第172号
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中国の新型コロナ対策密着レポート

2021年01月26日 杜瑋・李想俣/『中国新聞週刊』記者 神部明果/翻訳

疫学調査追跡、大規模なPCR検査および隔離治療などの手段により、中国は新型コロナウイルス感染症の局所的大発生を完全に押え込むことに成功し、奇跡的に少ない感染者数を維持している。冬の第二波到来が懸念されるなか、中国の「動的感染撲滅策」はどのように継続されていくだろうか。

※本記事は2020年10月26日刊行の『中国新聞週刊』の記事を翻訳したものです。

 2020年10月中旬、青島胸科医院で同病院との高い関連性のある新型コロナウイルスの無症状感染者3人が確認されると、全市民を対象とする壮大かつ大々的な検査が青島市で実施された。あらゆるメディアがこれを「青島速度」として報じ、欒新(ルアン・シン)青島市副市長は検査人数と所要時間について新記録を更新したとコメントした。ボランティアはメガホンを持ち、集合住宅の1階でPCR検査を受けるよう住民に向かって高らかに呼びかけた。数千カ所にものぼる検査場所には長蛇の列ができ、防護服を着用し準備万端の医療スタッフが彼らを迎えた。

 感染源が発表された10月16日当日、過去5日間に実施された1,000万人超のPCR検査結果も公表されたが、感染が確認された13人以外に新たな感染者は発生していなかった。大規模なPCR検査、疫学調査追跡、隔離治療さらには「動的感染撲滅策〔感染者が発生した地域のみ徹底的な検査や隔離などの措置を講じ、他地域は通常通りの生活を続ける方式〕」といった感染対策は、中国全土が新型コロナウイルス感染症発生初期の暗闇を経験して以降、半年にわたり複数地域における局所的な感染者発生に対処するうえでの秘策となってきた。

 目下、新型コロナ感染症が世界中で蔓延しているが、中国は「国外からの感染輸入および国内での感染拡大の防止」策の堅持により世界的な大流行のなか奇跡的に少ない感染者数を維持している。だが膨大な人的・物的資源と資金が投じられるなか、こうした施策は果たして今後も継続的に実施できるのだろうか。さらには目前に迫る冬季の第二波を防ぐため、中国はどのような対策を講じるべきだろうか。

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10月上旬、山東青島空港の出入国国境警備検査地点で入国した旅行客の通関手続をおこなう人民警察の警官。写真/人民視覚

一斉PCR検査はコストも大

 青島市における今回のPCR検査は、ネットユーザーからは冗談まじりに「人口調査」並みの規模感だと言われている。検査は10月11日夜から連日連夜続き、3日間で青島市の中心5区の全住民、また5日間で市全域の全住民に対する検査が実施された。市全体のサンプル採取数は15日20時の時点で1,000万件を突破し、900万件の結果が明らかとなったがいずれも陰性だったという。

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10月中旬に山東省棗荘市で実施された2020年秋冬季新型コロナウイルス感染症予防救急訓練。山亭区の疫学調査作業員が患者に対する疫学調査を実施(予行訓練)。写真/中国新聞社

 全市民を対象とする検査の実施は青島市が初めてではない。2020年5月、武漢市のとある居住区において2日連続で新たに6人の新型コロナ感染者が発生すると、同市はただちに市全体の1,000万人近くの住民にPCR検査を実施する「10日間の大会戦」を開始した。検査速度を引き上げるため、検査機関、検査人員および設備の拡充といった通常の手段に加え、1回あたり5人分以下の検体を同時に検査するプール検査方式が初採用された。このプール検査方式とは、複数の鼻咽頭ぬぐい液を混ぜて一度に検査し、陽性反応が出た場合は個別に再検査する方法を指す。当時こうした検査方法は一時的に議論を呼んだが、最終的に武漢市での10日間にわたる検査では無症状感染者300人が新たに確認され、1万人あたりの検出率は0.303%だった。

 6月に北京新発地卸売市場で感染者が発生した際にも同じくプール検査方式が採用されている。市全体の検査機関は6月上旬の98カ所から6月22日には128カ所まで増加し、1日あたりの最大検査能力も10万件から45万件以上まで増加した。北京市では7月2日の時点で常住人口の5割に達する合計1,005万9,000人の検査が終了しているが、陽性率はわずか0.00367%だったという。

