第170号
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自動運転の実用化に必要な技術的問題―あと10%が未解決

2020年11月12日 馬愛平(科技日報記者)

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北京市海淀区稲香湖路の百度自動運転タクシーの指定乗車地点で乗車する市民。撮影・新華社記者 任超

 自動運転の技術的問題の9割は既に解決されているものの、残りの1割の問題、例えば、たくさんの「コーナーケース」(めったに発生しない厄介なケース)を解決するには、これまでよりもさらに多くの気力や労力を費やさなければならない可能性がある。

 江蘇省蘇州市で10月21日、第5世代移動通信システム(5G)を活用した中国初の常態化運用の無人路線バスの営業が始まった。蘇州の高速鉄道ニュータウンに登場したこの無人路線バスは、一般道で運行され、時速20~50キロの速度で走行することが可能だ。さらに、歩行者や他の車両に道を譲る、車線変更をする、自動方向転換をする、信号を認識するなどの基本的な機能を備えているだけでなく、都市の各種複雑な交通シーン、例えば、道を渡る人や車で混雑している交差点、割り込み、飛び出しなどにも対応することができる。

 北京では、これより早い10月12日に、無人の自動運転タクシーの試乗が始まった。試乗できるのは海淀、亦荘などのエリアで、当日の配車依頼数は2,600件以上に達した。また、今年4月には、長沙でも無人の自動運転タクシーのサービスが全面的にスタートした。

 自動運転サービスが各地でスタートしているということは、その商業化が目前に迫っているということなのだろうか?

商業化の絶好のチャンス到来

 現在、中国では自動運転はどの程度実用化し、発展しているのだろう?

 自動運転スタートアップ企業の軽舟智航の共同創始者の一人である于騫最高経営責任者(CEO)は取材に対して、「2019年12月、中国国内で初めて新インフラという概念が打ち出され、新たなトレンドを巻き起こした。新インフラには、5G、モノのインターネット(IoT)、産業のインターネット、衛星インターネット、人工知能(AI)、クラウドコンピューティング、ブロックチェーンの7分野が含まれる。うち、自動運転ソフトウェアのコア技術である5G、AI、ビッグデータセンター(クラウドコンピューティング)が3大分野だ」と説明する。

 そして、「自動運転はこれらの分野が交差するところに位置しており、新インフラの実用化の典型的なケースだ。加えて、近年、スマート都市、スマート交通関連の政策が整備されており、中国国内における自動運転の商業化は絶好のチャンスを迎えていると言えるだろう」との見方を示す。

 また、「実用化を全体的に見ると、ここ数年、自動運転業界で起業した企業の状況を見ただけでも、2018年を境に、無人の自動運転の分野では確かに、起業のゴールデンタイムが2度あった」という。

 1度目のゴールデンタイムは、2015年から2017年で、その3年の間に、自動運転企業が続々と登場した。この段階では主に、製品規模の試算やチームの背景に基づいて融資を得ていた。当時、市場の「レベル4(高度運転自動化)」の自動運転実用化に対する期待は高く、多くの楽観的な直近の目標も制定されていた。

「直近の目標が達成できなかったため、市場は落胆し、実用化の時期に関する見方を変える必要が生じ、また、その際に、投資の規模縮小にも遭遇した。そのため、自動運転分野の企業から発信される情報は少なくなった」と于CEO。

 2019年以降、人々はレベル4の自動運転に対して理性的な期待を持つようになり、技術が一層成熟するにつれて、無人の自動運転の実用化をめぐる市場のニーズも高まった。同時に、中国政府も各種政策を続々と打ち出し、相応の法律法規も段階的に整備されるようになり、ハードウェアのコストが目に見えて下がり、レベル4の自動運転の実用化に向けた短期的な見通しができるようになった。

 于CEOは、「現在、業界内では、一般道で人を乗せて中・低速で走る自動運転の実用化は1~3年後、一般道で荷物を載せて中・低速で走る自動運転の実用化は3~5年後と予想されている。ここ数年で各種物流車両や空港のランプバスの試験運行が始まったものの、運行は敷地内に限られている。ここで言う実用化というのは、一般道での走行の実現だ」と説明する。

無人マイクロバス実用化の可能性

 一部で実用化が進んでいるということは、自動運転の商業化は間近に迫っているということなのだろうか? 自動運転の商業化まで、あとどれほどの道のりがあるのだろう?

