汚水が資源に、「改善」から「善用」へ
2021年04月07日 李 禾(科技日報記者)
水が透き通り、両岸には緑の樹木が茂り、美しい景色が広がる貴陽市の南明河。(画像提供:取材先)
「汚水の資源化利用推進に関する指導的意見」では、2025年をめどに、中国全土の汚水収集能力を顕著に向上させ、「水環境敏感エリア(各種自然・文化保護地)」の汚水処理をめぐっては基準を引き上げ、高度化させ、全国の地級市(省と県の中間にある行政単位)以上の水が不足している都市の再生水利用率を25%以上、北京・天津・河北地域のそれを35%以上まで引き上げると提起された。
2月初め、貴州省貴陽市の南明河のほとりでは、多くの市民がのんびりと歩き、きれいに澄んだ川の水を眺めていた。川の両岸には緑の樹木が茂り、美しい景色が広がっていた。しかし、多くの市民は、以前、南明河はひどく汚染していたことを今でも覚えている。貴陽市の人口が最も密集していて、商業活動が最も活発に行われ、生産・生活が最も集中した地域を流れていることに加えて、生活排水が直接川に流されていたため、南明河は以前、「死んだ川」となっていた。
貴陽市は、貴陽特殊鋼有限責任公司やセメント工場など、汚染水を大量に排出する企業を他の地域へ移転させ、下水処理場を建設し、処理して基準を満たした放流水を生態景観用水として流し、全流域の「山水林田湖草」の環境を体系的に改善し、川沿いに湿地公園やレクリエーション広場などを建設してきた。そうすることで、今では南明河の全流域にあった黒く濁り、くさい臭いを放っていた水域25ヶ所が全てなくなり、主要支流7本の水質が全て基準を満たし、水生植物のカバー率が向上し、生態環境が明らかに改善した。そして、澄んだ水が流れ、そこには魚が泳ぎ、岸は美しく、鳥が飛び、公園などには文化的ムードが漂い、多くの人がレクリエーションを楽しむ景色が広がるようになっている。
「国民経済・社会発展第14次五カ年計画(2021‐25年)および2035年長期目標の制定に関する中国共産党中央の提言」(以下「提言」)は、「第14次五カ年計画(十四五)」期間中、それぞれの地域の事情に合わせた水質汚染対策を講じ、河川や湖の水系環境を総合的に改善し、都市部・農村部の生活環境を改善することのほか、下水管網が都市部全域をカバーするようにし、都市内の黒く濁り、くさい臭いを放つ水域を基本的になくすよう要求している。各地は現在、数多くの南明河のような河川の環境を総合的に改善しており、川底が見えるほど透き通る水や、そこで泳ぐ魚、緑の樹が茂る岸ができるという目標が少しずつ達成されている。
汚水の資源化利用は依然としてスタート段階
中国生態環境部(省)の黄潤秋部長は、「ここ5年で生態環境保護事業は、歴史的成果を上げた。『第13次五カ年計画(2016‐20年)』網要が制定していた生態環境の確定的指標(必ず実現しなければならない目標)9項目は全てクリアした。うち、全国地表水の優良水質断面の割合は83.4%に達し、目標の70%を上回った。劣5類(重度汚染)の水域の割合は0.6%に下がり、これも目標の5%を上回った。透き通った水を守る戦いは、『勝利を決定づける』成果を挙げており、安全な飲用水が確保されている。国民の周りでは青空、きれいな水が流れ両岸に緑の樹木が茂る川が目に見えて増えている。環境の『見た目の評価値』は多くの地域で向上している」と成果を語った。
水は生命の源だ。統計によると、中国の水資源の総量は約2.8兆立方メートルで、人口が多いため、国民一人当たりの量は、世界の平均水準の4分の1しかない。中国は治水の面で大きな成果を挙げているにもかかわらず、国家発展改革委員会の関係責任者は、「水資源の時空分布は不均等で、依然として経済的要素と適合していないというのが中国の水の現状。水資源不足がなおも経済・社会の発展の大きな足かせとなっている。資源型水不足(水資源が少なく、経済成長に追い付かず水不足になっている)、水質型水不足(水資源が汚染されて水質が基準を満たさず、水不足となっている)問題が依然として存在しており、水環境汚染が深刻で、水生態の安全は大きく脅かされている。一部の都市では黒く濁り、くさい臭いを放つ水域が今でもある。一部の河川や湖の水域、湿地の萎縮が深刻で、海河など一部の区間では水の流れが止まる現象が頻発している」と指摘する。
水資源不足の問題を解決するために、中国は現在、汚水の資源化利用事業を継続的に推進している。中国国際工程咨訊有限公司の資源・環境業務部の元部長である朱黎陽氏は、「2番目の規模の水資源である汚水には水量が安定していて、水質をコントロールでき、近場で利用できるなどのメリットがある。汚水の資源化利用を積極的に推進することで、水供給の問題を緩和できるだけでなく、水の汚染を減らすこともできる」と説明する。
中国の汚水の資源化利用は現在、スタート段階にあり、発展が不十分かつ不均衡で、利用量が少なく、利用率も低く、利用の水準が全体的に低い。生態環境部は、「十四五」期間中、水資源、水生態、水環境、水災害をめぐる計画を統一し、水を守り、汚水対策を実施し、生態用水を増やし、都市部・農村部の汚水収集と処理施設のウィークポイントを補強して、都市部全域を下水管網がカバーするよう推進し、生活源汚染対策を強化することを決定している。
政策を打ち出して再生水利用を促進
国家発展改革委員会が提供している統計によると、2019年、中国の都市部の汚水排出量は約750億立方メートルだったのに対して、再生水の利用量は100億立方メートルにも届かなかった。つまり、再生水の利用量は、都市部の汚水排出量の15%未満ということになる。
