第178号
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「未来を見通す目」―中国・ブラジル科学技術協力の強化

2021年07月06日 鄧国慶(科技日報駐ブラジル駐記者)

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2019年12月20日、中国は太原衛星発射センターから、キャリアロケット「長征4号B」を使って中国・ブラジル地球資源衛星(CBERS)04A星の打ち上げに成功した。同ロケットには、「南南協力」の一環である気候変動対策プロジェクトとして、中国がエチオピアに寄贈する小型地球観測衛星や宇宙重力波探査のための技術試験衛星「天琴1号」など衛星8基が搭載されていた。提供:新華社(撮影・鄭逃逃)

 中国とブラジルの実務的協力は、強靭性に富み、互恵性が強い。2020年以来、二国間貿易は新型コロナウイルスの影響の流れに逆らうかのようにプラス成長を遂げ、投資における連携も積極的な進展を見せた。ブラジルサンパウロ州カンピーナス大学の地政学・地域協力分野の専門家・ルネット氏は、筆者の取材に対して、「ポストコロナの時代になると、ブラジルと中国の科学技術協力はさらに『未来を見通す目』を持つべきだろう。ナノテクや宇宙技術、クリーンエネルギー、農業技術など、既に良好な協力が進んでいる分野は、さらに協力の水準を高めていく。また、モノのインターネット(IoT)や情報・通信技術、新材料、公衆衛生など、新興分野の協力も積極的に開拓し、両国産業のデジタル化モデル転換を促進し、中国とブラジルの包括的・戦略的パートナーシップを一層充実させていく必要がある」と語った。

宇宙協力を引き続き強化

 ルネット氏は、「航空・宇宙の分野で、ブラジルは中国のような協力パートナーを切実に必要としている。1988年から展開されてきた共同開発事業『中国・ブラジル地球資源衛星』(CBERS)は、発展途上国間で、最も成功している科学技術協力プロジェクトの一つだ。2019年12月、両国が連携して開発した6基目の衛星『CBERS』04A星の打ち上げに成功した。同衛星は、中国とブラジルの自然資源や農業、環境保護、測量、減災など、多くの面の実際的な需要を満たすことができる。打ち上げの成功は、両国の資源衛星シリーズのデータ応用を世界の高分解能業務分野へ広げるための基礎を築いた。また、ブラジル政府がアマゾンの熱帯雨林および全国の環境変動モニタリングを実現するために、ハイテクによる手段が提供されている」との見方を示す。

 そして、「両国の宇宙協力の成果は、双方の経済、社会発展の各分野で、幅広く応用されている。衛星は、中南米やアフリカなど、多くの発展途上国に、大量のリモートセンシングデータを提供している。そのようにして、『CBERS』は国際的なブランドとなり、中国とブラジルの協力の恩恵が世界に及んでいる。『CBERS』は、ここ30年余りの間に、たくさんの成果を収め、堅い絆で結ばれ、一致協力して難関を切り抜ける宇宙人材チームを、共に育成し、ハイテク分野における『南南協力』の模範と称されている」と強調する。

 さらに、「両国は今後、同事業の枠組み下での協力をさらに拡大、充実させ、後続の衛星協力ガイドラインの論証を進め、リモートセンシング衛星、気象衛星、通信衛星などの他の衛星の共同開発を続けるべきだ。また、『2013--22年中国国家航天(宇宙)局とブラジル宇宙機関の宇宙協力計画』を積極的に実行に移し、宇宙探査、月探査、宇宙教育を含む有人宇宙飛行などの面で協力を拡大させ続け、宇宙技術、宇宙応用、宇宙科学、地上設備、人材育成、測量・コントロールサポート、打ち上げサービスなどの分野で、全く新しい協力プラットホームを構築すべきだ」との見方を示す。

デジタルサービス貿易を大きく開拓

 ルネット氏は、「近年、クラウドサービスやビッグデータ、クラウドデータセンターの構築が、金融、教育、石油・天然ガス、製造などの業界の発展に大きな変革をもたらしている。世界接続性指標(GCI)ランキングで、ブラジルは11位と、『中の上』の水準だ。GCIは主に、ある国や業界の情報通信技術インフラへの投資、活用の程度、カギとなる業務の分野にもたらされている利益などを示すのに用いられている。情報分野の接続性は、国の競争力を示す重要な指標になっている。ブラジルはこの分野で、スタートこそ遅れたものの、追いかけるスピードは加速している」と強調する。

 ルネット氏は、「新型コロナウイルスが依然として、ブラジルで猛威を振るっている。それにより、ブラジルの企業家らは、遠隔医療やオンライン教育、共有プラットホーム、越境ECなど、新製品やソリューションの開発着手に迫られ、人々の生活の質、基礎教育、工業製造のレベルアップに取り組んでいる。しかし、ブラジル国内のビッグデータの研究開発の水準と統合は進んでおらず、ハードウェアとソフトウェアのサポートが不足している。一方、中国はデジタル経済の発展、特にインターネット応用の面で、世界の先端を歩んでいる。そのため、ブラジルは中国に目を向けている。近年、ブラジルに進出する中国のインターネット企業が増えており、両国の貿易分野の協力に新たな活力を注入すると同時に、中国の資金、技術、管理などの優位性をもたらし、インターネットがブラジルの経済、社会の発展に一層寄与するようサポートしている」と語った。

 新型コロナウイルス感染症が世界中に「挑戦状」を叩きつけてきており、現存する商品やサービス、プロセスが今後、大きく変化するだろう。それにより、中国とブラジルは、公衆衛生、物流インフラ、ECネットワークなど新しいサービス貿易の分野で、協力をさらに拡大させることになりそうだ。

 ルネット氏は、「ブラジルと中国は発展段階が似ており、消費の需要と消費能力も似ている。両国は、互いに補完し合うという強みを発揮し、生産性の高いサービス業の国際的な転移を共に受け入れ、第三者市場を共同で開拓すべきだ。それらの分野のサービス貿易には大きな発展の余地がある」と強調する。

 最後に、ルネット氏は、「科学技術とイノベーションは、国の経済発展・競争力政策を制定するうえで、戦略的役割を果たす。中国とブラジルは、経済成長の新たなポイントを見付け、力強く成長する勢いをつけるために、イノベーション協力を推進するとともに、両国の科学技術協力の発展の見通しを、長い目で見なければならない」との見方を示した。


※本稿は、科技日報「以"未来眼光"拓展中巴両国科技合作」(2021年5月31日付4面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。