第178号
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無錫ハイテクパーク―脱炭素産業に焦点を合わせグリーン技術革新を模索

2021年07月21日 過国忠(科技日報記者)、徐逸卿(科技日報特派員)

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ボッシュの水素供給システム(画像提供:取材先)

 今年初め、科学技術部が通達した「国家ハイテクパークグリーン発展特別措置実施ガイドライン」では、「国家ハイテクパークで、2030アジェンダやCO2排出量ピークアウトなどを先行して実現する」などの目標を掲げている。計画によると、それぞれの国家ハイテクパークで、今年8月31日までにグリーン発展の「五カ年計画」のガイドライン策定の完了する予定だ。

 無錫ハイテクパークは、無錫脱炭素ハイテク産業パークを設立し、脱炭素、低炭素技術研究開発および応用、成果の実用化、産業クラスターを際立たせる計画を打ち出した。

 筆者の取材したところによると、無錫ハイテクパークは今年、グリーンな低炭素・循環型発展を目指す国家戦略に積極的に呼応し、グリーン発展のチャンスを全力で掴み、グリーンな低炭素・循環型発展経済体系を積極的に構築し、CO2排出量のピークアウト、カーボンニュートラルの目標を計画通りに実現できるよう着実に取り組んでいるという。

新たなチャンスを掴み、モデルエリアを先行建設

 温室効果ガス排出大国である中国は、国際社会に対して、「CO2の排出量を2030年までにピークアウトさせ、2060年までにカーボンニュートラルを実現する」という指針を示した。

 無錫ハイテクパーク共産党工作委員会の書記を務める蒋敏氏(無錫市党委員会常務委員、新呉区党委員会書記)は、「グリーンなモデル転換、低炭素・循環型の質の高い発展は、必然的であり、中華民族の永続的な発展、人類運命共同体の構築とも関係する。質の高い発展先行エリアとしての無錫ハイテクパークは、グリーンな低炭素発展の面で、先頭に立って模範を示すよう努力すべき立場にある」との認識を示した。

 そして、「無錫脱炭素ハイテク産業パークの建設を重要な手がかりとし、グリーン技術の供給、グリーン産業体系の構築、グリーン発展メカニズムの整備を強化し、グリーン産業チェーンを強化する取り組みを展開し、科学技術イノベーションがグリーンな進歩を牽引する質の高い発展の道を一歩踏み込んで模索する」と説明した。

 水素エネルギーは、温室効果ガスの排出がゼロで、環境にやさしい。無錫ハイテクパークは、水素エネルギーの発展、利用の面で、モデル的、牽引的役割を果たしている。同パークは今年になって、産業の展開を加速させ、4月には、パーク内で、無錫市初の水素燃料で走る路線バスが開通。第1弾として水素燃料で走るバス5台が導入された。今後、同パークは、物流・配送の分野でも、水素燃料で走る車両の導入を進める計画だ。

 ドイツの企業ロバート・ボッシュが世界で新設した2カ所の水素燃料電池センターうちの1カ所が無錫ハイテクパークに設立された。それを受け、無錫ハイテクパークは、同市初の水素ステーションを設置した。

 2013年から、無錫ハイテクパーク星州工業パークは、分散型太陽光発電応用モデルプロジェクトを始動し、現時点で、太陽光発電の容量は18メガワット(MW)、発電量は年間1,800万kWhを超えている。標準石炭を年間約6,400トン節約でき、CO2の排出量を1万7,000トン削減できる。

 無錫星州エネルギー発展有限公司の責任者は、次のような見方を示す。「星州工業パークは今年、分散型天然ガス発電所の建設を始め、新しく立ち上げるプロジェクトのために、エネルギーステーションを設立している。工業パークが使用する新エネルギーやクリーンエネルギーの割合の上昇につながるはずだ。今後、工業パークのクリーンエネルギーの割合は25~35%に達するだろう」。

 また、「無錫脱炭素ハイテク産業パーク発展計画」の策定に参加した江南大学環境・土木工学院の准教授で、無錫低炭素都市発展研究センターのセンター長である任洪艷氏は、「これらの措置や成果は、無錫ハイテクパークが未来型グリーン産業発展モデル拠点、国家ハイテクパークグリーン発展モデルパークを構築するための基礎、条件を提供している」との見方を示す。

科学の最適なレイアウト―「一核九園二社区」の構築

 今年3月、無錫ハイテクパークは、中国全土に先立って無錫脱炭素ハイテク産業パーク建設計画を打ち出した。同パークは今後、イノベーション要素の高度集積を加速させ、ハイレベル人材が継続的に集まり、戦略的新興産業が急速に発展する流れを作り出し、資源節約型、環境保護型の産業構造、生産スタイル、ライフスタイル、空間構造の形成を加速させる計画だ。

 無錫ハイテクパーク管理委員会の関係責任者によると、「無錫脱炭素ハイテク産業パーク発展計画」の要求に基づき、第14次五カ年計画(2021~25年)期間中、無錫脱炭素ハイテク産業パークは、「5つの大きな位置付けに焦点を合わせ、5大プロジェクトを実施し、5倍増計画を実現させる」ことを目指し、グリーン技術供給、グリーン産業体系構築を継続的に推進する。具体的には、同産業パークは、「一核九園二社区」という産業と都市が融合する発展の全体的な構造を活用して、「産業要素の集積地」、「脱炭素人材の集積地」、「業界の応用モデル拠点」、「グリーン技術の発展の地」、「国際交流の盛んな場所」といった「5つの大きな位置付け」に焦点を合わせ、「科学技術イノベーション駆動型プロジェクト」、「産業連動・波及プロジェクト」、「応用モデルPRプロジェクト」、「グリーン金融サポートプロジェクト」、「脱炭素人材誘致・育成プロジェクト」の「5大プロジェクト」を実施する。

