第169号
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科学研究者と体制 どのように改革の利益を共有するか

2020年10月14日 閻肖鋒/文 及川佳織/翻訳

 昨今、科学研究者の実業界への転身は日常茶飯事だが、最近ある研究院で起こった集団退職は、特に注目を集めた。

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 先日、中国科学院合肥研究院(略称「合肥院」)で90人以上が退職するという騒動が、メディアの耳目を集めたのだ。7月17日、中国科学院党組〔以下、中科院〕は、専門作業グループを設置してこれを調査することを決めた。報道によると、「合肥院」傘下の核エネルギー技術研究所のスタッフは、2018 年に50余人から500人以上に増えたが、2019年には約200人に減り、2020年に大量の退職者が出た後は、100人ほどしか残っていないという。

 中科院の体系は国の科学研究の重要な担い手であり、国家チームである。そのため、今回の集団退職事件は国務院を驚愕させ、国務院弁公庁は専門作業グループを率いて調査のため合肥へ出向くこととなった。国務院の劉鶴(リウ・ホー)・副総理は、中科院からの報告 を受けて、国務院弁公庁・科学技術部・中科院などの機関に専門作業グループを設置するよう求めた。グループは先日、中科院合肥物質科学研究院を訪れ、傘下の研究院で起きた集団退職事件について詳しい調査をおこなった。

 しかし、問題の核心は、科学研究体制なのである。この90人あまりのスタッフが集団退職を選んだ潜在的な理由というのは、彼らが学友の陳天石(チェン・ティエンシー)のように、これまでの研究成果をイノベーションボードに上場させたいということだったのである。この退職者たちは、一般の人から見れば何も生活の心配がないようだが、同じ職場に留まっていれば、昇給の余地は限定的である。

 現在、科学技術による起業ブームが起き、多くの大学研究者が科学技術企業に高給で引き抜かれたり、自ら大学を出て起業したりしている。中科院内部でも改革はおこなわれており、研究成果の実用化、市場化された投融資メカニズムの導入、人材の誘致・育成などに重点が置かれるようになっている。大国が科学技術力を競うなかで、どうしたら多くの研究者のイノベーション力を刺激し、彼らの価値を現実のものにできるだろうか。科学研究者たちを「囲い込み」から「放し飼い」に変え、市場経済という海を泳がせるのは、よい方法なのかもしれない。

 専門科学研究院は、往々にして基礎科学研究に偏り、研究や技術の商業化・実用化とは一定の距離がある。この問題に対し、国は企業に国家重点実験室を設置することを奨励し、企業に直接優遇策を与えており、企業は市場メカニズムに応じて研究体制を整えてきた。十数年間で、科学技術部は100社を超える企業の重点実験室を認可している。ファーウェイ研究院の研究スタッフの年俸は、100万から高いものでは1,000万元台に達しており、個人・企業・国家の「トリプル・ウィン」と言える。

 基礎科学研究は技術の産業化の基礎であり、技術の市場化がなければ、国の科学技術力を発揮することはできないし、研究者個人の価値を十分示すこともできず、「カンブリア紀」のような起業神話もありえないのである。かつて、科学技術者の無給休暇が大きな市場効果を生み、「サンデー・エンジニア」が大きな役割を果たした時期がある。しかし、柳伝志(リウ・チュアンジー)や陳天石の成功はやはり個別的なもので、すべての科学研究者が体制を離れて富を手にすることが可能なわけではなく、困難にめげずに奮闘してチャンスに恵まれる必要があり、科学研究体制もやはり変わり続ける必要がある。

 結局のところ、科学研究と体制とは、相互促進関係を築かなければならない。専門科学研究院のスタッフの安定と成長を保障すること、科学技術の産業化・市場化と研究者の個人的価値を実現すること、この2つを軽視してはならないのである。


※本稿は『月刊中国ニュース』2020年11月号(Vol.105)より転載したものである。