第170号
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「一号産業」の加速を後押し 蘇州ハイテク産業開発区

2020年11月05日 施 為(科技日報特派員)、張 曄(科技日報記者)

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蘇州沃倫韋爾高新技術股份有限公司が生産したスマート医療用自走式台車搬送システム 画像提供:同社

強大な医療機器・バイオ医薬品産業を築く

 9月9日、中国生物工程学会・蘇州ワーキングステーションの第1回マッチング会で、蘇州法蘭克曼医療機器有限公司の責任者は、「今後、医療機器が競うのはイノベーションで、当社のような企業はそれらイノベーションリソースを活用して、イノベーションの要素がつまった『クリエイト・イン・蘇州』に取り組んで、市場の検証を受けなければならない」と、充実感を漂わせながら語った。

 第一期の国家級ハイテク産業開発区、蘇南国家自主イノベーションモデルエリアの中心エリアである蘇州ハイテク産業開発区(パーク)は、これまでずっと蘇州市のハイテク産業の重要拠点となってきた。同開発区は近年、蘇州「一号産業」の発展の足並みに合わせ、医療機器・バイオ医薬品産業の発展に大々的に取り組み、中国科学院蘇州医学工程技術研究所(以下「中科院蘇州医工所」)、東南大学医療機器研究院、蘇州協同イノベーション医療用ロボット人研究院、国仟イノベーション医療科技研究院などの牽引により、医療機器・バイオ医薬品産業は困難をものともせずに、前進し続けている。

 蘇州ハイテク産業開発区の共産党工作委員会副書記、区長を務める毛偉氏は、「江蘇省の『一開発区一産業』という戦略配置において唯一重点的に医療機器産業の発展をサポートする地域である当開発区は現在、十数年の発展を経た医療機器の強固な基板をもとに、市全域のバイオ医薬品産業の2大ランドマークの一つという責任を担っている」と語る。 

根本となる技術の掌握を研究機関が牽引

 蘇州ハイテク産業開発区が8月21日に開催した医療機器産業発展大会で、新契約プロジェクトに参加したメンバーは、中国科学院蘇州生物医学工程技術研究所、中国兵器工業集団第214研究所蘇州研究開発センター(以下「中国兵器214所」)、蘇州協同イノベーション医療用ロボット研究院なども含んでいた。それら研究機関と企業はなぜ一体となって次々と強力な産業の潜在能力をあらわすことができるのだろうか? それは、蘇州ハイテク産業開発区の意思決定者が十数年前に行ったレイアウト、計画と密接な関係がある。

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中国科学院蘇州生物医学工程技術研究所の外観 画像提供:同研究所

 2008年、蘇州ハイテク産業開発区に、中国科学院蘇州生物医学工程技術研究所が設立され、1年後には、中国兵器214所が同開発区に進出した。この2つの機関は共同で、医療機器とバイオ医薬品産業の根本となる技術の自主コントロールを実現させた。

 2018年、中国科学院蘇州生物医学工程技術研究所が担当した国家重大科学研究設備の研究・製造プロジェクト「超解像顕微鏡(SRM)コアパーツ・システム研究・製造」が検査をクリアした。この技術のブレイクスルーにより、完全自主イノベーションを実現し、この分野の海外の独占状態が打破された。例えば、非常に感度の高いカメラモジュールのコア技術----EMCCDチップは中国兵器214所が製造した。

 中国科学院蘇州生物医学工程技術研究所テクノロジー発展部の劉広興部長は、「医療機器産業は、学際性の程度が高い分野で、臨床、市場が密接にコミュニケーションをとる必要がある。企業、大学、研究所、病院の間の産・学・研・用(実践運用)連携が絶対に必要だ」との見方を示す。これも、同研究所と中国兵器214所が今回、「医療用センサー実用化応用プラットフォーム」提携合意書に調印した理由だ。

 中国兵器214所マイクロ電子・システム技術重点実験室には、新たに研究開発した各種MEMS(微小電気機械システム)センサーが整然と並べられている。それら製品技術と、中国科学院蘇州生物医学工程技術研究所のニーズが、ぴったり一致している。

 中国兵器工業北方電子研究院の副総経理で、中国兵器214研究所副所長の徐春葉によると、「MEMS圧力センサー、差圧センサーは人工呼吸器に応用することができ、全固体酸素濃度センサーは、酸素発生器に、非接触型赤外線センサーは、リハビリ・物理療法の分野の医療用ウェアラブルデバイスに、スキャニングミラー製品は医療用内視鏡にそれぞれ応用することができる」。

 基となる技術は、こつこつとした積み重ねが必要で、一朝一夕でできるものではない。それら、「国家」の名を背負う大きな機関が雑草の中からそびえたつように成長を遂げ、科学研究に没頭したからこそ、蘇州ハイテク産業開発区の医療機器とバイオ医薬品産業は、一連の連鎖反応を産むことができた。現在、中国科学院生物医学工程技術研究所は研究室を9室、インキュベーションプロジェクト企業57社設立し、今年5月の時点で、人員総数は941人に達した。

キャリア設置で企業の成長が加速

 蘇州ハイテク産業開発区管理委員会の副会長を務める、陶冠紅・副区長は、「医療機器とバイオ医薬品産業は蘇州ハイテク産業開発区において、ゼロからスタートし、研究開発の周期は長い。しかし、当開発区は十年以上の経験を積み、多くの企業が続々と医療機器登録証を取得しており、爆発的成長の時期に差し掛かっている。研究機関の牽引の下、蘇州ハイテク産業開発区の医療機器とバイオ医薬品産業は現在、毎年約30%のペースで、急速に成長している」と説明する。

