第177号
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ダイヤモンドの限界に挑む

2021年06月14日 AsianScientist

 圧力が石炭をダイヤモンドに変えるのと同様に、ダイヤモンドに多くのひずみを加えると、宝石に望ましい電子的特性が得られる。

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 AsianScientist 香港の研究者らは、ミニチュアダイヤモンドの均一なひずみを史上初めて実証した。学術誌Scienceに掲載された彼らの成果は、マイクロエレクトロニクス・光工学・量子情報技術などの先端技術において、このように伸縮加工されたダイヤモンドが取り扱われる可能性が高いことを示している。

 ダイヤモンドはその硬度の高さでよく知られるが、一般的には様々な材料の切断・穴あけ・研磨などの工業用として使用されている。だが、ダイヤモンドは、その超高熱伝導性・電荷を運ぶ能力・超広帯域のバンドギャップといった特性により、電子デバイスやフォトニクス(つまり光ベースの)デバイス等にも使用されている。

 半導体では、広いバンドギャップ(電子を励起するのに必要な最小エネルギー)が、高出力または高周波デバイスの動作を可能にする。ただし、ダイヤモンドの広いバンドギャップとタイトな結晶構造は、製造時の修正や予測が困難なため、電子デバイスへの応用には限界がある。このため、電子機器へのダイヤモンドの工業的利用が制限されている。

 2018年、香港市立大学の陸 洋(Lu Yang)博士が率いるチームは、多くのひずみを加えることで、ナノスケールのダイヤモンドを曲げられることを発見した。そのため、ひずみ工学によってダイヤモンドの物理的・電子的特性を修正することが可能なはずだ。

 この研究で得られた知見を実践するため、陸 博士と彼の共同研究者たちは、ミニチュアの単結晶ダイヤモンドサンプルを作製した。橋のような形のサンプルは、長さが1マイクロメートル、幅が約300ナノメートルだった。次に、この小さなダイヤモンドブリッジを延伸し、数サイクルのひずみを加えたところ、全長にわたって約7.5パーセントの均一で弾性的な変形を示した。ひずみの原因が取り除かれると、ダイヤモンドブリッジはすぐに元の形状に戻った。

 ダイヤモンド特性をさらに最適化することで、研究者たちは最大9.7%のひずみを達成することができた。また、適用されるひずみ量が増えると、ダイヤモンドのバンドギャップが一般に減少することもわかった。興味深いことに、ひずみが9パーセントを超えると、ダイヤモンドのバンドギャップは間接的なものから直接的なものへと変化した。直接的なバンドギャップにおいて電子は直接光量子を放出するようになる。半導体においては、より効率的な光ベースのエレクトロニクスを可能にするため、直接的なバンドギャップが望ましい。

 最終的に、研究チームの発見は、ダイヤモンドのバンドギャップが変更可能であり、さらに重要なことは、この変更が可逆的だということだ。この結果は、ダイヤモンドがトランジスタから光エレクトロニクス、さらには量子技術に至るまで、さまざまな用途に広く利用する道を開くものである。

「この先、ダイヤモンドの新時代が到来すると信じている」と、陸 博士はくくった。

 

発表論文等:Dang et al. (2021) Achieving Large Uniform Tensile Elasticity in Microfabricated Diamond.

原文記事(外部サイト):
●Asian Scientist
https://www.asianscientist.com/2021/01/in-the-lab/strain-diamond-stretch-electronics/

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Source: City University of Hong Kong ; Photo: Shutterstock.Disclaimer: This article does not necessarily reflect the views of AsianScientist or its staff.