第171号
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15年後に新エネルギー自動車は「どう走る」か?―新たな発展のロードマップ

2020年12月09日 李 禾(科技日報記者)

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視覚中国より

「新エネルギー自動車産業発展計画(2021-2035年)」では、2035年に中国の新エネルギー自動車のコア技術を世界の先進水準に到達させ、品質・ブランドともに高い国際競争力を備えること、インフラ体系を整備し、充電インフラのサービス水準を高めることを打ち出している。

 新エネルギー自動車は世界の自動車産業においてモデル転換と発展の主な目標となっており、世界経済の持続的な発展を促す重要なエンジンでもある。中国にとって、新エネルギー自動車の発展は自動車大国から自動車強国へと歩みを進める上で通らねばならない道であり、気候変動への対策とグリーン発展の推進のための戦略的措置でもある。2010年以降、中国の新エネルギー自動車産業は年平均2倍のスピードで急速な成長を遂げた。2019年に新エネルギー乗用車の販売台数は106万台となり、5年連続で世界最多となった。「省エネルギー及び新エネルギー自動車産業発展計画(2012-2020年)」の終了を機に、中国の新エネルギー自動車産業は今後、どのように発展していくべきだろうか。

 11月2日、国務院弁公庁は「新エネルギー自動車産業発展計画(2021-2035年)」(以下、「計画」)を公布し、戦略的チャンスを先取し、インフラ設備や情報通信等の分野における強みを存分に発揮し、産業のコアコンピタンスの強化を続け、新エネルギー自動車産業において高質かつ持続可能な発展を推進することを強調した。

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視覚中国より

高い競争力を備え、コア技術を世界の先進水準に

「計画」は8章からなり、具体的な内容として5つの重点任務と5つの特別任務、5つの保障措置からなる「3つの5」を含む。工業情報化部の辛国斌副部長は、「新エネルギー自動車産業の綱領的文書として、『計画』のハイライトは『4つの新』に集約される。すなわち、新たな情勢に順応し、新たな要求に適応し、発展の新たな道筋を提示し、発展の新たな方向性を明確にすることだ」と説明する。

 新たな情勢とは、現在、世界で新たな科学技術革命と産業革命が大きく進展するのに伴い、新エネルギー自動車は新エネルギーや新材料、インターネット、ビッグデータ、人工知能等のさまざまな革新的技術と融合し、自動車を単なる交通手段からスマートデバイス、エネルギー貯蔵ユニット、デジタル空間へと転換させ、エネルギー消費構造の最適化、交通システムと都市運営のスマート化水準の向上を促していることである。そして、「市場志向」を強調し、資源配置における市場の決定的作用を存分に発揮させ、技術ロードマップの選択や生産サービス体系の建設等の分野における企業の主体的地位を強化し、産業発展のための良好な環境を創出するべく、戦略的計画の指導や標準・法規の制定、品質安全の監督管理、市場秩序の維持、グリーン消費の指導等の分野において政府の役割をより良く発揮することが求められている。

「計画」では、2025年までに新エネルギー自動車の市場競争力を著しく強化させることを打ち出し、新エネルギー自動車の新車販売台数を自動車全体の20%前後に到達させることと、「2035年に中国における新エネルギー自動車のコア技術を世界の先進水準に到達させ、品質・ブランドともに高い国際競争力を備えること」という長期目標を提示している。

 辛副部長によれば、現在、新エネルギー自動車は従来型ガソリン車に比べ、調達コストや充電の利便性等の分野でまだ一定の隔たりがあるため、2025年までに新エネルギー自動車の新車販売台数を自動車全体の20%前後に到達させるという目標を実現するには、供給と需要の両面から推進しなければならない。供給サイドではコスト削減や安全性の向上等の重要な要素で引き続き技術的難題の解決を強化し、先進的・実用的かつ安心な製品を開発し、市場競争におけるさらなる優位性の形成を加速させる必要がある。また、需要サイドでは政策主導を強化し、新エネルギー自動車の使用を奨励する優遇政策を公布し、交通管理措置の分類・最適化を行い、バッテリー交換等のビジネスモデルの革新を奨励するとともに、公共車両の電動化における主導を加速させ、新エネルギー自動車の「下郷」(農村部への普及)を強化し、ユーザー体験を向上させ続けなければならない。

 全国乗用車連席会の崔東樹副秘書長によれば、消費電力については、「計画」では、2025年までに純電気乗用車の新車の消費電力を平均12kW/100kmまで削減するという目標を打ち出している。この目標は、意見募集稿の11kW/100kmから1kW引き上げられているが、実質的には新エネルギーにおけるハイテクの発展の奨励であり、それに向けてより多くの成長の余地が与えられるべきである。

イノベーション駆動、「三縦三横」による研究開発体制の深化

 辛副部長によれば、中国の新エネルギー自動車産業は現在の段階まで発展したが、それでもなおコアテクノロジーにおけるイノベーション能力が弱く、品質保障体系の整備が待たれ、インフラ建設が立ち遅れ、サービスモデルの革新・整備が待たれ、産業エコシステムの整備が足りず、市場競争が激化している等の問題がある。

