第177号
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世界一流を目指して―中国の科学技術ジャーナルの発展に注目(上)

2021年06月23日 操秀英(科技日報記者)

 このほど開催された中国科学技術ジャーナル卓越行動計画活動交流推進会で、『細胞研究(Cell Research)』の編集部の程磊部長が、「2006年から今に至るまでの15年間、『細胞研究』の急発展の道は、胸を張って歩いた道でもあった。私たち編集者にとってだけでなく、中国的の科学研究者にとってもそうだ」と感慨深く語った。

 中国工程院の機関誌『工程(Engineering)』の呉向・執行副編集長も、筆者の取材に対して、「ここ十数年は、中国の学術誌が大発展を遂げた時期だった」と感慨深く語った。

 それを証明するデータがある。「卓越行動計画」に入選した「優等生」の学術誌を例にすると、2017--19年、国際的に重要なデータベースに収録されたそれら学術誌の数は、100誌から128誌に増え、29誌が各学術領域のランキングで上位10%に、12誌が上位5%に、そして8誌が上位5位に入っている。

 世界一流のジャーナルへと邁進する長い道のりにおいて、中国の学術誌は、しっかり準備を行ったうえで、イノベーションに取り組み続けている。

一流チームの核心

 2015年に創刊した『工程』は、工学系の総合ジャーナルだ。呉氏によると、『工程』シリーズの学術的水準や影響力は全体的に急速に向上しており、相乗効果が少しずつ現われている。例えば、学部姉妹誌9冊のうち、7冊がサイエンス・サイテーション・インデックス(SCI)に収録されている。『工程』のランクは、世界の工学総合系ジャーナル91冊の中で、4位にまで上昇している。

 呉氏は、「中国の工学テクノロジーが急速に発展する『天の時』と、工程院という実体の『地の利』を活かしているほか、優秀な編集者チームが、『工程』の急速な発展のカギとなっている」との見方を示す。

 そして、「雑誌の編集長は中国教育部(省)の部長を務めた中国工程院の周済院長で、数年前から、学術誌を大々的に発展させなければならないと強調し続けてきた。周院長は毎月、9つの分野の雑誌編集長を集めて会議を開き、テーマ選びの方向性や執筆依頼の業務を検討している。また、毎週、中核メンバーと定例会議を開催している。多くの事を自らこなし、非常に手際がいい」と話す。

 また、『工程』は中国に立脚し、世界に目を向け、世界との連携を強化し、副編集長チームには米国や日本、スイス、オーストラリアなどの中国工程院の元幹部、または現役の幹部が含まれている。

 2020年以来、『工程』は、編集委員会の改組に力を注ぎ、編集委員チームの団結力や実行力の向上に取り組んできた。編集委員会のメンバーには、世界の工学テクノロジーの分野における権威ある専門家や、最もクリエイティブな若手の通信の専門家もいる。

 程氏はまた、「『細胞研究』を世界トップの学術誌と同等のレベルに到達させるためには、若くてプロフェッショナルな科学編集チームが鍵となる役割を果たす。編集委員会頼りの編集と違い、科学編集チームは、それを仕事とするプロの編集者からなり、一層プロフェッショナルで、効率的なサービスを作者や査読者に提供できる」と説明する。

 2006年から今に至るまで、『細胞研究』のチームは、専門の科学編集者15人を続々と育成してきた。現在、同学術誌の現役の科学編集者は全員、博士号を取得しており、生命科学分野に関連する専門の知識を身に付けている。

 程氏は、「『細胞研究』は、招聘と育成の両方を常に重視している。海外に留学した経験を持つ優秀な人材を積極的に誘致すると同時に、国内の優秀な人材育成にも取り組んでいる。また、チームのために良い仕事の雰囲気づくりをしたり、柔軟性ある仕事のメカニズムを構築したりし、競争力のある報酬・待遇なども提供している。そのため、安定したチームを維持できている」と説明する。

