一流の研究成果の掲載が増加―中国の科学技術ジャーナルの発展に注目(下)
2021年06月29日 操秀英(科技日報記者)
2005年に学術誌『細胞研究(Cell Research)』の編集に携わるようになった程磊氏は、今では編集部の部長となっており、「奇跡を目撃した」と感慨深く語る。
「『細胞研究』のインパクトファクター(IF)は当初の2から今では20まで上昇した。科学者の心の中での位置や受容性も著しく変化した。さらにますます多くの一流の科学研究成果が中国国内のジャーナルに掲載されるようになっている」と程氏。
学術的発言権を守る
2020年初め、突如発生した新型コロナウイルス感染症に直面し、世界中の科学者が直ちに新型コロナの研究を始めた。それは、科学研究やジャーナルにとっては、チャレンジであり、チャンスでもあった。
同年2月4日、中国科学院武漢ウイルス研究所と軍事科学院軍事医学研究院は共同で研究を行い、2019新型コロナウイルス(2019-nCoV/SARS-CoV-2)を抑制する薬品のスクリーニングの面で重要な進展を遂げた。そして、関連する研究成果は『細胞研究』に掲載された。
それは、世界で初めて、同業者が評価・審査を行うジャーナルに、新型コロナウイルスの治療薬候補スクリーニングの実験的研究成果を掲載した記事となった。同記事の閲覧回数は現時点で120万回以上に達し、各種ニューメディアを通して、6,839回シェアされている。
「2018年以前なら、こんなに注目を受けるホットな研究成果を掲載できることはほとんどなかった」と程氏。
その後、新型コロナ関連の研究成果の掲載が『細胞研究』の重点事業となった。そして、新型コロナウイルス関連の研究成果を出した多くの科学研究チームが、寄稿に関する提案などを求めて、『細胞研究』と主体的に連絡を取るようになった。
今年1月、西湖大学の李旭氏、黄晶氏、復旦大学の陸路氏などが共同連絡著者となった最新研究が『細胞研究』に掲載された。その内容は、AXLがSARS-CoV-2の肺や気管支上皮細胞への感染を促進する受容体であることを証明することだ。AXLは現時点で発見されている唯一のACE2に頼らない新型コロナウイルスの受容体だ。
程氏は、「現時点で、同記事の閲覧回数は2万1,000回に達し、9回引用され、オルトメトリクスは235。ここ2年の間に、中国国内のジャーナルで掲載された新型コロナウイルスの感染による肺炎関連のハイレベルな研究シリーズは、学術的発言権を守った」と胸を張る。
中国の特色を備えたイノベーションの物語を伝える
ここ数年、学術誌『分子植物(Molecular Plant)』は、中国科学院の院士である華南農業大学の劉耀光教授による稲の研究の成果を、巻頭論文の形で連続掲載してきた。長年の研究を経て、劉教授が率いるチームは、米の新品種・紫晶米と赤晶米を育成した。米に含まれるアントシアン、アスタキサンチンが豊富で、中国の栄養不足の人々の健康を改善する点で重要な意義がある。
『分子植物』の崔暁峰・常務副編集長は筆者の取材に対して、「近年、中国の特色を備えた研究をたくさん掲載してきた。例えば、茶樹のゲノム解析、クワの木のゲノム解析、アルテミシニンのゲノム解析などだ。創刊した時から、『質の高いグローバルな学術誌を作る』という目標を定めており、中国国内の優秀な原稿源を一層重視するようになっている。中国の論文の割合は3分の1から半分以上に増えた」と話した。
そして、「中国は農業大国で、14億人の食糧というのは常に大きな課題となる。国の重要ニーズに関係する科学研究というのは、中国の学術誌が注目すべき重点だ。一部の科学研究成果は、国の経済、国民の生活をめぐる重要な問題の解決に目を向けている。しかし、その論文が海外のジャーナル編集者からそれほど重要でないとされてしまう可能性があり、海外での投稿は何度も『壁』にぶつかってきた。それら優秀な成果をいかに発表・PRし、『中国のストーリー』を伝え、中国の科学者にリーダー的存在になってもらうことを、私たちは常に考えている」と語る。
