズの発掘や技術のマッチングなどをめぐるイベントが約40回開催され、マッチングが成功したプロジェクトは48件で、契約額は合わせて8,334万5,300元に達した。


※本稿は、科技日報「企業出題、能者破題,天津"科研衆包"開啓成果転化掲榜模式」(2020年3月23日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。