第169号
トップ  > 科学技術トピック>  第169号 >  科学研究の重要拠点で、ハイレベル研究成果を事業化

科学研究の重要拠点で、ハイレベル研究成果を事業化

2020年10月12日 呉長鋒(科技日報記者)

image

チームとともにマシンビジョンに基づいた部品サイズオンライン検査システムを開発した合肥工業大学スマート製造技術研究院院長助理、研究開発センター主任の胡迪氏(写真一番右、写真提供・取材先)。

合肥工大スマート製造技術研究院と地方産業の質の高い発展が相互作用を実現

 ここ数日、深圳からやって来た湯清安博士は非常に興奮していた。合肥工業大学スマート製造技術研究院(以下、「同研究院」)に入居する企業営業許可証を手にしたからだ。「これまでずっと一人で何人かを指導して研究開発し、産業化に取り組んできたため、克服できない困難や不足点が数多くあった。この研究院に入居できれば、長年にわたって悩まされてきた難題も自然と解決されるだろう」と湯氏は言う。

 湯氏は小型コンプレッサーの研究開発に長年携わってきたが、条件的に限られていたため、産業化にはずっと成功していなかった。湯氏は筆者に対し、「それには複数の学術分野が連携することが必要で、企業自身で解決するのは難しかった。これからは合肥工大スマート製造技術研究院という場をよりどころに、小型コンプレッサーの全系統製品を開発し、細分化された市場の特定分野において『一番』になる自信がある」と語った。

ネックとなるポイントを解消し、最もキーとなる要素を活かす

 同研究院常務副院長の張暁安氏は、「政府が資金と土地、政策を提供し、大学が人材と成果、メカニズムを提供する。最もキーとなるのは優れたメカニズムがあることだ」と語る。張氏によると、同研究院設立の初志は、合肥工業大学の科学教育知的資源と市場優位性のあるイノベーション資源を結び付け、高効率でハイレベルな科学技術成果の事業化を推進することだったという。

「成果の事業化はどこで滞るのか?」張氏の見るところ、大学には成果があり、人材がいるが、市場経営のことは企業のほうがよく分かっている。しかし大学の成果は往々にして人に付随しており、人が重要な要素となる。科学研究者と企業経営者間の密接な協力という問題をうまく解決できなければ、科学技術成果が本当の意味で事業化されるのは難しい。「人の問題をうまく解決できなければ、成果の事業化は最後の1マイルで滞り、そこから先に進めなくなってしまう」と張氏は言う。

 張氏は、「トップダウン設計において、我々は探求の結果、整ったメカニズムを構築し、この滞るポイントを解消した」と述べる。張氏によると、同研究院は、大学内の核心技術成果と安定した研究開発チームを有する科学研究チームが新しい技術能力を受け入れる企業と効果的に提携し、ハイテク企業を共同設立するよう導いているという。

 合肥工業大学はその科学技術成果と学術的優位性を活用し、企業のニーズに合わせて、大学からプロジェクトチームを派遣して提携を行っている。「しかしチームは固定されているわけではない」と張氏は言う。プロジェクト協力の過程で、大学の科学研究チームと企業側は十分な慣らし期間を置き、双方がしっかりと協力できるようになるまで大学チームに対して動態的な調整を行うのだという。

 張氏の見るところ、こうしたイノベーション提携モデルにより、「産学研用」の各者が互いに支え合い、目標を一致させ、利益を共有することができるようになっている。現在、同研究院は、「スマートネット接続・新エネルギー自動車」など17の高能力等級産業応用イノベーション・プラットフォームを構築してハイレベル人材チームを招致し、業界のキーとなる共用技術を解決すると同時に、大学の科学研究チームが企業のために「カスタムメイド版」研究開発センターを作るよう導き、企業に研究開発サポートを提供している。

「我々は大学と企業による『ダブル指導体制』を進め、大学側から毎年エンジニアリングの修士課程の学生数百人を企業に提供して共同で人材育成を行い、学生は卒業後もその企業に残ることができる。こうすることで、企業に専門技術者を提供し、企業のハイレベル人材ニーズも保障している」と張氏は言う。

難題を克服し協同で優れた資源を構築し共有する

 安徽合動智能科技有限公司技術総監の甄聖超氏は筆者に対し、「この四方向転換可能な四輪駆動移動ロボットのシャーシ上のサーボモーター駆動装置や制御システム、慣性航法装置は、いずれも我々のチームが独自に開発したもので、主な性能指標は国外の同類製品を上回っており、コストパフォーマンスは国外製品より優位性がある」と語った。

