第176号
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発展の「天井」を打ち破る蘇州相城経開区

2021年05月24日 許 潔、過国忠(科技日報記者)

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相城経済技術開発区が導入しているスマート化工場 画像提供:取材先

正確に位置付け、革新的に展開

「相城経済技術開発区は設立されて以降、先進エリアを目指し、「外部からの牽引、内部による駆動、特色を持った推進」という戦略を実施し、産業の位置付けを明確にして、選択的な投資誘致を強化し、集約型発展における「工業立区」を目指している――盛夢龍(蘇州市相城区党委員会常務委員、相城経済技術開発区党活動委員会副書記、管理委員会副主任)

 40年近くの急速な発展を経て、蘇州にしても、無錫、常州にしても、江蘇省南部の発展は、土地や環境、資源、コストなどさまざまな要素の制約を受けるようになっている。

 関係する専門家の言葉を借りれば、江蘇省南部の発展はほぼ頭打ちになっており、この問題解決は一刻の猶予も許さない情勢となっている。

 第14次五カ年計画(2021‐25年)期間に突入した今、このボトルネックをどのようにして打破し、何を武器に外資を誘致し、どのように独自イノベーション力を向上させて、競争力を持つ特色ある産業を構築し、新たな発展の原動力を強化すれば良いのだろうか?

 江蘇省南部の都市を3月下旬に取材すると、蘇州相城経済技術開発区(以下「相城経開区」)の発展構想や措置が何かのヒントをもたらしてくれるのではないかと感じた。

先進エリアを目指し、一歩先を進むソフト環境を建設

 蘇州は世界の「水の都」で、相城区は蘇州の「水郷」だ。同区は蘇州市の区画整理で、最も新しく市轄区となった街の一つだ。

 よく知られた蘇州工業パークやイノベーションの実力が高い蘇州ハイテク産業開発区と比べると、相城経開区は、産業的基礎にしても、科学技術イノベーション資源などにしても、際立った優位性がない。

 相城区が正式に設立されて20年しか経過しておらず、相城経開区が国務院の承認を受けて国家級経済技術開発区になってからも、まだ8年にも満たない。

 相城区は以前、農業が占める割合が高く、工業の発展水準が比較的低かった。相城経開区は建設当初、主に「郷鎮企業(農村の中小企業)」頼りで、産業規模も、経済規模も小さかった。

 いかにして追いつくのだろうか?

 相城区党委員会常務委員で、相城経済技術開発区党活動委員会副書記、管理委員会副主任なども務める盛夢龍氏は、「当区は設立されて以降、先進エリアを目指し、『外部からの牽引、内部による駆動、特色を持った推進』という戦略を実施し、産業の位置付けを明確にして、選択的な投資誘致を強化し、集約型発展における『工業立区』を目指している」と説明する。

 相城経開区は設立当初、魅力あるプロジェクト誘致や科学技術人材をめぐる政策を打ち出していなかった。

 盛氏は、「当区が力を入れているのは、ハードウェアではなくソフトウェアであり、ソフト環境の建設において、一歩先を進み、整った投資誘致サービス体系を構築し、『サービス提供者』として、顧客サービスに徹する理念を打ち出している」と説明する。

 相城経開区は長年にわたり、機械製造、電子情報、バイオ医薬品などの産業に照準を絞り、三菱重工や住友商事、みずほ銀行など多くの日本企業を呼び込んできた。

 人工知能(AI)を駆使して足の不自由な人などに移動のソリューションを提供する日本のWHILL株式会社は、2019年に、相城経開区に中国エリアの研究開発センター、販売本部である蔚路科技(蘇州)有限公司を設立した。

 同社のアジア太平洋地域の責任者・田也氏は、「相城経開区に進出して以降、政府が多岐にわたるサポートを提供しくれたので、現地の環境に合わないという問題が解消され、中国市場で新製品開拓を速やかに展開することができた。現時点で、当社は中国の15の重点都市で、市場全体の展開を行なっている」と話す。

 相城経開区は現在、相城区の産業が発展しているエリアの「中心的存在」、プロジェクト建設の「主要な場」、開放・開発の「メインキャリア」、長江デルタにおける「日系企業の集積地」になっている。

「大虹橋」に溶け込み、「2+3」の産業構造を再構築

 2020年4月、中日(蘇州)地方発展協力モデルエリアが、中国国家発展改革委員会の承認を受け、中国全土にある協力モデルエリア6カ所の一つとなった。

 同モデルエリの範囲は、相城区全域をカバーしており、中心エリアは、「一核両翼」の構図を形成している。「一核」とは、相城経開区にある中枢サービス核で、敷地面積は6.5平方キロ。現在、科学技術イノベーションバレー、江南ドリーム、さくらパークなどの都市機能エリアの建設が急ピッチで進められている。

 盛氏は、「『中枢服務核』(中日の産業マッチングの窓口・技術協同イノベーションセンター)の建設は、当区独自の発展の新たなチャンスとなるうえ、産業構造の調整、新旧の原動力の入れ替えを逆方向で強制することにもなる。そのため、新たな産業展開を制定するというのが、当区の最重点事項になる」と話す。

 相城経開区は昨年から、中枢服務核の建設に合わせて、虹橋国際開放ターミナルの「北向きの開拓ベルト」のキーポイントという優位性を十分に活用し、上海と積極的にマッチングし、インダストリアルインターネット、スマート製造を先導とする「2+3」の産業構造を重点的に構築するという新たな構想を提起している。

