第166号
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土地に応じた安全な利用で、土壌汚染を低コストで解決

2020年7月07日 李 禾(科技日報記者)

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浙江省台州市峰江街道亭嶼村と山後許村の間は大小の苗畑ですきまなく覆われ、豊かな緑が広がる。(筆者撮影)

 浙江省台州市峰江街道亭嶼村と山後許村の間をつなぐ約2キロメートルの道の両側は大小の苗畑ですきまなく覆われ、さまざまな花卉の苗木が植えられ、豊かな緑が広がる。この地にはかつて、中国最大の廃棄金属の再生基地があり、土壌汚染が深刻だったとは誰が想像できるだろう。

 土壌汚染は長期性、蓄積性、そして隠ぺい性という性質を持つ。また、食品の安全性や人々の健康とも密接な関係がある。生態環境部土壤生態環境司の蘇克敬・司長は、「土壌汚染への防衛戦に打ち勝つために、中国の土壌汚染対策は予防を主体とし、保護を優先とし、分別管理・リスク制御を行い、汚染者が責任を負い、市民が関与するという原則を堅持している。現在の進捗状況に照らせば、『土壤汚染対策行動計画』で示される『2020年末までに汚染農地の安全利用率を約90%に、汚染地の安全利用率を90%以上に』という目標は実現できるだろう」と語る。

1万社以上の企業が土壤環境重点監督リストに

 「土壌はひとたび汚染されると修復までの期間が長く、コストが高い。特に重金属は土壌に染み込んだ後は自然分解の方法がなく、人の健康リスクが大きい」。蘇氏は「農地環境の安全を確保し、市民が農産物を安心して食べられるようにするために、生態環境部は根源からの汚染対策を強化している。『第13次5ヵ年計画』以降、中国全体で閉鎖された重金属関連企業は1,300社あまりで、重金属排出削減プロジェクトは900件あまり実施され、重金属等の汚染物質の排出制御は効果的に実施されている」と語る。

 統計によれば、2016年に『土壤汚染対策行動計画』が実施されて以来、生態環境部は関係当局と共に、カドミウム等の重金属関係企業に対する全面調査・取り締まり活動を実施し、企業13,000社あまりを対象に調査を行った結果、改善の必要な汚染源が2,000ヵ所近くあることが確認された。現時点ですでに700ヵ所近くの汚染源について完全な対策が行われ、汚染物質が農地に入り込む経路が断ち切られ、目覚ましい成果を上げている。「北京等の14省(区、市)により公布された建設用地の土壤汚染リスク管理・修復リストには340ヵ所が挙げられており、全国31省(区、市)および新疆生産建設兵団により公布された土壤環境重点監督企業リストには合計1万社あまりが掲載されている」と蘇氏は話す。

その土地に応じた措置を講じ、安全な利用を確保

 蘇氏の考えでは、土壤汚染については大規模な対策や修復を盲目的に行うのではなく、リスク管理に基づく総体的な構想を堅持すべきだ。浙江省台州市等のモデル地区における経験から見れば、汚染された農地の安全な利用は栽培構造の調整により実現できる。過去に水稲を栽培した土地であれば、トウモロコシやジャガイモ、サツマイモ、コウリャン、ヒマワリ等の重金属を吸収しづらい農作物に変えたり、あるいは養蚕用の桑や綿花、麻類、花卉の苗木等の経済作物に変えたりすれば、出費を少なく抑え、農作物の品質の安全性も保障できる。

 「汚染が軽度な一部の農地については、pHを調整し、汚染物質の蓄積が少ない品種に変更する等の措置によって農地の安全な利用を促し、農産物の安全性を保障できる。1ムー(約667平方メートル)あたりの調整コストは500~2,000元前後で、代価も低く抑えられる」と蘇氏は語る。工業企業用地についても、工業用地のまま使用するか、あるいは緑化用地に転換するかのいずれにおいても、状況によっては対策や修復の必要はないかもしれない。

 つまり、汚染された農地については、農産物の品質安全の保障を出発点として、その土地に応じたさまざまな措置を講じ、安全な利用を確保するべきである。また、建設用地については、居住環境の安全性を出発点として、住宅用地ならびに商業施設、学校、医療施設、介護施設等の公共施設・公共サービス用地として開発予定の汚染された土地については、その土地の状況に応じたリスク管理および修復措置を講じるべきである。「基礎を築き、体系を構築し、最低ラインを守り、リスクを制御する、という方針に基づき、土壤汚染対策の業務を推進する必要がある」と蘇氏は考える。

約200件の対策・修復技術モデル事業を実施

 中国は土壌汚染の修復に関してすでに大量の事業を実施している。たとえば、中央政府の財政に土壤汚染対策専門資金を設け、土壤汚染状況の詳細調査や汚染源対策、リスク管理・修復を行い、総合対策先行区の建設や、対策・修復技術の応用に向けたモデル事業を実施し、土壤環境監督能力を向上させようとしている。また、土壤生態環境の保護・管理および支援体系の整備を推進し、国家土壤環境モニタリング網を構築しており、現時点で全国8万ヵ所あまりの土壤モニタリングポイントが整備されている。

 生態環境部は関係当局と共同で、浙江省台州市、湖北省黄石市、湖南省常徳市、広東省韶関市、広西チワン族自治区河池市、貴州省銅仁市等において土壤汚染総合対策先行区の建設を実施し、中国全体で約200件の土壤汚染対策・修復技術の応用にむけたモデル事業を行っている。

 生態環境部土壤生態環境司の鍾斌・副司長によれば、モデル事業による模範を示すことで、汚染源対策や汚染された農地の安全な利用、汚染された土地の修復等の分野において摸索を行っている。おおまかな統計によれば、現時点でリスク評価が完了し、リスク管理または修復が必要であることが確認された土地は全国で550ヵ所あまり存在する。このうち、すでにリスク管理または修復が完了した土地は460ヵ所あまりである。「われわれは各地の優れた経験と方法を総括し、今後さらに普及させることによって、土壤汚染対策と修復の水準を引き続き向上させる」と鍾氏は強調する。


※本稿は、科技日報「因地制宜、安全利用 土壌汚染防治花銭不多也能解決問題」(2020年3月13日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。