北京冬季五輪に向けて―電気バス用高耐凍性バッテリーを開発
2021年06月18日 華 凌(科技日報記者)
2019年1月、内モンゴル自治区牙克石(ヤクシ)市の試験場で走行テストを行う全天候型12メートル完全電気バス。画像は理工華創が提供
寒冷地でのテストをクリアしたことは、中国の新エネ車に搭載する全天候型バッテリー、低温加熱強化空調、全天候型車両のコントロールなどの鍵となるコア技術が、世界最先端の水準に達していることを示している。新エネ車の寒冷地における難関突破の確固とした技術的基礎が築かれている― 孫逢春(北京理工大学教授、中国工程院院士)
夏季五輪と違い、冬季五輪は、気温が氷点下30‐40度の環境下で開催される。これは、2022年北京冬季五輪の低温環境が新エネ車の起動や航続距離により高い要求を突きつけていることを意味する。
冬季五輪での利用ニーズを満たすべく、国家重点研究開発計画の「新エネ車」重点特定プロジェクトである「高性能完全電気バス動力プラットフォームキーテクノロジーおよび完成車への応用」のサポートの下、北京理工大学(以下「北理工」)の教授で、中国工程院の孫逢春院士が指導を担当し、北理工電動車両国家プロジェクト実験室の教授で、博士課程指導教員の林程氏が率いるプロジェクトチームが独自に開発したリチウムイオンバッテリーシステム「全天候型動力バッテリー」は、寒冷地でも強力な動力を提供することができ、新エネ車に寒さに非常に強い「心臓」を搭載できる。
バッテリーに加熱シート搭載で氷点下40度でもワンボタンで加熱
林氏は筆者の取材に対して、「電池の化学反応には一定の温度が必要であるため、氷点下10度以下の環境の場合、何の対策も講じていなければ、電気自動車は動かない。電気自動車は寒冷地では充電が難しく、エンジンを始動できないといった問題を解決するために開発したリチウムイオンバッテリーシステム製品の内部には、加熱シートを搭載するスタイルを採用した。そうすることで、バッテリーに加熱電極である第3電極ができ、氷点下40度の環境下でも、ワンボタンで加熱し、急速自動加熱とコールドスタートを実現することができる」と説明した。
電気自動車が寒冷地で直面する一連の難題を解決するため、北理工や栄盛盟固利動力科技有限公司、北京理工華創電気自動車技術有限公司(以下「理工華創」)、北汽福田汽車股份有限公司などのプロジェクトチームのメンバーは共同で全天候型バッテリーシステムを開発した。その原理はやや特殊なもので、気温が極端に低い環境下で、バッテリーに残っているわずかなエネルギーを使って、そのバッテリー自体を加熱させる。その作業の過程は、内部で瞬発的にショートしてしまう状態に相当し、それによりバッテリーが瞬時に熱くなり、それ自体を活性化させる。
2018年の寒い冬、内モンゴル自治区海拉爾(ハイラル)区は、非常に厳しい寒さとなり、雪が積もった道路を走っているのは、林氏率いるチームが開発した電気自動車だけだった。テストの結果、車両は、氷点下40度の環境下で、エンジンを止めて48時間後に、バッテリーの加熱をオンにすると、バッテリーシステムの温度は1分ごとに4度上昇し、消耗したエネルギーがエネルギー全体に占める割合は5%だった。
2019年の同じ時期、林氏率いるチームがハイラルで再び車両の冬季テストを行うと、バッテリーシステムの温度は1分ごとに7度上昇し、消耗したエネルギーがエネルギー全体に占める割合はエネルギー5%のままで、暖房のエネルギー消耗は40%低減した。
そして2020年初めに、同チームはさらに冬季テストを行った。現時点で、北理工が率いるプロジェクトチームが開発したリチウムイオンバッテリーシステムは、ハイラルで3回目の全天候型バッテリー寒冷地試験をクリアし、自己加熱速度の指標は世界トップ水準となっている。
林氏は、「これは革新的な体系で、数多くのコア技術が関係している。チームは、加熱シートの材料の選択・最適化、加熱回路の研究開発、加熱方法の研究といった加熱システムのコントロールの方法と理論の研究を展開しているほか、車両コントロールとも連動させなければならない。現時点で、全天候型バッテリーシステムの動作原理の検証は既に完了しており、バッテリーシステムのサンプル機の開発にも成功した」と説明する。
プロジェクトチームが開発した全天候型リチウムイオンバッテリーシステムのエネルギーは1キログラム当たり155Whで、ワンボタン加熱技術を通して、5分ほどで、氷点下30度の動力バッテリーを急速加熱し、正常に使える状態にすることができる。加熱するのに必要なエネルギーの消耗は5%以下で、通常通り車両のエンジンを始動させて、運転することができる。完成車は、「自動車公告」に掲載され、テスト段階のモデル応用が始まっている。
冬季五輪での利用に向け三大コア技術が見所
電気自動車の冬季五輪での利用のニーズを満たすためには、気温が非常に低い環境下でエンジンを始動させ、一定の航続距離を確保し、効果的に利用できるようにするほか、河北省に設置される冬季五輪の競技会場は山地がメインであるという地形的特徴を十分に考慮し、山道や雪が積もったり、凍結したりしている道路の安全走行の問題を解決する必要がある。また、電気自動車には、ハイレベルのスマート運転機能も必要だ。
