第172号
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中欧産業パークの建設―山東省が歩む国際協力の新たな道

2021年01月14日 王延斌(科技日報記者)、張美栄(科技日報特派員)

 二十四節気の小雪が過ぎ、山東省南部の気温も1桁台まで下がったが、済寧市兖州区永安路の南側では休むことなく工事が進められていた。この状況に、山東蒂徳精密機床有限公司(以下「蒂徳」)の陳勇董事長は非常に満足している。

 精密工作機械業界の開拓者である陳董事長によれば、15億元(約240億円)を投資したこの中欧(済寧)国際協力産業パーク・スマート製造工場プロジェクト(以下「中欧産業パーク」)は年末までに主体工事が完了する見込みで、ドイツのROTTLER、スペインの埃瑪赫(原文ママ、以下同)とIPIRANGA 、華中数控、上海航天、陝西海力特という欧州と中国のNC工作機械業界の有名企業6社が入居し、100億元規模の産業チェーンが出来上がろうとしている。

 中国共産党第19回全国代表大会第5回中央委員会全体会議(五中全会)は、経済発展において注力するポイントを今後も実体経済に置くこと、産業基盤の高度化と産業チェーンの現代化を推進し、経済の質・効果とコア競争力を高めることを方針とした。中欧産業パークの設立は、この五中全会精神を実行に移す上で最良の行動だと言えるだろう。

 中欧産業パークについて取材を進める中で、同パークの誕生よりも、その導入過程のほうにより注目ポイントが多いことが分かった。

精密な「解剖」で産業チェーンを整備

 小さなことでも研究分析すればそこから教訓が得られることを表す「麻雀雖小、五臓俱全(スズメは小さいけれど五臓は揃っている)」という言葉がある。兖州区委員会の王宏偉書記はそれを踏まえて次のような言葉を述べ、この産業パークの本質を言い表した。「我々は蒂徳を『スズメ』と捉え、NC工作機械産業チェーン上の企業を『解剖』するようにして研究した。そして国内外の工作機械研究開発企業と生産企業を6社誘致することに成功し、NC工作機械産業チェーンを延伸した」。

 この言葉をどう解釈するか?

 直径わずか35mmの円形スペースに、髪の毛よりさらに細い針が127本びっしりと並んでいる。これらの細針の直径はわずか0.05mm、高さは12mm。このような部品を加工するには精密工作機械が必要だ。陳董事長は科技日報の記者に対し、この細針の加工過程を説明してくれた。

「この127本の針は一本の棒をフライス加工したもので、21時間連続で加工しなければならない。しかも、昼から夜まで工作機械が動態加工を続けているため、精度は温度や速度、振動、空気抵抗など様々な要因の影響を受けやすい。この細針は我々の工作機械の動態加工の精度の高さを裏付けていると言えるだろう」

 蒂徳は優れた加工精度によって頭角を現し、国内のハイエンドNC工作機械分野の「ダークホース」となった。その製品は自動車製造や鉄道交通、風力発電設備などの業界で広く応用されている。

 兖州区は全国のトップ100区の一つで、ハイエンド設備産業がその強みとなっている。NC工作機械は装備製造業の「母体となる工作機械」であり、その技術レベルはハイエンド装備産業がバリューチェーンの両端の付加価値を上げて「スマイルカーブ」化できるかどうかにかかわってくる。同時に、地元で数少ない工作機械企業である蒂徳は一人勝ち状態にあるが「産業が集積していない」「技術にボトルネックがある」といった問題にも直面していた。

 その問題をどのように解決するのか?

 この点について、政府と市場は共通の認識に至った。

 中欧産業パークが位置する兖州工業パーク内に新しく設立された装備製造産業研究所は「難題を専門に取り組む」機関だ。研究所メンバーと陳董事長ら創業者は共に川上・川下企業を研究し、ウィークポイントを洗い出し難題を解決した。

 同パーク企業誘致促進部の王俏部長は筆者に対し「我々はNC工作機械を35のキー部品に分解し、各部品が地元の産業チェーンで強みを持っているか、それとも弱いのか、どの部品が空白になっているのかを分析した。比較的強みのある産業チェーン企業については、業界トップ企業を重点的に誘致した。空白のものについては、重点エリアと重点企業を明確にし、ターゲットを絞って誘致し産業チェーンの不足を補った」と語った。

パークの集積効果が顕著に

 蒂徳とドイツのROTTLER、スペインの埃瑪赫などの企業は長期的な協力関係にあり、この2社も蒂徳との協力を通じた中国市場拡大を望んでいた。こうして、ROTTLERと埃瑪赫が中欧産業パークに最初に入居した企業となった。

 蒂徳の工場内では、技術者がミネラルキャスティングに撹拌摩擦溶接装置をセットしていた。これは上海航天(蘇州)公司と提携生産している製品だ。蒂徳の楊文星常務副総経理は記者に対し「上海航天には強大な研究開発力があり、我々には強大な加工・製造力がある。双方が強者どうしで連携し、中欧産業パークに入居した」と語った。

 もちろん、蒂徳には自社の「秘密兵器」であるミネラルキャスティングがあり、それが上海航天工程装備(蘇州)有限公司を引きつける要因となった。

 これまで孤軍奮闘だった状況から強者連合へと変わったことで、中欧産業パークはすぐにハイエンド精密工作機械の産業クラスタとなった。

 同パークでは、華中数控がNCシステムを、スペインのIPIRANGAがガイドスクリューを提供して工作機械の全産業チェーンが出来上がっている。相互補完性の面では、これらの企業は分業協力を行っている。特に蒂徳は精密加工、完成品組立と技術労働者育成、ドイツでの研修などのサービス支援を提供することができ、製品で相互補完し相乗効果を生むことが可能だ。また集積性の面では、入居企業はいずれもNC工作機械関連企業であり、NC工作機械の産業化を迅速に進めることができる。

 このようにして、企業を主体として産業チェーンを整理し、不足を補い、技術と知恵を取り入れることで、中欧産業パークは集積効果を実現し新たな路線を歩み始めている。


※本稿は、科技日報「建中欧産業園 山東闖出国際合作新路子」(2020年12月4日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。