第174号
トップ  > 科学技術トピック>  第174号 >  ゲノムシーケンサーの国産化から海外進出へ

ゲノムシーケンサーの国産化から海外進出へ

2021年03月31日 張 曄(科技日報記者)

 「ヒトゲノム計画」では、各国が科学の面で連携し、研究成果を共有することだが、一方で、ヒトゲノムの研究のほか、生命科学の分野の産業競争の火ぶたが切って落とされ、中国国内のゲノムシーケンシング技術や機器の発展が促進されている。

独自開発によりシーケンサーの「中国スマート製造」が実現

 ゲノムシーケンサーは、生命科学研究やバイオ技術産業の発展のカギを握る設備だ。長期にわたって、一部の海外企業が、ゲノムシーケンサーの研究開発や生産の面で独占し、シーケンサーの研究開発の分野で数多くの特許を取得するとともに、厳密な保護体系を構築してきた。一方、中国のゲノムシーケンシング市場は、急速に発展しているにもかかわらず、「応用を重視するが、研究開発を軽視する」傾向が見られ、シーケンサーの研究開発の分野では空白が存在していた。

 そのため、中国政府の「『第13次五カ年計画(2016‐20年)』バイオ技術イノベーション特定項目計画」は、「ゲノムシーケンシング技術を含むいくつかの先端キーテクノロジーにおいてブレイクスルーを実現し、ゲノムシーケンシング技術などの次世代オーミクス臨床応用技術、バイオビッグデータクラウドコンピューティング技術、バイオ医学分析技術などの重点分野の発展を支える」と指摘している。

「ヒトゲノム計画」にスポットを当てて、1999年に発足した「華大集団」(以下、「華大」)傘下の「華大智造」を代表とする中国国内企業は近年、独自の研究開発を堅持し、ゲノムシーケンシング関連の設備やキットの自主コントロールを実現した。

 2013年、華大は巨額の資金を投じて、米3大ハイスループットシーケンサーメーカーの一つであるComplete Genomics社を買収した。そして、導入、消化、吸収、再度のイノベーションを経て、「華大智造」は、臨床用ハイスループットゲノムシーケンサーを独自開発し、量産できる世界3大企業の一つへと成長。独自開発したシーケンサーは、米国の同等製品と肩を並べるほか、一部のカギとなる指標はそれを上回り、シーケンサーの本当の意味での中国智造(中国スマート製造)が実現し、海外の独占状態を打破した。

image

華大集団が研究開発したゲノムシーケンサー 画像提供:取材先

10億塩基対当たりのシーケンシングコストが5ドルにまで低減

 ある統計によると、2008年から2016年の間、世界のゲノムデータは7ヶ月おきに倍増し、ムーアの法則の発展ペースを上回った。

「ヒトゲノム計画」では、30億ドル(約3,160億円)を費やし、13年かけて一人のゲノムが解析された。そして、各国は今、10万人、100万人、さらには1,000万人規模の集団ゲノム科学研究プロジェクトを立ち上げ、ハイスループットシーケンシング技術が飛躍的にアップデートしているのを背景に、それら生命デジタル化プロジェクトが「夢物語」から現実のものへと変化している。

 ヒトのゲノムの全塩基配列を正確に分析・解読するためには、膨大なデータバンクの下支えが必要だ。そのため、非常にハイレベルのゲノムシーケンシングのスループット(単位時間当たりに獲得できるゲノムシーケンシングの数)により高い要求を突きつけている。

「華大智造」は、「超ハイスループット」や「小型化」などの発展のトレンドにしっかりとついていき、全シリーズ、マルチ規格の製品マトリックスを構築した。同社は既に自主コントロール可能なオリジナル性のあるコア技術体系を構築しており、「DNBSEQシーケンシング技術」、「規則的アレイチップ技術」、「シーケンサーの光学・機械・電子システム技術」などを代表とする多くのオリジナル性のあるコア技術を確立した。シーケンシングの質の向上やコストの低減などの面の優位性が際立つようになっている。

「華大智造」の超ハイスループットシーケンサー・DNBSEQ-T7を例にすると、高速、フレキシブル、超ハイスループットなどの優れた性能を誇り、「スーパー生命コンピューター」と呼ばれている。そして、各パラメーターの指標は世界トップで、Gb(10億塩基対)当たりのシーケンシングコストが約5ドルにまで低減した。

ゲノムシーケンシング技術が全人類に益をもたらす

 ゲノムテクノロジーは人類にどんな益をもたらすのだろう?「華大智造」の牟峰・最高経営責任者(CEO)は、「ゲノムテクノロジーの応用シーンを継続的に作り出すほか、ハイスループット、高精度、ハイコストパフォーマンスのツールプラットフォームによる、大規模集団、ビッグサンプル、ビッグデータ資源の蓄積の下支えがその基礎となる。ゲノムの基礎科学研究を臨床研究へと発展させ、人々に恩恵が及ぶような実用化、応用を実現し、的を絞った医療や農業、健康維持が人々の生活に溶け込むようにする必要がある」と語る。

 2019年6月、独自シーケンシング技術・DNBSEQTMと関連のデータバンク構築技術に基づき、「華大智造」は世界に向けて、「高精細」ゲノム「676」基準を発表し、ゲノムシーケンシングの「高精細」時代の幕開けを告げた。華大は同年、アラブ首長国連邦(UAE)の全国民ゲノム計画に参加した。同計画は、大規模集団ゲノムデータを運用して、UAEのためにパーソナライズされた治療の全国民医療衛生体系を構築することを目標としている。華大の汪建・会長は、「当社の全自動サンプル作成や超ハイスループットのシーケンサー、分析サービスが、同計画のコア技術を支えている。同プロジェクトがモデルケースとなり、複数の国が当社と接触し、それぞれが国家ゲノム計画を策定するようになっている」と説明する。

 スウェーデン王立理工学アカデミーの会員である、スウェーデン王立工科大学のマティアス・ウーレン教授は、華大のシーケンサーについて、「プロジェクトで出されたデータの質は満足できるものだった」と高く評価している。

「華大智造」のシーケンサーは現在、世界の50ヶ国・地域の約1,000ユーザーにサービスを提供している。同社が独自開発したDNBSEQシーケンシング技術により、ゲノムシーケンサーの国産化も実現している。


※本稿は、科技日報「国産基因測序儀従"引進来"到"走出去"」(2021年2月10日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。