第174号
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地域競争力「全国トップ100」に入る山東省肥城市の発展の秘策とは?

2021年03月04日 王延斌(科技日報記者)

「双循環」の新局面下で、発展の新たな道を探る資源型都市

「鉄鋼1トンの利益が、ミネラルウォーター1本よりも少ない時代」に別れを告げ、石横特鋼集団有限公司(以下「石横特鋼」)は研究開発に力を入れ快進撃を続け、中国で唯一、棒材超微細粒鋼マルチスプリッティングローリング技術を確立した企業になった。そして、鉄鋼1トン当たりの利益はここ数年連続で業界1位となっている。

 山東省中部に位置する「全国県域経済・県域基本競争力トップ100」に入る肥城市(県級市)では、「石横特鋼」のように科学技術イノベーションに取り組んで飛躍を遂げたシンデレラストーリーは決して珍しくない。2020年12月末の取材では、石炭、電気、鉄鋼が最初の産業の土台となった代表的な資源型都市である肥城市が石炭の枯渇による衰退という負の連鎖をいかに断ち切るかが課題となっている一方で、早くから資源型都市からモデル転換し、総合的な実力、科学技術イノベーション、エコな発展、投資ポテンシャルの4つのカギとなる分野で先頭を走り、「全国県域経済・県域基本競争力トップ100」に入る都市となっていることが分かった。

 中国内外の2つの循環に基づく新たな発展のパターンである「双循環」の局面を迎え、同市は海外からの投資誘致にばかり力を入れるのではなく、より多くの力を内部の発掘に費やし、ブレイクスルーを次々と実現している。このような国内経済の「内循環」を柱とする構造下の科学技術イノベーションの道をどのように歩むのか、肥城は有益な方策を模索している。

テクノロジーが従来産業に新たな活力を注入

 山東農大肥業科技公司(以下「農大肥業」)土壤生態研究院のプロジェクトマネージャーである劉同信氏の前には溶剤の入った試験管2本が置いてあった。そして、高活性フミン酸を1本の試験管に、未活性化フミン酸分をもう1本の試験管に入れると、左側の高活性フミン酸は完全に溶解されたのに対して、右側の未活性化フミン酸は固体の状態のまま下に沈むという不思議な現象が起きた。

 劉氏は「活性フミン酸と肥料の中の養分イオンは複合体を形成し、肥料の養分が持続的に放出される」と説明した。

「農大肥業」のコア技術の一つであるフミン酸活性化技術は世界的なレベルにあり、山東省テクノロジー進歩一等賞を受賞し、肥城の産業の空白を埋めた。

 他に類を見ないハイテク企業となった同社は、現在では会長を務める馬学文氏が25年前に山東農業大学肥料研究所の同僚らと立ち上げた会社である。「科学の精神+技術のウェイト」をよりどころに中核となる競争力を鍛え上げ、今や「全国フミン酸肥料製造業」の分野で「チャンピオンモデル企業」に選ばれる企業にまで成長した。

 それでも、馬氏らは決して満足していない。

「農大肥業」の製品展示ホールに新設されたビッグデータプラットフォームは今後の取り組みの方向性を示している。劉氏は取材に対して「国が持つ土壌肥沃度、植物保護、農業生産、気象などのデータソースを統合し、特色を備えた農業ビッグデータプラットフォームを構築した。農業生産に土壌肥沃度の検査や基準化栽培管理、災害モニタリング・早期警報、生産量予測・分析などのデータサービス、スマート意思決定サービスを提供している」と説明した。

 従来型農業が未来に向かって歩み続けるには、新肥料が欠かせない。そして、さらに必要となるのは新農業用資材だ。

 面積1,277平方キロの肥城市で、「農大肥業」にビッグデータサービスを提供している企業を探すと、数キロ離れた場所にある「山東征途信息科技公司」が見つかる。同社の「インダストリアルインターネット・イノベーションサービスプラットフォーム」プロジェクトは、最近山東省の「モデルプロジェクト」に認定された。

