第166号
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「国際スローシティ」が医療機器産業の発展を加速

2020年7月29日 葛家明(科技日報実習生)、張曄(科技日報記者)

南京市高淳区で、医療機器、バイオ医療、医薬ヘルスをメインとした産業・都市融合プロジェクトが、実地調査からわずか半年で実施にこぎつけた。企業が同区に安心して進出し、望み通りの発展を遂げることができるように、企業の枠外の事は、同区が一手に引き受け、枠内の事は同区が手続きをサポートしている。

 江蘇省南京市高淳区でこのほど、投資額が100億元(約1,530億円)に達するマンモスプロジェクトの実施がスタートした。だが、この医療機器、バイオ医療、医薬ヘルスをメインとする産業・都市融合プロジェクトは、実地調査から実施スタートまで、わずか半年しかかからなかった。

 高淳区に多くの企業が集まるのは、自然環境が整っていること、手続きの効率が良いこと、医療機器を主導産業とする明確な産業発展の優位性を持つことが主な理由である。同区では、進出してきた人材を「お客様」、サービス企業のチームを「給仕」と呼んでいる。企業が同区に安心して進出し、望み通りの発展を遂げることができるように、企業の枠外の事は区が一手に引き受け、枠内の事は区が手続きをサポートしている。

 進出企業が自信に満ちている理由は、医療機器産業が成長著しいからだけでなく、高淳区が支援政策を実施しているからだ。例えば、今年5月、同区は「1+2」特定項目政策を打ち出し、4億5,000万元(約68.9億円)の資金を捻出して、企業のイノベーションや医療機器産業の発展をサポートしている。

 生産許可証や販売許可証、医療機器証などを新たに取得し、一定の売上高に達した企業は、その研究開発経費の50%を、補助金として支給している。また、医療機器証を取得して産業化する企業は、生産設備を新たに導入した場合、その10%、最高で1,000万元(約1.5億円)を補助金として支給している。パーク内の企業が医療機器の生産を受注した場合、受注契約額の5%、最高で500万元(約7,650億円)の補助金が支給される。

 今年1--5月、南京斯瑞奇医療用品有限公司など一定規模以上の医療機器企業(年売上高2,000万元以上の企業)10社の売上高は、前年同期比76.2%増となった。

 新型コロナウイルス感染症という大きな試練を経験した後、医療機器産業は発展の黄金期を迎えているのだ。

 巨大なチャンスを迎え、かつて国際団体より「国際スローシティ」に認定され、スローライフが売りだった高淳区は、「スロー」か「ファスト」、「生態保護」か「産業の発展」の選択において、テクノロジーを駆使して医療機器産業を発展に導き、イノベーション型企業を育成し、ハイレベル人材を誘致し、産業サービスの新スタイルを構築することで、未だかつてないスピードアップを実現しただけでなく、経済発展の実質の価値も高めている。

良質の「土壌」に集まる医療機器企業

「今日は、高淳に対する理解を深めることができた。ここの産業政策は素晴らしい」。

 2020南京イノベーションウィーク「中華門創将」コンテストの2回目のクラウド人材選出バトルがこのほど高淳区で開催され、政府、企業、投資家が、「クラウド」上で集い、バイオ医薬産業の優良プロジェクトについて、オンラインで交流した。

 同日、ロードショー(機関投資家等に向けた説明会)に参加したある企業の責任者は取材に対して、「当社の支社数社が既に高淳区に進出した。現地政府当局は、資金サポート、プロジェクト指導、許可証の手続き、人材招聘などの面で、たくさんサポートしてくれている。今後は、ここでグループ会社を立ち上げ、発展のために力を合わせたい」と語った。

 高淳ハイテクパーク管理委員会の責任者は、「高淳区は広くはないものの、絵のような風景が広がり、生態環境が美しく、イノベーション要素が集まっている」と語った。

 インターネット、新材料、新エネルギーなどの新興産業に向き合い、高淳区は、医療機器の分野に参入した。その主な理由の一つは、昨今の健康ブームにあって、山が3割、川や湖が2割、農地が5割という自然環境の優位性を誇る高淳区は、医薬産業発展の自然属性を備えているだけでなく、人々の健康的な生活という理想を実現してくれるからだ。

 この他、高淳区は53校の大学や、多数の国家級、省級の研究室を擁する「科学教育都市」と称される南京に属していることから、科学研究、教育、人的資源が至近距離にあるという利点もある。

 同区は近年、バイオ医薬、医療機器産業の発展に積極的に取り組み、人材呼び込み・引き止め、企業サポートなどをめぐる一連の特別政策や措置を打ち出している。医療機器産業パークは、南京市バイオ医薬産業ランドマークに指定され、医療機器企業に質の高い発展の「土壌」を提供している。

 青い空、きれいな水を守り、民生福祉を改善すると同時に、産業発展を推進する「加速スイッチ」を押したのだ。

 高淳区には現在、医療機器企業が800社近くある。浙江大学南京健康産業研究院や中国科学院蘇州生物医学工程技術研究所、南京智慧健康研究院、中科游子生物技術研究院など、医療・健康の分野に注力する新型研究開発機関が相次いで進出している。昨年、43人が市級以上のハイレベル人材計画に選出され、今年も172人が市級以上のハイレベル人材の申請を行い、産業発展のために、イノベーションの原動力を注入し続けている。

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科学実験を行う南京健康産業研究院の科学研究員(撮影・張曄)