 米『ニューヨークタイムズ』紙はこの期間中、積極的な検査と濃厚接触者の追跡は中国が感染を抑制できている重要なポイントであると論じた。だが実のところ、中国は当初からこうした方法を選択していたのではなく、武漢での感染者発生初期の経験から教訓を得てはじめて変更されたものだ。今回の青島での感染対策に関し、ベルギー紙『ヘット・ラーツテ・ニウス』の中国駐在記者リーン・ヴェルヴァーク氏は中国と欧州の感染対策における最大の違いについて「感染者が1人でも発生すれば、中国政府、衛生部門、一般市民はすぐさま行動する。彼らは感染者が200人あるいは300人毎日増えるまで待つことはない」点だと指摘する。

 国際公共衛生の専門家である米国外交問題評議会グローバル衛生シニア研究員の黄厳忠(ホワン・イェンジョン)氏は「もし最短期間で新型コロナウイルス感染症を撲滅し、感染者ゼロを達成することを目標とするなら、中国国内の複数地域で大規模検査を実施するやり方は合理的。だがコストや収益性の角度からみた場合、青島のようなごく少数の感染確認者の発生を理由に、あれほど大勢の人々を動員し、大々的な全市民検査を実施する必要があるのかは疑問だ」と分析する。

 PCR検査を実施するグループの決定においては、リスク評価結果に基づきターゲットを絞り、柔軟に対応すべきだと黄氏は考える。陽性患者または感染の疑いのある患者が初めて発見された際、大規模あるいは全市民に対する検査の実施に比べより有効な方法は、濃厚接触者などの重点グループの追跡および隔離治療だという。実情に基づき、各エリアの住民に対して小範囲に無作為抽出検査を実施し、感染率の高い特定のグループがあればさらに対象を絞った追跡を実施することも可能だ。

 今後さらにスピーディーで新しい検査方法が登場したとしても、全市民を対象としたPCR検査は依然として膨大な人的・物的資源および費用を必要とする。青島でのPCR検査に参加した他地域の支援者および現地の医療スタッフは合計1万人以上、また市街地で検体採取に参加したボランティアは2万人以上にのぼった。青島大学附属医関節外科で副看護師長を務める薄士栄(ボー・シーロン)さんは、とある社区〔居住区〕で他のスタッフと共に合計30人がかりで一斉に検体採取を実施した。2日間で累計608時間、最長で1人あたり1日15時間業務に従事し、1人あたり平均600件の検体を採取したという。また別の医療スタッフは夜11時半まで働き、翌日は深夜3時半に起床して5時には検体採取のための物資を社区で受け取り、業務を続けた。

 他の複数地域でのPCR検査と同様、青島の全市民検査も無料で実施された。青島市政府は現時点で今回の検査費用の総額を公表していないが、過去に実施された武漢市での集中PCR検査の支出額は約9億元にのぼり、政府がこれを負担している。

 中国の新型コロナ策におけるもう1つの秘策は、複数部門が協調して感染対策に取り組むことを目的に設けられた「聯防聯控」と呼ばれる業務体制だ。青島で新型肺炎患者が発生した際、PCR検査の実施は青島市現地の市民にとどまらず、北京、天津などの隣接地域でも青島からの訪問者に対して7日以内に実施されたPCR陰性証明書の携帯が求められている。

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江蘇省無錫駅の健康コード非所持者用通路。シニア向け携帯電話の所持者、微信やスマートフォンを保持せず健康コードの提示ができない旅行客は駅を出るため紙の通行証を受け取る。写真/人民視覚

感染輸入を防止しウイルスとの共存を目指す

「国外からの感染輸入および国内での感染拡大の防止」は過去半年にわたり中国国内におけるコロナ対策の基調路線となってきた。今回の青島での感染源は青島港で勤務する2人の貨物作業員であり、輸入海鮮食品の積み卸しをおこなった後に新型コロナウイルスに感染している。また北京新発地卸売市場の感染源は、最新の調査結果によれば新型コロナウイルスの付着した輸入水産物および外包装であり、ここから対人感染が発生した可能性が高いと考えられている。大連の例でも国内本土での感染が伝播した可能性は暫定的に排除されており、海鮮食品の加工場が感染源となった可能性が示唆されている。

 中国は国外からの感染輸入をめぐるプレッシャーに直面しており、世界の感染者数が増加の一途をたどるなか、国外からの感染が流入しやすい状況となっている。国家衛生健康委員会は2020年3月初頭以降、輸入症例数の報告を実施しており、10月19日までの時点で感染が確認された輸入症例数は累計で3142例にのぼった。とはいえこの半年、輸入症例から死亡者が発生していない点は注意すべきだ。北京、大連、新疆ウイグル自治区での局所的な感染者発生においても死亡者ゼロを実現しており、かつ感染者は普通程度および軽症者が大多数という状況だ。

