半導体産業の構造再編―SiCウェハーが「本棚」から「商品棚」へ
2021年03月23日 陸成寛(科技日報記者)
第三世代半導体業界への参入は技術的ハードルが非常に高く、炭化ケイ素(SiC)単結晶を成長させるのは非常に困難で、その成長、加工技術を確立しているのは、一部の先進国だけだ。SiC単結晶の国産化は、第三世代半導体における海外の独占状態を打破するのに極めて重要だ。―馮四江 北京天科合達半導体股份有限公司取締役会秘書
科学研究と経済の繋がりが薄いことが、長年の課題となってきた。そのため、科学技術研究成果を「本棚」から「商品棚」へと移すよう促すために、近年、各方面において一連のチャレンジが行われている。
1月20日、中国科学院の科学技術研究成果ロードショー「2020年度科技譲生活更美好」で明らかになったところによると、中国科学院物理研究所のSiCをめぐる科学技術研究成果を活用している「北京天科合達半導体股份有限公司(以下「天科合達」)は、SiCウェハーの生産に力を入れており、キーテクノロジーをめぐる難題を解決し、海外の独占状態を打破し、世界において主要なSiCウェハーメーカーの一つにまで成長することを目指している。
キーテクノロジーをめぐる10年以上の研究開発
SiCを代表とする第三世代半導体材料は、シリコン材料に次いで最も前途が明るい半導体材料の一つだ。
シリコン材料と比べると、SiCウェハーを基板として製造した半導体デバイスはハイパワー、耐高圧、耐高温、高周波、低エネルギー消費、高い抗放射能能力などの優位性を誇る。中でも、電導型SiCウェハーを基板として作られたSiCパワーデバイスは新エネルギー車、太陽光発電、鉄道交通、スマートグリッド、航空・宇宙事業など、現代工業の幅広い分野に応用することができる。
同時に、半絶縁型SiCウェハーを基板として作られた高周波デバイスは、5G通信、レーダー、衛星などの分野に応用できる。5G通信への応用が成熟するにつれて、半絶縁型SiCウェハー市場の規模は拡大の一途をたどっている。第三世代半導体業界は中国の新インフラの重要な部分を占めており、科学技術イノベーションや世界の半導体産業の構造再編を促進する可能性がある。
「ただ、第三世代半導体業界は技術的に、参入のハードルが非常に高い。SiC単結晶を成長させるのは非常に困難で、その成長、加工技術を確立しているのは、一部の先進国だけだ。SiC単結晶の国産化は、第三世代半導体における海外の独占状態を打破するのに極めて重要だ」と天科合達公司の馮四江・取締役会秘書は講演の中で指摘した。
1999年以来、中国科学院物理研究所の研究チームは独自研究開発に立脚し、10年以上かけて、基礎研究から応用研究へと進み、成長設備から高品質のSiC単結晶の成長、加工などのキーテクノロジーの分野でブレイクスルーを成し遂げた。SiC単結晶の成長と加工は「設備の研究・製造―原料合成―単結晶成長―単結晶カット―ウェハー加工―洗浄・検査」の全てのプロセスをカバーしており、独自の知的財産権を有する整ったテクノロジー・ロードマップを形成。SiC単結晶の国産化、産業化が実現して、良好な経済的、社会的効果が生まれ、中国のワイドギャップ半導体産業の発展が促進されている。
科学研究の中心勢力が経済の主戦場を突き進む
SiC半導体産業は現在、爆発的成長期を迎えており、中でも、ウェハーはSiC半導体産業の発展におけるコア材料で、国の安全、経済、社会の発展にも関係している。
中国科学院物理研究所のSiCをめぐる研究成果を活用している天科合達は、中国で初めて第三世代半導体・SiCウェハーの研究開発、生産、販売を専門に行う、国家級ハイテク企業で、2インチ、3インチ、4インチの電導型、半絶縁型SiC基板を相次いで開発し、2014年には中国で初めて6インチのSiCウェハーを開発するなど、その製法技術の高さは、トップクラスだ。
中国の半導体におけるキー材料生産技術の独自化をできるだけ早く実現するために、天科合達の楊建社長を筆頭とする技術・生産チームは、2015年末に、北京市大興区に年間生産量6万個となるSiC単結晶基板の生産ラインを建設した。また、2019年末には江蘇省徐州市に、年間4万個のSiC単結晶基板を生産できるラインを建設し、大型サイズのSiC基板製品の量産供給を実現した。そして、2020年8月には、北京市大興区で、年間12万個を生産できる、投資総額9億5,700万元(約158億円)のSiC単結晶生産ラインの建設が始まり、国産SiC材料のパワーデバイス、マイクロ波高周波デバイスなどの分野への応用のために基礎を築いている。
フランスの市場調査と戦略コンサルティングを行うYole Developmentの統計によると、2019年、天科合達の電導型SiCウェハーの世界におけるシェア率は4.23%で、世界で5位、中国国内ではトップとなっている。
中国科学院の副院長を務める党組メンバーの張涛氏は、「さらに多くの社会資本、企業家が共に、研究成果の実用化に注目し、それを促進し研究成果が、『本棚』から『商品棚』へと移るよう願っている」と述べ、より多くの科学研究の中心勢力が国民経済の主戦場を突き進み、経済社会の発展に強力なテクノロジー的下支えを提供するよう呼びかけている。
※本稿は、科技日報「重塑半導体産業格局 碳化硅晶片従"書架"走向"貨架"」(2021年2月3日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。