第178号
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環境汚染の低減とCO2削減への持続的な努力を―生態環境部環境計画院院長・王金南氏インタビュー

2021年07月08日 徐天/『中国新聞週刊』記者 舩山明音/翻訳

「十三五」〔第13次五カ年計画〕でのバックエンドの汚染源排出規制から、「十四五」〔第14次五カ年計画〕ではフロントエンドの構造調整強化とエコ発展へ。根源から汚染を低減し、生態環境の維持・改善を推進していく。

 「大気・水質・土壌汚染の防衛戦」「中央政府の生態環境保護審査」......過去5年のあいだに、これらのキーワードはニュース報道に頻出し、生態環境保護の動きはかつてない高まりを見せてきた。

 王金南(ワン・ジンナン)氏〔全国人民代表大会環境与自然保護委員会委員・中国工程院院士・生態環境部環境計画院院長〕は、取材に答えて次のような認識を示した。「十三五」時期はいままでで生態環境の改善成果が最も大きく、事業の推進成果が最も優れ、国民と国際社会に最も高く評価された5年だった。だが、生態環境保護事業の道のりは依然として遠く、「CO2排出を2030年までにピークアウトさせる」という任務は困難を極めるだろう。そのため、「十四五」時期においても、中国の生態環境保護は依然として重要時期・正念場・緊迫期にあり、汚染低減・CO2削減を主軸として努力を続ける必要がある。

根源的環境ガバナンスの「勘所」はCO2削減

記者:「十三五」時期での、中国の生態環境保護分野の成果をどのように評価されますか。

王金南(以下、王):「十三五」時期はいままでで生態環境の改善成果が最も大きく、事業の推進成果が最も優れ、国民と国際社会に最も高く評価された5年でした。「十三五」計画で定められた生態環境分野における9つのノルマはいずれも目標を超えて達成され、大気・水質・土壌汚染の防衛作戦と七大重点戦略は顕著な成果を得ており、例えば国民が大きな関心を寄せる大気の重度汚染日数は、明らかに減少しています。

 また、生態環境保護は常に経済の質の高い発展をも牽引・改善・バックキャスティング〔将来的目標から課題を洗い出すこと〕・促進しています。「十三五」時期においては、エネルギー構造、産業構造、交通・運輸構造が持続的に最適化され、実質GDPあたりのCO2排出累計は19.5%減少し、全国のエネルギー消費に占めるクリーンエネルギーの割合は4分の1に迫っていました。太陽エネルギー・風力エネルギーの設備容量と発電量はいずれも世界トップとなり、全国の超低排出石炭発電ユニットの累計は9.5億キロワットに達し、世界最大規模の超低排出クリーン石炭発電供給システムを構築しています。「散・乱・汚」〔小規模・未認可・汚染対策不十分〕企業の調査は基本的に完了し、整備下にある工業窯炉は1.5万基となっています。

 生態環境保護のための制度・メカニズムもますます改善されています。さらに特筆すべきことは、中国がグローバルな環境ガバナンスにより深く参与していることです。例えば、中国は対外的に公約した2020年のCO2排出率の制御目標を繰り上げ達成しており、さらに2030年までのピークアウト、2060年までのネットゼロ〔CO2排出量と森林等による吸収量との差し引きをゼロにすること〕の実現を努力目標とするとの方針を打ち出しています。

記者:「十三五」時期に積み残し、「十四五」時期で重点を置くべき環境分野の他の問題にはどのようなものがありますか。

王:「十四五」時期においても、中国の生態環境保護は依然として重要時期・正念場・緊迫期にあり、生態環境保護事業の道のりは依然として遠いものがあります。その原因はいくつかの面にわたると思います。第1に、生態環境はいまだ根本的な改善を見ておらず、2035年に「美しい中国」〔中国共産党第18回全国代表大会で提起された概念で、生態文明建設を重要方針とする〕の基本的構築を実現するという目標にはなお大きな開きがあります。第2に、外部環境の不安定性と不確定性が顕著に高まり、グローバルな生態環境保護・ガバナンスにリスクと課題をもたらしています。第3に、生態環境保護の構造的・根源的・趨勢的圧力は、全体としていまだ根本的な緩和を見ていません。第4に、「十四五」時期には中国の工業化・都市化は急ピッチで進展を続ける見通しであり、生態環境への新たな圧力がなお強く、CO2排出ピークアウトという任務には巨大な困難が立ちはだかっています。第5に、生態環境領域におけるガバナンスの現代化、グローバルな環境ガバナンス能力には速やかな強化が望まれています。

