第175号
トップ  > 科学技術トピック>  第175号 >  北京懐柔科学城―「ハードコア」な実績を携え未来へ

北京懐柔科学城―「ハードコア」な実績を携え未来へ

2021年04月19日 華 凌(科技日報記者)

image

北京市懐柔区の5つの国家重大科学技術技術インフラのうち、高エネルギー放射光源プロジェクトは1月に主体鉄骨構造の工事が完了、年末には主体工事が終わり、土木建築工事の90%が終了する予定。写真はプロジェクト完成予想図(写真提供:取材先)

今年と将来の一時期において、懐柔は高い基準でビッグサイエンス装置と横断研究プラットフォームの建設・運営を推進し、国家重大科学技術技術インフラ群の形成を加速させ、世界レベルのオリジナルイノベーション受入エリアを作り上げる――戴彬彬(北京市懐柔区委員会書記、北京懐柔科学城党工作委員会書記)

 高エネルギー放射光源など、科学技術の重大成果がここに集まっている。リノベーションされた北京ナノエネルギー・システム研究所が入居し、中国科学院物理研究所懐柔園区もその運用が始まった。「北京懐柔総合性国家科学センターはすでに、全国重大科学技術インフラとイノベーションプラットフォームが最も集中するエリアの一つとなっている」。先ごろ、国務院新聞弁公室が北京国際科学技術イノベーションセンター建設の推進加速について開いた記者会見で、国家発展改革委員会イノベーション・ハイテク発展司の沈竹林司長はこう述べた。

 北京懐柔科学城は北京の「三城一区」戦略配置における三大科技城の一つであり、世界レベルのオリジナルイノベーション受入エリアだ。第13次五カ年計画(2016-2020年)期間中、国と北京市が懐柔科学城に配置した5大科学技術装置と24の科学技術研究開発プラットフォームの建設が加速された。科学研究院・研究所、大学、イノベーション企業を主体とする科学技術イノベーションのエコシステムがひとまず形成された。

 筆者は2月23日、北京懐柔科学城の関係責任者を取材した。

世界レベルのオリジナルイノベーション受入エリアを作る

「今年と将来の一時期において、懐柔は高い基準でビッグサイエンス装置と横断研究プラットフォームの構築・運営を推進し、国家重大科学技術技術インフラ群の形成を加速させ、世界レベルのオリジナルイノベーション受入エリアを作り上げる」。北京懐柔科学城党工委書記の戴彬彬氏は先ごろ北京市懐柔区委書記で、筆者に対しこう述べた。

 戴氏の説明によると、懐柔総合性国家科学センターは科学装置・設備プラットフォーム、新型研究開発機関の設立・運営などの重要任務を直接担っているという。現時点で、29の科学施設プラットフォームの全てで建設が開始され、7つのプロジェクト設備が据付・調整を実施し、17のプロジェクトで主要構造部が最上階まで完成し、5つのプロジェクトの建設が加速されている。中国科学院物理研究所の「1装置2プラットフォーム」は他に先駆けて科学研究ができる状態に入り、先進的な光源技術の研究開発・テストプラットフォームが初のイノベーションの成果をあげ、第14次五カ年計画(2021-2025年)の対象となる科学設備は申請を終えている。

 北京懐柔科学都市管理委員会の伍建民副主任は、「懐柔の5つの国家重大科学技術インフラのうち、極端条件総合実験装置はすでに一足先に科学研究が始まっている。高エネルギー放射光源プロジェクトは1月に主体鉄骨構造の工事が完了、年末には主体工事が終わり、土木建築工事の90%が終了する予定。また地球システム数値シミュレーション装置は現在設備の据付とテストを行っており、今年6月には試験稼働の条件が整うとみられている。子午プロジェクト2期土木建築工事は85%終了し、6月には土木建築工事が完成して、設備の据付・テスト段階に入るだろう。多重トランススケール生物医学画像設備は年末に土木建築工事が90%終了する見通しだ」と説明する。建設中の29の科学設備プラットフォームは、2022年から2025年までに相次いで完成し、使用が始まる見通しとなっている。懐柔区は国家重大科学技術インフラ、国家レベル産業イノベーションセンターと技術イノベーションセンターの誘致と建設を積極的に推進し、国家戦略科学技術力の形成を加速しようとしている。