さらに、「以前は、中国国内の優秀な原稿源に注目すれば、IFが下がるのではと心配する人もいた。しかし、実際は、ここ2年、当誌のIFは下がるどころか、上昇している。つまり、中国国内の質の高い原稿源は、ジャーナルの発展において、強力な下支え的な役割を果たしているということだ」との見方を示す。
『薬学学報(英語)』の王暁良・副編集長によると、同誌は世界の薬学研究の先端に立ち、ハイレベル交流プラットフォームを構築すると同時に、長期にわたり、中国の特色を備えた重要な研究に注目してきた。
厦門(アモイ)大学薬学院の呉彩勝准教授らが、スマート高分解能マススペクトルデータ処理技術と包括的2次元共有結合固定化バイオクロマトグラフィー分析システムを手段として、人体の視点から連花清瘟(LHQW)カプセルの高暴露量、標的ACE2酵素活性抑制の成分を突き止める研究を例にして、王副編集長は、「この研究は国家自然科学基金と重要新薬開発テクノロジー重要特定プロジェクトのサポートプロジェクトで、現代テクノロジーと、伝統の中医薬を結び合わせ、連花清瘟カプセルの抗ウイルス作用の深いレベルの研究に参考を提供し、中医薬の現代化、世界への進出を促進する役割を果たした」と語る。
テクノロジーの自立・強化をサポート
昨年7月、『科学通報(英語版)』に掲載された「中国科学技術大学のスーパーコンピューター『神威·太湖之光』を使った、1千万コアの並列計算を実現する第一原理計算」という成果が業界内で極めて大きな注目を集めた。
一見、非常に難解に思えるこの成果にはどんな重要な意義があるのだろう?
浮動小数点の理論上の演算能力が世界で初めて100ペタフロップスに達した高性能スーパーコンピューター「神威·太湖之光」を十分に、効果的に活用するためには、重要な応用問題主導でアルゴリズムデザインを発展させ、方法を最適化することが急務だ。そのようにすれば、中国が独自に開発した高性能スーパーコンピューターを本当の意味で活用し、今後、基礎科学および応用科学の分野における重要な難題を解決することができる。
そのようなアルゴリズムデザインをめぐる実際のニーズに合わせて、中国科学技術大学のスパコン応用チーム、ソフトウェア移植・性能最適化チーム、基礎アルゴリズムバンク開発チーム、国家スパコンセンターハードウェア技術サポートチームなどは密接に連携し、理論と計算化学の低スケーリング理論アルゴリズムと国産高性能並列計算ソフトウェアの優位性を結合させ、低スケーリング、低通信、低メモリー、低メモリーアクセスの並列計算方法を開発し、平面波精度1千万コアの超大規模高性能並列計算を実現し、「神威·太湖之光」の強大な演算能力を存分に発揮させている。
論文の著者の一人である胡偉氏は取材に対して、「周知の通り、中国のスパコンは、ハードウェアの面で既に世界のトップレベルにあるものの、それにマッチングする大規模コンピューターソフトの発展は後れを取っている」と重要な課題について指摘し、「国外のコンピューターソフトの技術封鎖や独占状態を打破するためには、大規模なコンピューターソフトの独自開発を実現しなければならない」とし、そのために2018年に招待を受けて帰国したという。
1千万コアの並列計算を実現する第一原理計算は、ソフトウェア開発の第一歩だ。
胡氏は、「この中国の独自のプラットフォームで、大規模並列計算を実現するための基礎作業について、私たちが国内の学術誌に成果を掲載することにしたのは、さらに多くの中国国内のコンピューターソフトユーザーに私たちが開発したソフトウェアを知ってもらい、中国国内の同業者の士気も上げたいと考えているからだ。中国国内ジャーナルの影響力が徐々に大きくなり、科学研究者の評価体系が継続的に整備されていることを背景に、科学研究者の論文発表に対する態度もより理性的で、実務を重んじるようになっている」と説明する。
※本稿は、科技日報「越来越多一流成果発表在国内期刊----関注中国科技期刊発展(下)」(2021年5月19日付3面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。