第177号
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中国医薬品業界の「バロメーター」となる安徽省北部の産業拠点

2021年06月10日 呉長鋒(科技日報記者)

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安徽貝克聯合製薬有限公司のラミブジン工場で反応釜を調整する作業員(画像提供:取材先)

イノベーション型の産業スタイルを生かして、太和医薬先端創剤特色産業拠点で、「組織的で、制度化された、プロフェッショナルな」マーケティング体制を再構築し、「生産委託+販売」というビジネススタイルで、医薬品資源を統合し、多くの医薬品企業を同拠点に集まるように誘導している―劉大勇(安徽太和経済開発区投資促進センター副センター長)

 安徽省北部に位置する太和県の安徽太和経済開発区は、広く知られた存在ではないものの、アジア最大の現代化医薬物流倉庫があり、西洋医学で用いる薬品をメインとした市場があり、中国国内で最も品揃えが良く、最大規模の医薬品販売、集散地となっている。同開発区では中国全土の85%の医薬品メーカーがビジネスで往来し、6万以上の規格の医薬品が販売されている。営業日の医薬品関連の商品の取引額は1日当たり1億元(約16.9億円)に迫る。その医薬品の販売価格は、医薬品業界の「バロメーター」にまでなっている。同開発区は2016年1月、国家火炬阜陽太和医薬先端創剤特色産業拠点(以下「太和医薬先端創剤特色産業拠点」)に認定された。

人材誘致に取り組み産業エコシステムを構築

 太和経済開発区投資促進センターの劉大勇副センター長は、「当センターは、安徽省北部で一流の、安徽省全体でも先進的な地位を確立し、発展・高度化を目指し、太和県がさらにステップアップできるようにすることを目標に、県全体の力や知恵を集め、要素・資源を集積させ、テクノロジーイノベーションにスポットを当て、安徽省の県域経済『太和セクター』の構築に努めている。安徽省北部に位置する太和県は、地理的優位性もなければ、産業の面でも優位性はない。ゆえに技術のウェイトが高い医薬製剤産業を強大にするため、人材誘致をその重要な手段とし、産業人材を呼び込んで、つなぎ留められるようにしなければならない。また、産業の発展に有利な政策のエコシステムを構築する必要がある」との見方を示す。

 そのために、太和県は、産業の発展、イノベーション、起業、産学研連携をサポートする一連の優待政策を打ち出している。中でも太和県政府2019年1号文書は、最も重要な文書だ。医薬品産業の発展や優秀な人材の育成の面で、同文書は、「本籍が太和県で、県内の高校を卒業し、中国の大学統一入学試験を通して入学した全日制学部以上の大学で、製薬関連を専攻する大学生には、在学期間中の授業料を全額補助する」と規定している。また、「全日制の大学で製薬関連を専攻していた卒業生が、太和県で就職し、労働契約にサインし、規定に基づき五険一金(養老保険・医療保険・失業保険・労災保険・出産育児保険と住宅積立金)に加入し、3年連続で勤務した場合、短大・高専卒業者には5万元、学部卒業者には10万元、大学院以上卒業者には15万元の補助金を一括で支給する。補助金は、政府と企業が7∶3の割合で負担する」と規定している。

 このほか、太和医薬先端創剤特色産業拠点は、1平方メートル当たりの年間納税額が150元以上で、かつ太和県で納税している工業企業を対象に、1年目は、契約で約定されている家賃の100%を補助している。2年目は、契約で約定されている家賃の80%を、3年目は50%を補助している。

 これと並行して、同拠点の企業は、「高報酬+株式」のスタイルを採用して、ハイレベル研究開発人材を誘致している。さらに、同拠点内の医薬品企業は、株主資本の20--30%を利用して、医薬品研究開発者や上級管理者を褒賞し、専門家が資本参加し、技術者や管理職の人材も企業の「主役」になれるようにしている。

 劉副センター長は、「太和医薬先端創剤特色産業拠点は、起業・発展特定プロジェクト資金を設立し、国家級バイオ医薬品起業クラスターや省級・国家級化学原料薬拠点、国家級新型工業化バイオ医薬品起業モデル拠点など企業による各種プラットフォームの登録申請をサポートしている。また、同拠点は、バイオ医薬品産業基金を設立することで、10プロジェクト以上への投資を行ってきた。プロジェクトは、産業化の段階に達してから、同拠点で生産を行う計画」と説明する。

 そして、「科学研究機関と連携して、一部の科学研究費を融資するスタイルで、方向性を定めて研究開発、実用化を行っている。現在、太和医薬先端創剤特色産業拠点は、四川省の中医薬科学院や中国科学院合肥創新工程院、中国科学技術大学などと、緊密に連携している」と話す。