 可能な限り速くコンセンサスを築くべく、相城経開区の管理委員会は、「上海と相城区のマッチング----虹橋国際開放ターミナル戦略下の産業新展開、新たなチャンス」と題する特別講座を開催。専門家を招いて、虹橋国際開放ターミナルを構築する全体的な背景、発展の基礎、目標の位置づけ、機能展開などをめぐって、一歩踏み込んだ説明を行い、区全体で協力関係が速やかに形成された。

 相城経開区経済発展局(招商局)の呉暁莉局長は、「当局は虹橋--相城一体化建設に積極的に溶け込むことで、モデル転換の足かせ、産業構造再編の難関を打破し、オリジナルイノベーション能力、産業発展の質をさらに向上させる必要がある」と説明する。

 そして、「当局は、相城経開区(上海)産業イノベーションセンターを設立し、上海という巨大なプラットホームを活用して、インダストリアルインターネット産業の優良資源を導入するためにさらに多くのルートを提供している。現時点で、10件以上のプロジェクトの実施が決まっているほか、5件のプロジェクトの登録も終わっている」と話す。

 2020年以来、相城経開区は、「都市レセプションルーム」、「中枢服務核」、「都市の裏庭」という3つの都市建設の良質な計画に牽引され、「都市レセプションルーム」構築を実施ルートとし、空間展開の最適化、産業のレベルアップ、都市の刷新を加速させ、都市のコア・コンピタンスを継続的に強化していることは注目に値する。

遊休地を活用し、科学技術イノベーション産業クラスターを建設

 康元路777号に位置する長江デルタイノベーション医療テクノロジー産業パークに入ると、前衛的なオフィスビルがそびえ立ち、オシャレなイノベーションスペースが広がっており、半年前まで施設が古く、管理が行き届いていない古い生産区域がそこにあったとは想像もつかない。

 相城経開区の企画建設局の張鋭副局長は、「昨年以降、当局は、低効率の土地の再開発を行い、遊休地を整理し、産業構造を調整し、管轄区の企業のモデル転換と高度化の推進加速に取り組んできた」と話す。

 計画によると、「第14次五カ年計画」期間中、長江デルタイノベーション医療テクノロジー産業パークは、先端医療機器、医療人工知能、医療検査サービス、および関連のイノベーション設備などをメインとした、イノベーション医療テクノロジー産業クラスターを形成する見込みだ。

 如元路573号は以前、ローエンド製造業の生産エリアだった。今年初め、相城経開区がリニューアル工事を実施し、わずか2ヶ月で、「兆耀テクノロジーパーク」に変身。スマート製造やテクノロジー研究開発系の企業5社が既に入居している。

 兆耀テクノロジーパークの運営管理責任者は、「相城経開区経済発展局が産業的位置付けをサポートしてくれたおかげで、現在進出しているのはハイテク企業や研究開発系のプロジェクトばかりで、パークの収入も増加した。今後の発展の見通しはさらに明るくなるだろう」と話す。

 こうした古い産業パークが抜本的な変化を実現したことにより、相城経開区はハイレベル・精密・先端的な企業や人材を誘致するための原動力を蓄積している。

 盛氏は、「当区は現在、蠡塘河両岸を中心機能エリアとし、『ビルディングエコノミー』を重点的に発展させることを主な方向性とした、『1核2軸3回廊4パーク』長江デルタ科学技術イノベーションセンターを構築し、中国国内で影響力を持つ科学技術イノベーション産業クラスターを建設するよう取り組んでいる」と説明する。

 陽澄湖国際科学技術イノベーションパークには、藍卓、蓋勒普、琅潤達、騰雲数据、蘇相機器人、盈数智能など、インダストリアルインターネットプラットホームやサービス・プロバイダーなど30社近くが集まり、その分野はエネルギー、電子情報など複数の分野をカバーし、産業クラスターが形成され、「インダストリアルインターネット産業モデルパーク」の建設推進が加速している。

 また、北京、上海などの7カ所の「飛び地インキュベーター」を活用し、「イーグル突撃隊」を立ち上げ、各大手キャリアとマッチングし、積極的に他地域に赴き、プロジェクト源を効果的に開拓し、ハイレベル人材や科学技術イノベーションプロジェクトを誘致することに成功している。

 企業の独自イノベーションの活力を活性化するために、相城経開区は今年、「経済開発科学技術イノベーション研究機関の『飛躍的発展のための行動計画』」を発表し、「経済開発科学技術イノベーション研究機関の特定項目サポート政策」を打ち出して、重点企業に対して、研究院(所)有限公司を設立して、応用研究、産業の将来を見据えたキーテクノロジーの研究開発を加速して展開する。企業のモデル転換と高度化を促進し、科学技術研究成果の実用化を加速するよう奨励している。

 さらに、「第14次五カ年計画」期間中、相城経開区は、100万平方メートルに近い研究開発スペースを構築し、各種人材向けの新規住宅を5,000カ所、新規オフィスビルや科学技術イノベーション拠点などのキャリアスペース10カ所以上を建設する計画で、長江デルタの都市におけるアップグレードのモデルケースになることを目指す。


※本稿は、科技日報「精准定位、創新布局 相城経開区拆除発展"天花板"」(2021年4月6日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。