質の高い原稿を入手するために複数の措置

 呉氏は、「国際的な工学の先端研究や国家の重要ニーズについて企画し、テーマを設定して出版することが『工程』の重要な仕事」とし、「国際的に有名な科学データベースと提携し、中国工程院の研究プロジェクト『グローバル工学の先端研究』プロジェクトに参加し、ビッグデータ解析と専門家の検討・判断を結びつけ、工学テクノロジー分野の最新研究、開発の注目点と先端研究を厳選し、関係分野の優秀な科学者に原稿を書いてもらったり、執筆依頼をしたりしている。そのようにして、ある分野の発展の方向性を誘導している」と説明する。

 創刊から今に至るまで、「工程」は50近くのテーマ特集、10の常設テーマ特集を出版している。その内容は、世界の重大課題、人工知能、クリーンエネルギー、中医薬の国際化などの工学テクノロジーの先端研究、注目点をカバーしている。

『薬学学報(英語)』の王暁良副編集長は取材に対して、「我々は海外編集委員チームを新設した。海外の編集長が筆頭となり、海外の副編集長がテーマ特別号の企画を担当し、海外から質の高い原稿を入手することに取り組んでいる。編集部は、優秀な科学研究チームにハイレベルな原稿を提供してもらっている。編集部は随時テクノロジーのニュースに注目し、芽が出そうな優秀な研究活動を見つけたら、速やかに関係責任者と連絡を取り、直接原稿執筆を依頼する」と説明した。

 例えば、新型コロナウイルス感染が起きたばかりの頃、編集部は、SNSの公式アカウントを通して、華中科技大学同済薬学院の李華氏や瀋陽薬科大学無涯創新学院の陳麗霞氏、軍事医学研究院国家緊急時対策薬物工程技術研究センターの李行舟研究員らが共同で行っている研究の進展を速やかに把握するとともに、原稿執筆を依頼した。

 その記事は、ネットワークを通して構築した新型コロナウイルスターゲットモデルおよび米食品医薬品局(FDA)が承認したZINC薬品データバンクと上記研究者の実験室が構築した中医薬と天然物データベースからバーチャルスクリーニングして得たターゲットと最も良く結合する一連の化合物を掲載し、中国内外の同業者の中から、新型コロナウイルスによる肺炎の治療薬を探す作業を加速させるために、価値ある手がかりを提供した。

 同記事の発表後、世界からも大きな反響を呼び、作者のもとには、中国国内や世界各地の科学者から感謝や励ましのメッセージが届いた。同記事は昨年2月27日にオンラインで発表され、当時では、最も網羅的なターゲットモデルを、最も早くシェアした研究となった。現時点で、同記事は、世界最大級の抄録・引用文献データベース・Scopusで、23万回以上ダウンロードされ、「Google Scholar」において1,071回引用されている。

二次情報の発信:科学成果を大衆に

 発表されたオリジナルの成果を、スピーディーに発信するためにも、編集部はさまざまな工夫を凝らしている。

『中国航空学報(英語)』は、オムニメディアを活用するスタイルを採用し、ホームページやメール、アプリ「学習強国」、微信(WeChat)公式アカウント、抖音(TikTok)など、さまざまなチャンネルを通して論文を公開している。例えば、中国科学院力学研究所の姜宗林研究員の論文が、フルテキストデータベース・ScienceDirectに掲載されると、編集部はすぐに連絡を取り、専門の編集者により、難しくて分かりにくい論文が分かりやすい言葉に書き換えられた。最終的に、姜研究員が筆頭のチームが研究開発した最新の高速エンジンを紹介する「2時間で世界中に行くのも夢ではない」というタイトルの記事が、微信で紹介され、多くの人に読まれた。

『国家科学評論(英語)』も臨機応変にさまざまな発信方法を採用し、学術成果をよりスピーディーに、広く発信できるようになっている。同誌が2020年に発表した新型コロナウイルス関連の成果はSNSで大きな注目を集め、論文4本が微博(ウェイボー)で熱い議論を巻き起こし、2本がQ&Aサイト・知乎で人気検索ワードとなった。


※本稿は、科技日報「向世界一流期刊邁進----関注中国科技期刊発展(上)」(2021年5月18日付2面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。