汚水の資源化利用の足並みを加速させ、水生態の安全を守るために、国家発展改革委員会や科学技術部、生態環境部など関連の10組織が共同で1月11日に打ち出した「汚水の資源化利用推進に関する指導的意見」(以下「指導的意見」)は、2025年までに、全国の汚水収集能力を顕著に向上させ、県の行政中心地や都市の汚水処理能力が現地の経済・社会発展の需要を基本的に満たし、水環境敏感エリアの汚水処理の基準を引き上げ、高度化させると明確に計画している。また、中国全土の地級市以上の水が不足している都市の再生水利用率を25%以上、北京市・天津市・河北省のそれを35%以上まで引き上げる目標を明確に掲げている。
湖南省長沙市スポンジ都市生態産業技術革新戦略連盟の劉波事務局長は、「指導的意見が打ち出されたのは『十四五』の1年目であることは注目される。汚水の資源化利用をめぐる政策、対策、計画、目標の制定は、『提言』の2035年までの長期目標とも合致しており、グリーン発展、持続可能な発展、質の高い発展の理念が反映されている」としながらも、「ただ、中国全土の汚水の資源化利用は依然としてスタート段階で、多くの都市の下水処理場は放流水を直接川や湖に流している。そのような状態が長期にわたって続くと、川や湖の環境のキャパシティーに大きな影響を与える」と指摘する。
統計によると、省都級の都市は通常、都市行政の汚水処理後の放流水の排出量は1日当たり数百万立方メートル以上で、1年を通して見ると約1億立方メートルとなっている。また、地級市の1日当たりの放水量は数十万立方メートル以上で、1年を通して見ると、約1千万立方メートルとなっている。劉事務局長は、「中国全土の都市の生活排水排出量は膨大で、水環境の大きな変化に影響を与えているだけでなく、非常に大きな資源の浪費ともなっている。また、工業汚水や農村の農業汚水の排出量も膨大で、その生態環境への影響は決して軽視できない。資源化利用の前途はどれも明るい」との見方を示す。
そして、「『指導的意見』などの政策が打ち出されていることは、それらの問題を解決し、資源節約型・環境友好型社会の建設、グリーン発展を促進する点で非常に重要な意義を持っていることに疑問の余地はない。『指導的意見』は、北方地域の水が不足している都市や北京・天津・河北省の汚水の資源化利用事業計画を際立たせているのに対して、南方地域には重点が置かれず、あまり強調されていないように見えるかもしれないが、それは間違い。汚染などの原因で、南方地域が水質型水不足であることは客観的事実で、南方地域でも同じく生活排水、工業汚水、農村の農業汚水に対する管理・コントロール、資源化利用強化が必要だ」と指摘する。
コンセプト浄水場が汚水処理を新たな段階へと引き上げ
江蘇省宜興市で、中国の未来ビジョンを示すコンセプト浄水場が建設中だ。中国初の都市汚水資源コンセプト浄水場として、その建設構想は中国工程院の院士である曲久輝氏など水汚染抑制分野の専門家6人が提案し、「優良水質の永続、エネルギーの自給、資源のリサイクル、環境にやさしい」を目標に、ガーデン式の都市下水処理場を建設し、中国の汚水処理を新たな段階へと引き上げる計画だ。プロジェクト一期では、1日当たり約2万トンの汚水処理能力を目指す。
曲氏は、「宜興のコンセプト浄水場は、環境全体に馴染み、環境に持続的に優良な水質の水を提供するようになるだろう。長期にわたる発展段階において、地域の水環境・水生態の修復、建設のニーズを満たし、経済・社会の持続的な発展を下支えするだろう。同時に、協同汚染対策を見ると、嫌気性消化などの共同処理プロジェクトが地域の有機廃棄物である生活ゴミ、汚泥、家畜の糞便などの処理を負担し、周辺環境のニーズを総合的に考慮して、汚染対策問題が統一して計画される」と説明する。
つまり、新コンセプトの都市下水処理場が、汚染物削減の基本機能を備えた処理工場から、都市エネルギー工場、水源工場、肥料工場へと拡張し、都市部と農村部が全面的に融合し、「相利共生」する新型環境インフラへと発展する計画だ。曲氏は、「コンセプト浄水場は、有機質エネルギー、熱エネルギーが豊富で、省エネを実現し、周辺の景観の緑化に寄与するだけでなく、カーボンニュートラルの実現にも一助となる」としている。
中国工程院の院士で、南京大学環境学院の院長と南京大学宜興環保研究院の院長を務める任洪強氏は、「水処理の分野では今、大きな変革が起きている。初期の汚水処理から、基準到達、再生水までは、実際には水機能回復の過程だ。その過程において、初期には有機物汚染が抑制され、次にアンモニア性窒素が抑制され、さらに、全窒素、全リンが抑制されていく。最近、毒性指標も地表水基準の抑制指標に盛り込まれた。そのため、2021--35年は、水汚染処理技術、工法、設備、関連のイノベーションにおいて、水質の安全や健康リスクにより注目すべきだ」との見方を示す。
そして、「宜興などの都市は現在、変革しながら積極的な模索も行っている。宜興環境保護テクノロジー工業パークでイノベーションによる発展が進み、中国の未来ビジョンを示すコンセプト浄水場が完成するにつれて、宜興は環境保護産業のハイレベルのイノベーション、発展を下支えし、人材ストックや技術革新、成果の実用化、金融サービスなどの面でも、一定の基礎が築かれていくだろう。宜興などの都市の模索は、産業の高度化を牽引し、国家戦略の目標、位置付けに寄与するのにも一助となるだろう」と強調する。
※本稿は、科技日報「把汚水変成資源,従"善治"走向"善用"」(2021年2月9日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。