ハンセン病治療薬の新たな用途を発見

2021年06月24日　AsianScientist

　ハンセン病治療薬のクロファジミンは、SARS-CoV-2の複製を阻止し、COVID-19患者によく見られるサイトカインストームも抑制する。

　AsianScientist ― 老犬に新しい芸を教えることはできないが、既存薬に新たな用途を見い出すことは可能である。実際、ある研究チームが、ハンセン病治療薬のクロファジミンがCOVID-19（新型コロナウイルス）の自宅で服用できる治療薬として有望であることを発見。この研究成果はNature誌上で発表された。

　細菌性皮膚疾患のハンセン病は数千年にわたり公衆衛生の問題として人類を苦しめてきたが、2000年にはついに撲滅された。細菌のDNAに結合し、その複製を阻止するクロファジミンなどの治療薬のおかげである。クロファジミンはハンセン病に効果があることから、世界保健機関（WHO）の必須医薬品に指定されている。

　香港大学とサンフォード・バーナム・プレビス・メディカル・ディスカバリー・インスティテュートの研究者らは、クロファジミンに思われていた以上の効果があることを発見した。この研究チームは、世界で最も包括的な既知の薬剤コレクションのひとつであるReFRAMEライブラリから12,000以上の化合物をスクリーニングした結果、細胞培養でSARS-CoV-2ウイルスの複製を阻止する能力を持つクロファジミンにたどりついた。

　ハムスターのCOVID-19モデルでは、肺内のウイルス量を減少させ、肺の損傷を抑え、さらには、致命的な結果をもたらす可能性のある免疫系の過剰反応として悪名高い「サイトカインストーム」を防ぐことに成功した。クロファジミンは、SARS-CoV-2を2つの方法で阻止する。すなわち、ウイルスの細胞への侵入を阻止するだけでなく、ウイルスの遺伝物質の複製を妨害するのである。

　興味深いことに、クロファジミンの効果は他のコロナウイルスにも及ぶ。ヒトの肺組織では、中東呼吸器症候群（MERS）を引き起こすコロナウイルスであるMERS-CoVの複製を減少させた。

　また、研究者らはクロファジミンと入院中のCOVID-19患者に対する現在の標準的な治療薬であるレムデシビルとの相乗効果も指摘。レムデシビルは入手が困難で高価であることから、本研究の結果はクロファジミンが他の再利用COVID-19治療薬と併用できることを示唆している。

　今回の結果を受け、研究チームは、COVID-19外来患者を対象としたクロファジミンの第2相臨床試験を近々実施したいと考えている。現在、COVID-19の患者には外来治療がないため、クロファジミンは近い将来、便利で安価なCOVID-19治療薬として有望な候補となるだろう。

　重症急性呼吸器症候群（SARS）の原因となるコロナウイルスを最初に発見した香港大学のYuen Kwok-Yung博士は、「クロファジミンは、汎コロナウイルス活性があるようで将来パンデミックに対する重要な武器になる可能性がある。今回の研究は、別の新型コロナウイルスが出現した場合にすぐに配備できるよう、既製のクロファジミンを備蓄することを検討すべきであることを示唆している」と述べている。

発表論文： Yuan et al. (2021) Clofazimine broadly inhibits coronaviruses including SARS-CoV-2.

原文記事（外部サイト）：
●Asian Scientist
https://www.asianscientist.com/2021/03/in-the-lab/clofazimine-leprosy-covid19-drug-hong-kong/

Source: University of Hong Kong; Photo: Shutterstock. Disclaimer: This article does not necessarily reflect the views of AsianScientist or its staff.