林氏は、「冬季五輪でお披露目される電気自動車は、技術の優位性を形成し、次世代電気自動車のコア技術をPRし、業界の発展の方向性をリードしなければならない。寒さに強いことやパワーのあるバッテリーシステム、スマート運転機能が、冬季五輪でお披露目される電気自動車の三つの重要なポイントとなるだろう」との見方を示す。
冬季五輪で新エネ車を利用するというニーズを満たすように、理工華創は産学研連携を通して研究開発を進め、高性能の全天候型電気自動車のキーテクノロジーを冬季五輪で利用される完全電気バスに応用し、また同成果は現在量産の条件を整えている。
冬季五輪で利用される電気自動車の動力の面で、理工華創は、「新型ダブルモーター駆動システム」を開発。さらに、電気自動車の動力の中断がない効率的な一体化動力駆動技術を開発した。同技術は商用車への応用に非常に適しており、同システムは構造がコンパクトで、トルクの出力能力や電力密度が高く、省エネのポテンシャルが高い。中国初の同技術は、オートマチックトランスミッションを実現できるだけでなく、電力が中断することもなく、電気自動車の性能が大幅に向上する。
上述することだけにとどまらず、冬季五輪で利用される電気自動車には、理工華創が開発したスマートコネクテッドコントローラーも搭載されており、インターネットや車内のコンポネントネットワークとシームレスに接続して、車両コントロール、遠隔診断、ブルートゥース診断、遠隔ファームウェアアップデート(FOTA)、無線評定などの機能を実現することができる。また、マルチレベル暗号化やハンドシェイクメカニズムを通して、通信やファイルの安全性を守ることもできる。さらに、4Gネットワークを通して、電気自動車のコンディションや故障などをチェックする遠隔診断や、プログラムの更新なども行うことができる。
林氏は、「当チームの構想として、将来的には、車がどこにあっても、内部のすべてのバッテリー、すべての回路の情報を、リアルタイムでモニタリングセンター、管理チーム、自動車メーカーへ送信して、科学的なモニタリング管理が実現し、故障を前もって予期できるようになるだろう」と話す。
量産を実現、エネルギー消耗は現有の同類製品の80%
2020年初め、内モンゴル自治区牙克石(ヤクシ)市の中国自動車技術研究センター呼倫貝爾(フルンボイル)冬季自動車試験場で、冬季五輪で利用される新エネ車の寒冷地における技術試験が行われ、林氏率いるチームが開発したシステムが搭載された車両は完全に停止した状態で、氷点下30度以下の極寒の環境下に40時間置き、完全に凍結するようにした。その後の試験データによると、福田の全長12メートルの電気バス、宇通の全長7メートルの中型バス、北汽の新エネ小型バスの3種類の車両は、6分で自己加熱し起動した。温度は1分ごとに5度以上上昇し、起動のために消耗したバッテリーのエネルギーは5%以下だった。また、車両の走行の過程で、バッテリーをさらに加熱する必要はなかった。福田のバスの低温加熱強化空調の加熱試験では、30分以内に車内の気温が氷点下30度から19度まで上がった。一般的な車両に搭載されている熱ポンプ型の空調の場合、氷点下15度の環境下では、エンジンを始動させることができない。3種類の車両は、全天候型バッテリーの極寒の環境での加熱、空調の加熱、除霜、雪が積もったり、凍結したりしている上り坂の走行、加速、減速、バッテリー消耗などの一連の試験を順調にクリアした。
テスト会場で行われたシンポジウムで、孫院士は、「今回の寒冷地でのテストをクリアしたことは、中国の新エネ車に搭載する全天候型バッテリー、低温加熱強化空調、全天候型車両のコントロールなどの鍵となるコア技術が、世界トップ水準に達していることを示している。新エネ車の寒冷地での難関を攻略するための確固とした技術的基礎が築かれている。将来的に、新エネ車の寒冷地での走行を恐れる必要はなくなり、常温下とほとんど変わらない航続距離をキープできるようになるだろう」との見方を示した。
林氏は取材に対して、「全天候型新エネバスの小ロット生産が既に展開されており、北京市延慶区などの地域で試験走行が行われている。全天候型バッテリー技術が幅広く応用されるようになると、中国の電気自動車は西北地域や東北地域など、寒さの厳しい地域でも普及し、さらに、ロシアや北欧諸国などに輸出することもできるようになるだろう」と語った。
北京市科学技術委員会の公式サイトによると、長年、技術的ブレイクスルーを積み重ね、同プロジェクトチームは、全天候型バッテリー技術の原理検証を終えた。それを踏まえ、全天候型バッテリーシステム、スマート車両コントローラー、バッテリーのワンボタン加熱コントロールシステム、動力の中断がない2速トランスミッションの電気駆動ユニット、低温加熱強化空調、航空エアロゾル車体保温材料など複数の革新的製品を開発し、寒冷地では完全電動バスの充電、放電ができない、エンジンが始動しない、空調のエネルギー消耗が激しいなどの技術的難題を解決した。車両が消耗するエネルギーは、現行の同類の車両よりも20%少なく、バッテリーシステムは、氷点下40度から60度までの幅広い温度帯の環境でも正常に稼働する。
2022年までに、高性能の全天候型電気自動車が人々の前に現れ、北京冬季五輪で、それが大活躍する様子を見ることができると期待されている。
※本稿は、科技日報「為参加北京冬奥会 電動汽車装上了抗凍"心臓"」(2021年5月12日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。