家畜繁殖の研究開発―養豚産業が進むスマート・高効率のルート
2021年06月01日 馬愛平(科技日報記者)
画像提供:視覚中国
150万頭―
プロジェクトで開発された種豚の綿密な飼育管理に関するキーテクノロジーが、肉豚の年間出荷数が中国でトップ20に入る企業9社、上場企業8社、国の中核種豚場6カ所を含む、複数の大型農業・牧畜業リーディングカンパニーで、母豚150万頭以上を対象に応用され、顕著なデモンストレーション効果を上げている。
アフリカ豚熱が近年、中国の一部の地域の養豚に影響を与えている。中国の養豚業が直面している共通の課題は、母豚の繁殖能力が低く、生産が同期化できず、再び飼育が始まった子豚の数が不足していることである。
中国科技部(省)中国農村技術開発センターは4月7日、筆者の取材に対して、国家重点研究開発計画「家畜の重大疾病予防管理と効果的で安全な養殖の総合技術研究開発」(以下「家畜特定プロジェクト」)の「家畜現代化飼育キーテクノロジー研究開発」プロジェクトが重大なブレイクスルーを実現し、種豚の綿密な飼育管理のためのキーテクノロジーを開発し、技術の集積やモデル応用を実施することで、種豚のスマートで効果的、健康的な養殖技術モデルを形成したことを明らかにした。家畜関連の特定プロジェクト「家畜の繁殖調整の新技術研究開発」では、重要な産業の技術的課題である「母豚の繁殖調整の新技術開発」という面で、顕著な成果を上げている。2018年と2020年に、メストラノールとカルベトシンの国家二類新動物用医薬品証書を獲得し、中国に家畜の定時人工授精や分娩の同期化を実現するために使える薬品がない状態を解消した。
養豚産業の質や効率向上のための技術的ボトルネックに照準
養豚産業が質や効率を向上させるうえで直面している技術的ボトルネックを打破するために、「第13次五カ年計画(2016‐20年)」期間中、国家重点研究開発計画は、産業や市場のニーズに合わせて、「家畜現代化飼育キーテクノロジー研究開発」や「家畜の繁殖調整の新技術研究開発」などのプロジェクトを実施した。
「家畜現代化飼育キーテクノロジー研究開発」の責任者である華中農業大学動物科技学院の蒋思文教授は、取材に対して次のように話した。「プロジェクトで解決すべき問題は2つあった。1つ目は母豚の問題で、虚弱な子豚が多い、泌乳量が少ない、年間産次数が少ないなどという点は解決が難しく、乳離れする子豚の数が少ないという問題を引き起こしていた。2つ目は、スマート養殖システムが不足しているため、綿密な飼育管理計画の実施が難しいという問題だ。例えば、母豚を見ると、中国の母豚が1年あたりに産む乳離れする子豚の数は、長年世界の平均水準を下回っており、先進国の70%程度にとどまっている。これが、中国の養豚産業の質や効率の向上、国際的競争力の強化の妨げなっている主な技術的ボトルネックだ。肉豚の生産回復や供給の確保の妨げにもなっている」。
「家畜の繁殖調整の新技術研究開発」プロジェクトの責任者を務める中国農業大学動物科技学院の田見暉教授は、次のように振り返った。「プロジェクト実施初期、中国の一部の大手養豚企業は、定時人工授精技術の独自開発を試みていた。しかし、必須の生殖調整製剤が不足していたほか、関連の効率的な定時人工授精プロセスも整っておらず、技術研究開発やその産業活用の妨げとなっていた。このほか、海外の定時人工授精技術に存在する受胎率が低いという問題も効果的に解決されていなかった」。
田教授は、「母豚の卵胞の発育、発情、排卵、分娩など全てを同期化するためには、繁殖調整技術や関連の薬物研究開発におけるブレイクスルーを遂げなければならなかった」とし、「卵胞の発育を例にすると、我々がホルモン調整を実施した後、体内の卵胞が本当に予定通り発育し、排卵するのかなどは、蓋を開けるまで全く分からない状態だった。卵胞の発育や排卵の時期を正確に見定めるために、我々は、体外から超音波を使って卵胞の発育をモニタリングする技術の研究を展開し、世界で率先して、母豚の卵胞の発育をリアルタイムでモニタリングする技術を確立した。その技術を軸に、母豚の卵胞の発育、発情、排卵を同期化する技術を確立・最適化し、さらに、中国の養豚産業に適した2点式発情確認定時人工授精技術や卵泡発育・発情・排卵促進・定時人工授精技術を確立した」と説明した。
中国全土の養豚回復を力強くサポート
蒋教授によると、プロジェクトは、既に母豚の繁殖期全体をカバーする綿密な栄養調整技術を確立している。この綿密な飼育技術を応用することで、虚弱な子豚が多い、泌乳量が少ない、年間産次数が少ないなどの母豚の問題を解決することができた。また、母豚が出産し乳離れする子豚の数も、1頭当たり年間25.32頭から27.63頭に増え、米国の26.4頭を超えたほか、欧州連合(EU)の27.71頭に肉薄した、という。
さらに蒋教授は、「現在、広西揚翔集団がプロジェクトの成果をフルに活用している。また、四川徳康農牧食品集団股份有限公司、双胞胎、鉄騎力士など養豚の分野のリーディングカンパニーでも成功例が導入されている。うち、種豚の綿密な飼育管理に関するキーテクノロジーは、複数の大手農業・牧畜リーディングカンパニーで、母豚150万頭以上を対象に応用されている。それらの企業の中には、肉豚の年間出荷数が中国でトップ20に入る企業9社、上場企業8社、国家中核種豚場6カ所が含まれており、顕著なモデル効果を上げている。技術応用後、人件費が40~50%削減され、乳離れする子豚が増え、子豚の体重も増えた。乳離れする子豚1匹当たりの繁殖コストも24%低減した」と成果を強調する。
