第174号
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資源と政策の優位性を活用―中関村科学城が育む宇宙事業「ドリームチーム」

2021年03月12日 華 凌(科技日報記者)

「微納星空が北京のハイテク産業パーク『中関村壹号』に入居することにしたのは、その周辺に宇宙事業関連機関や中国で一流の高等教育機関が集まり、成熟した宇宙産業の雰囲気、テクノロジー・イノベーションの環境、人材の優位性があるからだ。また、政府が1千億元(約1.6兆円)級の宇宙産業クラスター計画を打ち出しており、産業全体が足並みを揃えて発展できるようサポートがあるからでもある」微納星空の共同創業者兼副総裁である郇一恒氏は語る―。

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2020年11月6日、キャリアロケット「長征6号」を使って衛星13基が予定の軌道に投入された。うち、最大の「天雁05衛星」は、中関村科学城の「微納星空」が研究開発を行った。(画像提供:視覚中国)

 2020年12月17日早朝、中国の月探査機「嫦娥5号」が月のサンプルを採取して戻るという中国初のミッションを成功させた。同ミッションにおける月面作業で重要な役割を果たした電気機械のコア部分は、中関村科学城の北京和徳宇航技術有限公司(以下「和徳宇航」)が提供した。2020年11月6日午前11時19分、山西省の太原衛星発射センターからキャリアロケット「長征6号」を使って衛星13基が予定の軌道に投入された。うち、最大の「天雁05衛星」は、中関村科学城の北京微納星空科技有限公司(以下「微納星空」)が研究開発した。2020年2月16日、中国で初めて伝送容量24Gbpsを備えた低軌道ブロードバンド通信衛星が通信能力試験を成功させた。同衛星は、世界で初めて低軌道でQ/V/Kaなどの周波数の検証を行った。その衛星を打ち上げたのも中関村科学城の銀河航天科技有限公司(以下「銀河航天」)だった。

 中関村科学城では現在、広大な宇宙を探索するための宇宙事業の「ドリームチーム」が存在感を増している。

衛星通信を発展させてさらなる夢へ

 銀河航天の創業者である徐鳴最高経営責任者(CEO)は、「この会社を立ち上げた最初の目的は、宇宙飛行テクノロジーを発展させ、その価値を発揮させて社会にサービスを提供することだった」と説明する。徐CEOが生まれた安徽省の辺鄙な山村では、長年携帯電話の電波が繋がらない状態で、情報が入って来ず閉鎖された環境だった。2018年4月、情報格差を解消しようと、徐CEOは銀河航天の立ち上げに携わった。

 銀河航天が2019年に中関村科学城に進出して以降「ドリームツリー」は急速に成長し、多くの人にそのメリットが行き渡るようになった。

 2020年4月、衛星インターネットが新インフラに盛り込まれ、政府の全力のサポートの下、中関村科学城はイノベーションの環境を継続的に整備し、宇宙関連企業のイノベーションと発展が大幅に促進されるようになった。

 2020年4月23日、銀河航天の研究者は、銀河衛星ターミナルデバイスが提供するWi-Fiのホットスポットに携帯電話で接続し、この低軌道ブロードバンド通信衛星を通して3分間のビデオ通話を行うことに初めて成功した。その後最適化が実施されたことで、通話時間は8分間まで延びた。6月、北京市海淀区の銀河航天のゲートウェイで、銀河航天は通信キャリアと共同で衛星インターネットと地上の5Gネットワークの融合テストを実施した。中国で初めて伝送容量24Gbpsを備えた低軌道ブロードバンド通信衛星と、聯通(チャイナ・ユニコム)の広域通信網の5G基地局、そして伝送ネットワークを直接接続し、5G基地局の開通と5Gユーザー業務テストに成功した。低軌道衛星インターネットとリンクして、通信キャリア広域通信網の5G基地局の開通とテストに成功したのは世界でこれが初めてのことだった。

 四川省綿陽市北川羌(チャン)族自治県は竜門山断層の中北区間に位置し、2008年5月12日の四川大地震で大きな被害を受け、現地の交通や電力、通信ネットワークが一時遮断されてしまい救援活動が難航した。しかし、2020年7月14日に北川県桃竜蔵(チベット)族郷九成村の標高1,100~3,200メートルの山の中腹で、現地ユーザーは銀河航天が研究開発した衛星ターミナルデバイスを利用したインターネット接続に成功した。約200キロ離れた成都ゲートウェイを活用し、銀河航天が打ち上げた低軌道ブロードバンド通信衛星が、中国で初めて山地における実地応用テストに成功した。今後、地上の通信インフラが遮断してしまうようなことがあっても、被災地に迅速に緊急ネットワーク接続サービスを提供できるようになると期待されている。

 2020年11月17日、銀河航天は直近の増資を通じて評価額が約80億元(約1,280億円)に達したことを発表した。

将来を見据えた戦略でコア技術に力を集中

 将来を見据えた戦略を敷き、コア技術に磨きをかけることに注力し、大胆なチャレンジを行い、ブレイクスルーとイノベーションを実現するというのが、銀河航天や微納星空、千乗探索、和徳宇航、北斗星通などの中関村科学城入居企業の宇宙事業における奮闘の縮図だ。

 会社の立ち上げからわずか3年で衛星8基を打ち上げ、半年で衛星の設計、研究開発、発射まで行い、2,000平方メートルの衛星製造工場で多くの衛星の研究開発を並行して進め、そして今年上半期には9基目の衛星を打ち上げる予定......こうした微納星空の成長記録から、中関村科学城の企業がどれほど急速に成長を遂げているか感じ取ることができるだろう。