 このため、「十四五」時期においても、我々は幾つかの面でなお努力を続ける必要があります。

 第1のキーワードは「エコ発展・低炭素発展・循環発展」です。エコで低炭素の発展を加速させ、生態環境のハイレベルな保護により、アフター・コロナの経済に「エコ回復」と「質の高い発展」をもたらさなければなりません。

 第2のキーワードは「根源的・系統的・全体的ガバナンス」です。根源的ガバナンスとは、低炭素化を「勘所」としてCO2排出ピークアウトへの行動を展開し、汚染低減・CO2削減の相乗効果を実現することです。系統的・全体的ガバナンスとは、質的・量的目標によって全体的・根源的・構造的削減へのバックキャスティングを図り、産業・エネルギー・交通運輸・農業構造の迅速な改善・調整を推進することです。生態システムの全体性と流域の系統性から出発して、生態環境システムの保護と修復を強化していきます。

 第3のキーワードは「正確な・科学的な・法に依拠した汚染対策」です。大気汚染防衛作戦を例にとれば、まず汚染の成分を明らかにし、汚染源を探った後に、ふさわしい汚染対策措置を定めます。PM2.5対策のほか、オゾン問題もますます深刻化しており、今後中国はオゾンとPM2.5のダブル対策に注力し、複数の汚染源の連携的対策と地域的共同措置を強化し、重度の大気汚染を基本的に除去していきます。

記者:「十四五」時期は生態環境保護の基本方針・対策方法等の面でどのような変化があるのでしょうか。

王:ガバナンスの方針については、今後はバージョンアップした汚染対策作戦を実施し、汚染低減・CO2削減をさらに突出した優先的位置に置きます。「十三五」でのバックエンドの汚染源排出規制から、「十四五」ではフロントエンドの構造調整強化とエコ発展へと舵を切り、根源的に汚染を低減し、生態環境の維持・改善を推進していきます。

 ガバナンスの重点については、汚染防止対策を徹底的におこない、「大気浄化・CO2削減・生態環境保護・水質向上・土壌改善・環境リスク予防」を統一的に推進していきます。例えば最近頻繁に取り上げられている「CO2削減」については、2060年までのネットゼロという理想を目標として、2030年までにピークアウトするという行動計画を策定します。「十四五」時期においては、国家生態文明試験エリア、「美しい中国」建設モデル地区、および京津冀〔北京市・天津市・河北省〕、長江デルタ地帯、広東・香港・マカオ大湾区などで率先してCO2排出ピークアウトを実現しなければなりません。

 ガバナンスの分野については、大気・水・土壌汚染等の環境問題および通常の汚染物対策から、グローバルな気候変化、生物多様性の保護、海洋環境保護、環境リスク対策等の幅広い領域へと段階的に広げていきます。そして新たな汚染物質対策、人体の健康、エコロジカルサービス機能〔生態系に由来し人類の利益になる機能〕をさらに重視します。ガバナンスの範囲については、現在の都市部とりわけ地級以上の都市を重点としたものから、区・県、郷・鎮および農村地区に拡大していきます。

「十四五」時期にはCO2高度排出プロジェクトに投資すべきではない

記者:中国はCO2排出について、2030年までのピークアウト、2060年までのネットゼロ実現を努力目標としています。この目標をどのように実現すべきでしょうか。

王:私の考えでは、要となるのは新たな発展構造を構築し、CO2排出ピークアウトひいてはカーボンゼロを重要目標として社会経済の発展をリードし、CO2排出のピークアウト・ネットゼロと「質の高い発展」のハイレベルな調整・統一を実現することです。主に以下のいくつかの分野のプロジェクトをやり遂げなければなりません。

 第1は、トップダウン計画をしっかりやることです。中国のCO2排出総量はアメリカ・EUの合計を上回り、しかもピークアウトからネットゼロまでに30年の時間しかなく、先進国に比べ厳しい時間的条件、大幅な削減要求となっています。トップダウン設計の積極的・効果的なCO2削減プロセスにより、強力な政策的手段を取り、関連事業を推進していくことが必要です。

 第2は、地方と産業界の二方向から力を入れることです。国家レベルでは、2060年までのCO2排出ネットゼロを長期的な目標として、今年前半には排出ピークアウトへの行動案を打ち出すよう努力します。「共通だが差異ある責任」の原則〔地球温暖化問題で使われる概念で、1992年の「リオデジャネイロ宣言」に盛り込まれた〕に基づき、地域ごとに段階的なピークアウトのロードマップを描き、地方の責任主体、達成時期、作業任務を明確にし、多領域で進捗と技術レベルの結合を推進し、段階的なピークアウトを実現したいと考えています。なかでも電力・鋼鉄・セメント等の重点工業力は「十四五」期間に早急に排出削減へ転じるよう尽力するつもりです。