 蘇州ハイテク産業開発区は8月21日だけで、51の産業プロジェクト、48の人材プロジェクトを誘致する合意書に調印した。

 実際には、蘇州ハイテク産業開発区では、医療機器と生物医療の分野のリーディングカンパニーやイノベーション企業が既に頭角を現している。速邁医療は、中国国内の口腔医療業界に細分化された分野を築いたブランドだ。法蘭克曼の外科の吻合器の市場シェアは世界3位、中国で1位となっている。康多機器人は、世界初の5G遠隔外科手術の動物実験を実施し、心擎医療は、中国初のリニアモータ駆動型全人工心臓の生産ラインを設置した。

 企業200社以上が集まる江蘇医療機器テクノロジー産業開発区では、新世代医療機器企業が驚異的なペースで発展を遂げている。さらに多くの企業が急速に発展し、集まってくるためには、関連のキャリアプラットフォームが絶対に必要だ。蘇州ハイテク産業開発区という産業プラットフォームはますます強大になっている。今年4月、敷地面積約9.5ヘクタール、建築規模28万4,000平方メートルの江蘇医療機器テクノロジー産業開発区アクセラレーターが開園し、「稼働」が始まった。第一期として蘇州恒瑞健康科技有限公司、蘇州康多機器人有限公司、虎丘影像(蘇州)有限公司、諾一邁爾(蘇州)生命科技有限公司など企業25社が入居した。

 さらに、蘇州ハイテク産業開発区はたくさんの「産業開発区」キャリアを建設している。例えば、楓橋街道では、建築面積5万8,000平方メートルの蘇州生命健康小鎮産業開発区一期プロジェクトが完成し、間もなく使用が始まる。そして、東勱医療や安酷生物、中日康養ロボットなど優良企業23社が既に進出し、投資額は20億元(約313億円)に達している。滸墅関では、単体投資総額が50億2,000万元(約786億円)に達する陽山バイオ医薬のイノベーション拠点が建設中で、同拠点には、梅里埃の体外診断試薬、長光華医の全自動化学発光免疫分析システムなど3プロジェクトが進出する計画だ。

的を絞ったサポートで産業台頭をバックアップ

 8月21日、中国生物医学工程学会(蘇州)テクノロジー経済融合営業所が正式に発足した。蘇州ハイテク産業開発区集団は、銀行8社と共同で、江蘇医療機器テクノロジー産業開発区の企業の信用供与額を400億元(約6,260億円)とした。蘇州テクノロジーシティ管理委員会は、蘇州大学付属第一病院など5病院と、蘇州市医療機器・バイオ医薬品医学実用化センターを設立することで合意した。

 実際には、「プラットフォーム+資金源」という組み合わせの提供は、蘇州ハイテク産業開発区では早くから前例があった。数年前、同開発区内に、「国家チーム」に所属する検査サービスプラットフォームが設置された。

 江蘇省医療機器検査所・蘇州分所検査室の室長を務める、シニアエンジニアの繆佳氏は、「医療機器製品を発売するにあたり、当検査所のような専門機関が発行した登録検査報告がなければ、医療機器登録証の申請ができない。当検査所は医療機器産業開発区の中にあり、全ての企業の目と鼻の先にある。国家10大医療機器検査所の一つである当検査所はここ数年、ハイテク産業開発区の企業284社に3,029回の検査サービスを提供してきた」と説明する。

 その他、ハイテク産業開発区は江蘇省医療機器ユーザビリティテストプラットフォーム、匯智贏華医療テクノロジーイノベーションプラットフォーム、華聯美徳動物実験訓練センター、巨翊テクノロジー医療機器CDMOサービスプラットフォームなどを設置し、それらプラットフォームが産業全体の「護衛艦隊」となっている。

 イノベーションプラットフォームやインキュベータープラットフォーム、サービスプラットフォーム、キャリアプラットフォームなどができると、金融基金も自然と集まってくる。開発区内に最近、初のバイオ医薬品(医療機器)特定項目ファンド・オブ・ファンズが正式に設立され、基金総額は100億元(約1,565億円)に達した。現在、同開発区には、21の基金投資により、117の医療プロジェクトが実施されており、投資額は28億4,900万元(約44.6億円)に達している。

 毛氏は、「当開発区は、全力で最も整備された『産業チェーン』を構築している。開放的な優位性を活用して、着実に成長する医療機器企業の『森林を栽培』しながら、企業がテクノロジー研究開発や自主イノベーションを強化できるよう全力でサポートして、産・学・研・医・用が一歩踏み込んで融合するイノベーション体系の構築を加速させている。その他、的を絞った『要素供給』を提供し、専門サービスプラットフォームとしての役割をきっちり果たし、キャリアプラットフォームとしての役割を強化し、最も親切な『発展エコシステム』を全力で構築する」と語る。

 現時点で、蘇州ハイテク産業開発区には、医療機器関連企業が300社以上集まり、生産高は200億元(約3,130億円)に達し、市レベル以上のバイオ医薬品の分野のテクノロジーハイレベル人材が42人いる。また、テクノロジー成果の産業化の成果が表れ始めており、認可された省、市のテクノロジー成果実用化プロジェクトは80プロジェクトに達している。


※本稿は、科技日報「蘇州高新区按下"一号産業"加速鍵」(2020年10月13日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。