山東省、イノベーション・バウチャー政策のボトルネックを解消
2021年08月31日 王延斌(科技日報記者)、馬文哲、韓 珺(科技日報特派員)
イノベーションが山東省の紡績業に活力を注入している。画像は山東省威海市光威集団の炭素繊維生産工場で、デジタル測長器の表示をチェックする女性作業員。撮影:陳建力(新華社記者)
24.77%
2020年、山東省の15市(青島市を含まず)では、イノベーション・バウチャーを利用した中小・零細企業の数が24.77%増加し、イノベーション・バウチャーの利用は12.06%増加し、助成金は17.14%増加した。2021年も出だし好調となり、第1四半期(1-3月)のイノベーション・バウチャーの利用数は2020年の通年の29.58%となった。
イノベーション・バウチャーの受益企業の数、利用数、助成金がいずれも増加する中、山東省のイノベーション・バウチャーの設計・主管当局は、目新しい会議「山東省イノベーション・バウチャー事業推進会」を、臨清市で開催した。
一般的な会議と異なり、同推進会は、参加者の双方向の交流が特別な点として挙げられる。主催者が招待した主管当局や受益企業の代表、機器メーカーなどが一堂に会し、胸襟を開いて交流した。政策制定者は初心を振り返り、価値ある経験を共有した。一方、受益企業は何を必要としているかを伝え、ノウハウを提供し、機器メーカーは相手側のウィークポイントを整理し、収穫をチェックした。
短い会議ではあったものの、内容は実務を重視したもので、まず、会場で顔合わせが行われ、その後、座って交流した。成果だけでなく、疑問を提起し、それに答えるといった具合に進められた。
ある参加者は取材に対して、「みんなが実際の問題に焦点を合わせ、確実に実行する方法を探り、イノベーション・バウチャー事業の新局面構築に取り組む上で、数多くのコンセンサスを築くことができた」と話した。では、会議では、どんな話し合いが行われたのだろう?
新型コロナの逆風を物ともせずイノベーション・バウチャーのトリプル増加を実現
小さなイノベーション・バウチャーが、企業に不思議なエネルギーを注ぎ込んでいる。受益者は、「眠っている資源を呼び起こしてくれた」、「起業のコストが削減できた」、「イノベーションの活力が活性化されている」などといった言葉でその効果を表現している。
新型コロナウイルス感染の打撃を受ける中でも、山東省のイノベーション・バウチャー事業は素晴らしい成果を収め、2020年の成果を2019年と比べると、その受益企業の数、利用数、助成金の「3つの増加」を達成した。
統計によると、山東省の15市(青島市を含まず)では、イノベーション・バウチャーを利用した中小・零細企業の数が24.77%増加し、イノベーション・バウチャーの利用は12.06%増加し、助成金は17.14%増加した。2021年も出だし好調となり、第1四半期(1-3月)のイノベーション・バウチャーの利用数は2020年の通年の29.58%となった。
山東凱美瑞ベアリング科技有限公司(以下「凱美瑞」)は、強化型自動調心ころ軸受(スフェリカルローラーベアリング)を生産するリーディングカンパニーだ。同社は3,000万元以上を投資し、科学研究設備が揃っている実験室を建設した。
推進会に参加した凱美瑞の代表は、「当社は最初、イノベーション・バウチャーの受益者だった。イノベーション・バウチャーの手厚い補助を受けた後、長年活用してきた機器設備や実験室を、現地のベアリングの中小・零細企業が使用できるようにした。そのようにすれば、機器を合理的に活用できるだけでなく、周辺の中小・零細企業のイノベーション開発、製品の質を向上させ、コントロールすることもできる」と、自社の経験を語った。
イノベーション・バウチャー政策は、「小よく大を制す」かのようで、その推進は非常にやりがいのある活動だ。凱美瑞のノウハウは、山東省のイノベーション・バウチャー事業推進の縮図の一つに過ぎない。同省各地に、それぞれの特徴を持つ、類似ケースがある。
例えば、濰坊市では、中小・零細企業や起業(メイカー)チームと、機器設備供給者がさまざまな形でマッチングしている。一方で、済寧市は、大学や科学研究機関の大型科学研究機器設備が分散している、重複している、閉鎖的、非効率的といった問題を抱えていることに対し、企業や社会の力が共同建設するよう誘導している。そして、さまざまな立場の者が連携する形で、機器や使用者、資金を統一管理し、現有の科学研究施設や機器のポテンシャルを掘り起こし、利用効率を最大化できるよう取り組んでいる。
浜州市の手法にも特徴があり、テーマ別の合同研修を企画すると同時に、イノベーション・バウチャーを利用する可能性のある企業を選出し、ポイントツーポイントでプロモーションを行なっている。
山東省のイノベーション・バウチャー推進事業が実現しているブレイクスルーの背景を細かく分析してみると、共通した手法があることが分かる。例えば、各地は、省庁の関連指示を吸収し、新しい政策を検討して、打ち出し、サポートを強化したり、ポイントツーポイントでPRしたり、1対1でサービスを提供したりして、政策の受益面積を少しずつ拡大する。重点的に難関を攻略し、多くの成果を挙げ、ポイントの審査を強化し、公平性、有効性を確保している。
4つの難題解決のための4つの真剣な取り組み
山東省北西部に位置する県級市(県と同じ区分である行政単位)の臨清市は、済南市から150キロの位置にあり、地級市(省と県の中間にある行政単位)である聊城市が代理管理している。筆者が取材したところ、臨清市が会議の開催地に選ばれたことには、山東省の関係当局のさまざまな思惑が込められていることが分かった。
