第180号
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クリーン・高効率・高出力―中国製ディーゼルエンジンが船舶・発電機を駆動させる

2021年09月30日 劉 昊(科技日報記者)、曹万万(科技日報通信員)

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画像提供:視覚中国

プロジェクトでは、独創的な囲い型シリンダーヘッド構造や矩形のフレーム型のシリンダーライナー支持構造を発明し、メインのフレーム構造を最適化し、高出力密度エンジンがもたらす構造の変形、摩損、熱疲労などの問題を解決し、高強度、軽量化、高い信頼性を実現。中国初の特許技術となった。
----陳悦(広西玉柴機器股份有限公司シニアディレクターエンジニア)

 青海省海南蔵(チベット)族自治州興海県の鄂拉山トンネルは標高4,400メートルの位置にあり、全長は9,330メートル、世界最長の高原凍土トンネルだ。

 標高が4,400メートルと高く、気温は氷点下15度という極寒の環境下で、高速、高出力の発電装置が起動に成功し、継続的かつ効率的に稼働して、トンネルへの電力の提供をサポートし、メンテナンス作業員の作業と往来する車両の安全を守っている。

 この先進的技術は、広西玉柴機器股份有限公司の上級技術顧問である沈捷董事長が筆頭となって実施された「高速、高出力、低排出の船用・発電用ディーゼルエンジンのキーテクノロジー・応用」プロジェクトによって生まれた。同プロジェクトは、国際海事機関が制定した船舶機械に対する3次規制の排出基準(IMO Tier 3)や、中国の非道路移動機械を対象に制定されている第4段階の排出基準をクリアする、効率的かつエコなエンジンを開発することに重きを置いており、中国国内のシリンダー内径200ミリの高速・高出力エンジンの空白を埋めたほか、中国の船用・発電用ディーゼルエンジンの先進的技術の発展を促進した。

 海上船舶から通信システムまで、公共システムから医療・教育まで、そして重大な工事プロジェクトから災害・緊急時対応に至るまで、同プロジェクトで開発された製品は幅広い分野で応用されている。この科学技術成果はこのほど、2020年度広西チワン族自治区科学技術奨技術発明部門一等賞を受賞した。

海外ブランドの独占状態だった高速・高出力エンジン分野

 広西玉柴機器股份有限公司のサブチーフエンジニアを務める、船電動力研究開発所の黄永仲所長は、プロジェクトグループが中国国産の高速・高出力のディーゼルエンジンをめぐる前期市場調査研究を行う過程で、あるクライアントから「製品信頼性に対する私たちの要求は非常に高い。そのため、海外ブランド製しか考えていない」という言葉が返ってきたことを今でもはっきりと覚えているという。

 近年、社会や経済が急速に発展し、中国が海洋強国や「一帯一路(the Belt and Road)」の建設を加速させていることを背景に、貨物船や漁船、工事用船舶、客船、公船といった船舶の高出力ディーゼルエンジンに対するニーズが年を追うごとに高まり、しかも必要とされるサイズも大型化しつつある。

 しかし、2013年以前の出力が1,000キロワット以上のシングル高速ディーゼルエンジンの分野を見ると、キャタピラーやカミンズ、パーキンス、三菱重工など、海外エンジンブランドの独占状態だった。

 当時、中国企業は海外ブランドから高速ディーゼルエンジンの生産技術ライセンスを取得し、製品には海外企業の商標を貼らなければならなかった。また、一台生産するごとに、ライセンス料を払わなければならなかった。

 黄所長は取材に対して、「当時、中国国産の高出力ディーゼルエンジンはほぼ海外技術を使って生産されていた。また、全体的な技術のレベルも低く、出力が全体をカバーしておらず、またシリーズ化も十分なされていないといった問題が存在し、一部のキーパーツは依然として輸入に頼っていた」と振り返った。

 それまでの苦い経験から教訓をくみ取り、海外製品に依存しているという状況を打破するために、独自の知的財産権を有する高速・高出力のディーゼルエンジンを開発することがどうしても必要な情勢となっていた。

 中国国民経済、国防建設の重要基礎産業、重大ニーズである内燃機関産業は、技術集約型で、互いに密接に関連し合う長大な産業チェーンを有している。そして高速・高出力技術はディーゼルエンジンの分野では非常に貴重で、ブレイクスルーを実現するのは至難の業だった。

 黄所長は、「高速・高出力のディーゼルエンジンは交通運輸や工事用機械、船舶、発電機といった特殊な分野で利用されるため、今後かなり長い期間にわたって主導的地位に立ち続けるだろう。また、製品の系統的な電気化やスマート化発展、エネルギー排出グリーン化などが加速されるにつれて、伝統的な内燃機関業界は未曾有の試練に直面するようになるだろう。持続可能な発展を実現するためには、技術のボトルネックを打破し続けなければならない」と指摘する。

高性能シリンダーヘッドの研究開発で従来の思考パターンを脱出

 2013年、「高速、高出力、低排出の船用・発電用ディーゼルエンジンのキーテクノロジー・応用」プロジェクトが正式に立ち上げられた。研究開発が始まると、プロジェクトチームはすぐに難題に直面した。

 広西玉柴機器股份有限公司のCプラットフォーム・ディーゼルエンジン完成品設計チーフエンジニアの李偉氏は、「シリンダーボアが200ミリという大内径シリンダー・ディーゼルエンジンの開発は当社初。うち、シリンダーヘッドは最も重要な部品の一つで、設計開発は難度が高く、完成品の燃料油のコストパフォーマンス、燃費、信頼性などに直結する」と説明する。

