第176号
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次世代電池への動きを促進

2021年05月25日 AsianScientist

 新しい年は新しい電池で!香港の研究グループがリチウム硫黄電池の性能を大幅に向上させる新設計を提案。

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 AsianScientist 2019年にノーベル化学賞を受賞したリチウムイオン電池は、ワイヤレス技術に革命をもたらした。そして今回、現在のリチウムイオン電池を引き継ぐ可能性のあるリチウム硫黄(Li-S)電池を香港のある研究グループが新たに設計した。この研究は Nature Nanotechnology 誌上で発表された。

 スマートフォン、ドローン、電気自動車など、リチウムイオン電池を動力源とするデバイスは、現代の生活の至る所に広く普及するようになっている。一方、Li-S電池は、リチウムイオン電池より安価で環境に優しく、しかもパワフルな代替品として提案されている。

 特筆すべきは、Li-S電池には、500 Wh/kgを超えるエネルギー密度を提供できる可能性がある点である。これは、リチウムイオン電池の限界である300 Wh/kgをはるかにしのぐ。このエネルギー密度の高さは、航続距離400kmのリチウムイオン電池登載車両が電池をLi-S電池に替えた場合、その航続距離が2倍になりうることを意味する。

 ところが、このようなLi-S電池の有望性にもかかわらず、現時点では産業規模での実用化を阻む重大な問題がひとつある。それは多硫化物のシャトル効果である。一般的なLi-S電池では、硫黄イオンや硫化物が正極から徐々に漏れてリチウムを腐食し、その結果、寿命が短くなる。

 この問題に対処するため、香港科学技術大学の趙天寿(Zhao Tianshou)教授を中心とする国際的な研究グループがLi-S電池の性能をさらに向上させる可能性のある新しい正極設計を提案した。

 同グループの設計では、中に多数の結合サイトが埋め込まれている多孔質材料が含まれており、それにより硫黄ナノ粒子をカプセル化する。これらのサイトは、正極から漏れる硫化物イオンを効果的に固定化して吸収し、シャトル効果やリチウムの腐食をなくすことができる。これにより、新しい設計では、80サイクルで95%以上の効率を実現し、300Wh/kgを超えるエネルギー密度の向上を達成した。

 趙教授は、「我々の新しい電極設計コンセプトとそれに伴う性能の飛躍的な向上は、現在のリチウムイオン電池よりもさらに強力で長持ちする次世代電池の実用化に向けた大きな一歩となる」と結論付けた。

 

発表論文等: Zhao et al. (2020) A High-energy and Long-cycling Lithium-sulfur Pouch Cell via a Macroporous Catalytic Cathode With Double-end Binding Sites.

原文記事(外部サイト):
●Asian Scientist
https://www.asianscientist.com/2021/01/in-the-lab/lithium-sulfur-batteries-cathode-design/

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Source: Hong Kong University of Science and Technology; Photo: Shutterstock. Disclaimer: This article does not necessarily reflect the views of AsianScientist or its staff.