 中国科学院は北京懐柔科学城建設の主力となっている。2017年に懐柔総合性国家科学センターが認可されて以来、中国科学院は北京懐柔科学城で26の装置とプラットフォームプロジェクトの建設を請け負い、参加してきた。その関連分野は物質、空間、生命、情報、地球科学などの分野に及び、一部のプロジェクトはすでに科学研究が始まっている。中国科学院条件保障・財務局の黄向陽局長は、「中国科学院が懐柔総合性国家科学センターに関与する作業の重心は建設から科学研究へと移っている。先端技術と画期的技術の研究開発展開を重点的に計画し、国家戦略科学技術力の使命の位置づけにフォーカスし、北京国際科学技術イノベーションセンター建設と国家経済社会の長期的発展に関わる問題について戦略的技術を蓄積している」と述べた。

科学技術イノベーションのビジネスエコシステム確立を加速

 今、北京懐柔科学城はイノベーション資源の集積と科学技術イノベーションビジネスエコシステム確立を加速させ、持続的な科学創造力を活性化している。

 戴氏は、「科学技術イノベーションビジネスエコシステムの確立をめぐって、地域のイノベーション体系全体の機能を全面的に高める。まずは各種イノベーション要素の集積を加速させる。市と研究機関との協力、大学と地域の共同建設、中央と地方との協同などのメカニズムを活用して、小さくとも優れた新型研究開発機関を積極的に配置し、多くのイノベーションセンター、創業プラットフォーム、ハードコア・テクノロジーのインキュベーターやアクセラレーターといったイノベーションの場を協力して建設していく」と述べた。

 関連する朗報が次々と伝えられている。

「全体移転+活気醸成」では、北京市の新型研究開発機関である北京ナノエネルギー・システム研究所が2020年9月にリニューアルの形で移転してきた。

「トップによるリード+チーム誘致」では、国際的に著名な数学者、丘成桐院士が率いる北京市の新型研究開発機関である北京雁栖湖応用数学研究院が、北京金隅興発公司の区画を改造して出来た高等研究機関集積エリアに入居した。

「人材誘致+プロジェクト実施」では、北京海創産業技術研究院が複数の成果実用化プロジェクトを進めている。

「科学教育融合+需給マッチング」では、中国科学院大学懐柔科学城産業研究院が総合イノベーション創業プラットフォームの構築に力を入れている。

「中央・地方協力+要素導入」では、非鉄金属新材料科創園が完成・運用開始され、13の企業・機関が正式に入居または入居の覚書を交わした。

「専門機関+ブランド確立」では、創業黒馬科創が本社拠点によるハイエンドイノベーション要素の懐柔への集中を加速させている。

「カスタムメイド+空間保障」では、海創ハードコア・テクノロジー産業園が、元の企業が移転後に空いた状態になっていた既存の工場棟を科学技術企業インキュベーターへと改造した。

「機能融合+学術エコシステム」では、懐柔科学城のイノベーション小鎮が、要素と機能が整ったイノベーション創業モデル区の建設に力を入れている。

「トップ企業+研究開発プラットフォーム」では、機械科学研究総院集団懐柔科学技術イノベーション基地の事前手続き処理が進んでいる。

 昨年11月22日、清華工業開発研究院雁栖湖イノベーションセンターが設立され、科学研究用計器、センサー、新材料の三大産業方向に焦点を合わせ、ハイエンド計器設備の研究開発、製造・応用シーンをめぐり、パイロット試験研究開発プラットフォーム、技術イノベーションセンター、技術移転・実用化拠点を建設し、国際的にトップクラスのハードコア・テクノロジーインキュベーターとイノベーション企業のアクセラレーターを設立し、基礎研究、技術研究開発、製品研究開発というイノベーションチェーンが出来上がった。このイノベーションセンターは、2025年までに業界最先端の研究開発・パイロット試験・検査プラットフォームを作り上げ、ハードコア・テクノロジー企業30社を育成し、ハイレベルのオフィス・研究開発・パイロット試験環境の提供を目指しているという。