 鋼鉄業界において、石炭配合は石炭をコークスにする前の段取りの一つで、コークスの生産コストに影響を与える最もカギとなる要素だ。しかし「石炭配合を最適化」するためには、産業用ソフトウェアと専門家の経験を積み重ね、引き継いでいかなければならない。もちろん、最も経験豊富な石炭配合の専門家であっても、毎回ベストの決定を下すことが保証できるわけではない。

 そのため、「石横特鋼」はいかにインダストリアルインターネットや人工知能(AI)に基づいて、コークス生産の流れを解析し、最終的にコストを削減するかを検討するようになった。そこで「征途科技」が名乗りを上げ、その提携企業である華為(ファーウェイ)のクラウドコンピューティング部門・華為雲(ファーウェイ・クラウド)と共に、「石炭配合の最適化」を中心とした「石横特鋼」の能力強化に取り組んだ。

 この取り組みにより、従来産業は「テクノロジーの羽」を持つようになり、1年で「石横特鋼」はコストを5,000万元(1元は約8億円)削減した。

 肥城では現在、新技術、新産業、新業態、新スタイルを代表とする「四新経済」が幅広く従来産業に浸透し、質的な変化が起こり、活力がみなぎっている。

試行錯誤を重ねついに新産業を生み出す

 関常勇副最高技術責任者(CTO)がスタートボタンを押すと、技術者の設定に基づいて溶接の青い炎が鋼板上に美しい曲線を描いた。「山東索力得焊材股份有限公司(以下「索力得」)の技術を誇る製品である。

「当社の高強度ワイヤーシリーズが中国国内でトップクラスにあることに疑問の余地はない」、「新型コロナウイルスの影響を受けても、当社の生産額は昨年を上回り、利益も大幅に増えた」―これらの言葉からは、関副CTOの自信がにじみ出ていた。

 肥城鉱務局に源流を持ち、25年の歴史を持つ「索力得」はこれまで紆余曲折を経てきた。地元出身の創業者は、溶接材料の分野に注力する前は鶏の養殖やボタン製作などにもチャレンジし、2003年の制度改革でターニングポイントを迎えた。制度が柔軟になり、思想が解放され、溶接棒の代わりとなるワイヤーを製作するという方向性を選んだのだ。そして、そのような背景下で、高強度ワイヤーシリーズが研究開発された。

 関副CTOは取材に対して「当社のワイヤーは、10数種類の成分を配合したこだわりの製品。各成分の量、配分の仕方は企業秘密」と話した。

 何はともあれ、これは大きな一歩である。業界を牽引したこと、市場のニーズを満たしたこと、輸入製品に取って代わったことなどが同新製品の売れた理由だ。現在「新製品に経済効果を求める」というのが、「索力得」の全社員の共通認識となっている。

 肥城で、科学技術イノベーションの恩恵を受けている企業はこの1社だけではない。

 潤滑油の分野で成功し、「最初の稼ぎ」を得た「一滕集団」の滕鴻儒会長は、視野を広げて鉄鋼構造や医薬、不動産などの分野にも進出した。ただ、より重視しているのは新材料のようで、技術的ハードルのある業界しか自社の競争力を構築できないことを理解している。

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建材に使われるセルロースエーテルの分野で一席を占めるようになった山東一滕集団傘下の一滕新材料股フン公司は、2020年山東省の技術イノベーションモデル企業に選出された。画像はサンプルルームで働く一滕新材料の研究開発者。筆者撮影

 セルロースは、水にも溶けず、有機溶媒にも溶けない多数のβ-グルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合した高分子化合物である。セルロースエーテルの分野に進出した滕会長はそのマーケットボリュームや現地の優位性に目を付けた。まず、中国は世界最大のセルロースエーテルの生産・消費国で、生産量は年間平均20%のペースで増加している。また、肥城市はセルロースエーテルの生産拠点で、集積効果が際立っている。

