量子技術の研究開発、ブームの中で冷静な思考も必要
2021年08月20日 張佳欣(科技日報実習記者)
中国科学技術大学の潘建偉氏らが、76光子の量子コンピューターのプロトタイプ「九章」の構築に成功した。ガウスボソンサンプリングの解を求めるのに200秒しかかからなかった。画像は光量子の干渉説明図。(新華社)
この6年間で、量子科学は、物理学の研究者が注目する極小スケールの宇宙の研究から、センサー、通信ネットワーク、コンピュータなど、私たちが実際に応用できる新しい技術の源へと、著しい変化を遂げた。
量子情報技術を始めとする量子技術が現在、力強く発展している。新たなテクノロジー革命と産業変革の先端分野になり、世界の技術イノベーション競争の先端分野にもなっている。量子計算、量子通信、量子測量の3大分野における科学研究の模索と技術イノベーションが依然として活況を呈している。代表的な研究成果と応用における模索の進展は見どころが多く、将来に期待できる。特に先端テクノロジー分野と情報通信業界で広く注目・議論されている。
世界が量子情報技術の先端分野で競争
中国情報通信研究院が昨年発表した「量子情報技術の発展と応用の研究報告書」によると、量子情報技術の研究と応用は、将来の重要な技術イノベーションの「動力源」と「ブースター」になる可能性があり、すでに世界の人々が共に模索し注目する科学技術の焦点の一つになっている。
米国議会は2018年に「国家量子イニシアチブ法」を可決し、量子テクノロジーの研究と応用を支えるため5年間で12億7,500万ドルを投じる予定だ。米国の国立標準技術研究所は、2029年に量子コンピュータは既存の128ビットのAES暗号化などのパブリックキーを解除できる見通しと明らかにした。
英国の国立量子計算センターの建設が2020年に始まり、2022年末に開放される見込みだ。2025年に100を超える量子ビットのユーザープラットフォームの提供を目指す。
オーストラリア戦略政策研究所は、同国政府が年内に速やかに行動を取り、量子技術を国家技術戦略の重要部分にするとした。
中国の量子技術の進展に注目集まる
20年近くの発展を経て、量子通信分野で世界トップに飛躍した中国は、独自に制御可能な産業チェーンを形成し、数多くの中核部品の研究開発、製品・設備の製造、業務応用開発などの各段階の企業を育成・集積した。
国開啓科量子技術(北京)有限公司(啓科量子)は7月6日に開催した「量子の活用・非凡な道のり」をテーマとした2021製品発表会において、次世代QKD(量子鍵配送)設備を発表した。QKD専用光半導体及び分散型イオントラップ量子コンピュータのプロトタイプを発表した。啓科量子の陳柳平CEOは、「国内の量子通信産業の発展には、チップ化、小型化、国産化、標準化という4つの流れがある。量子技術の発展は、揺るぎない姿勢で独自イノベーションの道を歩み、キーとなるコア技術のブレイクスルーを続けなければならない」と述べた。
また中国の大学も量子情報技術の研究を急いでいる。中国科学技術大学の潘建偉氏と張軍氏らはこのほど、浙江大学の儲濤教授の研究チームと共同で、シリコンフォトニクス集積チップの研究・製造とリアルタイム後処理の最適化により、18.8Gbpsにのぼる現時点で世界最速のリアルタイム量子乱数発生器を実現した。オーストラリアの専門誌はこれについて、「中国の研究チームがついにグーグルを超えた!」とコメントした。
技術の発展と社会への影響に配慮
オーストラリア研究会議(ARC)量子システム工学センター・オブ・エクセレンスのタラ・ロバーソン研究員は「The Conversation」誌の中で、第二次量子革命がまもなく到来する。医療・保健、金融サービス、気候モデリングにしても、国防、サイバーセキュリティなどの分野にしても、量子技術は社会生活の各方面に影響を及ぼす可能性がある、としている。
だが技術の発展の歴史は、新たなツールやシステムが自ずと公衆の利益に合致すると単純に仮定できないことを物語っている。ロバーソン氏は、「量子技術の発展が社会にもたらす悪い結果と、今日の量子設計の選択が未来のライフスタイルにどのような影響を及ぼしうるかを想定しなければならない」とした。
例えば有名な量子技術応用である量子コンピュータのメリットは、一般的なコンピュータ1台では数百万年かけなければ完了できない、信じがたいほど複雑な任務を処理できる点にある。その分子シミュレーションの任務は、将来の新薬の性能に対する予測を強化し、薬品の開発ペースを上げることを目的としている。しかしこれには、量子技術の物理的インフラが高コストである点が難題となっている。これは所有権が最も豊かな国と企業に集中し、技術による権力分配の不均衡が激化する可能性を意味する。同時に量子コンピュータの台頭は、ネット上の個人情報漏洩への懸念を招いている。
十分な準備とリスク予想がなく無防備のまま量子時代に突入することを回避するにはどうすべきか。各国と企業が量子技術の開発を競うなか、いかに量子技術がもたらす社会問題を解決すべきだろうか。量子技術が社会にもたらす潜在的な影響を真に解決してはじめて、テクノロジーがより良く人類に貢献できるようになるのかもしれない。
※本稿は、科技日報「量子技術研発:熱潮下也要冷思考」(2021年7月9日付4面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。