山東省科技庁の于書良副庁長は、「なぜ、山東省の中でも経済、テクノロジー基礎といった面で優位性を誇るわけではない臨清市で会議を開催したのだろうと疑問に感じる人もいるだろう」とし、3つの理由として、(1)聊城市のイノベーション・バウチャー事業は、最下位から上位3位への飛躍を実現した、(2)臨清市のイノベーション・バウチャーは地方を中心に産業が主導する形で展開されており、イノベーション・バウチャーの利用数が聊城市全体の40%を占めるなど、特徴が鮮明、(3)相対的に遅れていた聊城市や臨清市ができたことは、他の都市にもでき、もっと大きな成果を挙げることも可能――を挙げた。
筆者は取材の過程で、成果にスポットを当てるだけでなく、特色ある手法を総括し、問題により着目し、解決策を探し求めたことこそが、今回の会議の最大の収穫だとしみじみと感じた。
会議に参加した威海市の科学技術当局の代表は、「当市にある全ての大学、科学研究機関は機器のプラットフォームの会員登録を済ませており、共有できるようになっている科学研究機器もあるにもかかわらず、統計の数字を分析してみると、当市の大学の大型機器設備の開放、共有の効果は理想的状態ではまったくない」と指摘した。
その課題については、参加した他の都市の代表も提起していた。
小さなイノベーション・バウチャーが大きなエネルギーを呼び起こしているものの、山東省は、イノベーション・バウチャー政策を実施する過程で、中国国内の他の地域が直面しているのと類似する問題に直面している。その難題は、(1)イノベーション・バウチャーを利用する企業の数が十分でない、(2)イノベーション・バウチャー利用総数がそれほど多くない、(3)機器を共有できるようにしている企業のうち、中小・零細企業の割合が低い、(4)地域ごとの発展がアンバランス――の4つにまとめることができる。
その4つの難題の解決に焦点を当てるというのが、今回の会議の目的だった。
それらの難題をどのように解決すれば良いのだろう? (1)考え方において真剣に重視する、(2)政策において真剣に重視する、(3)対策において真剣にサポートする、(4)効果が出るよう真剣に取り組む――という4つの点で「真剣」に取り組まなければならないというのが、会議に参加した代表の共通の認識だった。
イノベーション・バウチャー政策自体は良くても、地域の実際の状況に合わせながら実施しなければならない。では、どのように革新的な対策を講じれば良いのだろう?
良い政策ほど確実な実施が必要
山東省でイノベーション・バウチャーが採用されるようになったのは2015年のことだ。
同年、関連の政策が発表され、2018、2019年に改訂され、「受益範囲拡大、利用の審査機能を下の機関に移譲、奨励措置増加、現金引換えのプロセスを簡素化、信用制度の構築」というのが、新しい政策のキーワードとなった。
山東省科技庁の関係責任者は、会議において、管理当局や実際の取り扱い担当者に対して、「まず、政策をしっかり勉強して精通するようになるとともに、推進事業においてそれを実行するよう努めなければならない」と呼びかけた。
聊城市のイノベーション・バウチャー事業はスタートが遅く、2019年の時点で、政策を活用している企業は2社しかなかった。その後、2020年初めに、同市が一連の対策を講じた後は、山東省の同業務の総合ランキングが、最下位から一気に3位まで急浮上した。
それに対し、会議での経験の総括として、(1)良い政策はきちんとしたPRと企画が必要、(2)現地の主導産業と企業のイノベーションをマッチングさせることが必要で、イノベーション・バウチャーを利用すること自体が目的となってはならない、(3)力の集約を強化し、小型・零細企業の積極性を引き出し、活性化することを主体とし、積極的にサービスを提供し、架け橋を構築し、機器の供給者との連携を強化し、市、県も連携を強化する必要がある、(4)ハイテク企業の認定、税收優待策の実施、優秀企業の選出・創出活動における審査の要素の割合といった各種政策の連動を推進する――の4点が打ち出された。
イノベーション・バウチャー事業の新たな局面をどのように切り開けば良いのだろう? 于副庁長は、(1)「国家テクノロジー中小企業情報バンクに入っている中小企業」が省の大型科学機器設備共有ネットワーク入りするための登録を行うよう積極的に取り組むとともに、関連政策のPRを行うほか、市場化の手段を採用し、第三者を招いてイノベーション・バウチャーをPRしてもらう、(2)「ワンセット」、「カスタムメイド」サービスなどの対策を講じ、現地の主導産業が供給側と需要側の双方向のチャンネルを切り開くよう取り組む、(3)ハイテク企業の育成、優秀企業の選出・創出活動における審査の要素の割合などと結び合わせ、省・市・県の上下の連携、テクノロジー企業優待政策の連動を強化する、(4)教育当局や財政当局と共同で、大学、科学研究機関が中小企業にサービスを提供するために利用しているイノベーション・バウチャーの状況を、成果審査業務に組み入れる、(5)引き続き報告制を採用し、イノベーション・バウチャー業務がステップアップできるよう促す、(6)イノベーション主導発展戦略を一歩踏み込んで実施し、テクノロジーの自立・自強を推進し、実際の行動で中国共産党創立100周年を祝う――という6点を提案した。
※本稿は、科技日報「疎通創新券政策堵点 山東這場会議来得及時」(2021年6月25付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。