 甄氏は筆者に、「この研究院に入居して2年で、会社は100万元(約1,550万円)のプロジェクト経費支援を受け、技術開発資金面の難題を解決した。さらに、研究院に依頼して中国科学技術大学の博士課程の学生2名に来てもらった」と述べた。甄氏によると、同社の発展ニーズをめぐって、合肥工業大学はスマート製造や駆動制御、ロボット、人工知能(AI)などの分野の科学研究チームと企業との研究開発チームを共同で立ち上げ、分野ごとに協同して難関を克服し、製品をすばやくアップグレードしたという。

 また、甄氏は筆者に対し、「会社には現在、核心を担うフルタイムの研究開発者が31人いる。毎年『ダブル指導体制』の大学院生を大学と共同で育成し、会社のために数人の研究開発者を確保している。製品は国内10余りの省や市に及んでおり、2023年には売上高が1億元(約15.5億円)を突破し、製品もシリーズ化も計画している」と語った。

 張氏は、「我々は関連分野の大学や科学研究院・研究所、有名企業、研究開発チームの優位性ある資源を共に築き、共有し、『重複建設』を避けるとともに、学際的で様々な方向性の協同難関攻略を行い、同時にインキュベーション企業が研究開発プラットフォームを立ち上げる際の資金や技術、人材ニーズという難題も解決した」と語る。張氏によると、現在、同研究院が立ち上げた「省エネ・新エネルギー車試験検査センター」には科学研究者が60人以上集まっており、中には業界分野における著名な学者などハイレベル人材が数多くいるという。

課題を解決し、専門プロジェクト資金で成果の実用化を保障

 合肥工業大学副校長で、合肥工大スマート製造技術研究院院長の劉志峰氏は筆者に対し、「科学技術型企業の資金調達難、市場参入難、人材導入難という難点が科学技術成果の有効な事業化を妨げている」と語った。劉氏によると、同研究院は探求の結果、大学の科学技術園の特徴に合った制度を26項目構築しており、「標準化+カスタムメイド化」と「一般サービス+付加サービス」という段階・レベルごとに多元化した創業インキュベーションモデルの下で、企業が成長過程における多くの難点を解決できるようにしているという。

 2015年、合肥工業大学コンピューター情報学院教授の夏娜氏は、自身のチームと研究開発成果を携えて同研究院に入居し、合肥星北航測信息科学技術有限公司(以下、星北航測)を設立した。同研究院はその100%子会社を通じ、星北航測の8%株式を保有している。設立当初、夏氏のチームは同研究院の成果事業化・産業化専門プロジェクト資金100万元の支援を受け、合肥工業大学コンピューター・情報学院と共同で「水質モニタリング自律航行器ASV研究開発及び産業化」プロジェクト研究開発を展開した。

 夏氏は筆者に、「安徽省科学技術庁はこの研究院に対し、単独で申請指標を設けている。そのおかげで、2018年に我々は200万元(約3,100万円)の安徽省科学技術庁重大専門プロジェクトのサポートを受けることができた」と述べた。夏氏によると、専門プロジェクトのサポートを得たことで、会社の技術開発資金という難題を解決することができたという。現在、同社が産業化した核心製品には、北斗衛星測位システム(以下、北斗)をベースにした電力鉄塔変形モニタリングシステム、北斗の動態差分測位をベースにしたコンダクターギャロッピングオンラインモニタリングシステム、水質・水文モニタリングのAI水域ロボット『精湖壹号』などがある。

 同研究院という強力な後ろ盾ができたことで、星北航測の技術総監である夏氏は、合肥市学術・技術リーダー、「廬州英才」、安徽省「特別支援計画」イノベーション創業リーダー人材、安徽省学術・技術リーダーなど、多くの人材計画のサポートを受けることができた。

 この5年で、同研究院は安徽省と合肥市の戦略性新興産業と主導産業をめぐり、1.5億元(約23億円)近くを投じて、260余りの科学技術成果事業化・産業化プロジェクトをスタートさせた。また、88の専門家チームを組織し、合肥市の生産額1千万以上の企業178社に技術サービスを提供してきた。さらに、ハイテク企業84社を育成し、そのうち合肥工業大学の科学技術成果を直接事業化した企業が46社あり、9社が国家高度先端技術企業に指定されている。

「我々は合肥という科学研究において重要なポイントを占める拠点に立脚して、一流の科学研究人材とチームを集め、ハイレベル科学研究成果を育成し、質の高い科学技術成果の事業化を実施し、大学のサイエンスパークと地方産業との質の高い発展の良性な相互作用を実現することに大いに力を注いでいる」と劉氏は語った。


※本稿は、科技日報「在科研高地,做高水平成果転化」(2020年09月14日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。