デジタル電力網:新エネルギーの「ベストパートナー」
2021年07月09日 葉 青(科技日報記者)、張偉雄(科技日報特派員)
中国南方電網有限責任公司は新エネルギー関連の電力網建設と発電電源ネットワークへの接続をしっかり行ってきた。このほどまもなく完成を迎える広西チワン族自治区白雲嶺風力発電所の新たな風力発電機。
(撮影:李志傑)
1億キロワット―第14次五カ年計画(2021‐25年)と第15次五カ年計画(2026‐30年)期間中、中国南方電網有限責任公司(以下「南方電網」)は、南方地域の5省・区にそれぞれ、1億キロワット分の風力発電や太陽光発電などの新エネルギー設備を設置し、新エネルギー設備の容量を現在の0.5億キロワットから、2030年には2億5,000万キロワットにまで増やし、中国が二酸化炭素(CO2)排出量ピークアウトを前倒しで実現できるようサポートする計画だ。
中国がCO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルを目指しているのを背景に、中心的存在である電力業界は、新エネルギーを主体とした新型電力システムをどのように構築し、エネルギーのモデル転換を実現する計画なのだろう? 5月28日、「南方電網」のエネルギー発展研究院有限責任公司の党委員会書記を務める呉宝英会長は、「デジタル電力網が今後、新型電力系統を支えるベストの形態になるだろう。『南方電網』が最近発表した『デジタル電力網を主体とする新型電力系統構築推進白書」(以下「白書」)は、デジタル電力網の建設に立脚し、複数の措置を講じ、新エネルギーを主体とした新型電力系統を構築し、CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルなどの戦略的目標の実現に寄与することを提起している」と語った。
デジタル技術を駆使して新エネルギーの効果的な利用を実現へ
統計によると、2020年、中国のエネルギー消費が原因で発生したCO2の排出量は、排出総量の約88%を占めた。一方で、電力業界の排出量が、エネルギー業界のCO2排出総量の約42.5%を占めていた。
中国でCO2排出量の割合が最も高い電力業界のCO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルに向けた取り組みの進捗が、中国のCO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルをめぐる目標の実現に直接影響を与えることになる。
そのため、中国は、電力体制改革を深化させ、新エネルギーを主体とした新型電力系統の構築を目標にしている。このような目標が掲げられたことは、中国のエネルギー構造とも密接な関係がある。中国の再生可能エネルギー、特に、風力発電や太陽光発電などの新エネルギーは大きな発展のポテンシャルを秘めている。中国の陸上風力発電、太陽光発電設備の規模は近年、世界トップに立ち、海上風力発電の規模は世界で2位となっている。それにより、新エネルギー技術や産業の急速な発展を後押ししている。
ただ、呉会長は、「新エネルギーを主体とした新型電力系統の構築は、『クリーン、信頼性、経済性』の間にある矛盾点を解決しなければならないことで、厳しい戦いだ」と指摘する。
デジタル電力網は、新型電力系統の中心だ。南方電網は2019年に、デジタル電力網建設の戦略的計画を打ち出した。強力な「電力+計算力」を駆使し、電気負荷、電気量データの正確な予測を実現し、広東省、広西チワン族自治区、雲南省、貴州省、海南省の5省・区のクリーンエネルギーの利用、消費をスピードアップさせた。2020年末、5省・区の非化石エネルギー設備、電気量はそれぞれ56%と53%と、世界の先端水準に達した。また、風力発電、太陽光発電の利用率がいずれも99.7%に達し、エネルギー構造のモデル転換の成果が顕著になっている。
CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルをめぐる中国の明確な目標に対し、南方電網は、デジタル電力網建設や電力系統のデジタル化管理へのモデル転換を加速させ、5G基地局、モノのインターネット(IoT)、電気自動車(EV)の充電スタンドなどの新型インフラ整備を強化し、国のインダストリアルインターネット・デジタル政府と結合し、エネルギーエコシステムのステークホルダーの開放的協力、互恵・共生、協同イノベーションを促進していく計画だ。
「南方電網」のデジタル電力網研究院有限公司の李鵬社長(党委員会副書記、取締役)は、「エネルギー生産において、デジタル技術が、電力系統が一層鋭敏な『五官』、一層聡明な『脳』を備えるようサポートし、新エネルギーの『観測、測量、コントロール』の水準を大幅に向上させ、1千万台級の新エネルギー設備が主力電源として、電力系統コントロールの過程に参加するようサポートするようになるだろう。これは、新型電力系統の新エネルギーの十分な利用、安全な稼働、クリーン、低炭素の重要な基礎を固めるだろう」との見方を示す。
新エネルギー発電設備が主力電源になるようサポート
4月15日夜の時点で、中国で4番目の規模を誇る烏東徳水力発電所の発電量が累計で200億キロワットに達した。南方電網は、世界初の超高電圧フレキシブル直流プロジェクト・烏東徳発電所から広東省、広西チワン族自治区に送電する超高電圧多端子フレキシブル直流モデルプロジェクトを通して、そのうちの140億キロワットを、粤港澳大湾区(広州、仏山、肇慶、深圳、東莞、恵州、珠海、中山、江門の9市と香港、澳門<マカオ>両特別行政区によって構成される都市圏)に送電した。これは広東省のCO2排出量456万トンの削減に相当する。
烏東徳水力発電所は、「西電東送」(西部地域で発電した電気を東部地域に送電)を実施する国の重要プロジェクトだ。南方電網は現在、東部地域に送電するための「8交(流)11直(流)」ネットワークを形成しており、送電規模は5,800万キロワット以上、年間送電量は2,300億キロワット時に達している。うち、クリーンエネルギーが80%以上を占めている。同社は独自の大容量超高電圧多端子フレキシブル直流送電技術を有しており、大型の交流・直流送電の計画、建設、運営技術、実践の面で、先端水準にある。
新型電力系統において、割合が高い新エネルギー利用の中枢としての電力網の役割が一層際立つ。「省・区をまたいだ主要電力網+中小規模エリア電力網+配電網・マイクログリッド」というフレキシブルコネクティビティ形態、デジタル化コントロール技術が、電力網に一層柔軟性、コントロール性を持たせ、新エネルギーを、資源賦存量に基づき、地域の特徴に合わせながら、幅広く接続できるようになっている。そして、「新エネルギー+エネルギー貯蔵」や「新エネルギー+負荷+エネルギー貯蔵」など、複数の要素を協調させる開発の新スタイルも続々と登場している。
白書によると、南方電網は今後、新エネルギー発電設備が主力電源として電力系統のコントロールの過程に参加するようサポートする計画だ。南方電網の主席技術者で、科学研究院有限責任公司の党委員会書記を務める饒宏会長は、「さらに、デジタル技術を駆使して、強固な主となるネットワークのフレームワークやフレキシブル配電網を構築し、風力発電、太陽光発電、バイオマス発電など、地域内に分散しているエネルギー資源を統一して活用し、交流・直流混合配電網とスマートマイクロ・グリッド網を現地の状況に合わせて建設し、配電網のデジタル化とフレキシブル化の水準を持続的に強化し、分散型電源に対するキャパシティーを向上させる計画だ」と説明する。
そして、「従来の電力系統と比べると、新型の電力系統は、大規模な新エネルギー発電をいかに効果的に電力網に接続・利用するか、システムなど各部分の効率をいかに向上させ、電気供給コストをいかに低減するか、などの重大な技術的難題に直面している」と指摘する。
