南京はいかにして「ハイテク起業の森」を育てたのか
2020年11月26日 金 鳳(科技日報記者)
未来ネットワーク施設総合コントロールセンター(撮影・金鳳)。
「ネイチャー」誌のハイテク都市ランキングで世界第8位
南京水務集団の城南汚水処理場では、毎日600トンの都市汚水生物処理排水が脱窒素・リン除去後、準四類水基準を達成した状態で放出されている。また、安徽省淮北のある石炭加工業拠点の近くでは、この技術を用いた汚水処理量が1日あたり2,000トン、南京江寧区曹村ポンプステーションではこの数字がさらに多くなり、1日1万8千トンに達している。
この技術は、南京大学江寧環境保護技術革新研究院が開発したものだ。この研究院は新型の研究開発機関であり、立ち上げから2年余りで25社の企業を育成・誘致し、さまざまな協力モデルを探求してきた。今年10月の時点で、同研究院の生産額はすでに2,000万元(約3.18億円)を突破した。
「十三五(第13次五か年計画)」期間中、南京では新たな研究機関を累計400ヶ所以上立ち上げ、ハイエンドのイノベーションプラットフォーム構築が加速され、革新的企業を育成してその発展加速を促し、革新的で創造型の人材がどんどん集まった。2020年の「ネイチャー」誌のハイテク都市ランキングで、南京は世界第8位となった。また、世界知的所有権機関(WIPO)が発表した2020年のグローバルイノベーション指数でも、南京の総合順位は2017年の世界94位から21位に躍進した。
新型研究開発機関が累計6,000社以上のハイテク企業をインキュベート
南京大学江寧環境保護技術革新研究院は南京で第一陣となる新型の研究開発機関で、主に流域窒素リン汚染抑制、重金属汚染抑制、VOC汚染抑制といった環境保護産業のキーテクノロジー分野をめぐり、独自のイノベーション成果の創出と産業化を加速させ、ハイテク企業をインキュベートし、ハイレベル人材を誘致している。
同研究院副院長の梁英氏は筆者の取材に対し、「我々は長江流域の汚水に対し放水深度処理を行い、化学工業パークの汚水処理場の排水を無毒化し、排出量を削減している」と語った。梁氏によると、同研究院は1人の科学者+1人の博士+N人の大学院またはエンジニアという「1+1+N」モデルを確立した。科学者は学術的指導を行い、博士と大学院生が理論的成果の二次開発を担い、オリジナルの理論を現実のものとして応用し、成果の産業化にかかる時間を短縮している。
梁氏は、「具体的には3つの協力モデルがある。キーとなるコア技術については、研究院が100%出資して株式保有するか大部分の株を保有し、研究院が主体となって、産業化を推進する。2つ目のモデルは、研究院が約35%の株式を保有し、共同開発と市場における共同PRを担当し、残りの部分は技術面の専門家に任せる。3つ目のモデルは、研究院は株式を保有しないか、持ち株比率を10%以下とし、残りはインキュベートした企業に渡し、我々は技術と人材の支援を提供し、企業が市場資源を提供するというものだ」と語る。梁氏によると、現在のところ、同研究院はすでに25社の企業を育成・誘致し、うち5社がすでに「ハイテク企業」として認定されているという。
フレキシブルな運営モデルによって、科学研究の成果を活かすことができたほか、研究院の収益も大きく高まった。梁氏によると、2019年の同研究院の生産額は1,100万元(約1.75億円)を突破し、今年も現時点ですでに2,000万元以上に達したという。
南京市科技局副局長の呉瑕氏は、「『十三五』以来、南京は、人材チームが大株主となる市場化されたオペレーション、プロのマネージャーによる管理を特徴とする新型研究開発機関を積極的に増やし、新しいインセンティブ制度で大学や研究院・研究所、科学研究者など各方面の意欲を引き出し、研究成果の事業化に存在する『ラストワンマイル』の問題を効果的に解決してきた」と説明する。
現在、市全域で、新型研究開発機関の人材チームの平均持ち株比率は56%となっており、最高で90%に達する。同時に、各新型研究開発機関は自身の結び付きと研究開発実体としての優位性を存分に発揮し、技術事業化と企業育成の両立を堅持し、科学技術と経済との密接な融合を促進した。現在、市全域で新型研究開発機関が累計6,000社以上の科学技術型企業をインキュベートし、生み出した特許総数は6,865件に達する。
「一核三城一圏」で、重大な基礎研究プラットフォームを配置
情報技術の発展にともない、ネットワーク通信技術は人と人との通信から、人と機械、モノとのユビキタスでスマートな連携へと発展し、工業インターネットやIoV(Internet of Vehicles)など多くの新しい応用シーンが生まれ、人々の仕事や生活、社会・経済に大きな発展のチャンスをもたらした。
しかし、中国はネットワーク通信分野において、ネットワーク・オペレーションシステム技術の立ち遅れ、コアチップの明らかな欠点、サイバーセキュリティ上の深刻な危険性といった重大なリスクにも直面している。
2018年に設立されたネットワーク通信・安全紫金山実験室は、近年、世界の科学技術の最先端を見据えて、学科の最先端基礎理論を探求し、既存の概念を覆すような技術を開発し、独自のイノベーションを実現した。
ネットワーク通信・安全紫金山実験室科学研究部長の斉望東氏によると、実験室は今年、華為(ファーウェイ)などと共同で、世界初の確定性広域ネットワーク試験を展開し、北京や南京、上海、鄭州、武漢、合肥など13のコアノードをカバーする大規模なテスト環境を構築。2,000キロ以上の伝送距離と、100マイクロ秒以下の遅延ジッタ抑制を初めて実現したという。
南京市委員会イノベーション弁公室の専任副主任である陳為生氏は、「近年、南京では重大プラットフォームを建設し、オリジナルイノベーションを強化してきた。総合的科学センターの計画を核心的基礎と戦略措置とすることを堅持し、『一核三城一圏』の配置に従って、麒麟科学技術城や紫金山科学技術城などの建設を促し、多くの重大基礎研究プラットフォームを配置してきた。現在、すでに5Gミリ波位相配列チップ、世界初の大規模ネットワークオペレーションシステム、マイクロインターフェース反応強化、化学工業排水『ゼロ排出』といった一連の重大成果を上げ、技術的なブレイクスルーを成し遂げた」と述べた。
また呉氏は、「イノベーション都市建設において人材を第一の資源とすることを堅持し、人材特区、個人所得税インセンティブ、住宅購入、根回しによらない人材『推薦制』などの措置を相次いで打ち出してきた。現在、南京市には科学技術分野でトップクラスの専門家148人が集まっており、イノベーション型の企業家344人を育成し、国内外のハイレベル起業人材3,715人を誘致し、ハイテク企業の起業を推進した。また、国家ハイレベル人材計画に選ばれた人数は、全国全省で3年連続上位に入った」と述べている。
※本稿は、科技日報「南京何以厚植"科創森林"」(2020年11月5日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。