 米ペンシルベニア大学医学部の張洪涛(チャン・ホンタオ)准教授は、新型コロナウイルスの毒性が弱まりつつある可能性がある一方、マスクの着用やソーシャルディスタンスの保持といった公共衛生措置が効果を発揮している点はより重要だとの見方を示す。新型コロナウイルスが短期間で消滅することはなく、現在は輸入症例から死亡者が発生していない状況において、中国は社会経済活動に対する影響を最小限に抑えられるコロナ対策を模索するべきだという。また黄氏もこれまで実施されてきた非常に厳重なコロナ水際対策は海外帰国者にとっての大変な不便となっており、旅行業や対外貿易にも多大な影響を与えていると話す。コロナ対策に影響を与えず、感染者の入国リスクを高めないという前提で、既存の新型コロナ拡大防止政策を柔軟に調整することを検討できるとしている。

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10月中旬昼、テーブルに仕切り版が設置された食堂で食事する湖北省黄岡市黄州区の某住宅関連企業の社員。写真/人民視覚

 9月15日に発表された最新版の「新型コロナウイルス肺炎予防管理方案」の中には、入国者のうち「4種類のグループ〔新型コロナの感染が確認された患者、感染の疑いがある患者、感染の可能性が排除できない発熱患者および感染者との濃厚接触者を指す〕」に該当しない場合は、密閉輸送および自宅隔離をおこなうことを条件に、本来14日間の集中隔離方式から、入国地での集中隔離7日間および自宅隔離7日間に変更できるとの記載がある。さらに入国時および7日間の集中隔離終了前にPCR検査を実施し、14日間の隔離期間満了後は自費での任意PCR検査を実施できると書かれている。中国疾病予防管理センター伝染病学首席専門家の呉尊友(ウー・ズンヨウ)氏によればこれは新型コロナ感染後の排菌期間の法則に関する認識に基づいたものであり、症状発生前の1~2日前および症状発生後の5日間が排菌のピークであるため、上記のような調整は一般市民にとって好都合であるうえに感染対策措置にも一切影響しないという。

 こうした措置が十分に取られていれば国外からの感染輸入リスクが増大することはなく、秋から冬に発生するであろう感染の第二波についても「締め付けをさらに強め、感染対策をより厳格にする」必要はないとの見方を黄氏は示した。新型コロナウイルスは最終的に人々がよく知るインフルエンザのような存在となり、人類にとってより重要なのはウイルスとの共存であるという。

 新型コロナウイルスのワクチン開発も人々の期待の星となっている。中国疾病予防管理センターの生物安全首席専門家である武桂珍(ウー・グイジェン)氏によれば、現時点で中国医薬集団中生公司(シノファーム)、北京科興中維生物技術有限公司(シノバック・バイオテック)および康希諾生物股份公司(カンシノバイオ)が生産した四種の中国産新型コロナウイルスワクチンがすでに第三期試験に進んでおり、第三期試験の終盤に入った企業もあるという。中国医薬集団の不活化ワクチン二種は2020年年末の市場投入が期待されているが、実際の接種までにはさらなる厳格な審査承認プロセスが必要となっている。医療従事者、疾病コントロールに携わる人々および税関職員などの特殊なグループについてはワクチンの注射がすでに緊急で実施されているとのことだ。

 浙江嘉興疾病予防管理センターは10月15日、微信(ウィーチャット)公式アカウント上で「新型コロナウイルスワクチンの接種に関する説明」を発表した。注射の対象となるのは18~59歳の感受性集団であり、公示価格は200元/本(瓶)、接種は2回必要なため合計400元との明確な記載がある。

 だが現在速やかな発表が望まれているのはワクチンの安全性と有効性に関する指標だろうと復旦大学公共衛生学院の元院長・姜慶五(ジャン・チンウー)氏はみている。「ワクチンの有効率や抗体の継続期間に関するはっきりとした科学レポートがいまだに発表されていない」。復旦大学附属華山医院感染科の張文宏(ジャン・ウェンホン)主任の話では、新型コロナワクチンはまず国内の優先順位の高いグループに接種されるため、一般市民が安全性の高いワクチンの接種が受けられるのは2021年上半期になるという。またワクチンの量産も考慮すべき課題だ。このためこの冬のコロナ対策は依然として公共衛生政策の実施が中心となると姜氏は述べている。

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四川省成都市で開かれた国際医療防疫物資博覧会で急速簡易病室の展示品が注目を集めた。軽量で丈夫、耐久性があり空気フィルターなどの複数設備を搭載。写真/中国新聞社


※本稿は『月刊中国ニュース』2021年2月号(Vol.108)より転載したものである。