第166号
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高品質な5Gの実現には「強者連合」が不可欠

2020年7月20日 張曄(科技日報記者)

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 5G時代において、マイクロ基地局の建設はマクロ基地局と同時進行で進められる。両者の組み合わせによって初めて、立体的かつ全域をカバー可能な5Gネットワークを「織りなす」ことができるだろう。

 昨年以降、5Gサービスの商用化に向けた動きが地球規模で加速している。通信業界の世界的な標準化組織である3GPP(Third Generation Partnership Project)が策定し、2020年に発表予定の5G向け標準仕様「リリース16」(R16)によって、さらに多くの5G業界向けアプリケーションが誕生し、サポートされるだろう。

 最近、中国初の5Gマイクロ基地局RFチップ「YD9601」がテープアウト(半導体製造工程における設計の完了を意味する)を迎えて開発に成功し、実装・テスト段階に入った。中国が特別に招聘した専門家で、マサチューセッツ工科大学の博士号を持ち、この開発プロジェクトを率いた王俊峰氏によれば、5G基地局にはマクロ基地局とマイクロ基地局の2種類がある。マクロ基地局は主に屋外をカバーし、マイクロ基地局は電波の出力が弱いために主に屋内で使用される。

 2Gから4Gの時代では、通信事業者は高い鉄塔を建ててマイクロ基地局を設置しさえすれば、数平方キロメートル周囲の通信ニーズを満たすことができた。しかし、5G時代ではマクロ基地局に加えてマイクロ基地局も建てる必要がある。何故だろうか。また、マイクロ基地局の発達によって、ワイヤレス通信やインダストリアルインターネットにおけるデータ通信や中国の通信産業にどのような変化がもたらされるのだろうか。筆者は研究機関や企業を訪問し、専門家に意見を聞いた。

基地局の種類により出力は大幅に異なる

 「3GPPの仕様によれば、無線基地局はマクロ基地局、マイクロ基地局、ピコ基地局、フェムト基地局の4種類に分けられる」。中科智達物聯網系統有限公司の董事長を務める許欣氏はこう説明する。

 基地局の種類は主に出力と容量によって決まる。マクロ基地局の出力は10W以上であり、同時接続可能なユーザー数によって基地局の規模が決まるとすれば、マクロ基地局のそれは一般的に1,000以上である。一方、マイクロ基地局の出力は500mW--10Wで同時接続可能なユーザー数は128~512であり、ピコ基地局の出力は100--500mWで同時接続可能なユーザー数は64~128个であり、フェムト基地局の出力は100mWを下回り、同時接続可能なユーザー数は8~16である。マイクロ基地局、ピコ基地局およびフェムト基地局は通常「小型基地局(スモールセル)」と総称される。これは、マクロ基地局と対比する概念を語る際に使われる表現でもある。

 また、その名称から、「マクロ基地局」は大きな威力を持ち、「小型基地局」は小回りが利くことがわかる。

 マクロ基地局は広域をカバーするのに適しており、マイクロ基地局は一定のエリアをカバーするのに向き、ピコ基地局は企業単位のWi-Fiに相当し、フェムト基地局は家庭向けのルーターに相当する。

 高速鉄道の駅や空港、デパート等では、その室内シーンに応じて複数のマイクロ基地局を設置することによって、それぞれのニーズを満たすことができる。また、オフィスビルや産業パーク等では人の移動が比較的固定されているため、ピコ基地局で十分にその役割を果たすことができる。フェムト基地局は、家庭や喫茶店等のニーズを満たすためのものだ。

マクロ基地局とマイクロ基地局の交錯によって、密度の高い5Gネットワークを「織りなす」

 ワイヤレス通信の歴史をひも解けば、周波数帯が段々に大きくなっていることが分かる。これは、ワイヤレス通信に対する人々の要求の高まりによるものだ。中国を例に見ると、2G時代の周波数帯は主に900MHzと1.8GHzだったが、3G時代、4G時代の周波数帯は主に1.9GHz、2.1GHz、2.6GHzとなり、まもなく迎える5G時代では3.3--3.6GHzと4.8--5GHzの主に二つの周波数帯に集中することになる。

 「ワイヤレス通信はかつて音声のネットワークだったが、今やそれはデータのネットワークである。周波数が高ければ高いほど、提供できる帯域幅も大きくなる。それは、高速道路でも4車線の方が2車線よりも多くの車両が通行でき、スピードも速くなるのと同じだ」と南京市にある東南大学情報科学・工程学院の教授を務める張川氏は語る。

 しかしながら、ワイヤレス信号の通信速度と透過性の両立は往々にして難しい。「ワイヤレス通信は周波数が高いほど透過性が劣り、同じ面積でもより多くの基地局を建てて完全にカバーする必要があるため、ネットワーク構成のコストが高くなる」と許欣氏は解説する。

