福建省漳州市、工業新都市を始動―「強力なエンジン」で新たなサーキットを制す
2020年11月13日 謝開飛(科技日報記者)、林開芸、洪輝南(科技日報特派員)
福建省漳州市は新たな科学技術革命と産業革命のチャンスをつかむ。イノベーション・創業のための常態的な競争の場を作ることで、人材、技術、資本等、イノベーション・創業に向けたさまざまな要素を集約し、統合する。
人工知能から枝分かれした重要な技術として、外観検査技術は「工業の目」と呼ばれて称賛されており、スマートフォン筐体の欠陥検査という新たなサーキットにおいて、漳州智覚智能公司はカウンターアタックを実現している。「かつては国内メーカーが輸入していたが、高価な上に使いにくかった。当社の製品はその半値を少し超える位で、性能面ではより優れている」と、同社のテクニカルディレクターを務める游旭新氏は語る。
今年の福建省イノベーション・創業大会では、技術面でリードし、商業価値の高い相当数のイノベーション・創業プロジェクトやチームが漳州市から頭角を現し、全省で最多の受賞数となった。游氏の担当する「光沢面マシンビジョン選別システム」もスタートアップ部門で一等賞を獲得し、全国次世代情報技術業界の決勝戦に臨むこととなった。
福建省イノベーション・創業大会のスタートアップ部門で一等賞を獲得した「光沢面マシンビジョン選別システム」プロジェクトの作業員によるテスト調整の様子(撮影:林秀丹)
漳州市科技局の共産党党組書記であり、局長も務める周俊雄によれば、漳州市は新たな科学技術革命と産業革命のチャンスをしっかりとつかみ、イノベーション・創業のための常態的な競争の場を作ることで、人材、技術、資本等、イノベーション・創業に向けたさまざまな要素を集約・統合するという。また、国内外の高度人材が創業し、イノベーションを行うための夢の工場を設立し、コアテクノロジーを有する一定数のテクノロジー・イノベーション型企業を生み出し、工業新都市におけるイノベーション型経済の大いなる発展を推進しようとしている。
業界の弱みを解決し、新たな市場構造を切り開け
スマートフォンの欠陥検査は瞬く間に終わってしまう。「当社の製品なら、スマートフォン6台を1回で検査できる。時間はわずか2秒で、96%の精度だ。このシステム1台で20人分の仕事ができる。コスト削減効果は明らかだ」と游氏は話す。
近年、モバイルインターネットは急速に発展しており、スマートフォンの外観に対する消費者の要求はさらに高くなっている。しかし、これまでのスマートフォン表面の欠陥検査では目視検査が採用されてきたため、労働力コストが高く、効率が悪かった。メーカーの中には標準的な照合アルゴリズム等の検査方式を採用するものもあったが、検査漏れや検査ミスの問題が出やすかった。このような業界の弱みを解決するために、游氏は開発チームを取りまとめ、「光沢面マシンビジョン選別システム」のプロジェクトを立ち上げ、難題に取り組むことにした。
機械が人の目の代わりとなって検査や判断をする上で、外観検査装置がこのシステム(産業用ロボット)の鍵となった。大会での取材によれば、游氏の開発チームはカメラ、光源、光源駆動用モーター、連結駆動ベルトコンベア等により構成される新型の外観検査装置を自主開発している。このいわば千里眼のような装置は3D立体カメラを7台も備え、CCDカメラを合計15台、光線を30射設置し、多数のカメラを使った多角的な現場シミュレーションによる人工的な実際の検査方式を実現している。
これを基盤に、同開発チームは世界最大規模のスマートフォン筐体の欠陥データベースを初めて作成し、350万あまりの欠陥写真を集めた。これには、各種外観不良や開孔サイズ欠陥等のスマートフォン筐体データをカバーしており、自主学習の可能なコアアルゴリズムのソフトウェアを開発できたことから、スマートフォン筐体にひそむスクラッチ痕や欠陥の正確な識別、検出が可能になった。
現在、中国の外観検査市場は100億元規模に達している。「このアプリケーションは韓国や日本でも大量のニーズがある」と游氏は表明する。今後、同社は漳州市を拠点に近い中国の南方や珠江デルタの5Gスマートデバイスの顧客にサービスを提供し、海外輸出の準備も進め、同社の保有する多角度からの光沢面検査アルゴリズムを海外の各種光沢面製品の検査に応用する予定だ。
オーダーメイドと「インターネット+製造業」で新たな業態を生み出す
現在、漳州市は工業新都市の建設に力を入れており、「インターネット+、AI+」等を発展の主線に据え、オーダーメイドや業界間融合等の特徴を持つ新たな業態、新たなモデルのテクノロジー・イノベーション型企業を育成している。その例として、同発糖業、龍海協能等が今年の大会でベンチャーキャピタルの注目を集め、次々にライバルを倒し、全国大会に歩みを進めた。
糖類は人の身体にとって重要な栄養素の一つである。推算によれば、中国では年間1,600万トンの糖類が使用され、生産高は1,000億元(約1.56兆円)に達する。「インターネット+」の急速な発展に乗じ、同発糖業公司はまったく新しい糖類の事業をスタートさせた。たとえば、世界先進水準の中国初のショ糖液生産ラインを開発し、従来の製糖業で採用していた化学的な加工技術をくつがえし、全国で初めて製糖業のグリーン生産を実現した。また、スマート化制御システムによりリモート制御を実現し、飲料、ジャム、果物の砂糖漬け等のメーカーのニーズに応じて色指数や糖分をカスタマイズした。直接使用が可能なショ糖液により、全国の大型糖類消費企業等と提携し、ショ糖液の生産ラインのプラント建設を直接行い、同社の産業の全国的な配置、再現を急速に成し遂げた。