これに対して、南方電網は、イノベーション主導戦略を大々的に実施し、新型電力系統のテクノロジーのサポート能力や産業の牽引力の構築を強化することを打ち出している。それには、新型の電力系統運営メカニズムや発展形態などをめぐる基礎研究を展開し、新エネルギー発電の大規模な接続・利用、デジタル電力網、電力専用チップなどの面で、ブレイクスルーを実現し、新型電力系統をサポートする国家レベルイノベーションプラットフォームを構築し、中国が独自の知的財産権を有する新型電力系統のキーテクノロジーや基準体系を構築することなどが含まれる。そして、カギとなる分野のコアテクノロジーの自主独立、高度化・モデルチェンジ実現を加速させ、世界トップレベルの完全な電力産業チェーン形成を促進していく。
ビッグデータ技術を活用してユーザーの省エネのポテンシャルを掘り起こす
「電気利用の手続きで顔認証システムを使えるだけでなく、停電した時でも、アプリを通して、修理スタッフがどこまで来ているかをチェックすることまでできる」。そう話す広州市民の盧さんは最近、アプリ「南網在線」を通して、90キロボルトアンペアの製造業普通工業用電気の利用を申し込んだ。申し込んでから、実際に使えるようになるまで、わずか1日半しかからなかったという。
第13次五カ年計画(2016‐20年)期間中、南方電網は、次世代デジタル化技術を駆使し、「5G+スマート電力系統」の大々的な建設を通して、電力網上の大量のターミナルデバイスに対するリアルタイム管理を実現し、深圳市福田区、広州中新知識城(中国―シンガポール広州ナレッジシティー)、珠海市横琴新区などに、高い信頼性を誇る配電網モデルエリアを構築した。また、南方エリアの電力市場の建設は、中国全土で上位を走っており、電力現物市場と地域の周波数変調サポートサービス市場で、中国全土で率先して決算試験運転を始めた。
白書を見ると、南方電網は今後、デジタル技術を活用して、エネルギーの消費革命を促進し、エコな生産、生活様式の幅広い形成を推進する計画だ。
饒会長は、「デジタル技術を駆使して新型電力系統に適応する近代的な電気供給サービスシステムを構築し、サービスの効率や顧客体験を向上させ、業務のイノベーションをサポートし、ユーザーがニーズのポテンシャルを持続的に掘り起こせるようサポートする計画。そして、モノのインターネットとブロックチェーン技術を活用して、大量のユーザー側の調節可能な資源を集め、バーチャルパワープラントの建設に力を注ぎ、ユーザーが合理的に電気を使うよう導き、発電側と負荷側の双方向の交流を促進する」と説明する。
南方エリア初の再生可能エネルギー電力の取引市場が最近開設された。南方電網・貴州電網公司は、風力発電、太陽光発電、バイオマス発電などの非水再生可能エネルギー利用量の公開取引を行った。そして、取引する両者が、再生可能エネルギーの利用量証書2,716件分の取引に合意した。再生可能エネルギー利用電力量に換算すると271万6,000キロワット時に達している。
広東粤電電力販売有限公司の珠江デルタディレクターの李浩宇氏は、「集中的なプラットフォーム、標準化されたターゲットが、取引を一層円滑化させているほか、当社のような電力を販売する企業が、国のCO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルの目標実現をサポートする新たなルートとなっている」と高く評価する。
南方地域の統一した電力市場建設を加速させ、電力市場で取引される商品のバリエーションを増やし、柔軟性があり、多種多様な市場化されたディマンドリスポンス取引スタイルを模索するというのが、南方電網が今後新型電力系統を構築する方向性の一つとなるだろう。また、南方電網は今後、ビッグデータ技術を通して、ユーザーが省エネのポテンシャルを掘り起こせるようサポートし、エネルギー消費が、単一的、受動的、一般化された利用スタイルから、さまざまなニーズを融合させ、積極的に参加し、オーダーメイドの効果的な利用スタイルへとモデル転換するよう促進し、EVや代替エネルギー、省エネ・排ガス減少、総合エネルギーサービスの発展を促進する計画だ。
※本稿は、科技日報「数字電網: 新能源的"最佳拍档"」(2021年6月1日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。