優良サービスが産業の相乗効果を生む

 イノベーションにはリスクがつきもので、それが企業経営者にとっては頭から離れられない悩みの種でもある。

 ここ数年、江蘇宜偌維盛生物技術有限公司の責任者・劉琴さんは研究開発に打ち込んでおり、前後合わせて5,000万元以上を投じてきた。自分の高級自家用車やアクセサリーなどを売却してお金を作ることさえしたという。

 そんな劉さんは、最も困難な時に、地元政府のサポートを受けた。さらに、2018年、地元政府のサポートでハイテク企業の申請登録ができたことで、税金の減免対象になっただけでなく、企業イメージも大きく向上した。

 現在、同社は発明特許5件、実用新型特許30件以上を所有している。劉さんは、起業の経験を振り返り、「高淳区は環境が良く、全体的に見てコストの面でもメリットがあり、研究開発に集中できる」と語る。

 開園して1年余りの高淳医療機器産業パークには、機器生産企業63社、経営型企業355社が集まっており、相乗効果が形成されつつある。

 高淳テクノロジー当局の関係責任者は、「私たちは、一連の公共サービスプラットホームの構築に全力を挙げている。それらプラットホーム構築を通して、医療機器企業の成長に適した産業エコシステムを構築し、産業の発展を促進したい。国家医療機器ビッグデータセンター・江蘇センターの契約が既に結ばれた。その他、医療機器イノベーションサービスセンター、実習・育成センター、製品展示センターなどのプラットホームも続々と建設されている」と紹介した。

 ハイクオリティの産業の基礎と、区の立地条件を武器に、高淳区は企業サービスの最適化を継続的に行い、企業の獲得感を強化し、企業が存続し、飛躍できるよう、良好な政策的環境づくりをしている。

 医療機器企業が研究開発を行って証書を取得し、イノベーション成果を実用化し、イノベーション製品のリスクを軽減するよう奨励するほか、企業が資質認証証書を取得し、国際市場で開発を行うよう奨励するために、高淳区は「医療機器産業の発展促進に関する特定項目サポート対策」を制定し、具体的な規定11項目を打ち出して、企業の成長加速を後押ししている。

 また、同区の医療機器産業パークは、代行サービス機関を設立し、医療機器専門サービスチームを立ち上げた。一方では、書類に不備がある場合、期限内提出を保証する書面約束を得て、先行して受理し、手続を進めるやり方、全プロセス無償の代行サービスを全面的に推進するほか、登録から生産、普及推進までの全プロセスの専門的なサービスを提供し、24時間態勢で対応し、手続きが完了できるメカニズムを構築している。

 2019年5月5日、高淳区の医療機器産業発展は「ハイライト」を迎え、区政府は江蘇省薬品監督管理局と共同で高淳医療健康産業パークを建設することで合意した。また、南京市は、同区の発展医療機器産業育成、発展をサポートする姿勢を明確にし、医療機器産業パークを、南京市産業ランドマークに指定し、「一所六中心(1つの研究所・6つのセンター)」を中核とする産業エコシステムサポート体系の構築に重点を置いた。

イノベーションが新規企業をサポートして成長を後押し

 一正医療科技有限公司の馮勇総経理は取材に対して、「昨年、建設が始まった工場の建物は今年完成した。封鎖式吸引チューブの生産を強化すると同時に、資金投入を拡大し、集中治療の分野の使い捨て消耗品の科学研究を展開し、中国国内の産業の空白を埋め、治療費が安くなるよう取り組んでいる。2013年に高淳区に進出した医療機器企業である当社が研究開発した封鎖式吸引チューブの技術水準は、世界と肩を並べ、中国国内市場のシェアは80%に達している。その"唯一無二の技"を武器に、今年1‐5月期の売上高は前年同期比40%増だった」と説明する。

 革新駆動型発展戦略の実施は、高淳医療機器産業パークが企業の製品とサービスの最適化を実現し、最終的に市場を勝ち得て、経済効果を向上させるカギとなっている。

 高淳経済開発区管理委員会の唐景順・副会長は、「現在、高淳産業発展誘導基金、高淳産業イノベーション基金、各種産業基金があり、医療機器企業が高淳区に進出し、発展するよう重点的にサポートする」と説明する。

 産業パークが打ち出している医療機器特定項目政策11項目のうち、「医療機器生産スタイルのイノベーション奨励」、「イノベーション成果の運用・実用化奨励」、「イノベーション製品の応用サポート」、「イノベーション製品のリスク低減奨励」の4項目が、イノベーションにスポットを当てており、企業のイノベーションに、補助金や優待サービス基準を提供している。

 高淳医療機器産業パークは、体外診断用医薬品(IVD)製品、埋め込みタイプの高級消耗品・機器製品、リハビリ機器製品及び家庭用医療機器などの分野の細分化を行っている。一部の企業は、政策のサポートの下、製品やサービスのイノベーションを本当の意味で実現し、最終的に市場で利益を上げることができるようになっている。例えば、斯瑞奇医療用品有限公司は、越境ECの分野に深く進出し、マルチブランドイノベーション戦略、グローバルサービスを実施し、年間売上高は3億元(約45.3億円)に達した。

 高淳区の楊勇・副区長は、「産業パークのインフラ整備を加速させており、省医療機器検査所・高淳分所、国家薬品監督管理局南方医薬経済研究所ビッグデータモニタリングセンターなど、『一所六中心』の建設を大々的に推進し、よりハイクオリティの公共サービスプラットホーム、より整備された公共インフラを通して、医療機器産業の発展を、引き続きバックアップしている」と説明する。


※本稿は、科技日報「"国際慢城"跑出医療器械産業発展加速度」(2020年7月9日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。