 伍副主任の説明によると、近年、北京懐柔科学城は国際科学技術交流協力を積極的に展開し、国際科学技術団体の入居を促し、国際ビッグサイエンス計画やビッグサイエンスプロジェクトを発起または参加し、国際総合性科学センターシンポジウム、世界イノベーション経済フォーラム、細胞科学北京学術年会など一連の国際的なフォーラムやシンポジウムをここで開催した。また、国家科学センター国際協力連盟が入居し、中国をはじめとしてドイツ、英国、ポーランド、スウェーデン、スイス、オランダなど7ヶ国から16の科学センターが連盟の第一期のメンバーとなり、北京懐柔科学城では国際化イノベーションの雰囲気がますます色濃くなった。

イノベーションの成果の実用化資金政策体系を健全化

 今年、北京懐柔科学城の応用シーンプロジェクト建設では、科学施設の維持管理と科学計器の国産化による代替応用シーンの開放が進められ、科学研究サービス業、ハイエンド科学計器とセンサーなどハードコア・テクノロジー産業の発展が後押しされるなど、その成果がひとまず現れるとみられている。しかも、都市部・農村部全域応用シーンを配置し、科学施設建設に見合った産業技術反復プラットフォームが構築され、新製品・新技術・新モデルの応用が強化され、戦略的新興産業と未来産業が育成され、エネルギー技術の反復検証プラットフォームの論証と建設が加速される。

 このほか、北京懐柔科学城は科学技術のトップレベル人材、産業技術核心チーム、サイエンス&テクノロジーマネージャーを積極的に懐柔へ招致し、中国科学院のフルタイム科学研究チーム、青年科学研究員にしっかりとサービスを提供している。国家自然科学基金委員会エリア(北京)イノベーション発展連合基金、懐柔科学城科学技術イノベーション専門資金を活用し、「0から1」と「1から10」へのイノベーション成果実用化資金政策体系を健全化した。

 懐柔区経済・情報化局の沈志欣副局長は、「現在、成果の実用化に対する支援政策は多くの面に体現されている。まず資金面では、懐柔区は懐柔儀器公司や創業黒馬などの機関が協力して株式直接投資基金を設立するよう後押しし、基金プロジェクト準備バンクを設立し、科学計器イノベーションの主体がイノベーションへの投資を増やせるよう導いている。今年上半期に懐柔儀器・センサー株式基金を設立することを目指しており、資金は主にハイエンド計器、センサー、新エネルギー、新材料、生命健康などの分野に用いられ、国産による輸入品代替のポテンシャルがある比較的早期の科学技術プロジェクトを重点的に支援する。また懐柔区では、ハードコア・テクノロジー産業発展マザーファンドの設立も積極的に検討しており、社会資本を動かし、基金の規模を拡大し、懐柔のハードコア・テクノロジー産業の発展をサポートしようとしている。次に、政策面では、『懐柔区ハードコア・テクノロジー産業チーム支援規則』の実施推進を加速させ、ハードコア・テクノロジー産業技術チームを支援し、対象とされたチームに資金援助を行い、優先的に科技城への入居を手配し、配偶者との同居や子女の入学、住宅保障、医療保障などの優遇策を提供する」と説明した。


※本稿は、科技日報「北京懐柔科学城 携"硬核"成績単走向未来」(2021年2月25日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。