第176号
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成都ハイテクパーク:イノベーションを核に、「頭一つ抜けた」企業を育成

2021年05月12日 李 迪、陳 科

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成都ハイテクパークの一角(画像提供:取材先)

200億元―
 四川省の成都国家独自イノベーションモデルエリアは今後、成都-重慶地区両都市経済圏建設の重要な成長の一極となり、中西部革新駆動型発展モデルエリアと国家ハイレベル発展先行エリアの構築のほか、世界一流のハイテクパークの建設を加速させ、第14次五カ年計画(2021‐25年)の終盤には、同エリアの域内総生産を4,000億元(約6.68兆円)に、社会全体の研究開発(R&D)投資総額を200億元(約3,300億円)に引き上げ、企業の研究開発投資の対域内総生産比率を5%にまで引き上げるよう目指す。

 成都高新技術産業開発区(以下「成都ハイテクパーク」)は今年1月、今後5年で300億元(約5,000億円)を投じ、50の新型研究開発機関を設置し、結果を公表するチームには最高で1億元(約16.7億円)の支援金を支給し、重要新型研究開発機関には上限を定めずにサポートを行うことなどを盛り込んだ、科学研究成果に基づいて新型研究開発機関に科学研究経費を支給する懸賞制度「岷山行動」計画を打ち出した。またテラヘルツや細胞工学、インダストリアルインターネットなど複数の新興分野を含んだ、14の新型研究開発機関の第1弾となるニーズリストも公表した。

 2015年に、中国西部で初の国家級独自イノベーションモデルエリアとして認可を受けた成都ハイテクパークは、第13次五カ年計画(2016‐20年)期間中、発展スタイルの総合的な改革を進め、域内総生産の最高額を更新し、四川省初の2,000億元(約3.34兆円)の大台を突破したテクノロジーパークに成長した。昨年、同エリアの域内総生産は2,400億元(約4兆円)を突破し、経済成長率8.3%で、中国全土のハイテクパークの中でも、安定して先頭集団の中に位置している。

 既に発足して30年となっている成都ハイテクパークは、どのように第14次五カ年計画という新たな奮闘の道を歩み、「成都-重慶地区両都市経済圏」建設や新時代における中国西部大開発という大きなチャンスをしっかりと掴み、またいかにモデル的役割、牽引的役割を強化し、新時代における国家独自イノベーションモデルエリア発展の青写真を描けばいいのだろうか?

 2月26日に開催された成都ハイテクパーク2021年活動会議で、同パークの党活動委員会の主要責任者は、「新しい発展の構造を構築するために本質的に最も必要なことは、ハイレベルで自立・自強を実現することだ。国家ハイテクパークにとっては、持久力を高めると同時に、国の戦略的テクノロジー能力強化という方針に、さらに貢献することが必要」と指摘した。

地域発展のためにイノベーションの力を蓄積

 昨年12月28日、中国国家発展改革委員会が公式サイトで発表した「2020年(第27弾)新規認定を含む国家企業技術センター全リスト」に、成都ハイテクパークの企業3社がリスト入りした。現時点で、同パークには、国家企業技術センター15施設、国家級技術イノベーションモデル企業6社、省級企業技術センター126施設があり、その全体的な規模や技術・イノベーション能力は、中国中西部地域でトップレベルとなっている。

 3月3日、中国国内のプロジェクター分野におけるリーディングカンパニーの一つである「極米科技」は、ハイテク企業向けの株式市場「科創板」に上場。成都ハイテクパーク内の企業としては、2月13日に「成都縦横自動化技術股份有限公司」に続いて「科創板」に上場した2社目の企業となった。現時点で、成都ハイテクパークの「科創板」への上場申請を通過した、または上場済みの企業数は、四川省全体の56%を占めている。成都ハイテクパーク科技・人材活動局の関係責任者は、「そうした企業の中で、バイオ医薬品やスマートテクノロジーなどの新興分野に分布しており、いずれも産業の細分化された分野のリーディングカンパニーだ。そうした企業には、新薬の研究開発・創薬を手掛ける高成長中の企業もあれば、中国の産業用ドローン市場のリーディングカンパニーもあり、国内外の空白を埋める複数の技術を有している」と説明する。

 国家企業技術センターの爆発的成長にしても、科創板の上場する企業の相次ぐ出現にしても、その背景には、成都ハイテクパークが蓄積し続けるイノベーションの原動力がある。大学・地方・研究院・企業の協同イノベーションを一歩踏み込んで行うことで、成都ハイテクパークは昨年、科学技術研究成果の権利確認をめぐって、大学・地方が「事業パートナー」をシェアする全国初の新メカニズムを構築。電子科技大学と共同で、大学・企業共同技術協力プラットフォームを立ち上げ、エリア内に、「電子科大--京東共同イノベーション研究院」などの大学・企業技術協力プラットフォーム8ヶ所が相次いで設立され、各種企業、技術研究開発プラットフォームなど70社・機関が集まった。また、科学技術イノベーションをサポートする制度12項目を打ち出し、企業が「0から1」への、技術的ブレイクスルーを実現できるようサポートし、科学技術イノベーションや成果の実用化・応用を加速させている。

 統計によると、ここ5年で、成都ハイテクパークは、プラットフォームエコシステム型リーディングカンパニーやガゼル企業、シードステージのスタートアップ企業898社を育成し、現時点で、ハイテク企業の数は2,705社に達している。そして、「北に中関村、南に深圳湾、東に長陽谷(上海市長陽谷五角場高新技術産業園)、西に菁蓉匯(成都市が実施する起業行動計画のこと)がある」という、中国全土で起業・イノベーションエリアが発展を牽引する新たな構造が出来上がってきている。

