グリーン産業に経済効果を求める広州ハイテクパーク
2021年09月15日 葉 青(科技日報記者)、范敏玲(科技日報通信員)
雄川水素エネルギーは今年2月、世界初の、最大規模となる、FCVダンプカー500台をリリースした。水素充填に必要な時間は1回当たりわずか8--15分で、1度の充填で400キロ以上走行できる。(画像提供:取材先)
200社
現時点で、広州ハイテクパーク内にあるグリーン産業の一定規模以上の企業(年売上高2,000万元以上の企業)は200社を超え、生産高は2,300億元に達している。うち、年間生産高が10億元を超えるリーディングカンパニーは25社以上だ―
広州市で6月に起きた新型コロナウイルスの流行の最中、広州ハイテクパークから来た支援物資を輸送する水素をエネルギーとする燃料電池自動車(FCV)が大きな注目を集めた。
雄川氫能(水素エネルギー)科技(広州)有限責任公司(以下「雄川水素エネルギー」)の李栄軍・副社長は、「当社は、水素をエネルギーとするコールドチェーン輸送車8台を緊急手配して、広州市供銷合作総社などが、封鎖管理されているエリアの住民が生活物質を確保するために、物資を配送できるようサポートした」と説明する。
水素は「究極のエネルギー」と呼ばれている。広州ハイテクパーク発展・改革局の楊元師局長は、「FCVを新型コロナウイルスの流行中に、物資輸送に使い、感染対策をサポートすることができるとともに、市民らに、FCVは安全で、効率的、かつエコというシグナルを発することができる」と語る。
広州ハイテクパークは、グリーン発展の面で、先駆者となっており、水素エネルギー産業を含めたグリーン産業は、同パークの支柱産業の一つとなっている。製造業でスタートした広州ハイテクパークの域内総生産は3,500億元(約5兆9,500億円)を超え、一定規模以上の工業企業の総生産高は8,000億元(約13兆6,000億円)に迫り、広州市の域内総生産の約40%を占めている。経済規模が大きいだけでなく、成長し続ける広州ハイテクパークは、どのように環境保護と経済効果の両立を実現しているのだろう?
産業のグリーン化、グリーンな産業化
広州ハイテクパークでは、廃プラスチックの「原料の生産、廃棄物の発生、廃棄物回収、利用、リサイクル」のクローズドループシステムが形成されている。
エリア内で資源を回収するリーディングカンパニー・広州市万緑達集団有限公司(以下「万緑達」)を例にすると、廃プラスチック、鉄スクラップなどを回収して、加工、利用を行っている。加工した廃プラスチックのレジンペレットを、金発科技股份有限公司(以下「金発科技」)に供給し、改質加工される。改質されたプラスチックは、広州毅昌科技股份有限公司(以下「毅昌科技」)に供給され、その生産の過程で発生した切れ端や廃プラスチックは、ランク分けされて、再び万緑達や金発科技が回収して利用する。
広州ハイテクパーク粤港澳大湾区(広州、仏山、肇慶、深圳、東莞、恵州、珠海、中山、江門の9市と香港、澳門<マカオ>両特別行政区によって構成される都市圏)弁公室の韋波・専職副室長は、「当パークはこれまでずっと、省エネ・排ガス減少を大々的に推進し、新エネルギーや省エネ技術、リサイクル経済技術モデル応用を促進し、パーク内のリサイクル経済チェーンの構築に力を注ぎ、資源の利用効率を向上させると同時に、モデル応用を推進し、企業やプロジェクトの誘致を強化し、企業が発展して成長できるようサポートしている」と説明する。
経済を発展させるだけでなく、豊かな自然も必要だ。広州ハイテクパークは、投資誘致の段階において、「グリーンハードル」を設置し、2016年から、単位GDPエネルギー消費量を、プロジェクト参入審査の主要指標の一つにしている。そして、企業に対して、環境保護の指標において1項目でも基準を満たしていない場合は、不合格となる「一票否決制」を採用している。