 科学技術部高新技術司の秦勇司長は、新エネルギー自動車全体の発展の経験から見れば、テクノロジー・イノベーションによる発展の下支えと牽引の役割は非常に顕著だと語る。

 目標の実現を促すために、「計画」では「イノベーション駆動」という基本原則を打ち出し、「技術イノベーション能力の向上」に一章を割いた上に、「三縦三横」における研究開発体制の深化を強調している。「三縦」とは純電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池自動車を指し、「三横」とは駆動用バッテリーと管理システム、駆動用モーターとパワーエレクトロニクス、ネットワーク化とスマート化技術を指す。

「駆動用バッテリーという新エネルギー自動車のコア部品については、バッテリーの新たな体系、新たな材料、新たな製造技術、新たな構造の面で先進的な計画を立て、高い比エネルギー、高い安全性という目標に向けた発展を促す。燃料電池については、プロトン交換膜、触媒、カーボンペーパー等のコア材料ならびに水素エネルギー関連のコア技術における難題の解決を重点的に支援し、燃料電池の高性能、長寿命、低コストについて注力する」と秦司長は語る。そして、「スマート化、ネットワーク化および軽量化に関しては次世代情報技術への布石を加速させ、車載OS(Car-OS)およびコンピューティングプラットフォーム、車載用チップ等、自動運転技術および装備の研究開発に力を入れる。また、新材料技術への布石を強化し、SiCパワーデバイス、軽量化素材、低コストの希土類永久磁石材料等の研究開発を支援する。国家新エネルギー自動車技術イノベーションセンター等の科学技術イノベーションプラットフォームに対する支援を強化し、新エネルギー自動車業界における国の戦略的科学技術の能力を構築し、業界における基礎技術の研究開発を支援するのだ」という。

 また、辛副部長によれば、イノベーション駆動の強化に加え、標準主導にも力を入れ、路車協調システム(Intelligent Vehicle Infrastructure Cooperative Systems, IVICS)をベースとし、中国の特色を体現した標準体系の形成にも力を入れる。そして、5G通信基地局等の配置を加速させ、スマート化道路の改造・レベルアップを推進し、有人有物試験および大規模応用モデル事業等の実施を計画する。

インフラの整備、充電・バッテリー交換ネットワークの建設

 中国は世界最大規模の充電ネットワークをすでに完成させている。今年9月までに全国で建設された充電スタンドは4万2,000ヶ所、バッテリー交換スタンドは525ヶ所、各種充電ポールは142万ヶ所であり、車両対充電ポールの設置比は約3.1∶1である。

「充電・バッテリー交換インフラ設備は新エネルギー自動車の発展において重要な段階であり、産業普及の重要な支柱である。全体的に見て、新エネルギー自動車の普及・応用規模に比べ、充電設備の建設・発展は消費者のニーズを満たしていないため、建設を強化し、構造・配置を最適化する必要がある」と辛副部長は説明する。

「計画」では「インフラ体系の整備」が提唱され、充電・バッテリー交換ネットワークの建設を推進すること、ならびに充電・バッテリー交換インフラを科学的に配置し、都市・農村建設計画、電力網計画と不動産管理、都市駐車場等の統一・調和を強化することを打ち出している。「インターネット+」とスマートエネルギーをよりどころに、スマート化水準を向上させ、スマート低速充電を主体とし、緊急時の急速充電を補助とする住宅エリアでの充電サービスモデルを普及させ、適度に先進的で、急速充電を主体とし、低速充電を補助とする高速道路および都市農村公共充電ネットワークの構築を急ぎ、バッテリー交換モデルの応用を奨励し、充電の利便性や製品の信頼性等を高める。

 財政部の提供データに基づき、地方における充電インフラの建設の加速を支援するため、中央財政は2014年から地方のインフラ設備の建設に対するインセンティブを開始している。現在までに、中央財政はすでに奨励金を合計45億元(約715億円)支給しており、中央と地方が協力して推進するという発展の構図が形成されている。

辛副部長は「かつては走行距離の心配から、ユーザーは新エネルギー自動車では長距離を走ることはできず、都市内でしか走行できなかった。しかし現在では、一部の高速道路ではネットワーク化された充電・バッテリー交換設備が建設されている」と言う。走行距離の不安を解決するには、充電ポールの建設強化を続けるほか、既存の充電ポールの十分な利用という問題について検討する必要がある。現行の情報管理技術を利用し、すべての充電ポールを1つの管理プラットフォームに組み入れ、可能な限りシェアするのも1つの方法だ。市場規模の拡大に伴い、充電ポールの建設と配置もさらに合理化・大規模化されるだろう。

 また「計画」では、充電インフラのサービス水準の向上も打ち出している。企業が共同で充電設備の運営サービスプラットフォームを構築し、相互利用や情報共有、統一決済を実現するよう指導する。充電設備と配電システムの安全監視・警報等技術の研究開発を強化し、充電設備の安全性、一致性、信頼性を高め、サービスの保障水準を向上させる。


※本稿は、科技日報「未来15年新能源汽車"怎麼跑"?這份文件指明発展新路径」(2020年11月12日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。