 現在、中国ではマクロ基地局を中心として基地局の大規模建設が進められているが、5Gマクロ基地1ヵ所あたりのコストはどのくらいかかるのだろうか。一般的にいえば、マクロ基地局の建設コストは主体設備とエンジンの付帯設備、それから工事費用によって構成される。先に広東省で建設が予定されていたマクロ基地局2万4,000ヵ所の投資計画は60億元で、基地局1ヵ所あたりの投資額は約25万元であった。また、上海市のネットワーク建設計画では2020年までに合計2万ヵ所の5G基地局の建設が予定されており、総投資額は200億元を超え、5G基地局1ヵ所あたりの建設コストは100万元を超えることになる。中国移動(China Mobile)も先ごろ、5Gマクロ基地局1ヵ所あたりの建設コストは4Gの約3倍前後と表明した。建設コストに加え、後続のメンテナンスや使用コストも大きな支出となる。

 5Gの性能と建設コストとの間の最適解を導くことは、通信事業者として必ず解決しなければならない問題だ。このため、彼らは小型基地局に目を転じ始めている。

 許欣氏によれば、「小型基地局はマクロ基地局と違って専用の機械室やバックホールを必要とせず、設備がシンプルなため、設置に小回りが利き、コストが比較的安い。壁に直接取りつけたり、街灯やバス停の柱に取りつけたりして、目立たない場所に隠すことも可能なため、人の流れが密集する場所や電波の弱い場所等に、ニーズに応じて設置することもできる」。

 その上、メディアのサンプル調査によれば、80%以上のユーザーのデータ通信量は屋内からのもので、苦情の80%以上も屋内におけるものだ。そして、苦情は主に電波の品質に集中している。このため、「屋内での小型基地局の設置に力を入れ、屋内ネットワークの品質を高めるべきだ」と張川氏は説く。

 特筆すべきは、ドイツや日本等の工業立国ではまさに現在、あるいはすでに、工業等の産業に対して5Gの周波数帯の割り当てを行い、業界専用の5Gネットワークを構築している。その上、主な設備形態は小型基地局だ。

 当然ながら、小型基地局に欠点が無いわけではない。小型基地局の発信する電波は散乱するため、小型基地局の電波が相互に干渉し、リソースに大量の浪費が生じる。これに加え、小型基地局の信頼性はマクロ基地局にはるかに及ばず、現時点では屋外環境には安定的に対応できないため、今のところは主に屋内のネットワーク環境のソリューションとして使われている。張川氏によれば、「5G時代においては、マイクロ基地局の建設はマクロ基地局と同時進行で進められる。両者の組み合わせによって初めて、立体的かつ全域をカバー可能な5Gネットワークを『織りなす』ことができる」ものだという。

小型基地局のコアテクノロジーを手中に収める

 無人化された生産ラインや無人工場、そしてスマートロボット等......高速で低遅延な5G時代ではインダストリアルインターネットの応用シーンが次々に登場する。生産ラインに幾つかの小型基地局を設置すれば、低コストで5Gネットワークにアクセスでき、遠隔制御と精密生産が実現できる。

 小型基地局の中核デバイスはベースバンドチップとRFチップである。両者の材料コストが基地局全体の50%前後を占めるが、その利益は90%もの高さに達する。許欣氏によれば、「この二つの中核デバイスを攻略できさえすれば、小型基地局の主導権を自らの手中に掌握できる。しかし、中国ではこの分野の産業チェーンがまだぜい弱なことが、5G小型基地局の産業発展の足かせとなる重要な要素となっている」。

 しかし、王俊峰氏が記者に語ったところによれば、「南京宇都通訊科技有限公司が独自に開発したRFチップYD9601は、700MHzのラジオ・テレビ放送の周波数帯のみならず、工業情報化部が2月初旬に許可したばかりの中国電信(China Telecom)、中国聯合通信(China Unicom)、中国広電(China Broadcast Network)の3社に共用の3.3--3.4GHzの屋内向け周波数帯にも対応し、5G時代の屋内向け共有小型基地局に打ってつけのチップといえる」そうである。

 インダストリアルインターネットを中心とするスマート製造の波はすでに世界を席巻している。「機械加工産業を例に見れば、現在、中国には1,000万台の工作機械が存在するが、部品加工を行う中小企業では設備のネットワーク化と現場におけるリアルタイム管理の面で遅れがある。しかし、インダストリアルインターネットでは遠隔データの収集や機械制御において要求が非常に高く、既存のネットワーク接続方式ではシーメンスやボッシュ等の世界のリーディングカンパニーが打ち出す『5G産業用LAN』のソリューションに対応できない。産業ネットワークでは安全性に対する要求が高いため、5G産業用LAN基地局のコア部品については独自開発が必須であり、これ以上第三者にコントロールされてはならない」と許欣氏は語る。

 おおまかな統計によれば、現在、5G関連の特許は世界で約1万5,000件存在するが、インダストリアルインターネットにおける5G関連のそれはわずか100件あまりだ。インダストリアルインターネットにおける5Gネットワークと密接な関係のある5G小型基地局もスタートの段階にある。しかし、中国ではまだ専門の開発機関や基幹企業による小型基地局の設計開発は始まっておらず、小型基地局産業の発展はまとまりのない様相を呈している。

 「中国には世界最大の5Gネットワークと巨大な工業体系がある。中小のテクノロジー企業でも小型基地局というチャンスを捉えることができれば、5Gワイヤレス通信分野における再度のブレイクスルーを実現できるはずだ」と許欣氏は強調する。


※本稿は、科技日報「打造高質量5G 離不開這対"超強組合"」(2020年3月25日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。