田教授によると、「母豚の繁殖調整の新技術開発」プロジェクトの過程を大まかに分けると、「カギとなる薬物の開発及び基礎研究」、「関連のキーテクノロジー」、「技術の集積・テスト実施」の3段階がある。
第1段階ではカギとなる薬物の開発および基礎研究が行われ、メストラノールなどの繁殖を調整するうえでカギとなる薬物の研究・開発を重点的に行い、ホルモンを調整すると、母豚の排卵数は増加するが、出産頭数は目に見えて増加しない現象について分析した。そして、卵胞発育の可視化モニタリング技術プラットホームを構築し、卵胞発育の過程は「蓋を開けるまで分からない」という問題を解決した。第2段階では、関連のキーテクノロジーの研究開発が行われ、中国の養豚場における生産管理の特徴に合わせて、海外とは異なる、2点式発情確認定時人工授精技術や卵泡発育・発情・排卵促進・定時人工授精技術、クロプロステノール+カルベトシンの分娩同期化などの新技術を確立した。第3段階では、技術を集積して、テストを実施し、複数の養殖スタイルに適合する複数のロット化生産技法・プロセスを確立。同じ日に豚舎に入れた豚を同じ日に出荷する生産方法を実現するために技術的サポートをした。また、生産、実用化をさらに規範化するために、母豚のロット化生産に関する団体基準を制定した。
「2018年に、我々がメストラノール内服液の開発に初めて成功し、国家新動物用医薬品証書を取得して以降、定時人工授精技術は、温氏食品集団などの大手企業に導入され、これまでに、累計で未経産豚855万頭を対象に応用された。試験場の母豚の利用率は20ポイント以上上昇し、中国の養豚回復、増産を促進した。母豚の分娩の同期化のうえでカギとなる薬物・カルベトシン注射液の開発にも成功し、母豚の分娩の同期化技術確立が促進され、母豚の分娩が同時期に集中するようになり、95%以上の母豚が日中に分娩するようになり、分娩の過程で、子豚が死ぬ確率が下がると同時に、作業の効率が上がり、作業員らが働きやすい環境となった」と、田教授はその成果を強調する。
養豚業の工業化管理を推進
蒋教授は、「プロジェクトの主な成果の1つ目は、カギとなるメカニズムの解析に基づいて、精度の高い調整技術の研究ができたことだ。2つ目は、産学研が一歩踏み込んで連携し、産業の問題に焦点を合わせ、技術を産業で応用できたことだ。3つ目は、内容・性質の異なったものでも受け入れ、統一して計画を立て、知恵を集めて共通のカギとなる問題を解決するだけでなく、プロジェクトのコンサルティングを行う専門家の意見も参考にして、プロジェクト研究を成し遂げたことだ」との見方を示す。
そして、「プロジェクト実施の過程で、中国農村技術開発センターは、プロジェクト管理やサービスの点で、職責を全うしただけでなく、政策指導や専門家に意見を求める機会を作るなどの形を通して、プロジェクトのトップレベルデザインやプランの最適化で、重要な意見、提案を行い、プロジェクト各節目の目標達成を推進した」と語る。
田教授は、「プロジェクトの主な経験は、プロジェクトの筆頭機関である中国農業大学が中国国内の関連するハイレベルの教育・科学研究機関を集めて、寧波三生などの企業の実際のニーズに合わせて、メストラノールなどの製品、技術の研究開発を展開するよう企画し、専門家による研究と企業による実用化がなかなかマッチしないという問題を解決したことだ」との見方を示す。
そして、「具体的な方法はと言うと、産業や市場向けに、研究開発から応用までの産学研連携グループを立ち上げた。2016年、中国農業大学は、中国国内の複数の大学、科学研究機関、大手養豚企業、動物用医薬品メーカーと連携して、『全国母豚定時人工授精技術開発・産業化応用協力グループ』を立ち上げ、母豚の定時人工授精、ロット化生産技術開発・応用を推進した」と語る。
同時に、寧波三生などの企業は、研究開発に積極的に資金を投じている。同社のここ4年の研究開発関連費は6,000万元(約10.1億円)以上に達したと試算されている。企業のサポートの下、プロジェクトグループは複数回にわたり、研究開発者や養豚場の第一線で働く従業員などを組織し海外で学習、視察したほか、海外の一流の専門家を中国に招いて交流を行ってきた。
田教授は、「当チームは産業・市場が出題し、研究開発者がそれに答え、養豚企業がその答案を採点するという原則を堅持している。例えば、協力グループは、会議を何度も開催して、生産の第一線で働く養豚場の責任者、生産技術者などから、製品や技術に関する問題を募集している。寧波三生はスポンサーとなってくれ、価値ある技術的問題や生産に関する問題には、奨励金を出している。プロジェクトグループは、共通の技術問題をめぐり、課題にある垣根を打ち壊し、関連チームが集中的に実験を展開して研究開発を行い、プロジェクトの重点任務の推進を加速させている」と説明する。
さらに、「プロジェクトグループは、協力グループを通して、プロジェクトの『産学研連携、研産の一体化推進』モデルを実現し、生産における実際の問題を効果的に解決した。そして、母豚の繁殖、生産効率の向上を促進し、中国の養豚業の工業化管理を促進している。プロジェクトの専門管理機関である中国農村技術開発センターは、異なるプロジェクト間でのシンポジウムを定期的に企画し、同プロジェクトの実施、管理水準を向上させてきた」と強調した。
※本稿は、科技日報「看穿畜禽繁育"黒箱" 生猪産業走上智能高效路」(2021年4月14日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。