「リサイクル経済発展特別資金管理暫定試行規則」や「グリーン10カ条」、「低炭素16カ条」など、相次いで打ち出された政策が、企業がグリーン技術イノベーション、導入を進めるよう推進し、グリーン産業のリーディングカンパニー、細分化された分野のリーディングカンパニーを育成し、グリーン産業の急速な発展を実現している。現時点で、パーク内のグリーン産業の一定規模以上の企業は200社を超え、生産高は2,300億元(約3兆9,100億円)に達している。うち、年間生産高が10億元を超えるリーディングカンパニーは25社以上となっている。
恒運集団投資発展部の責任者・丁翀氏は、「当社が展開する石炭とスラッジ(汚泥)を組み合わせた焼却発電モデルプロジェクトは稼働して以降、乾燥スラッジを1日当たり300トン焼却しており、リサイクル経済を発展させる道を開いた。そして、スラッジ処理の無害化、資源化の新たなルートを実現した」と胸を張る。
産業のグリーン化やグリーンな産業化は、技術プラットフォームが不可欠だ。韋副室長は、「当パークは、先端研究開発機関の建設に力を入れており、中国内外の大学や研究所などと協力してグリーンイノベーションプラットフォームを構築し、グリーン技術テクノロジーの成果実用化を促進している。ここ2年の間に、当パークは、中国科学院と連携するプロジェクト13件を誘致してきたが、その大部分がグリーン産業の分野だった」と説明する。
そして、「今後は、応募制を採用して、キーテクノロジー研究開発におけるブレイクスルーの実現を目指し、技術や製品がチェーン伝動式のイノベーションを創出できるように取り組む。2025年をめどに、グリーン産業の規模を2,500億元(約4兆2,500億円)以上にまで拡大させ、当パークを粤港澳大湾区クリーンエネルギー産業発展の先行エリアに成長させたい」と目標を語る。
全国で先駆けて水素エネルギー産業チェーン全体へのサポートを実現
広州ハイテクパーク企業で誕生し、成長した雄川水素エネルギーは、広州最大のFCV運営プラットフォームで、李副社長は、「当社は市場運営や水素ステーションなどのインフラを建設することで、水素エネルギー産業の発展をけん引し、完全な水素エネルギー産業チェーンを構築することに力を注いでいる」と説明する。
雄川水素エネルギーは今年2月、世界初で、最大規模となる、FCVダンプカー500台をリリースした。水素充填に必要な時間は1回当たりわずか8--15分で、1度の充填で400キロ以上走行できる。FCVダンプカー500台を導入して削減できる二酸化炭素(CO2)排出量は年間で3万5,000トンに達し、窒素酸化物などの汚染物質の排出も768トン削減できる。
ダンプカーの研究開発から組み立てまでの一連の流れが広州ハイテクパークで行われていることは注目に値する。李副社長は、「パークが展開を加速させている水素エネルギーの全産業チェーン、政策チェーンの恩恵を受けている。水素エネルギー産業の発展初期は、政策によるサポートやイノベーションの応用シーンが特に重要になる」と話す。
広州ハイテクパークが重点的に構築する「3+4」のグリーン主導産業構造には、水素エネルギー利用施設の建設や運営産業も含まれている。
広州ハイテクパークは2017年に、全国に先立って水素エネルギー産業発展の展開を始め、水素エネルギー産業の発展を、戦略的新興産業の育成やエネルギー構造の整備、CO2排出量ピークアウトやカーボンニュートラルなどの目標達成のための重要な手がかりとした。そして、中国で最も強力な「水素エネルギー10カ条」や「水素エネルギー10カ条」2.0版を打ち出して、水素エネルギー産業のチェーン全体をサポートしている。既に支出された各種財政支援は1億元以上に達している。そして、水素エネルギーの分野のハイレベル人材の誘致やキーテクノロジーの研究開発、中核設備の産業化、重点製品のモデル応用などが加速し、産業チェーンが整いつつある。現代自動車の水素エネルギープロジェクトや中国・ドイツ水素エネルギー研究院などの水素エネルギー産業プロジェクト39件が誘致され、水素エネルギーの全産業チェーンの展開が加速している。