長所を生かして短所を補い産業を誘致

 太和医薬先端創剤特色産業拠点では、従来の固有業態こそが、その独特な優位性、長所となっている。その長所を生かし、同拠点は北京太和保興科技有限公司、北京四環科宝製薬有限公司と共同で、「先端シェアリング・製造プラットフォーム+マーケティングネットワークプラットフォーム」を中核とした医薬健康産業パーク構築に取り組んでおり、その原型ができつつある。

 劉副センター長は、「『北京でイノベーション、太和で製造、全国に販売』という全体的アプローチに基づき、イノベーション型の産業スタイルを生かして、太和医薬先端創剤特色産業拠点で、『組織的で、制度化された、プロフェッショナルな』マーケティング体制を再構築し、『生産委託+販売』というビジネススタイルで、医薬品資源を統合し、多くの医薬品企業が同拠点に集まり、本部経済(Headquarters Economy、企業グループの本部や地域統括本部が集まって活性化する経済)が発展して、中国医薬産業本部拠点を構築する。先端シェアリング製造プラットフォームは、『医薬品上場許可所有者』制度に合わせて、今後の製造業の移転を受け入れ、『一致性評価』に合格した医薬品に、相応の生産環境を提供し、中国内外の医薬品企業に低コスト、高品質の生産拠点を提供する」と説明する。

 そして、「医薬健康産業パークのようなプロジェクトは、投資総額が大きく、産業との関連度が高く、良い成長が見込めるため、多くの医薬品企業を呼び込めるだけでなく、地域成長の中心的役割を果たせる。医薬品産業クラスターを速やかに大きく強く構築すれば、太和県の全体的なブランドイメージをさらに向上させることになり、経済効果と社会的効果の両方が拡大するようになるだろう」との見方を示す。

トップレベルデザインで各産業が軒並み急発展へ

 太和医薬先端創剤特色産業拠点の総計画面積は12平方キロで、既に完成しているのは5.6平方キロ。医薬品有効成分、バイオ医薬品製造、医療機器、現代中医薬、先端製剤、公共サービス、医薬品商業物流の7大機能エリアが建設される計画で、空間の配置が合理的で、関連施設が整った医薬品産業の構造がほぼ形成されている。

 2019年12月、安徽省商務庁は、太和医薬先端創剤特色産業拠点に、「安徽中国・インド(太和)国際医薬品協力先行モデル産業パーク」(以下「中印産業パーク)を建設することを承認した。

 2020年7月、安徽省発展改革委員会と安徽省経済・情報化庁は、太和医薬先端創剤特色産業拠点が、省級化学医薬品有効成分拠点建設業務を展開することを認可した。

 2021年2月、第三者機関の評価・審査と安徽省認定作業グループの共同審査を経て、太和医薬先端創剤特色産業拠点の化学工業集中エリアが、安徽省化学工業パーク第1弾に認定された。

 劉副センター長は、「中国国内の一流チームを招聘し、国際的な理念や基準を参考にし、ハイレベルでスタートする太和医薬先端創剤特色産業拠点産業計画、空間計画を制定した。そして、実地調査や専門家協議、企業セミナーを何度も企画し、太和医薬先端創剤特色産業拠点の機能の方向性や発展目標を科学的に定めた。中印産業パークは、産業発展を主導に、『国際医薬品先進製造エリア』、『国際医薬品物流エリア』、『国際医療・ヘルスケアエリア』の3エリアが連動する発展構造を作り上げるのが目標である」と説明する。

 そして、「第14次五カ年計画(2021‐25年)期間中、太和医薬先端創剤特色産業拠点は、国際医薬品先進製造エリアを建設し、医薬品有効成分や先端製剤生産・製造を中核とし、関連サービス、中印産業パークを下支えとした発展構造を形成する。また、国際医薬品物流エリアを建設し、医薬品物流運営や医薬品ストックが互いに下支えし合う発展構造を形成する。さらに、国際医療・ヘルスケアエリアを建設し、臨床試験や医療サービス、健康ヘルスケアサービスなどの機能を充実させる」と述べた。

 劉副センター長さらに、「我々は、強力な産業チェーン構築を目標に、バイオ医薬品製造の発展の優位となる部分を強化し、発展のうえでウィークポイントとなっている部分を補強し、バイオ医薬品製造の全産業チェーンの付加価値を全面的に向上させる。また、後発医薬品および薬品のイノベーションプロジェクトを重点的に発展させ、『生産委託+販売』というビジネススタイルを活用し、生産能力の移転を実行する。太和医薬先端創剤特色産業拠点で『組織的で、制度化された、プロフェッショナルな』マーケティング体制を再構築するのを踏まえて、現代中医薬、医療機器、医療保健、応急医療などの産業も足並みを揃えて急速に発展するだろう」と見通しを語った。


※本稿は、科技日報「皖北県城的這箇火炬基地 孕育出全国医薬行業"晴雨表"」(2021年4月15日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。