 第3は、エネルギー構造の転換を加速し、クリーンな低炭素エネルギー体系を構築することです。CO2排出ピークアウト・ネットゼロ事業を通じてエネルギー革命を推進し、石炭・石油・天然ガス等の化石エネルギー消費量を段階的に削減していきます。可能な限り早急に石炭・石油消費量のピークアウト時期を発表し、それぞれ「十四五」および「十五五」時期において排出削減に転じることを提起したいと思います。

 第4は、市場と行政との相乗作用を発揮させることです。異なるタイプのCO2排出総量管理制度を構築し、全国の炭素市場と排出量の割当有償分配制度の整備を全面的に展開し、環境保護税を組み入れた炭素税政策を正式に発表します。さらに、政府にはCO2排出ピークアウト事業で当事者責任を果たしてもらい、CO2排出抑制を中央政府の生態環境保護審査や党政指導の総合査定などに組み入れなければなりません。

記者:現在はCO2排出ピークアウトまでまだ9年の猶予があり、一部の省ではまだ「十四五」計画でCO2高度排出プロジェクトを実施しています。「十四五」時期において、経済発展と低炭素発展のバランスをどう取るのでしょうか。

王:かなりの地方で、2030年まではまだ化石エネルギー使用量の大幅な引き上げを継続してよいと認識されています。なかには「CO2高度排出」路線で「十四五」の発展計画を図り、炭素排出の「新たな最大値」に達した後で削減すればよいと考えている地方もあります。CO2排出ネットゼロが各地の発展に課せられたバックキャスティング課題だとは捉えられていません。この状況は、中国が2060年までにネットゼロを実現する上で、非常に大きなマイナス要因となる可能性があります。

 一方では、EUが1990年代にCO2排出量45億トン、アメリカが2007年に59億トン前後で最大値に達したのをベンチマークとすれば、中国の場合はCO2排出量の最大値が106億トン前後となることが予想され、これはEUの2.4倍、アメリカの1.8倍に当たります。EUが今世紀中頃の排出ネットゼロを目標としていることをみれば、排出ピークアウトからネットゼロまで60年かかると考えられますが、中国ではわずか30年と想定しています。我が国は先進国に比べて時間がより限られ、削減幅もより大きな要求に直面しています。

 また一方では、石炭火力発電所、鋼鉄企業といった設備の耐用年数はいずれも30年以上であり、もし「十四五」期間に設備投資すれば、今世紀中頃までその設備はCO2を排出し続けることになり、CO2高度排出の「ロックイン」効果を生み、中国が排出ネットゼロという理想に到達するための障害となります。あるいは、ネットゼロという要求を達成するためには、こういった新設の設備は稼働年限の前に操業停止して淘汰されるべきですが、それは莫大な投資の浪費を意味し、一歩間違えば金融システム・社会経済への打撃になりかねません。

 このため、CO2排出ネットゼロの角度から言えば、我々は現在ただちに成長理念を変え、CO2高度排出プロジェクトへの投資に依存して経済を刺激するモデルから脱却すべきです。投資を低炭素でエコで成長空間のより大きなプロジェクトへの支持に転換し、できるだけ早く国際的な低炭素技術の潮流に身を投じ、イニシアチブをとり、それによってさらに長期的で健全な経済発展を図るべきだと考えています。

記者:今年度の全国「両会」において、「CO2ネットゼロ促進法」制定に関する議案が提出されました。現在、中国にはまだ気候変化に対応する専門的な法律はありませんが、立法の必要性はどこにあるのでしょうか。

王:近年、中国の生態文明建設分野の立法・法改正は、特に汚染対策と生態保護の面で、猛スピードで進んでいます。ですが、気候変化あるいは低炭素発展分野に対応する専門的な全国レベルの法律はまだありません。CO2排出ピークアウトとネットゼロという目標の実現を支える法制度体系は薄弱であり、立法のレベルは低くかつ断片化しており、実際の作業要求を満たすにははるかに遠いのが現状です。CO2排出ピークアウトとネットゼロをいかに実現するかについて、法律は強力なサポートを提供できていないのです。

 立法を通じて以下のことが可能になります。まず、CO2排出ピークアウト値目標、総量・強度抑制目標に法的強制力を与えることができます。また、温室効果ガス排出権の法的属性と権利決定メカニズムを明確にし、中国の炭素排出権ビジネス市場のスムーズな推進を保障することもできます。さらには政府管理部門が、CO2排出ピークアウト目標の実現状況を精査し、目標責任評価を展開する際に、法的な根拠をもつことが可能となります。

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「十四五」時期にはエコで低炭素、循環型の発展が求められる。


※本稿は『月刊中国ニュース』2021年6月号(Vol.110)より転載したものである。