技術の研究開発を強化しテクノロジーの自立・自強を促進

 2月7日、成都未来サイエンスシティのスタートアップエリアディ-プ設計および重点エリアコンセプト建築案が正式に発表された。成都未来科学城(サイエンスシティ)は、成都・重慶発展の主軸に位置し、成都天府国際空港に隣接。面積は60.4平方キロで、中国(成都)科学城の重要な下支えになると期待されている。

 第14次五カ年計画期間に突入し、成都国家独自イノベーションモデルエリアはどのような発展の青写真を描いているのだろう? 2月26日、同エリアで開催された2021年活動会議で、「成都-重慶地区両都市経済圏建設の重要な成長の一極となり、中西部革新駆動型発展モデルエリアと国家ハイレベル発展先行エリアの構築のほか、世界一流のハイテクパークの建設を加速させ、第14次五カ年計画(2021‐25年)の終盤には、同エリアの域内総生産を4,000億元(約6.68兆円)に、社会全体の研究開発(R&D)投資総額を200億元(約3,300億円)に引き上げ、企業の研究開発投資の対域内総生産比率を5%にまで引き上げるよう目指す」という答えが出された。

 成都ハイテクパークの関係責任者は、「近年、当パークのハイテク企業は爆発的に成長しているが、先進的な企業と比べると、ハイテク企業の規模は依然として全般的に小さく、『全体的にレベルが高いが頭一つ抜けた企業がない』という状態になっている。今後、企業の技術イノベーション体系における主体的地位をさらに強化する必要がある。今後5年、当パークは、イノベーション主体の能力強化・アップグレード推進、エリアのイノベーション後方支援能力強化、国家的使命を担い強力なテクノロジーを開発するという3方面に集中的に力を注ぎ、科学技術イノベーションの自立・自強実現を促進する。また、ハイテク企業の数を増やし、企業が研究開発投資を増やすよう積極的に誘導し、企業が研究開発投資を増やすことを奨励する面で集約化された政策的ツールを構築する。第14次五カ年計画の終盤には、企業の研究開発投資の対域内総生産比率を5%にまで引き上げることを実現する。また、新型研究開発機関をバックに、エリアのイノベーション原動力を強化し、未来イノベーション型産業クラスターの誕生を促進したい」と語る。

 そして、「勇敢に使命を担い、技術の研究開発を強化しなければならない。国家級ハイテクパークとして、国家の科学技術の自立・自強実現という目標達成に貢献するのは当然のことだ。第14次五カ年計画期間中、当パークは引き続き、技術の研究開発に力を注ぎ、パーク内の企業が国家戦略に呼応して国家級技術センターの建設をサポートし、それに参加することで、国家の重大テクノロジーをめぐる研究開発プロジェクトを積極的に担っていく。また、生物医学材料などの国家工学技術研究センターを、国家技術イノベーションセンターに改築するよう積極的に推進する。2025年をめどに、省レベル以上の科学技術イノベーションプラットフォームの数を倍増させ、国家級研究開発機関の数を210にまで増やす計画だ」と語った。

五カ年計画1年目の「小さな目標」は持続的な科学技術イノベーション能力の強化

 昨年11月、成都ハイテクパークと四川大学が共同で設立した新型研究開発機関である成都先端医学センターがインキュベートさせた企業・成都威斯克生物医薬有限公司は、シリーズAラウンドで調達した3億元(約50億円)を投じて、ワクチンの臨床研究や生産ラインの建設を行った。同社が研究開発した新型コロナウイルスワクチンは、中国で臨床試験の認可を受けた11種類のワクチンの1つで、中国初の昆虫細胞を用いた組み換えタンパク新型コロナワクチンでもある。

 成都ハイテクパークの関係責任者は、「今年、当パークは引き続き科学技術イノベーション能力を強化し、科学技術イノベーションプラットフォームの建設とテクノロジー企業の育成を全力で推進する」とし、第14次五カ年計画の1年目となる今年の目標について、「域内総生産額2,600億元(4.34兆円)を実現できるよう取り組み、エリア内のハイテク企業を3,200社にまで増やしたい」と語った。

 成都ハイテクパーク科技・人材活動局の関係責任者は、「今年1月に、新型研究開発機関を対象にした『岷山行動』計画の実施が始まってから、これまでに、60近くのトップレベルのチームから積極的な申請があった。また、関連のインキュベーターの登録も始まっており、幸先の良いスタートを切っている。こうした新型研究開発機関は今後、電子情報、バイオ医薬品、ニューエコノミーの3大主導産業に焦点を当て、公共技術プラットフォームを構築し、科学技術研究成果の実用化を促進する」と語る。

 成都の産業発展の主要な場である成都ハイテクパークは今後、産業チェーンやサプライチェーンの現代化水準向上にも力を注ぐ。中でも電子情報の分野では、一定規模以上の工業企業(年売上高2,000万元以上の企業)の年間生産高前年比8%増超の4,000億元(約6.68兆円)突破、さらに、ウェハー製造などの重点分野で新たなブレイクスルー実現を目指す▽バイオ産業分野では、その規模を継続的に拡大させ、パーク内の医薬健康産業の規模800億元(約1.34兆円)突破を実現する▽ニューエコノミーの分野では、5G・人工知能、ビッグデータ・サイバーセキュリティ、インターネットオーディオ・ビジュアル・デジタル文化クリエイティブの分野における一定規模以上の企業の売上高がそれぞれ215億元(約3,590億円)、220億元(約3,670億円)、525億元(約8,770億円)の実現を目指す、ということが含まれる。


※本稿は、科技日報「成都高新区:以創新為核,高原之上築高峰」(2021年3月18日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。