良質な政策環境が魅力となり、鴻基創能科技(広州)有限公司が広州ハイテクパークに進出し、その後、カナダ工学アカデミーの会員である葉思宇氏も同社に入社した。そして、2年もしないうちに、この若い企業は、中国国内の燃料電池の膜・電極一体構造(MEA)の発展の鍵となる問題を解決した。
楊局長は、「当パークは今後、キーテクノロジーのブレイクスルーの推進、水素エネルギー産業先端パークの構築、水素燃料電池の全産業チェーン構築、水素エネルギーの多くの分野への応用モデルをけん引する立場で、多くの面に力を注ぎ、パーク内の育成と外部からの誘致を行い、1千億元級の水素エネルギー産業イノベーション中核エリアを構築する」と語る。
複数レベルのグリーン金融サービス体制を構築
科学城(広州)緑色融資担保有限公司が広東省の汚染物排出権第1弾を担保とした融資プロジェクトを実施したり、中国初のグリーン資産評価体制「緑創通」を発表したりと、今年に入り、広州ハイテクパークはグリーン金融の面でもさまざまな行動に出ている。
このうち、「緑創通」が呼び水となり、鞍鋼聯衆(広州)ステンレス鋼有限公司、雄川水素エネルギー、広州嘉康環保技術有限公司などが、銀行とグリーン与信関連の契約に調印。第1弾としての企業3社の与信融資枠は計2億元規模となり、1億2,000万元(約20億4,000万円)の融資が実際に行われた。
科学城(広州)グリーン融資担保有限公司の頼昌東・社長は、「一部のグリーン中小・零細企業は、融資を得るのが難しい、融資コストが高いといった融資をめぐるさまざまな面で高いハードルに直面している。その主な原因は、中小・零細企業の実体資産が少なく、その多くがアセットライト経営であったり、いくつかの技術はあるものの有効な資産を形成できない企業であったりする。この会社を設立した目的の一つは、そのような企業が融資をめぐる問題を解決できるようサポートして、グリーン産業全体の発展の効率を上げることだ」と説明する。
李副社長は、「パーク内のグリーン企業第1弾に認定されて以降、政府が当社のために架け橋を作ってくれ、3,000万元(約5億1,000万円)の融資を得ることができた。その資金全てを技術研究開発に使っている。アーリーステージの企業の発展にとっては、極めて重要なことだ」と語る。
広州で工業を牽引する広州ハイテクパークは近年、伝統産業のグリーン化へのモデル転換を大々的に推し進め、複数レベルのグリーン金融サービス体制を構築し、政策と基準の制定、製品のイノベーションなどの面で、グリーン金融のイノベーション、発展を大々的に推進している。
広州ハイテクパークは昨年、中国全土で最も強力な地方グリーン金融政策「グリーン金融10カ条」を打ち出し、中国で初となる粤港澳大湾区第1弾のカーボンニュートラル債を発行した。グリーン貸付残高やグリーン保険の保険料は広州市の上位に入り、健全なグリーン低炭素リサイクル発展経済体制の構築を加速させるためのベストな金融エコシステムを作り上げている。
業界関係者は、「グリーン金融10カ条」について、2017年6月に中国国務院がグリーン金融改革イノベーション試験区5カ所を承認して以降、中国全土で最も強力な地方グリーン金融政策で、複数の措置が中国初だと評価している。
広州ハイテクパークは今後、党中央と国務院のエコ文明建設に関する戦略的配置を一歩踏み込んで徹底し、CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルの目標達成に貢献することを金融業務の重点とし、工業パークのグリーン・低炭素発展の効果的なルートを金融面でサポートする方法を積極的に模索し、グリーン金融の要素、資源を集め、グリーン金融製品のイノベーションを推進し、グリーン経済発展の新たな原動力を育成し、CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルの目標実現のために、知恵と力を貢献する。
※本稿は、科技日報「率先布局 頂格支持 広州高新区向緑色産業要経済効益」(2021年7月13付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。