 そして、「第14次五カ年計画」の終盤をめどに、同パークは、脱炭素の分野で、「1,000社以上の各種ハイテク企業誘致」、「1つの中核エリア構築(一核)」、「9つの低炭素産業パーク(ソフトウェアパーク、マイクロ・ナノパークなど)構築(九園)」、「2つの低炭素コミュニティ(グローバルコミュニティ、新安コミュニティ)構築(二社区)」、「脱炭素ハイテク産業パークの科学技術イノベーションの濃度、人材密度、応用次元、産業のレベル、国際的な知名度の『5倍増』の実現」などを目指す。

 蒋氏は取材に対して、「当パークは近年、生態優先、グリーン低炭素の発展の道を歩み続け、産業構造がエコに向かって最適化するよう力を入れ、モノのインターネット(IoT)、集積回路、バイオ医薬品などを中心とした『6+2+X』現代産業クラスター構築を全力で進めている。2020年末、戦略的新興産業やハイテク製造業、ハイテク産業の生産高が一定規模以上の工業企業(年売上高2,000万元以上の企業)の総生産高に占める割合はそれぞれ49.7%、52.5%、68.5%にまで上昇した」と説明した。

 特に、脱炭素産業の発展を見ると、無錫ハイテクパークのグリーン発展の成果が顕著で、2020年、パーク全体の単位GDPエネルギー消費量は0.205トン標準炭/万元と、先進国並みの水準に達した。パーク内には現在、脱炭素の分野の企業は300社以上あり、メイン業務の売上高は600億元(約1兆300億円)以上に達し、脱炭素産業は一定の規模に成長している。また、太陽光発電やエネルギー貯蔵、マイクログリッドといった複数の技術を採用し、複数の応用シーンをカバーするモデルプロジェクトを完成させている。2020年の時点で、同パークが建設した分散型発電の設備容量は160MWに達した。

 無錫ハイテクパークに足を運ぶと、企業や道沿いのコミュニティから産業パークまで、各種脱炭素モデルプロジェクトが至る所で実施されていた。

グリーン低炭素産業の発展を促進する環境づくりを

 任氏は、「CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルの目標を達成するための取り組みの過程では、盲進してはならず、かつ時勢に便乗するようなこともしてはならない。政府は、支援策を打ち出して、人材ストックを強化し、質の高いサービスを提供し、事前予測、モニタリングをしっかり行うべきだ。そして、良好な環境づくりをし、企業が自主的に、自然と、CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルに向けた改革に参加するようにし、モデルづくりから、推進まで、一歩一歩着実に進めるべきだ」と指摘する。

 では、このような新たな動向下で、無錫ハイテクパークは、地域の状況に合う、実際のグリーン低炭素発展の道を、どのように模索し、一歩一歩着実に歩み続ければ良いのだろう?

 5月19日に開催された「CO2排出量ピークアウト・カーボンニュートラル無錫サミット2021」の無錫脱炭素ハイテク産業パーク除幕式で、国網電力起業・イノベーション低炭素産業パーク、格林美(無錫)新エネルギー低炭素産業モデルパーク、中金協鑫カーボンニュートラル産業投資基金、一奇資本CO2排出量ピークアウト・カーボンニュートラル基金、英諾華新型太陽光発電・電力貯蔵システム開発および専用集積回路開発といった重要プロジェクトが無錫ハイテクパークで実施されることで合意し、調印が行われた。

 無錫ハイテクパークに設立された東南大学長江デルタカーボンニュートラル戦略発展研究院は、今後、「CO2排出量ピークアウト、カーボンニュートラル」研究実践拠点プロジェクトを実施することは注目に値する。無錫ハイテクパークは今後、資源賦存量と産業発展の特徴を組み合わせて、低炭素モデルエリアを対象にして、一歩踏み込んだ研究を展開するとともに、同研究院と共同で、電力ビックデータ+環境保護、総合エネルギー管理、分散型新エネルギーアクセス、電気自動車(EV)などをめぐるCO2排出量ピークアウト、カーボンニュートラル関連の課題研究、ルート設計、宣伝・研修、技術開発・実用化、国際協力といった活動を展開する計画だ。また、同パークは課題研究や科学研究者の調査、研究などの面でも、同研究院をサポートする。

 蒋氏は、「当パークは今年、関連の奨励・支援策を打ち出し、さらに優れたイノベーション・起業のエコシステムを構築し、当パークの企業のモデル的役割を十分に発揮させ、中国内外の科学研究機関とのより高度なマッチングを強化し、さらに多くの低炭素技術の成果がしっかりと根付くよう推進する計画だ。また、さらに多くの中国内外のグリーンイノベーションの分野のリーディングカンパニー、産業基金との協力を強化し、さらに多くの低炭素産業プロジェクトを当パークで発展・展開させ、それが大きく強くなるよう取り組む」と意気込みを語った。


※本稿は、科技日報「無錫高新区:聚焦零碳産業,探索緑色技術創新」(2021年5月27日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。