第172号
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成都新世代AI試験区の「設計図」が明らかに―シーン思考で実用化加速

2021年01月29日 李 迪、盛 利(科技日報記者)

「もし人工知能(AI)が『ペット』だとしたら、それをどう成長させたらいいのか?大量のビッグデータはその『栄養液』だが、『スーパーコンピューター』のアルゴリズムと演算能力がなければ、栄養液をペットに与えることはできない」。11月10日、四川省成都市は「成都の国家新世代AIイノベーション発展試験区建設に関する実施案」(以下「実施案」)を発表した。成都スーパーコンピューターセンター(以下「成都スパコンセンター」)の運営ゼネラルディレクターを務める杜勇氏は「当センターは成都のAI産業発展において『最前線の兵士』になる」と述べた。

 2020年3月9日、科技部(省)は、成都の国家新世代AIイノベーション発展試験区建設を支持するとの通達を発した。中国の西部で最も活力ある特大中心都市として、成都は具体的にどのように国家新世代AI試験区を作り上げていくべきなのだろうか?

総投資1,000億元超「一つの核心、一つの区、複数のパーク」配置を構築

 現在、全国の新世代AI試験区が科技部の要求に積極的に呼応し、新世代AI発展の新たなルートを探り、応用と普及が可能なノウハウを確立しようとしている。

「実施案」によると、AI分野の応用シーンが多元的で科学教育資源が豊富であるという成都の優位性を十分に発揮し、産業機能区を柱として「一つの核、一つの区、複数のパーク」という配置を構築することが打ち出されており、総投資は1,000億元以上を見積もっている。

 そのうち「一つの核」というのは、成都ハイテク産業開発区に建設する国家級AI産業融合発展核心エリアを指す。「一つのエリア」は、成都天府新区に建設する国家級AIイノベーション施設集積エリアのことである。「複数のパーク」とは「成都東部新区スマート製造産業パーク」や「成都スマート応用産業機能エリア」、「天府スマート製造産業パーク」などに建設する、AIとの融合応用「AI+」を特色とした専門パーク10ヶ所以上を指している。

 成都ハイテク産業開発区科技人材局の王磊副局長は「我々はAIイノベーション空間の構造をベースに、成都ハイテク産業開発区を、成都と重慶を駆動させ中西部にその勢いを波及させ、長江経済ベルトと融合し、全国のハイテク産業の版図に影響を与える新世代AI技術の発信地、場面モデルエリア、産業の成長拠点にしていく」と語った。

 近年、成都ハイテク産業開発区は重点分野の重大プロジェクトに焦点を置き、産業エコシステムを常に改善し、科学技術イノベーションを導き、経済の質の高い発展を促進してきた。

政策による後押しで、厳選されたプロジェクトを重点的にサポート

 現在、成都にはAI関連企業が300社以上あり、百度や商湯科技、科大訊飛など業界トップ企業と、川大智勝や四方偉業など地元の基幹企業を始めとする多階層のAI企業クラスターが形成されている。

 百度のApolloスマート運転イノベーションセンターが成都に設立された際にも、百度集団副総裁でスマート運転事業グループのゼネラルマネージャーを務める李震宇氏は「成都は中国中西部で最も活力ある特大中心都市であり、金融や交通、医療などの分野においても成熟した応用シーンが構築されている」と指摘した。

 成都自身の特色と優位性を踏まえ、「実施案」では「三大特色シーン」と「四大重点シーン」の応用モデルに重点を置くというプランが示された。

「三大特色シーン」には、民間航空科学技術イノベーションモデル、5Gをベースにしたスマートドローン応用および2つの空港(成都双流国際空港と成都天府国際空港)の管制などを中心としたスマート空港管制、地方金融の「レギュラトリー・サンドボックス(規制の砂場)」やAI金融応用などを主とする金融包摂、未来の医学や全ライフサイクルスマート医療応用などのスマート医療が含まれる。

 また「四大重点シーン」には、5Gスマート製造クラスターやスマート運転などのスマート製造、都市級スマート交通路車協調モデル応用システムなどのスマート交通、潤地大邑県スマート農業産業パークなどのスマート農業、天府新区成都エリア興隆湖スマート景勝地周遊などのスマート観光が含まれる。

 成都市経済・情報化局情報化推進処の譚明祥処長は「我々は産業基盤の強化、産業レベルの向上、産業エコシステムの整備という3点について12項目の支援策を打ち出した」と語った。譚処長によると、成都市は「成都市のAI産業発展加速に関する専門政策」を打ち出し、それに合わせて「実施細則」の通達を発出した。今年はすでに申請プロジェクト100件以上から24件のプロジェクトを厳選して重点的に支援し、支給された資金は3,000万元(約4億7,400万円)近くに及ぶという。

新世代AIの発展に「血液」を送り込む成都スパコンセンター

 AIに新世代という意味が付加されるにつれて、今後各試験区が様々な応用場面を深く融合させ、さらに既存の概念を覆すAI体験ができるようになるだろう。AI時代の「エンジン」として、スパコンにもさらに「スゴい」ものになることが求められている。

 成都スパコンセンターの第1期ホストシステムを例に取ると、正式に設立された当初、その演算スピードは毎秒10京回で、8コアの家庭用一般コンピューター350万台分に相当した。しかし新世代の「最強のブレイン」へと「進化」するには、まだ十分ではなかった。

「実のところ、成都スパコンセンターは設立計画段階で如何にしてAI産業の発展を支え、促進するかを重点とし、主に演算力、データ、人材について検討していた」と杜氏は言う。

 現在、成都スパコンセンターはすでに毎秒17京回の演算能力に達し、長期にわたって様々なAI応用演算力のニーズにも対応し、ユーザーのランニングコストを極めて大きく低減させた。杜氏は「AI基礎研究と使用環境の角度から言って、成都スパコンセンターの演算力資源はすでに成都AI産業の発展を支える能力を完全に備えている」と指摘する。

 それだけでなく、成都スパコンセンターの発展運営計画によると、今後はさらに各業界分野の演算プロジェクトと課題を集約し、徐々に多くの学科や分野の科学ビッグデータセットを構築していくことを予定している。

 杜氏は「成都スパコンセンターは世界のトップクラスの大学からスパコン分野のポストドクターを招聘しており、今後もさらに大学や企業などと広く相互交流と協力を展開して、AI技術分野の一流専門人材を育成し、科学研究や教学、応用・相互交流を促進し、人材育成の質を高め、重点科学研究で成果をあげることを推進していく」と述べた。


※本稿は、科技日報「成都新一代人工智能試験区"施工図"出台 以場景思維加快技術落地」(2020年12月11日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。