 イノベーションが企業発展のための「魂」であることを熟知している滕会長は、「産学研用(企業・大学・研究機関・実用化)」の連携という道を堅持し、ハイレベルの技術研究開発センターを建設した。山東省企業技術センターや院士ワークステーションなど複数の研究開発プラットフォームを構築し、業界で著名な専門家である韓国の李炳主氏を最高技術責任者(CTO)として招聘し、科学技術イノベーションの実力を強化した。そして、同センターは中国工業・情報化部(省)によって「グリーン工場」、「専精特新(専門性が高い製品、精密化管理で生産された優品、特色のある製品、サービス、技術のウェイトが高い製品)」に取り組む「小さな巨人企業」(高い成長性または大きい発展のポテンシャルを持つ科学技術イノベーション中小企業)に認定された。

 肥城市の政策決定者は「確実に発展するためには、経済を重視する必要があり、そのためには企業を重視しなければならない」と、環境が非常に重要であることを強調する。同市のハイテク企業からは、目標を達成するまで決してあきらめないという「強靭性」が伝わってきた。そのような強靭性を武器に、企業は脇目も振らずに奮闘し、ついに新産業を作り上げた。

「一つの分野で腕を磨き続ける」

 発足してまだ5年しか経っていない「中稀依諾威(山東)磁性材料有限公司」(以下「依諾威」)は、どこから見ても大企業には見えない。小さい企業だが、薄くて小さいレアアース永久磁石という独自の「切り札」を持っている。

 スマホのスピーカーやマイク、カメラなど、さまざまなところに磁性材料が使われている。「依諾威」のエンジニアらはそれを「薄くて小さいレアアース永久磁石」と呼んでいる。スマホに使われているそれらの材料は、通常米粒よりも小さく、顕微鏡を使わなければ取り付け作業などができない。

「依諾威」のシニアエンジニアである張亜波氏は、取材に対して「当社が最も得意とするのは磁気性能と加工性能の両立だ。当社は厚さ0.7ミリ(普通の紙は約0.4ミリ)のレアアース磁石を作ることができる。より重要なのは、他社のものは割れやすいが、当社のものは強度が高いこと」と胸を張る。

「お家芸」は、経験を積み重ねて育まれてきた。「依諾威」の技術リーダーである張書凱氏は、昨年親会社の中鋁集団のチーフエンジニアに昇進した、強磁性材料の分野で30年以上の経験を誇るベテラン専門家だ。人材、システム化能力、中鋁集団のサポートなどが揃い「伝家の宝刀」級の製品が続々と誕生しているのだ。

 取材した時点で「高性能省エネモーター専用レアアース永久磁石」が既に発売されており、第二の「薄くて小さいレアアース永久磁石」となる可能性があることが分かった。

「依諾威」が「お家芸で、ビジネスを成功させた」代表であるならば、「金塔機械有限公司」は、「業界のゲームチェンジャー」ということができるだろう。

 同社の張継生会長は広々とした事務室に座り「今年の注文は昨年より3億元も増えた」と、自信に満ちた顔で話す。張会長はその3億元分の注文がどこから来ているかを熟知しており「中国国内市場のシェアが一位で、また16ヶ国・地域にも輸出している」という。

「半世紀以上アルコール設備を作っているので、その奥深い所までしっかりと理解している。科学技術イノベーションがもたらす恩恵を実感し、それを総括している。企業が長期にわたって成長するためには、イノベーション、そして産学研連携が絶対に必要である」と張会長は語る。

 政府の牽引の下、より多くの肥城市の企業が技術イノベーションを通して、生産過程のスマート化を進めて、コストを削減し、品質を向上させ、新たな活力が生まれている。イノベーションが発展を牽引する最大の原動力となり、同市は質の高い発展という新たな道を進んでいる。


※本稿は、科技日報「深耕存量,這箇全国百強県発展有"内涵」(2020年12月25日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。