「従来の白砂糖の製造技術に比べ、この技術ではサトウキビ原料糖を原料として、製造技術のコアとなる純粋物理的な脱色や不純物の除去のみを行い、蒸発や篩い分け等の工程を削減することによって、70%の省エネルギーと固体廃棄物・排水の95%の削減を実現した。これにより、糖類消費企業のコストを効果的に削減でき、中国における糖業のモデルチェンジとレベルアップを推進した」と同発集団の黄芬副総裁は語る。
一方、現在では新規インフラ建設が新たな風穴となって、駆動用バッテリー産業の急速な発展を牽引しているが、それに伴い廃棄電池の処理問題が顕著になり、2025年には市場規模が400億元近くになることが見込まれる。龍海協能新能源公司における退役後の駆動用バッテリーのカスケード利用プロジェクトは、世界再先端の電池の能動的均衡管理技術により、市場のブルー・オーシャンを開拓するものである。同社関連のマネジャーである盧敏艶氏によれば、このプロジェクトはフロントエンドでは新エネルギー自動車の航続距離の問題を解決することができる。たとえば、厦門金龍集団等の完成車企業で電池の能動的均衡管理システムを追加設置すれば、電池の寿命を30%以上伸ばすことができ、アフターサービスのコストを数千万元節約できる。また、バックエンドでは電池回収の問題を解決することができ、駆動用バッテリーとして不要になった後は基地局やエネルギー貯蔵システムの電源とすることができる。最終的には、廃リチウム電池を分解・回収し、ニッケル、コバルト、リチウム等の原材料を抽出して循環再利用を行う。
「大量の不要になった駆動用バッテリーのデータをベースに、能動的均衡チップ、知能状態の推算、ビッグデータ・クラウドコンピューティング等の技術を支えとしてバッテリーの全ライフサイクルを管理するビッグデータのクラウド管理プラットフォームを構築し、新エネルギー自動車の電池の回収とトレーサビリティを実現し、都市エネルギーのIoTを構築し、バッテリーの全ライフサイクルにおける価値を高める」と盧氏は語る。
「専門化、精細化、特色化」した企業を育成し、全サービスチェーンにわたる称号を築け
「イノベーション・創業大会の場を通じて2,000万元(約3.1億円)を引き続き調達し、次世代の抗ウイルス内服液製品の研究開発のプロセスを加速させ、新型肺炎に対する常態的な封じ込めを支援したい」と、美拉得康制薬公司の研究チームリーダーで博士号を持つ薛鈺氏は語る。大会参加後、このプロジェクトは鐘南山院士の名を冠する科学イノベーション基金等、多数の投資機関から注目を集め、福建省の財政資金と漳州市国家高新区から2,000万元のプロジェクト経費の支援を獲得した。
それは、同社がイカの頭頂骨から新型コロナウイルスに抵抗性を持つ秘密兵器----グルコサミン(POLY1)を抽出していたからだ。新型コロナウイルスのスパイク(S)タンパク質に感染した動物にPOLY1を用いた結果、顕著な寛解効果があることを彼らは発見した。この研究成果は米国のコールド・スプリング・ハーバー研究所の学術誌で発表された。現在、同社は清華大学、香港中文大学等の専門家を集めた研究チームにおいて、世界最先端レベルの技術により調製されたPOLY1を採用し、第1世代の静菌スプレーを開発した。この製品はウイルス感染に良好な予防効果を示しており、すでに欧米8か国の市場に参入している。
実際のところ、イノベーション・創業大会は数年連続の開催を経て、参加者数も影響力も年々拡大している。游氏によれば、福建省大会が終わったばかりだが、すでに多数のベンチャーキャピタルや銀行等から投資の問い合わせを受けており、スマートフォン関連メーカーからの商談も来ている。同発糖業、龍海協能は大会の場を通じ、それぞれ5,000万元(約7.8億円)と1億元(約15.6億円)の融資を受け、全産業チェーンにおけるイノベーションを行い、全国での布石を加速させることを計画している。
既存産業で新たな機能を発掘し、新興産業で新たな可能性を発見する。モデルチェンジとレベルアップにより、新たなサーキットを制すための重要な段階で、漳州市はイノベーション・創業大会の場を借り、先進的製造業や環境保護等の分野に注力し、「専門化、精細化、特色化、斬新化」した科学技術企業を育成し、産業のモデルチェンジ・レベルアップを加速させようとしている。たとえば、立亜特陶公司は厦門大学と提携して製織時に起こりやすい繊維折損等の問題を突破し、国内先進レベルの高性能セラミックウールの生産技術を開発し、欧米諸国によるそれまでの独占を打破した。また、安泰新能源は西安交通大学と協力し、ソーラー発電スタンドのAIスマート・スポットライトシステムの研究開発を加速させ、世界の60を超える国と地域にエコ型の型材プランを提供し、中国最大のソーラー発電スタンドのソリューションプロバイダーの一つとなった。
漳州市科技局の二級調査研究員である林志宏によれば、将来的に、同局は大会に参加した優秀な企業や研究開発チームに対して、引き続き政策+サービスによる複数の支援を提供し、科学技術政策、資金、技術移転、成果の実用化によるレバレッジ効果を拡大する。また、クラウドイノベーションの空間や科学技術インキュベーション、アクセラレーター等のイノベーション・創業プラットフォームの建設を進め、国内外の高度イノベーション人材や研究チームを誘致し、科学技術イノベーションの源を経済の主戦場に注入し、工業新都市の建設の加速のために新たなエンジンを集約させる。
※本稿は、科技日報「搶占新賽道 福建漳州啓動工業新城発展"強引擎"」(2020年10月29日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。