 そして、「当時、中国国内のシリンダーボアが200ミリ以上の製品開発は、歴史こそ長いものの、あまり強化されておらず、1分間当たりの回転数(rpm)が1,500回以上を実現するのは至難の業だった。直径200ミリの高性能シリンダーヘッドの設計開発は、中国国内では参考にできる成功したノウハウがなかった。そして海外のエンジンメーカーに至っては、関連の技術パラメーターについては口を堅く閉ざしていた」という。

 プロジェクトチームは初め、シリンダーヘッドの設計にロッカーアームシャフトブラケットとシリンダーヘッド分離式の伝統的な構造を採用したものの、試験結果は思わしくなく、シリンダーカバーガスケットには、密封性が弱く、漏れるという問題があった。そこで、プロジェクトチームは2週間かけて、幅広く、深い分析を行い、複数のソリューションを作り上げた。「そのうち一番期待していたのはユニットソリューションだった。しかし、エンジンの500時間信頼性試験が470時間に達した時、小さな気泡が出て、全員の希望が打ち砕かれた」と李氏は言う。

 万策尽きていた時、プロジェクトチームのあるメンバーが、シリンダーヘッドのヘッド部分のパッキンを上にあげるように処理することを提案したという。そうすることで、シリンダーヘッドの強度を高めることができる一方で、重さは増さないのではないかという提案だった。その後、話し合いを重ね、チームは、「その案なら、伝統的な思考パターンから脱出して、一挙両得の効果が得られる」と判断した。

 最終的な試験結果は期待通りのものだった。「500時間の信頼性試験を2回行った。合わせて1,000時間行った試験の過程で、シリンダーヘッドの密封性が失われるという問題は起きなかった。市場に少数をまず投入して1万時間余り稼働させてみたが、漏れの問題は起きなかった。シリンダーヘッドの密封性をめぐる問題は無事解決された」と李氏は語った。

船舶や陸用発電機など幅広い分野に応用

 新型コロナウイルス感染による肺炎患者を専門に収容する専門病院である火神山医院が一分一秒を争うかのように建設され、その工事現場は夜中も明るく照らされて夜通し工事が行われ、その「中国スピード」に多くの人が驚嘆した。

 湖北省武漢市では、新型コロナウイルス感染による肺炎患者を専門に収容治療する専門病院が2カ所建設された。その一つである火神山医院は2020年2月2日に完成して正式に引き渡された。建設開始から10日も経っていなかった。

 中国では数多くのネットユーザーがその建設の様子をオンラインで「監督」。その建設工事と完成後の病院運営に、高速・高出力のディーゼルエンジン型発電機数十台が十分な電力を供給した。一部の発電機は2020年1月末から使用され、電気工事が終わって電気が通るまでの間、常用電源として火神山医院の各方面の建設を支え、故障ゼロで昼夜問わず稼働した。

 広西玉柴機器股份有限公司の16VC/20VCディーゼルエンジン設計シニアディレクターエンジニアの陳悦博士は、「武漢市の火神山医院と雷神山医院の建設中に電力を提供した発電機には、プロジェクトで研究開発された高速・高出力・低排出のキーテクノロジーが応用されている」と説明する。

 陳博士によると、プロジェクトでは、独創的な囲い型シリンダーヘッド構造や矩形のフレーム型のシリンダーライナー支持構造を発明し、メインのフレーム構造を最適化し、高出力密度エンジンがもたらす構造の変形、摩損、熱疲労などの問題を解決し、高強度、軽量化、高い信頼性を実現。中国初の特許技術となった。また、プラグタイプの電子ユニットポンプ技術を発明。高速・高出力ディーゼルエンジンについては、調速性能が低く、荷重能力が低く、反応が遅く、2台以上の発電機を並列に接続して稼働する時の連動性が低いといった技術的難題を解決し、中国国内の発電機については、過渡荷重、電気コントロールシステムの冗長化、発電機の並列接続といった技術の発展を牽引したほか、業界の技術の進歩を促進した。

 その他、プロジェクトでは、効率的なクリーン燃焼技術の分野でもブレイクスルーを実現した。陳博士によると、プロジェクトでは、燃焼システムマッチング技術、4バルブ技術、効率的な増圧技術、効率的な冷却技術などの分野で性能の最適化を実現し、高速・高出力ディーゼルエンジンの性能や排出コントロールなどが海外の最先端水準と肩を並べるようになった。

 現在、船用市場の分野で、同プロジェクトで開発されたYC6C、YC12VC、YC16VCといった型番が中国国内河川や近海用の船舶、遠洋船舶などのメイン発電機やサブ発電機として幅広く採用されている。応用されている市場は、国内の各大型河川の流域や沿海の各省・市の港、欧州諸国などの海外市場をカバーしている。陸用発電機の分野を見ると、関連のプラットフォームの製品は、各種用途の高性能発電機に採用することができ、政府機関や病院、大型商業施設、オフィスビル、ビジネスセンター、データセンタなどに応用されている。

 陳博士によると、「先ごろ深刻な水害に見舞われた河南省では、同プロジェクト関連の発電機が病院や居住エリアなどで正常に稼働し、電気を提供して、重要な役割を担った」という。


※本稿は、科技日報「清潔、高効、大功率 国産柴油"心臓"駆動船舶和発電機組」(2021年8月18日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。