 微納星空の共同創業者兼副総裁である郇一恒氏は、「このほど『長征6号遥3』を使って打ち上げた70キロ級の『天雁05衛星』は、海洋や農林、地震災害、気象環境などの分野のモニタリングに応用される計画だ。衛星の重量が増すにつれて、各部分の機能も複雑になっており、製造過程におけるさらに多くの技術的ボトルネックを打破することが急務になっている。この衛星の最も顕著な技術的特徴は、軌道上ソフトウェアリファクタリング技術システムを採用し、地上の人員がリモート指令を送信して、衛星のオペレーションシステムのメンテナンスや再インストールを行い、衛星の使用寿命を長くしたり、性能を増強したりできる点だ」と説明する。

 微納星空は現在、200キロ以上の衛星に焦点を合わせて研究開発を進めており、将来は技術的障壁を打破し、500--1,000キロの衛星の軌道上検証を実現したい考えだ。

 郇氏は「当社はファースト・ムーバー・アドバンテージを得ることにフォーカスし、起業してすぐにハイバリュー事業である衛星の研究開発、製造という方向性を定めた。これまでの成果を見れば、その選択が正しかったことが分かる。また、衛星のトータル設計技術や人工衛星ハウスキーピング、高精度姿勢・軌道制御技術などの面でも経験を積み重ねている。研究開発チームには宇宙飛行システムの専門人材を招聘し、優秀な人材チームを構築して、今後のよりスピーディーかつハイレベルな発展の基礎を築いている」と語った。

 銀河航天は近年、チャレンジ精神に満ちたコア技術の難関攻略に挑んでおり、通信帯域幅設計において世界の先端技術を駆使し、1基目の衛星に難度の非常に高い技術を駆使したQ/V/Kaなどの周波数を採用し、設計の段階から組み立てなどの人為的影響を最大限なくし、中国で初めて低軌道ブロードバンド衛星において伝送容量24Gbpsを実現した。

 銀河航天は主に「宇宙飛行+インターネット」のモデルを採用し、宇宙分野の人材がインターネット式の「ピッチ走法」「高速反復」といった開発サイクルに取り組み、極めて複雑な宇宙飛行技術を「簡単にエクスポート」できる形式に変えてきた。これも「銀河航天」のイノベーションの内在的遺伝子だ。

 銀河航天は今後、新世代衛星のスマート製造ギガファクトリーの建設に注力し、1年間に衛星を300--500基製造できる態勢を整え、中国の商業宇宙事業の分野では初となる「衛星コンステレーション計画」に沿って、新世代の低軌道ブロードバンド通信衛星を低コストかつロット生産化できる能力を備えたスマート製造ラインを建設する計画だ。実現すれば、中国の新世代衛星の量産能力は米国との差が2年以内に縮まると期待されている。

商業宇宙事業分野の新たな代名詞に

 郇氏は「微納星空が北京のハイテク産業パーク『中関村壹号』に入居することにしたのは、その周辺に宇宙事業関連機関や中国で一流の高等教育機関が集まり、成熟した宇宙産業の雰囲気、テクノロジー・イノベーションの環境、人材の優位性があるからだ。また、政府が1千億元級の宇宙産業クラスター計画を打ち出し、産業全体が足並みを揃えて発展するようサポートしており、当社のような商業宇宙事業企業に大きなチャンスをもたらしているからでもある」と感慨を込めて語る。

 中関村科学城は中国宇宙事業の発祥地の一つで、中国の半数以上の宇宙事業分野の院士、専門家、国営リーディング企業、科学研究機関が集まっている。現在、同エリアでは衛星の研究開発、地上局、ターミナルデバイス、衛星測定制御、衛星運営などをカバーした全産業チェーンエコシステムが形成されている。

 中関村科学城の関係責任者は「北京市海淀区には宇宙開発産業が集まっているが、物理空間的にはまだ余裕がある。中関村科学城は現在、全産業チェーンの構築を全力で進め、インタラクティブな交流、新たなチャンスの探知、良好な産業のムード形成を支援している」と話す。

 2020年9月19日、2020中関村フォーラムの記者会見で、北京市海淀区は中関村科学城に「星谷」(宇宙開発事業の"シリコンバレー")を建設するプロジェクトを発表した。中関村の宇宙開発事業分野における研究開発、産業資源の優位性を活用して、中関村科学城の北エリアに産業規模1千億元級の宇宙開発産業クラスターを作り上げる計画だ。

 中関村科学城「星谷」(イノベーションパーク)の李智慧総経理は、「宇宙開発産業、特にロケット衛星の組み立てを行う一定ランクの人工衛星メーカーは大きな空間を必要としている。当パークは多くの関連企業を訪問し、企業の空間的ニーズをしっかり把握するよう努め、企業が適切な発展空間を見つけることができるようサポートし、産業チェーン構築を行っている。産業の公共サービスの面では、衛星設計・パイロット生産サービスプラットフォーム、衛星テストサービスプラットフォーム、衛星測定・制御・運営技術サービスプラットフォームなどの構築に取り組んでいる。そして、海淀区の宇宙開発分野の資源、政策の優位性を十分に活用し、当パークの宇宙産業分野のクラスター形成、インキュベーションおよびアクセラレーションなどの機能を最大限向上させている」と説明する。

「天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず」という言葉がある。中関村科学城は、今まさに宇宙開発産業の肥沃な土壌作りを行っているところであり、中国の商業宇宙事業分野の新たな代名詞となることを目指している。


※本稿は、科技日報「用好資源、政策優勢 中関村科学城孕育空天"夢之隊"」(2021年1月12日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。