 于CEOによると、「自動運転の商業化が可能かどうかは、自動運転のレベルやシーンによって異なる。例えば、レベル2の自動運転(部分自動運転)は、多くの量産車で実用化されている」という。

 しかし、「無人の自動運転タクシーは、現時点で、市場規模が最も大きく、最も課題の多い部分でもある。そして、都市の複雑な交通環境において、無人の自動運転を実現するのが最終的な目標。だが、無人の自動運転タクシーの実用化の周期は比較的長い。速度が速く、固定の路線を走るわけではないため、実用化の難度は高い」という。

 現在、業界内では、無人の自動運転マイクロバスの一般道における商業化に期待が高まっている。中国国内の多くの都市で現在、常態化運用の無人自動運転マイクロバスの運用がスタートしており、都市における地下鉄との連結やコミュニティのニーズを満たせる。

 例えば、蘇州で今年7月、世界初の都市コミュニティの無人自動運転マイクロバス体験路線が打ち出され、中国初の都市の一般道を走る常態化運用の無人自動運転マイクロバスが実用化され、無人自動運転マイクロバスが都市コミュニティの複数の路線に導入された。蘇州の無人自動運転路線バスプロジェクトでは今後、さらに多くの路線が設置され、高速鉄道ニュータウン周辺9.8平方キロのエリアをカバーし、住民が外出した際の「最後の3キロ」の問題を解決する計画だ。これは、現時点で中国ではカバーするエリアが最も広い無人自動運転路線バスプロジェクトで、唯一の都市の一般道を走る常態化運用の無人自動運転路線バスプロジェクトでもある。

 于CEOは、「無人自動運転マイクロバスが実用化されたシーンでは3つの優位性がある。まず、中・低速のシーンでは、乗客はバスの速度を予測することができ、速度は20~50キロに保たれる。次に、固定の路線では、車両が同じ路線で訓練を積むことができるため、走行の安全がさらに確保しやすくなり、信号優先、早期警報を実現できる。3つ目に、多くの人の外出のニーズを満たすことができ、社会的効率性が高まるほか、乗客は一般道での優先権を享受することができる」と説明する。

 そして、「無人自動運転マイクロバスの応用シーンは、固定路線の中・低速、多くの人の路上での優先権、5Gを活用した路車協調などの優位性を融合させており、レベル4の自動運転を最も早く実用化する場になる可能性がある」との見方を示す。

技術的問題の90%が既に解決

 ある専門家は、「現在、自動運転の足かせとなっている主な難点は、意思決定計画や感知の部分であり、現時点ではその2つの難題の解決策は見当たらない」と指摘する。この指摘に賛成する人も多いが、現状はどうなっているのだろう?

 于CEOは、「意思決定や感知の問題は、自動運転の「尾を引く」問題と言える。自動運転の技術的問題は既に9割がた解決した。しかし、残りの1割の問題を解決するには、これまでと同じ、もしくはより多くの気力や労力を費やさなければならない可能性がある。この1割には、車両が「鴨に遭遇」するまで、エンジニアが「鴨に遭遇する」ことを想定していないなどの『コーナーケース』が含まれている。そのため、『コーナーケース』を発見して、解決しなければならない」と説明する。

 では、『コーナーケース』をどのように発見し、解決すればいいのだろう?

 于CEOは、「大量のデータを収集することだけでなく、自動化生産工場を構築して、有効なデータを収集し続けることがより重要だ。自動化されたツールを通して、使用可能な模型に加工することができる。そして、よりスピーディー、より効果的な方法で、『コーナーケース』に対応することができる」と指摘する。

 于CEOは車両が「鴨に遭遇する」シーンを例に、「そのようなシーンに的を絞って特殊な模型を開発するというのであれば、処理するべきシーンは無限にある。しかし、自動化された方法を活用し、データにタグを付ければ、次のシステムのアップグレードの時にそのような状況をより良い仕方で処理できるようになり、エンジニアの時間をかなり節約できる」と説明する。

 于CEOは最後に、「感知を例にすると理解しやすい。しかし、実際には計画技術も同じだ。車両が正確な計画を制定できるようにするための最も原始的な方法はエンジニアがルールを制定することだ。ただ、大勢のエンジニアがたくさんのルールを制定するという方法は、メンテナンス性がなく、最新のニーズにも対応できない。次に活性化関数を設計することだ。そのことはルールを制定するよりはるかに簡単だ。さらに。システムがデータを利用して活性化関数を自動学習することだ。その過程は、自動化に向けた発展の過程だ」と述べた。


※本稿は、科技日報「自動駕駛真正上路 還有10%的技術難題待解」(2020年10月28日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。